第二百二十六話 さらに強化する敵
俺と向かい合う、トリスとイラという未知の生物。知的レベルも高く、魔獣よりもはるかに驚異的な数値を叩きだしている。だが特質すべきは、その二人が有する兵器だった。
イラという女が持つ武器は、光で作られた鞭だった。それはうねうねとうねって、イラの周りを動き回り蛇のように自在に動いている。そしてトリス。こちらはもっと不可思議な状態で、体中から短剣のような物が付きだしている。どんな構造になっているのかは分からないが、体から生えているように見えた。
どうやら皆と戦った時は、本当の力を隠していたという事だな?
《兵器にはエネルギーの限りがあるので、この先の魔獣との戦いに温存していたのでしょう》
やはり狙いはワームホールか?
《間違いありません。武器の消耗を抑えるために、我々について来たものだと思われます》
そしてトリスが頭につけた機械を触って俺を睨む。
「こいつは……変でら」
「どういう事なのよ」
「人間のサイオニック・パルスじゃねえでら」
「なんなのよ」
「ディフェンサー・ビーストのサイオニック・パルスを巡らせている」
何を言ってる?
《魔獣の魔力を纏っている事を見抜いているようです》
なるほど。
《ディフェンサー・ビーストとサイオニック・パルスと呼んでいるようです》
意味がありそうだが……。
だが俺の中で素粒子AI流動体が動いている事は分からないらしい。敵にそれ以上の言葉は無かった。そして、二人は顔を見合わせて言う。
「仕方ねえでら」
「そうねえ……でも一度引かないとだわねえ」
「だがコイツは、ここで排除しねえとでら」
「そのようだわ。気味が悪い」
二人は腰についているカバーのようなところから、筒を取り出しそれを自分の首に押し付けた。
プシュッ! プシュ!
どうやら首に何かを注入したようだった。二人は見る見るうちに、筋力が増強し目が赤くなる。髪の毛が逆立っているようで、俺を睨みつけながら呼吸が荒くなってきた。
《ステータスの上昇を確認》
なに?
名前 トリス
体力 354+172
攻撃力 876+438
筋力 1101+550
耐久力 357+178
回避力 258+129
敏捷性 426+213
知力 98
技術力 899
名前 イラ
体力 308+154
攻撃力 841+420
筋力 363+181
耐久力 374+187
回避力 417+28
敏捷性 321+160
知力 192
技術力 610
あれはなんだ?
《身体増強薬と言ったところでしょう。各自五十パーセントほど基礎能力が上がりました》
龍並みになったという事か……。
《それに技術力と知力が伴っている。厄介です》
どうする?
《補正演算を行っています》
するとその次の瞬間、すごい勢いで光の鞭が俺に向けて飛んで来る。
ビシィ!
速い!
《銃弾より速いようです》
辛うじてオリハルコン鎧が防いでくれた。鉄でも傷つけられないオリハルコンの鎧に、軽く傷跡が残っている。
俺が咄嗟にそこを飛びぬけると、その先に全身刃になったトリスが転がるように迫って来た。俺がそれを避けると、そこに光の鞭が飛んで来る。
《連携です》
光の鞭をのけぞって避けたところに、回転したハリネズミがまた襲ってきた。俺はジェット斧を取り出して、それをブンッ! と横に払いのける。
するとイラが叫んだ。
「やっぱり! そいつグラドの武器使ってるのよ!」
ぴたりと止まったトリスが俺を睨みつける。
「殺して……奪ったのか……」
俺は平然と答えた。
「ああ。使えるようだったからな」
だが二人がにやりとする。
「それをここまで、かなり使ったんでら?」
「さあてな」
《エネルギーが切れれば、あちらが有利と思っているのです。こちらがエネルギー補充の方法を知らないと思っているのでしょう》
どういうつもりだろう?
