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第二百十七話 リンデンブルグへの密入国

 山脈地帯を通過して分かった事がある。それなりの標高の山々には、それぞれに主のような魔獣がいる事。最初に見つけたのは、アンフィスバエナとか言う龍の一種。

 

 頭の先と尻尾の先に同じ顔があり、先と後ろが均等な作りになっている魔獣だ。後ろに周るなどという事は意味がなく、どちらからも素早く動いて襲って来る。だが、その攻撃で一番恐ろしいとされている、毒の爪と牙はオリハルコンの鎧を貫けなかった。


 その後も、土蜘蛛やタイホウなどという魔獣が居たが、オリハルコンの鎧はその攻撃のほとんどを防ぐ。更には新しい武器も有効で、土蜘蛛のワイヤーのような糸は高周波ソードで切れ、タイホウという飛ぶ魚の堅い鎧は爆裂斧で砕けた。


 ヴァイゼルが目を丸くして言う。


「本当に数日で到着した!」


 レイも驚いている。


「鎧も兵器も凄いものです。あんな恐ろしい主級の魔獣を、まるでバターでも裂くように斬る事が出来た。むしろ本当に恐ろしいのは、お館様の開発した武器かもしれません」


 アーンは目をキラキラさせている。


「やっぱりお師匠様は凄いっぺ。うちはまだまだだっぺな」


 それを聞いたヴァイゼルが苦笑いして言う。


「こんな物を、ぽんぽんと作れる人間が増えたらたまらんわい」

 

 だが俺は、そんなヴァイゼル言った。


「未知の敵は、こんな兵器をポンポンと作れる相手だ。敵の兵器からヒントを得て作ったものだからな。俺が持っている奴らの武器は、それを遥かに凌駕している」


「そうじゃった。たまらんのう……」


 そしてボルトが付け加えた。


「王都で襲撃して来た奴の剣は、火を噴いたんだよな」


「そうだ。それも何かの技術が使われているはずだ」


「そんなので斬られたらひとたまりもねえなあ」


「そう言う事だ。だから今回のような行軍を軽くできるようじゃ無ければ、太刀打ちできる相手じゃないと知ってほしかった」


 皆が頷く。そしてマージが話を切り替える。


「して。関所を通らずに、国境を越えてしまったようだねえ。いわゆる密入国になるんだが、その辺りは大丈夫なのかねえ」


 するとヴァイゼルがようやく、といった感じで得意げな顔をする。


「ふぉっふぉっ! プレディア様。こう見えてもわしゃ、この国の王宮魔導士長ですぞ! 何処でも顔一つで入れます」


「なら、ようやく飯炊き以外で役に立つねえ」


「そ、そうは言ってほしくなかったですじゃ」


 今度は皆が苦笑いをする。それをフォローするかのように、フィラミウスが言った。


「いえ。ヴァイゼル様。私は非常に学びになりました。繊細な魔力の配分に、同時詠唱など真似できるものではございませんでしたわ」


「そうかそうか。お嬢ちゃんはそう感じてくれたのかい」


「心から」


 ヴァイゼルの機嫌がよくなった。単純な爺様だ。


「いずれにせよ。どこかで馬車を手に入れねばならんだろうさね」


「ふふん。プレディア様。それこそお任せあれ」


 街道を歩いているうちに、最初の都市が見えて来た。パルダーシュのような高い市壁がそびえ、パルダーシュよりも高い塔の立っている都市だ。


 レイがそれを見て言う。


「流石はリンデンブルグの領地。砦のような作りになっている訳ですな」


「ここは。ドラス辺境領、領主はリエゴ・ドラス辺境伯じゃ。まずは挨拶に行くかの」


 位置的には、エクバドルから見て最初の巨大都市となる。言わばエクバドルに対しての砦。敵対しているわけでは無いが、どちらの国境沿いにもこんな都市があるらしい。


「流石は、軍事力のリンデンブルグという訳ですな」


「ふぉっふぉっふぉっ」


 正門に行くと門番が出てくるが、ヴァイゼルを見て皆が敬礼した。どうやら本当に偉い立場にあるらしく、皆が緊張しているようだった。騎士が挨拶を始める。


「王宮魔導士長様の訪問を心より……」


「ええて。とりあえず、領主に挨拶じゃ」


「「「「は!」」」」

 

