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第二百四十四話 治安の悪い村

 ヴェルティカとの話し合いの後で、俺はすぐにジロンの馬に装甲を装着させ、シュトローマン領へ見送ってから、すぐにドワーフの里の南に広がる新たな住民の町に来ていた。


 ここでは簡易な作業などをさせていて、皆に仕事が行き渡るようになっている。宿泊宿などもあり、そこに他の領から来た商人などが寝泊まりをすることになっていた。しかしヴェルティカが気にしているのは、その村の更に南に勝手に出来た居住地の事だった。


 そこに、青備えの騎士が手間取っているというのだ。どうしてもそこで揉め事が起こりやすいらしい。この村に来たのは、直接的な被害を受けたり、怪しい奴が内部に潜り込んでいないかを調べる為だ。


 どうだ?


《いまのところ、おかしなものは見当たりません》


 なるほどな。


 みすぼらしい恰好の村人が行きかい、子供達が走り回っている。


《家族もかなり入っているようですね》


 そのようだ。


《回りましょう》


 俺は鎧を着ずに、村人と同じボロを着て歩いている。黒髪が目立つので毛の帽子をかぶり、ワイアンヌが持っていた付け髭を付けていた。その為、俺だとは誰も分からず、ここに新しく来た住民だとでも思っているのだろう。


 村の端まで来ると、そこいらで人々が木を切っている場所に出る。運んできた木材を、丁度いい大きさに切っているようだ。


《住宅用の木材です》


 そのようだな。


《ここにも異分子は確認できません》


 いまのところは、入り込んではいないという事か?


《青の騎士が目を光らせている効果かと》


 青の騎士は機能しているか。


《そのようです》


 流石は、ビルスタークが仕込んだ騎士という訳だ。


《レイとビストだけではなく、サムスとジロンも一流なのでしょう》


 問題は西側の居住区か。


《人が勝手に住み着いた場所。そこなら進入は容易いでしょう》


 いくか。


 ヴェルティカが言うには、青の騎士が行くと隠れる連中がいるというのだ。だから俺は村人を装って、村に侵入している。装備はポケットに忍ばせたレーザー剣のみで、荒事があればそれで対応する事になっている。


 村で遊んでいる子供たちのところに行き、ヴェルティカに言われた通りに飴を配る。すると次々に子供達が集まってきて、俺の周りは子供だらけになった。


「ぼくもちょうだい!」

「わたしも!」


 俺は雨を配りながら子供らに聞く。


「西側の村に行く事はあるか?」


「たまにあるよ」


「聞かせてほしい」


「なにを?」


「西側の村で、なんか変な事は無かったかい?」


 子供達は何の事か分からずに、きょろきょろとお互いを見ている。男の子が口を開いた。


「お爺ちゃんが、あまり行っちゃダメって言ってる」


「なんでだ?」


「最近は揉め事もあるから、子供は危ないって」


 聞いていた通りだ。


《そのようです》

 

「青の騎士がいるだろ」


 すると今度は、少し年上の女の子が言った。


「あの!」


「なんだい?」


「青の騎士が来ると、居なくなるんだよ」


《聞いてください》


「なにがだ?」


「怖い人達!」


「どういうことかわかるかい?」


「分かんない。だけど、青の騎士がいる間は出てこないんだよ」


「そいつらの顔はわかるかい?」


 すると女の子が言う。


「遊んでいる時に、みんなで見たよ」


「君も見たらわかる?」


「わかるけど、あっちの村は青の騎士がいないときは、危ないから行っちゃダメって」


「いや。青の騎士がいないときに行きたいんだ」


「でも」


「もっと美味しいお菓子が欲しくはないかい?」


「えっ! ほんと!」


「ああ。いっぱいあげよう」


 すると子供達は、らんらんと目を輝かせて言う。


「いいよ!」


「誰か一人で良い。一緒にあっちの村を案内してくれたら、みんなにあげる」 


「じゃあわたしがいく!」


 その一番年上の女の子が手を挙げた。


「そうか。じゃあ、青の騎士が居なくなる時間に行こうか」


「うん!」


 とりあえず持っている飴を全部出して、そこにいる子供に配った。子供達は喜んで飴を食べている。それから少しの時間が経過し、子供達が言う。


「見回りの騎士達が居なくなる時間だ」


「行こう」


 俺は女の子に手を引かれて、西側の町へと向かった。入り口にはドワーフの青の騎士が立っており、俺をチラリと見てコクリと頷いた。門を開けて俺と少女が、西の村に入っていく。


 人が沢山いるが、こちらの町は勝手に住み着いた奴らが多く、商人を目当てに商売している人達ばかりだった。そしてなぜか、慌てて店じまいをしている。そこを俺と少女が歩いていると、露店のオヤジが声をかけて来た。


「青の騎士が行っちまったんだ。もう帰った方がいい」


 それに俺が言う。


「あんたらも店じまいかい?」


「ああ。変に荒らされてもたまらんからな」


「そうか」


 あっという間に人が居なくなっていき、俺達は人気のない村を歩き始める。あちこちの店が引っ込んで、店のドアが閉まった。


「でもやってるところもあるよ」


「そうなのか?」


「こっちこっち」


 そう言って連れていかれたのは、ある屋敷の前だった。


「ここは?」


「お金を賭けるところなんだって」


 そして俺は子供と手を繋いで、その掘っ立て小屋に入ろうとする。だが入り口で、人相の悪い奴に止められた。


「子連れで入るつもりかい?」


「悪いのか?」


「やめとけ。このあたりはあぶねえ奴もおおい」


「あぶねえ奴?」


「あいつらは、時おり金をとりに来る」


 と、次の瞬間、その男の顔色が変わって、視線は俺の後ろに向かっていた。俺が振り向くと、屈強な男が三人ほど立っている。


「よお」


「ちっ……」


 すると子供が引きつって、俺の手をぎゅっと握りしめた。


《どうやら対象に会えたようです》


 そのようだ。


 そして屈強な男の一人が言った。


「みかじめ料をもらいに来たぜ」


 そう言って三人の男は、俺と少女を押しのけて、そのあばら屋に入っていくのだった。

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