《持久戦にもつれこませるつもりでしょう……他にも何かあるかもしれませんが》
それを聞いて俺はジェット斧を背中に取りつけた。そして倒れているガロロのところに走る。するとそこに向かって光の鞭が飛んできた。俺はそれを宙返りでかわしつつ、地面の爆裂斧を拾い上げた。
俺のジェット斧より威力は低いが。
《オリハルコンなので頑丈です。それで様子を見ましょう》
よし。
俺は一気に、イラに向かって突進する。するとそこにトリスが転がってきて、俺に激突して来た。俺が飛ぼうとすると、アイドナがアラートを流したので、ガイドマーカーに従い爆裂斧をトリスに向けた。
ガギィィイン!
俺は派手に弾かれて、一気に壁に向かって吹き飛ばされる。俺がいた場所に光の鞭が飛んで来ており、間一髪で潜り抜ける事が出来た。くるりと回転して、迫って来る壁にい向かい爆裂斧を振りぬく。
ゴウゥゥン!
壁に大きなクレーターが出来、そこに足をつけて一気にジャンプをする。すると俺がいた場所に、光の鞭が振られて壁の岩を軽く蒸発させた。
「当たらないのよ!」
「こんな反射神経おかしいでら!」
反射神経ではない。アイドナの予測演算により、全ての攻撃を呼んでいるのである。それを読み切っても、さっきのように不意を突かれて飛ばされてしまったのだ。むしろ褒めてやりたいのは、相手の意表を突いた早い連携だった。
「だけど、いつまでも続かないのよ!」
「そうでら!」
そして二人の波状攻撃が続いた。だが攻撃されればされるほどに、アイドナに手の内をさらけ出していくことになる。アイドナは高速で学習し、全ての動きの先をその記憶に刻んだ。
「死ぬのよ!」
「死ぬでら!」
二人の攻撃は更に勢いを増すが、どんどんアイドナの予測演算に余裕が生まれている。最初はコンマゼロハチ程度の誤差が、今はゼロゼロゼロゼロ四ほどに修正されてしまっている。
そう。攻撃されればされるほどにアイドナは学習し、敵は俺に攻撃をあてられなくなっていくのだ。
「ハアハアハア……」
「フウフウフウ……」
《異常発汗、体温上昇、心拍上昇。敵は消耗しています。恐らく薬による弊害です》
なるほど。長期戦になればなるほど不利になるのはあっちだったか。
《そのようです》
「おまえ……何者でら……」
逆に俺が敵に言う。
「むしろ、お前達が何者なんだ? なぜこんな場所にいる? あの古代遺跡はなんなんだ?」
すると二人が顔を見合わせた。少し意表を喰らったような顔をしている。
「古代遺跡?」
「そうだ!」
するとまた二人が顔を見合わせて言う。
「「あはははははははは」」
何かがおかしかったようだ。
「なんだ?」
「あれを、遺跡だと思っているなんて単細胞でら」
いや……この世界の人らが言うから、便宜上そう言っているだけだが。
《そのふりを続けて良いです。内容を精査します》
「あれが遺跡じゃないとしたら一体何なんだ」
「知らないなら知らないでいいのよ。あんたみたいな下等生物に教えても理解できないのよ」
《情報収集を取りますか? 戦局を有利にする方向で動きますか?》
どうするか……。
《敵は回復の時間稼ぎをしています》
薬の効果はどうだ?
《まだ切れていませんが、体には負担があるようです》
なら情報を取る。
《はい。ではそれを含めて、勝率の向上に務めます。相手の手口に乗ってください》
わかった。
「俺を殺すのだろう? ならばあの世へ行く前に教えてもいいだろう? あんたらは強いようだ。このままじゃどうせ俺はじり貧だからな」
「あらぁ。おりこうさんねえ」
「下等生物なりに分ってるでら」
「ああ」
「私達は、この世界を頂く為にきたのよね」
「この世界をもらう?」
「長きにわたってずっとこの時をまってたかしら」
「長きに渡って……いつからだ?」
「あんたなんかには分からないような年月よ」
そして相手に時間稼ぎをさせているふりをしながら、こちらは情報収集と敵の攻略方法を解析する。相手はまんまとこちらの手口にのって、情報を話し始めるのだった。