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第二百二十七話 加速シークエンス発動

 相手が体力回復の為の時間稼ぎをしている間、アイドナは既に解析演算を終わらせていた。それを知らずに、敵の二人は俺の尋ねる事に答え続けていた。


「お前達は、この世界の人間じゃないという事か?」


「やめてほしいのよ。おまえたちみたいな下等生物とは違うのよ」


「そうでら」


《体力回復のタイミングで仕掛けてくるでしょう》


「それで、何しに? という問いには?」


「まあ、どうせ死ぬんだしいいわ。おまえ……あれが遺跡だと思ってるなんてね」


「じゃあ、なんなんだ……」


「生存領域を拡大するための機器よ」


「生存領域?」


「私たちはそれを、ずっと……目覚めさせるタイミングを待ってた。この星の空は、きれいね。風も、光も、ちょっと粗いけど本物」


「……おまえらのいた場所は?」


「大気は死に、水は腐り、私たちには、生きる場所がなかった」


《感情反応に変化。敵の言動、信憑性高》


「彼らは今もあの場所で眠っているわ。冷たい液体の中で、夢も見ずに。起こすには、この星のエネルギーと生命活動が必要なのよ」


「……生命活動?」


「言葉どおりよ。生き物がいて文明があって。もう少しよ……もう少しで」


《既に、再起動プロセスの一部が開始された可能性があります》


 だが話をしていると、トリスがそれを遮る。


「イラ、話過ぎでら」


「いけない」


「まあ、いいでら。それじゃあ、そろそろコイツを殺そうとしよう」


「ええ」


 そしてまた、あの薬品の棒を取り出して首にさした。


「ふはははあ」

「あはははあ」


《なるほど、思考が飛びかけています。二重に薬を使う事で更にブーストがかかるようです》


 かなり消耗するのでは?


《覚悟の上でしょう》

 

 対応策は?


《既に終えてます》


 ドシュッ! 更に勢いとスピードを増してトリスが激突して来た。回転数が上がり、真っすぐにぶつかられたら何処かが破損してしまう可能性もあるだろう。それを避けると、光の鞭が飛んで来る。まるで何十本もの本数で攻撃されているような波状攻撃に、避けるだけでは対応できなくなってくる。


《連携スピードが上がっています。どうやら思考して攻撃しているのではなく、神経反射による攻撃に切り替わってます》


 それだけ、速まってると言う事か。


《加速シークエンスに移行します。時間知覚拡張》


 そうアイドナが言った瞬間だった。敵の攻撃が極端に遅くなって、全てを目視で確認できるようになる。


 遅い……。


《無意識回避》


 俺の視界外から襲ってきている攻撃。それも遅く感じるが、体が勝手によけ始める。


《反射攻撃対応。超感覚予測》


 どんどん、自分だけが違う空間にいるような錯覚に陥って来た。物凄くゆっくりとした、時間の中をスルスルと進んで行くような。


《既に、敵はあなたの残像を攻撃しています》


 なるほど。


 それが証拠に、二人は見当違いの方向に必死に攻撃を仕掛けていた。すると女がゆっくりと消えだす。


《感覚が危険を感知したのでしょう。ステルスが反射的に作動しました。エックス線透過に切り替えます》


 また女が、半分骨になって現れ出した。


《トリスから、消去してください》


 そのままごろごろと暴風のように転がるトリスのところに行き、腕のケースからレーザー剣を取り出した。側面から、トリスの首の部分を切り落として直ぐに離れる。


 ゴロゴロゴロ……ドスン。


 首のないトリスが、地面に倒れた。


《イラが話しています》


 等倍速で。


「トリス! トリス! なにが!!!」


 イラは慌てているようだった。


《イラの視覚には、トリスが突然倒れたように見えたでしょう》


 すると、突然イラが入り口の方に走り出した。一対一では勝ち目がないと判断したのだろう。


 逃げられる。


《空間歪曲加速》


 次の瞬間、上階に登る穴の前に俺が立っていた。そこにまっしぐらに走ってきているイラの目は、幽霊でも見たような驚きに満ちている。


「な、なんで……」


 バシュン! ドサっ!


