第二百四十一話 捕らえた騎士の護送と茶屋
両断された死体が大量に転がる森の中で、三人の偽盗賊を縛り上げ転がしている。血の匂いが立ち込めており、じきに魔獣達がやって来るだろうとベントゥラが言う。
「なるほどな。ならば掃除は魔獣に任せよう」
「それがいいぜ」
ボルトが俺に聞いてきた。
「それで、こいつらをどうするんだい?」
捕らえた三人はガチガチに震えており、既に言葉を発する事も無かった。
「お館様。まもなくシュトローマン伯爵領ですので、盗賊として預ける手もあります」
「いや。レイ、こいつらは使い道がある」
「使うのですか?」
「そうだ」
「……なるほど」
他のメンバーも察しがついたようだ。
「これを護送車に乗せてくれ」
「「は!」」
レイと風来燕の連中が、三人の男を担いで護送車に乗せる。そこにはフィラミウスとメルナとビストが、アヴァリを監視していた。どうやら目覚めている様子はない。
すると、三人の様子が変わる。
「こ……これは」
「しっ!」
縛られた男達は、更に青ざめた顔で俺達を見ていた。
「知ってるのか?」
「「「……」」」
男達は答えなかった。
「まあいい。お前達はしばらくこれに乗って行くんだからな」
「……ど、どこに?」
「さて、これから考えるさ」
すると再びガチガチと震えはじめた。
《あなたに恐怖を覚えています》
そうなのか?
《人外の力を見せたからでしょう》
なるほど。
《この者達を活用方法を、シミュレーションします》
頼む。
そして俺達の二台の馬車は、再びシュトローマン伯爵領の先へと進んだ。草原には隠れる場所も無いので、突然何かが現れる事も無く、リンセコート領へと別れる道までたどり着く。
「何だ?」
そこには、数件の家が建っていた。前はここに建物など無かった。だが数件のあばら屋が建っていて、そこで数人の人が休憩をしている。
ボルトが声をかける。
「ここはなんだい?」
すると、あばら屋の中から女が出てきて言う。
「ああ。リンセコート領との人の行き来が激しくなったんでねえ、ここに茶屋をつくったのさ。馬車があるなら、ここに停めて宿泊する事もできるよ」
《流通が盛んになったので、分岐点に商売目的で建てたのでしょう》
そこで茶を飲んでいた客が、店の女に言った。
「むしろ、あんたが知らねえのか?」
「何がだい?」
「この人らは、リンセコート男爵のとこの騎士様だよ」
「えっ! そうなのかい!」
「ああ」
それにボルトが言う。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、その青備えの美しい鎧はリンセコートの騎士だからね」
「噂がひろがってんのか?」
「出入りしている人らはみんな知ってるさ」
「で、あんたらは?」
「商人だよ。いま、リンセコートから帰って来たところさ。リンセコートの商品は、とにかくどこに持って行っても売れるからねえ。いちおう、うちの男爵様からも頼まれて帰るところだ」
「そうか。どうも御贔屓に」
「凄く気立てのいい、男爵様の奥方がいろいろと商品を勧めてきてね、あんたらはいい主人に仕えたな」
「わかってるね」
「働く人らが生き生きしているし、青備えの騎士様達もあちこちで護衛している。腕っぷしの強い荒くれ者なんか、あっという間にねじ伏せちまう。昔の男爵領とは大違いで治安も良いし、とにかく人でにぎわっていたようだよ」
「なるほど。ありがとな」
「こっちが礼を言いてえぐらいだ」
「また利用してくれ」
「もちろんだ」
そのやりとりを聞いていた店の女が、ニッコリ笑って俺達に行った。
「なんだ! そうならそうと、早く言っておくれよ! あんたらにはサービスしてあげるからさあ」
「そうかい? だけど、ちと急ぐんだ」
「なら、芋団子でも持って行っておくれ」
そう言って女が店に戻って行く。直ぐに帰ってきて、包みをボルトに渡した。
念のため食ってみるか?
《はい》
そして俺が一つ芋団子を取り出して、口に頬張ってみる。
どうだ?
《毒は無いようです。普通の芋を練ったものです》
「うまいな」
「まいど! でも、最近は盗賊も出るって言うし、ちょっと不安なんだよね。でもおかしいのは命までは取らずに、適当に荷物を奪ったら逃がすらしいんだよね」
それに対し、俺は普通に答える。
「ここはシュトローマン伯爵様の領土だからな。陳情はあっちに頼む」
「分かったよ」
「それでは、これを」
そう言って俺は懐から、金貨を一枚とって女に渡す。
「は? 金貨だってぇ! いやいやいや! いただけねえよ! 芋団子なんざ、銅貨五枚ってところだ」
「いや。ここをもっと発展させてくれって意味だ」
「ここを……」
「あばら屋では心もとない。もう少しまともにしろ」
「わかった! あんがとね! リンセコートの騎士様はいい人だねえ」
「じゃあな」
俺達は馬車に戻り、その茶屋を後にした。皆に芋団子を配り、それを頬張っているとマージが言う。
「盗賊じゃないからこそ、あんなところに茶屋が建てられたのさね」
「だな。普通の盗賊なら襲われて終わりだ」
「という事は、こいつらは騎士崩れじゃないって事さね」
「そうなるか」
アイドナが言う。
《騎士でしょう。盗賊なら、マージの言う通りあんな所に茶屋を作ったら襲われます。仕掛けた大元がいるという事が判明しました。という事は更に利用価値はあります》
たしかにな。
そこで俺は再び、男三人を見た。
「騎士があんなところで何をしていた?」
「……」
「正直な所、三人もいらない。一人一人首を落としてもいいが」
ガチガチとフルプレートメイルが鳴りだす。真っ青な顔で俺を見て、一人が小便を漏らしたようだ。
「うわ! おしっこした!」
メルナが叫ぶと、マージが言った。
「浄化してやりな。臭くなっちまう」
「うん」
メルナが水で流し、浄化魔法をかけると匂いが消えた。すると男の一人が叫ぶ。
「ま、まってくれ!」
「なにをだ?」
「あんたらのことは誰にも言わない。俺達を逃してくれると約束してくれれば、聞きたい事は話す!」
だが後の二人が言う。
「おい!勝手な真似を!」
「そんな事をしたら、帰れなくなるぞ!」
「いや。俺には家族など居ないからな。別に国外に逃げたって生きていける!」
「貴様!」
内輪揉めを始めた。だが俺は男達に言った。
「貴様らに話をしてもらわなくてもいい。もうお前達の使い道は決まっている」
「使い道?」
「やめろ!」
「やめてくれ!」
だが俺は、それ以上は言わなかった。アイドナが効率の良いパターンを考え、それに利用するまで。
揺れる馬車がようやく、リンセコート領地に入り込む。そこで再びベントゥラが俺のところにやってきて、先行して調べると告げてきた。この先の森も怪しいと睨んでいたので、敵が潜んでないかを調べるつもりだろう。
「わかった。行ってくれ」
「おう」
俺達は再び、街道を進み森林地帯を抜けていく。だが今度は怪しい気配はなかった。前に殺した見張りのような奴の潜伏もしておらず、俺達は無事にリンセコート領へと到着したのだった。