第二百三十九話 アヴァリを回収
鉄の護送車には、ヴァイゼルの結界が施されている。その上に、俺達はオリハルコンの鎧を着ていた。その上でも、コイツを起こすのには十分な注意が必要だった。
メルナの闇魔法解除が、ゆっくりとアヴァリの闇魔法を解いていく。
《生体活動が活発になって来ました》
なるほど。
氷の中にいるにも関わらず、アヴァリはゆっくりと目を開く。
《長時間凍らせられても死なないとなれば、人間とは全く違う構造でしょう》
謎だな。
レーザーは出していない。柄の部分を持って、アヴァリに向けて構えている。
「起きた」
「そのようだねえ」
そして俺は、アヴァリに向かって声をかける。
「聞こえるか」
声は出せないが、その瞳はしっかりと俺を捉えている。だがその瞳から、真意を捉える事は出来ない。怒りなのかそれとも、感情など無いのか。
「アヴァリだな?」
やはり、瞬きひとつせずに俺を見ている。
「マージ。これじゃあ、黒曜のヴェリタスが効いているかどうかわからん」
「氷を、溶かすしかないかねえ」
「よし」
俺は念の為、シュバッ! と音を立ててレーザー剣を出す。いつでも刺し殺せるように。
「溶かしてくれ」
「分かった!」
「俺の後ろに隠れながらやろう」
そうして俺の後ろに下がり、メルナとフィラミウスが氷を溶かした。一気に溶かすが、アヴァリは暴れる事無く、ヴァイゼルが放った魔法の鎖に縛られたまま動かない。
「暴れれば殺す」
だが、アヴァリはじっと俺を見たままだ。
「どうだ?」
だがアヴァリは俺の問いには答えずに、違う事を言った。
「それはルクステリアの武器だ。なぜお前が持っている?」
そういうことか。
《黒曜のヴェリタスは効いていないようです》
そのようだ。
《ですが、暴れる様子もありません。冷静です》
まだ、挽回できると思っているのだろうか?
《分かりません》
俺は気を緩めずに、アヴァリの側にしゃがみ込む。
「お前達は、なんだ?」
「……」
「言わねば殺す」
「やれ。言わん」
《心拍数が変わりません。本気でしょう》
「何が目的だ?」
「……」
同じく答えなかった。その目の、ぎらついた光が消えている。
「お前達が、なぜ、あの機器を狙うかは知っている。仲間を覚醒させるためだ」
「……なぜ、それを……」
「殺す前に、トリスとイラから聞いた」
「……油断したか……」
どうやらこいつも、同じ目的の為に動いているようだ。
《そのようです》
「過去からの念願だったらしいな」
「下等生物の人間に言う事はなにもない」
《同じことを言います》
そのようだ。
「お前達が、下等だという人間に抑え込まれているんだ。どっちが上なんだろうな?」
「くっ」
苦虫を潰したような顔をした。感情はあるらしい。
「お前を殺すのは簡単だ。なぜ人間達の住む場所を襲うのか? それが知りたいだけだ」
「……我々が長きに渡って見た夢」
「夢?」
「……」
「お前は人間じゃない。夢など見るのか?」
「人間などという下等な生物と一緒にするな」
「お前達は、いったいどのくらいの数いるんだ?」
「……」
「何処から来た? 他の国はどうなっている?」
「……」
どうやら、もう答える気は無さそうだった。そこで俺がメルナとフィラミウスに言う。
「もういい。戻そう」
メルナが闇魔法を施して、アヴァリの意識を遮断する。その上で、メルナとフィラミウスが再びアヴァリを凍らせた。
「よし」
護送車のドアを開けると、心配そうなウィルリッヒやヴァイゼル、そして仲間達がいる。俺はドアの上から皆に言った。
「新しい情報は取れなかった」
「そうか」
「そして、コイツはまだ危険だ」
「黒曜のヴェリタスでも、無理だったか」
するとマージが言う。
「どうやら……これには、魂が無いようなのさ」
「魂が無い? 魔法で強化したような人間ではないのですか?」
ウィルリッヒが面白い事を言った。
「魔法で強化? そんなのがあるのかね?」
「あ、いえ。エクバドルの王覧武闘会にて、剣聖ドルベンスが魔法のような物で変えられましたよね? あのような者かと思ったものですから」
「ああ、なるほどねえ。あれとは違うようさね」
「そうですか」
「確かに、あれも危険だったね」
「あれは、何の能力なのでしょう?」
「さてね」
そこで俺がウィルリッヒに言う。
「ここまで倒した四人は、戦闘に長けた者達だった。だが唯一ガラバダは違っていて、戦闘力は低かった。しかし、龍と繋がっていたり、ドルベンスをバケモノにしたりもした。それに姿形も変えている。もしかすると、それがアイツの能力なのかもしれん」
「恐ろしいよね」
「同じ様な能力を持っている奴が、他にもいるとすれば厄介だ」
「そうだね」
戦闘力の高い奴らは、普通の人間からすれば厄介だろうが、俺ならばなんとか処理できる。しかしながら、人間に化けたり人間を変えたりする能力は厄介過ぎた。
そして俺がウィルリッヒに言う。
「どうする?」
「とは?」
「こいつは危険だ」
「いや。まもなく王宮魔導士が到着する。責任をもって、管理もしくは処分するかな?」
《こちらで入手できないでしょうか? 生体の研究に使いたいです》
「できれば、エクバドルもリンデンブルグも関係なく、個人的にお願いがあるのだが」
「なに?」
「俺はコイツらの弱点を知るために、持ち帰りたいと思っている」
「研究するって言う事?」
「そうだ。そして、その研究が出来るのは俺しかいない」
「……その通りだろうね。うちとしてはリスクが減るから、それも良いが大丈夫なのかい?」
「問題ない」
「なら持って行ってくれ」
「わかった」
《人間や生物とは根本的に違うので、研究の余地があります》
そうだな。
そして話は終わり、俺達は帰路につく事にした。また他の危険が潜んでいる可能性もあるが、それはまた違う機会にするべきだろう。ウィルリッヒが俺達に言う。
「じゃあ、我々は一度、帝都に戻って報告をしなきゃならない」
「わかった。こちらも何か分かったら通達しよう。あまり悠長にしていられないようだしな」
「密に連絡をとってやっていきたい」
「そうしよう」
そして俺は、助けた村人のグースに言う。
「体に気を付けて、村人たちの為に頑張って生きろ」
「はい」
後はこいつなりに生きていくだろう。そして俺はメルナとフィラミウスと一緒に、アヴァリを積んだ護送車に乗り込む。ウィルリッヒが幌馬車を提供してくれたので、皆が馬車に乗り込み出発するのだった。