第二百三十六話 未知の敵の捕縛
光るレーザー剣を喉元に突き付けられても、アヴァリはじっと俺を睨んでいた。俺も動けば斬るつもりでいるが、どうやらその意思が伝わっているようだ。
《集中してください》
わかっている。
魔獣よりはるかに強いこいつを抑えるために、俺も全ての意識を注ぎ込まねばならない。
すると、そこにようやくレイ達がやって来る。
「そいつですか?」
「そうだ。それよりも村人たちを助けてくれ。屋敷が燃えている」
するとアーンが言う。
「延焼してるから、周りの建物を壊すっぺ!」
「「は!」」
アーンとレイとビストが家を壊し始め、マージが言う。
「その間にメルナは水魔法だよ」
「うん」
皆が消火活動に入る。バックアップの魔石が詰まった馬車があれば良いのだが、あの巨大な物を持ち運ぶ事は出来なかった。その為魔力が少なく、メルナの水量では火が消えずに時間がかかりそうだ。
そして俺がアヴァリに言う。
「大人しくしろ」
「……」
もちろん言う事など聞くわけがない。敵の視線はまだ死んではおらず、いつ反撃をしてやろうかという状況だ。
そしてそこに風来燕が駆けつけてきた。
「遅くなった! こっちの道がちと険しくてな」
「問題ない」
「そいつか……」
「そうだ。あまり近寄るな」
「ああ」
ずるりとアヴァリの腰から、尻尾が出て来たので反対の足で踏みつける。
「それで、人間らの養分を吸い取るつもりだろう?」
「くっ」
「一回、斬り落としたんだがな。また生えたのか?」
「……」
そして俺はフィラミウスに言う。
「フィラミウス。コイツを魔法で固定できるか?」
「分かりませんが、凍らせてみましょう」
そしてフィラミウスが詠唱を始める。ピキピキと音を立てて、アヴァリの首回りに氷が作り出されるが、首をブンブンと振ってそれを許さなかった。
「じゃあ俺が押さえるぜ」
「いやボルト。近寄るな。何を持っているか分からん」
「そ、そうか」
そこにメルナが戻ってきた。
「マージ。コイツを固定したい」
「分かった。ならばメルナ、停止魔法をかけるよ」
「うん」
「だけどコハクや。そう長くはもたないよ」
「問題ない」
「時の流れよ、その歩みを止めよ。悠久の静寂が、今ここに訪れん」
「時の流れよ、その歩みを止めよ。悠久の静寂が、今ここに訪れん」
マージが言うようにメルナが詠唱すると、アヴァリがそのままの形で固定される。
「十秒ももたないよ」
「大丈夫」
そして俺は懐から黒曜のヴェルタスの瓶を取り出し、蓋を開けてアヴァリの口に一口入れた。
懐に瓶を仕舞いこみ、じっとアヴァリの目を見る。
マージが言った。
「警戒しな。人間じゃない者に、黒曜のヴェリタスが効くか分からないさね」
皆がじっと見守った。そして十秒もしないうちにアヴァリが動き、黒曜のヴェリタスを飲んだ。
ゴクッ。
どうだ?
だが、アヴァリの敵対するようなまなざしは変わっていない。
時間がかかるか……。
《あの人間とは違うかと。浸透まで時間を要するかもしれませんし、効かない可能性も》
このままでいる事は難しい。相手が相手だけに、気を許す事も出来ない。
殺してしまうか……。
《情報源です。何とか押さえたい》
そして、そこにウィルリッヒ達が来てしまう。俺はすぐにウィルリッヒに言った。
「近寄るな。危険だ」
「あ、ああ」
「待っていろと言ったのだが」
「村が燃え出したので、救援にきたんだ」
そしてフロストは、ウィルリッヒに向かって言う。
「エクバドルの王都で火を噴いたのはこれです」
「なるほど。これが未知の敵、コハクが集中していることから見ても只者ではない」
「そう言う事です」
そして俺は、二人を通り越し後ろにいるヴァイゼルに言う。
「こいつを捕縛したい」
「うーむ。やってみますのじゃ」
そしてヴァイゼルが、アヴァリに魔法の杖をかざして詠唱する。
「時の流れよ、その歩みを止めよ。悠久の静寂が、今ここに訪れん! 絡縛の鎖」
するとどこからともなく、鉄の鎖が現れ、アヴァリを締め付けるようにした。俺はガン!と、アヴァリが握る剣の手を踏みつける。それでもアヴァリは剣を放さなかったので、もう一度その手を踏みつける。
放さないな。
《これが敵の頼みの綱なのでしょう。体も強靭です》
俺はすぐアヴァリの首からレーザー剣を外し、剣を持っている手首を切り落とした。
アヴァリが呻く。
「ぐぅ!」
そして剣を取り上げ、ボルトに投げる。
「持っててくれ」
「ああ」
アヴァリは憤怒の表情で俺を睨みつけていた。だが暴れるといけないので、まだレーザー剣を外す事が出来ない。
するとマージが言う。
「氷漬けにしてしまえば、いいかもしれないねえ」
「なるほど」
「三人の魔法使いでやってしまおう。その方が呪縛の力が強いさね」
するとフィラミウスとヴァイゼルが頷いた。メルナと三人で、氷魔法を使い一気にアヴァリを氷に閉じ込めてしまう。
「三人がかりではひとたまりもなかったか」
「鎖で縛られ氷でかためてるからもありますな」
だが俺のサーモグラフィでは、全く死んでない。それどころか、普通に体温も下がってはいなかった。
そこでマージが言う。
「ヴァイゼルや。あんた、闇魔法も使うんだろう」
「効きは弱いですがな」
そういいつつ、ヴァイゼルが闇魔法をかけ、やっとアヴァリの抵抗が薄れるのが分かった。
ようやく俺はアヴァリから離れる。
「これほどに厳重にしても死んでおらんのですかな?」
「生きている」
それを聞いてマージが言う。
「やれやれ。黒曜のヴェリタスを飲んで、鎖と氷で縛ったからこそ闇魔法が効いたんだろうね。そうでなければ、抑え込むことは難しいようだよ」
「そのようですなあ……」
大賢者と賢者が頷いている。そして村の火が消えた頃、アーンとレイとビストが報告に来た。
「村人のほとんどは生きてます。ですが火傷を負ったものが多く、治癒が必要でしょう」
それを聞いて、ベントゥラが言った。
「まかせな!」
即席で作った回復薬を持って、レイとビストについて行った。
そこでワイアンヌが言う。
「あ、あのこのスクロールを使ってください!」
「これは?」
「このバケモノを手を触れずに移動できます」
「そうか」
そしてスクロールを置き、メルナが魔力を注ぐと、凍ったアヴァリがふわりと浮かび上がるのだった。