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第二百二十四話 神殿ダンジョン最深部

 地下三十四階層にはデカい多頭の龍が居たが、それは他の魔獣とは違っていた。アイドナのエックス線透過で見ても通常の生体ではないらしく、さらには炎ではなく白い光線を吐いて来た。その光線の温度は六千度近く、直撃を受ければオリハルコン鎧でも無事ではすまない可能性があったらしい。いくら耐熱に優れているとはいえ、内部の肉体が損傷する可能性があったようだ。


 アイドナが言うには、それは自然発生したものではない可能性が高いという。


 それを倒し、ようやくたどり着いた三十五階層。アイドナの予測演算通り、このダンジョンは地下三十五階層が最深部だった。それが証拠に俺の前には、古代遺跡らしきスチール製のドアがある。


《多頭の龍は守護の為に置いた可能性があります。後に解体してみるべきでしょう》


 まあ、そうだな。とりあえず目の前の事をやらねば。


《パネルに手をついてください》


 土ぼこりを払いのけ、俺が手のひらをつけるとアイドナが演算し始める。するとパネルが反応し始め、ゆっくりとスチール製の扉が開いた。俺がそのまま中に入ると、やはりこの世界の文明には似つかわしくない設備がある。


 古代遺跡だ。生体動力があるんだろうな。


《そうでしょう。メインパネルへ》


 アイドナが視界にガイドマーカーを出し、俺がそれに沿ってメインパネルへと導かれる。そこにはガラスに入った機器や、幾つもの大きな燃料タンクのような物が置いてある。メインパネルは真っ黒い板のような物で、前に立てばそこに俺が映った。


《パネルに手を触れてください》


 俺が手を触れると、アイドナが解析を始めた。パネルが輝き始め、次々の目の前のディスプレイに情報が映し出される。明らかにこの国の言葉ではなさそうだが、俺の脳には全ての言葉が理解できるようになって届く。アイドナの素粒子AIで変換がなされて届けられているのである。


 ……今までとは違うか。


《はい。データの破損が著しいですが、今までで一番データが残っています。このダンジョンはこれまで見たどれよりも、完成された住居のようです。さらには、様々なデータも残っているようです。メイン機能はワームホールですね。解析します》


 膨大な量のデータが物凄いスピードで眼前に現れるが、アイドナがそれをキャッチしても、俺の記憶領域には入れないようにしている。俺の脳が、パンクしないように制限をしている為だ。全てはアイドナ素粒子AIの、微粒端末に記憶されて行くのだ。


 その中から、最重要情報を抽出して伝えてきた。


《データの捕捉と変換をすると、ここは生存するための地下都市になる予定だったようです》


 地下都市?


《はい。どうやら地上が住めなくなるような事態が起き、地下へ生存領域を作り出した。それがこのダンジョンの正体であると》


 生存領域か。上層部に住居エリアがあるのはそのためか?


《あれは作りかけのようで、データ上はそうはなっていません。恐らくは作っていた物が放棄され、その後で違う文明が作り出したものかと》


 あったものを再利用したという事か?


《はい。それにこの施設の意味は、住居エリアだけという事ではないです。至る所に開拓者というデータが残されており、ここは開拓者が住む場所、という位置づけのようです》


 開拓者……。


《更に、ワームホールの位置づけとは、防衛機能のようです》


 なんだと? ワームホールが防衛機能?


《はい。地下に潜みながら、地上を掃除する為のものとされています》


 掃除……?


《対象は、この世界の前にあった脅威です》


 それを駆除する為の機構か。


《データの破損が見られますが、そのようです。魔獣だけではなく軍隊の呼び寄せも考えられます》


 突然、出現させて攻撃するか。かなり効率の良い攻撃方法だな。ならば防衛ではなく、攻撃機能というが正しいんじゃないのか?


《いえ、あれはあくまでも防衛の手段と読み取れます》


 なるほどな。なんで回数制限がある?


《情報に乏しいですが、この世界を滅ぼしてしまう可能性が高いからと読み取れます。三回までにしているのは、それ以上の攻撃をすれば住めなくなるような表記です》


 解除できるか?


《出来ます。やりますか?》


 やらない。むしろ使えなくすることは?


《出来ますが、そうしてもシュプリームアドミニストレーターならば、また復活させることが出来ます。プログラムの完全改修をしなければなりませんが、このパネルでは出来ません》


 そうか。その機能は使われたのか?


