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第二百二十二話 ダンジョンサバイバル

 神殿ダンジョンは地下ニ十階層より更に深く、多くの強い魔獣がひしめいていた。シュトローマン伯爵領のダンジョンにいたような、地龍のグレードアップ版のような個体にも遭遇する。だがバージョンアップしたオリハルコン鎧と新型武器のおかげで、潜り進める事が出来ていた。しかしながら進行速度は遅く、地下二十七階層に到着した時には丸四日が経過しようとしてた。


 その苦労の甲斐もあってか、大きな魔石を入手する事が出来、アーンが望んだ素材も見つけられる。それを即席のそりに乗せて運び、先に進む準備をしているところだった。流石に全ての魔獣を討伐する事は叶わず、突破しつつも多くの魔獣を残さざるを得ず、この先の事を話し合っている。


「やはり前のダンジョンとは違うな」


「そのようだねえ。魔力の消費も激しくなって来たようさね」


「帰りの事もありますしねえ】


 マージの言うように、メルナとフィラミウスの魔力を何度か魔法薬で回復させた。それでも全てを討伐出来なくなってきている。だがそこで、レイが静かに言った。


「しかし巨大魔獣の攻撃が直撃しても、体を破壊される事がないのは大きいです。メルナとフィラミウスの回復魔法があれば、直ぐに戦闘に参加する事も出来ますしね」


 だがそこで俺が首を振りつつ答える。


「鎧を過信しすぎるな。万が一の打撃で命を失ってしまえば、回復ではどうしようもない」


「は!」


 それを聞いてマージがいう。


「あたしの体があって魔法が使えればねえ。身体蘇生はできるんだけど」


「今は出来ないのだからあてにならん」


「耳が痛い。メルナもまだまだ修練が必要だしねえ」


「ごめん」


「メルナは悪くないさね。こんな短期間にいろんな魔法を習得しただけでも凄いんだから」


 するとフィラミウスも言う。


「そうよメルナちゃん。あなたは素直だからか、次々魔法を習得しちゃうんだもの。まだまだこれからなのはうらやましいわ」


「うん!」


 既に魔法爆弾は使い切っており、ここからは自力で突破しなくてはならなかった。周りの岩場は加工されたような作りになっているが、下に行くほど階層面積は狭くなってきている。


《住居ではなく、保管庫か管理所のようなものです。上の居住区の為に用意された場所です》


 底が近い可能性はあるな。


《予測演算では三十から三十五階かと》


 五階も誤差があるのか。三十階ならばなんとかなるが、三十五階となると作戦の立て直しが必要では?


《もしくは日程の延長。食料は魔獣で補えます》


 問題は水と魔法薬か。


《はい》


 装備は問題はない、魔力は魔獣を倒せば魔石に補充される、食い物は当面魔獣を食えばよかった。七日を想定し水の量を想定して持ってきているが、更に日数がかかるとなると水と魔法薬が不足してしまう。


 その事を皆に話す。


「想定は三十階層。だがそれ以上となると、水と魔法薬が底をつく。調整しながら潜るか、一度諦めて戻るかどうかの選択が迫られるだろう」


 それにマージが言う。


「それなら、体の無いあたしにゃあ決定権はないさね」


 現存する物資から、可能な範囲を算出しろ。


《現在の物資を切り詰めて進む場合、制限は七十パーセントまでが限界ラインです。せめて水を確保出来ればいいのですが》


「物資の制限をかけて、ギリギリ三十五階だろう。水を確保出来ないだろうか?」


 俺の問いにベントゥラが答える。


「地下水ならあるだろうが、魔獣との遭遇率も上がるだろうな。水を探している間に消耗してしまうんじゃねえだろうか」


《地形を分析し、水がありそうな場所を特定する事が出来ます。ですが、水源を発見する確率は六十パーセントです》


 どうすれば、より効率的に潜れる?


《昆虫系以外の魔獣は、水を必要としているはずです。それらの生体を追えば、水源に当たる可能性は上昇します。ですが更に日数を必要とするでしょう》


 ということは?