 ごろりところがるイラの首。すると倒れた体から、蛇のような尻尾が飛び出て来る。それが俺を噛もうとするが、それもレーザー剣で切り刻んだ。


《トリスを》


 見ればトリスにも、尻尾が生えてきている。ベントゥラから治癒薬を与えられて目覚めた、レイとビストが戦っていた。鞭のようにしなる尻尾に苦戦しているが、オリハルコン鎧のおかげで傷を負わずに済んでいる。だがフラフラで、さばくのがやっとという状態だった。


 バシュン!


 俺が到着し、レーザー剣でトリスから生えていた尻尾を焼く。


「お館様!」


「無事か!」


「なんとか!」


 ベントゥラが一人一人に薬を与えてくれたようで、何とか死ぬことは無さそうだった。とにかくメルナとフィラミウスのところに行き、回復薬を飲んでもらって様子を見つつ、魔力回復薬の原液を飲ませた。


「コハク!」

「すみませんでした。防御魔法をかけるまもなく……」


「いい。敵は死んだ。それよりメルナ。ボルトとガロロが酷いようだ。回復魔法を」


「うん!」


 俺はメルナを抱き上げて、ガロロのところに連れて行く。回復薬は飲めなかったようで、かけたにとどまったらしく、まだ目覚めるに至っていなかった。そこにメルナが回復魔法をかけ始める。


 しゅうしゅうしゅう。


「うは! ハアハア!」


 ガロロが目覚めた。そしてフィラミウスが、回復薬を飲ませる。


「次はボルトだ」


「うん」


 ボルトの損傷が一番酷いようで、危うく死ぬところだったらしい。だがメルナがありったけの魔力を振り絞って、回復魔法を照射する。


 シュゥゥゥゥゥゥ!


「がっ! げほげほげほ!」


「大丈夫か? ボルト?」


「こ、コハク! すまねえ。皆を守れなかった!」


 だが俺は首を振ってボルトに言う。


「いや。お前は守ってくれた。命がけで守ってくれたおかげで、皆が命を落とさずに済んだ。本当に頑張った。お前が居て本当に良かった」


「……そ、そうか……よかった。そうか、メルナも、みんなも……よかった」


「よくやった」


 そうして皆が集まって来た。崩れ行く敵の残骸を見て、改めて敵の脅威に気づいたようだ。


「これが……敵か」


「そう言う事だ」

 

「王都、リバンレイ山に続いて、結局はコハクじゃないと倒せなかったわけだな……」


「だが、この経験は大きい。敵の性能も分かったし、強さも良く分かってもらえたと思うからな」


「痛いほどわかったさ。死ぬ思いをしたんだからな」


「これから、こいつらに対応するための施策を練る」


「出来るのか?」


「問題ない」


 それは既にアイドナがデータを取っているから。


《今回の戦闘で、あなた以外は敵に通用しないことが証明されました。対応可能な演算処理を始めます。実戦による戦闘データがとれました》


 皆の状況は見ていないが?


《いえ。皆が倒れていた場所、損壊の程度、鎧の状態、あなたが戻るまでの時間。それらを全て加味し予測演算がたてられます》


 やってくれ。


《はい》


 すると俺の視界にVRで、仲間達がやられていく様がシミュレートされて行った。それを俺の脳が瞬時に記憶し、全員がどうなったかを理解する。


「コハク?」


「ああメルナ。お前も良くやってくれた。フィラミウスが間に合わない所を、皆に防御魔法してくれたんだな」


「えっ? なんでわかるの?」


「状態を見ればわかる。魔力も切れていたしな」


「うん」


 そして俺がガロロのところに行って、お礼を言った。


「レイとビストとベントゥラを、防御してくれてありがとう」


「うぬ? 分るのか?」


「ああ。おかげで彼らが死なずに済んだ」


「必死じゃった」


 そして俺はフィラミウスに言う。


「一番最初に狙われてしまったな。魔法使いが鍵になっているのを、相手が分かっていたようだ」


「ごめんなさい」


「いや。これで分かった」


「……はい」


 そして皆を集め、俺は今起きた状況を説明してみせる。するといなかったにもかかわらず、的中させたことに皆が驚いていた。


「よくわかるな」


「まあ、そうだな」


《現場検証と科学捜査によるものだとは理解していないでしょう》


 そして俺は皆に言う。


「このダンジョンの目的は達成した。これから体を回復させて、地上に戻るぞ!」


「「「「おう!」」」」

「「は!」」


「食べられるものは食べておけ」


 そして背負子から水と食料を取り出し、皆に分け与えるのだった。

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