《いえ》


 なら使えなくしてくれ。


《本当にそうしますか?》

 

 ああ。

 

 すると俺の両手が高速で動き出し、あっという間にその作業を終わらせた。


《これでアドミニストレーターでない限りは使用できません》


 よし。他に読み取れたものはあるか?


《はい。この施設は恐らく、この星の物でない可能性があります》


 なんだと?


《開拓とはこの星に対しての事かと》


 ということは、開拓者は他の星から来た?


《その確率が高いです》


 その開拓者はどこに行ったんだ?


《残念ながらそのデータはありません。ですが、開拓者のデーターを映し出せます》


 出してくれ。


 そして目の前には、宇宙服のような物を着た、人間の型をした者が動く映像が映し出された。


 人間?


《流石にデータでは、エックス線透過もサーモグラフィでの投影も出来ません。動きや骨格からすれば人間に近い可能性はあります。ですがどれも大袈裟な保護服で守られている為、何者なのかは全く分かりません》


 脱いだ姿のデータは?


《ない。という事は、脱げなかったという可能性が高いです》


 どう思う?


《予測演算の結果、この防護服の民が開拓者。そして地下に住居を求め失敗、制圧しようとしてワームホールや衛星軌道上からのレーザーを駆使。ですがそれも、成功しなかったのかもしれません》


 あくまでも予測だな?


《確率上の》


 だが今までで、一番詳細なデータが取れたようだな。


《更なる予測ですが、この世界は二つの文明の重なりによって出来た可能性があります》


 それは前に言っていたか?


《はい。そこに何かの作用が起きて、さらにあなたが迷い込んだと推測》


 そうか……。


《どうします?》


 ここで得られるものは?


《今の情報が最上。ここには、今までで一番巨大な生体炉が眠っています。それらが爆発すれば、間違いなくかなりの損壊になるかと》


 都市が吹き飛ぶ?


《いえ。国家の半分もしくは……》


 リンデンブルグ帝国の半分が消える?


《はい。もしくは全土》


 ようやくわかって来た。むしろ、このダンジョンの魔獣の攻略などしなくて良かったかもしれない。


 ひとまずここを閉鎖して戻ろう。


《はい》


 そしてアイドナがパネルをシャットダウンし、入り口の扉を内側から開けて外で閉じる。そのまま三十四階に登ると、俺が倒した多頭の龍が横たわっていた。


 これを、調べると言っていたな?


《はい。骨格が不自然です。骨では無いような物もあります。切って中を見ましょう》


 俺が言われた場所をレーザー剣で切ると、なんとそこから金属の人工物が出て来たのだった。


 機械じゃないか?


《そのようです。中心に生体動力があります。生きているようですので、それを拾い上げますか?》


 いや。これを復活させられないか?


《では。首の付け根あたりを切ってみてください。恐らくは稼働用の物体があるかと》


 エックス線透過で、確かに何かの立方体があるようだ。俺は巨体によじ登り、首の付け根あたりをレーザー剣で切り開いてみる。するとそこには金属製のボックスがあった。


《触れてください》


 ボックスに触れるとアイドナが言う。


《ナノマシンへの指令が止まっています。これはナノマシンで修復可能なロボットです》


 龍が?


《再起動できるようです》


 そうなのか?


《戦っている時に出したガイドマーカーは、すべて指示系統をカットするようにしました。通常の生体と違って心臓や脳が見当たりませんでしたので》


 そうだったのか。


《恐らくは破損した場合の非常回路です》


 ならばこれを再起動してくれ。


 ピッピピピ! 


 アイドナが操作をすると、箱からさわさわと粉のような物が広がった。それらが龍の体に広がり、傷跡を修復し始める。


 逃げないと危ないよな?


《いえ。あなたを攻撃対象から外しました》


 そこまでやったのか。


《危険ですので》


 そしてナノマシンにより傷が回復した多頭の龍が、バッチリと目を開いた。その視界には俺が収まっており、体を起こしてじっと見ている。だがアイドナが言うとおりに攻撃する気配はなく、じっとそこに佇んでいるようだった。

 

 攻撃は……してこないか。


《書き換えをしていますので》


 俺はそのままその多頭龍から離れ、仲間達がいる場所へ向けて階層を上がっていくのだった。

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