《制限して潜るのが一番確率が高いです》


「よし。三十階層まで後三階ある。到着してから判断する」


「「「「おう」」」」

「「は!」」


 するとアーンが言った。


「あの!」


「なんだ?」


「水なら、うちが探せるっぺよ!」


「なに?」


《真理眼という能力でしょうか》


 それを肯定するかのようにマージが言った。


「真理眼か……なるほどねえ」


「水を探せばいいっぺな!」


「頼む」


 それからベントゥラがアーンを護衛するように先行しつつ、洞窟内の水を探す事になった。極力物資を制限する為に、アーン達はあちらこちらと探し回った。そして、それはそれほど待たずにやって来る。


 アーンが鎧の手で土を掘り始める。


「ここか?」


「どうだっぺ。だけんど……」

 

 ズルゥ!と蛇のような物を土から引っ張り上げる。フィラミウスが声をあげた。


「きゃあ!」


 それを聞いてマージが言う。


「なんだいなんだい! 小娘みたいな声をあげて」


「すみません。でも……」

 

 アーンが言う。


「大ミミズだっぺ! このあたりを掘って行けば水は出るっぺよ」


 それを聞いてマージが言う。


「なら、メルナの浄化魔法で綺麗にできるさね!」


 そこで俺がみんなに言う。


「周辺を守っていてくれ! 俺がこのあたりを掘ってみる!」


「「「「おう!」」」」


「レイとビストは土をかき出してくれ」


「「は!」」


 固めの地面だが、俺は背中からジェット斧を取り出して地面にむける。スッと持ち上げてガツン! ガン! ガン! と掘り進めた。するとその音につられて、周りから魔獣が寄って来る。この階層は大きな蛇のような魔獣がうようよいた。


 それらを風来燕に任せ、とにかく俺は集中して地下に掘り進んだ。三メートルも掘り進んだ時、ジワリと土が湿り気を帯びて来る。そこで斧からレーザー剣に持ち替えて、土を溶かしながら崩れないように掘り進める。そこから、じわりじわりと茶色い水が染み出て来た。


「出たぞ」


「「は!」」


「縄に繋いだ桶を降ろせ」


 カン! 桶が落ちて来たので、俺は泥水をすくい取り縄を引く。スルスルと上に上がったのを見て、俺はメルナに聞いた。


「綺麗にできるか?」


「出来るよ!」


「よし! それじゃあ次々行くぞ」


「「は!」」


 俺が泥水をすくってはレイとビストが縄を引いた。しばらくやっているうち、水が出なくなってきた。


「終わりだ」


 そう言って俺は上に登る。既に蛇の魔獣の討伐は終わっていたようで、フィラミウスが魔法薬を飲んでいるところだった。


「みな、怪我は無いか?」


「ああ。問題ねえ。だけど鎧に仕込んだ礫は無くなった」


「それくらいならどうにかなるだろう。水はどうだ?」


 それにレイが答える。


「全部がいっぱいにはなりませんでしたが、ある程度の量になりました」


《これで制限しつつ行きましょう。フィラミウスとメルナ、そしてガロロに水を飲ませてください》


 俺の視界に、三人の水分が足りていないという数値が表示される。


「フィラミウスとメルナとガロロは水を飲め」


「大丈夫よ」

「私も!」

「わしもじゃ!」


 水が足りないという状況を考えて我慢しているのだろう。だが俺はもう一度言う。


「いや。体力の消耗を抑える意味もある。飲んでくれ」


 すると三人は一口ずつ水を飲んだ。アイドナが生体反応を確認して、数字としてあらわす。


《問題ありません》


「ここからは物資の管理は俺がする」


 皆が頷く。今のところ追跡者の気配は途絶えているが、敵の正体が分からない以上は、充分に安全マージンを取らねばならなかった。


 俺の表情を見てボルトが聞いて来る。


「怪しい影っつうのは、まだついて来てるのか? 敵か?」


「今は確認できない」


「流石にこんな深い所までは、追って来ねえんじゃねえのか?」


「魔獣を残しているからな。だが油断するな」


「分かってるよ」


 俺がアイドナに言う。


 地下二十七階。魔獣だらけの状態で、追跡者に警戒しながらの攻略になるとは予想していなかった。


《いえ。想定済みです。その可能性も含めての水の確保と制限です》


 そうなのか?


《追跡者が最大の障害になる可能性があります》


 わかった。心してかかろう。


 どうやら、アイドナは全てを考慮したうえでの判断をしたようだ。俺は初めて、今回のダンジョン攻略の危険性を認識したのだった。

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