 本当に俺達の事は、何のチェックも無いらしい。そのまま騎士達に連れられ、ひときわ大きな城に連れて来られた。門番に挨拶をすると、これまたすんなりと中に通される。


「本当に簡単に入れた」


「言ったじゃろ!」


 辺境拍の城に入ると使用人が慌てて屋敷の奥へと走り、偉そうな髭の中年が階段を下りて来た。


「これはこれは! 王宮魔導士長様! なんの御用でございましょうか!」


「うむ。ちっとばかし、この人数が乗れる馬車を貸してくれんかのう。急ぎで殿下に会いに行かねばならんのじゃ」


「はは! おい! 直ぐに馬車をご用意差し上げろ!」


「「「「は!」」」」

 

 騎士達が一斉に動き出した。辺境拍は俺達にもチラリと視線を向けたが、よほど畏れ多いのか聞いてくる事は無かった。


 そこでヴァイゼルが言う。


「この方達は、私を護衛してく照れ来てくれた騎士達じゃよ。ちいと何処の誰かは言えんが、大事な使命を持ってここに来てくれておる」


「そ、それでは! ぜひ、食事をご用意させましょう」


「ふむ。そうしてくれるかのう」


「は! おい! 最上級の食事をご用意して差し上げろ!」


 今度は使用人たちが答えた。


「「「「はい!」」」」


 すごいな。


《これが、ノントリートメントの言う「ちから」というもの》


 これを持たなければならないという事か?


《そう言う事です》


 一時間ほど待ち、緊張気味のリエゴ・ドラス辺境伯と談笑をするヴァイゼル。俺達は一応護衛という事なので、ヴァイゼルに従えているように後ろに立つ。


 そしてようやく、リエゴが俺達に触れた。


「しかし見事な青備えの騎士達でございますな。その鎧の作りが只者では無いと分かります」


「本当に只者ではないよ。殿下が直々にお会いなさる」


「左様でございますか」


 この男はどうだ? 敵か?


《いえ。嘘も何もなく、ただ本当に恐縮しています》


 そうか。


《普通のノントリートメントになります》


 すると俺の中の話を知ってか知らずか、ヴァイゼルが聞いて来る。


「コハク殿から見て、こちらの御仁はどう見ますかな?」


《トークスクリプトを展開》


「非常に心根のよろしい、すばらしき御仁だとお見受けします。国家に忠誠を誓われているようですね」


「ふむ。そうですか!」


 まもなく食事が運ばれてきて、俺達は久しぶりに暖かくて味のあるものを堪能した。そのおかげで、皆の体も温まり体力も復活してきそうだ。


 コンコン!


「入れ!」


「馬車のご用意が出来ました!」


 それを聞いてヴァイゼルが言う。


「すまんのう。本当はもっとゆっくりしたいのじゃが、火急の要件なのじゃ」


「いえ! 博識高い王宮魔導士長様との歓談は、非常に楽しいものでございました!」


「そう言ってもらえたらありがたい。それでは馬車を借りて行く。王宮のものが返しに来るじゃろうて」


「は!」


 俺達が城を出ると、立派な三頭立ての馬車が用意されていた。二台が連結されており、全員がゆったり乗る事が出来るようにしてくれている。


「流石は、ドラス辺境伯。こちらの所望している物をとらえ、きっちりと用意してくださるとはな。この事は殿下に伝え申しておくのじゃ」


「はは! ありがとうございます!」


 俺達はすぐ馬車に乗りこみ、ボルトとメルナが御者の席に座って馬を引く。俺達が門を出て行くまで、ずっと見送っていてくれた。


 そこでマージが言う。


「流石は王宮魔導士長といったところさね」


「わし、一応、ちょっとは偉いんですじゃ」


「おみそれしたよ」


「いやいや。少しは役にたたんと」


 確かに山脈では飯炊きしかしてなかったので、ここぞとばかりに権力を振るったらしい。だがそのおかげで、俺達は早くにウィルリッヒとの約束の場所に来ることができた。


 そこは、保養地らしく温泉が出る町なのだとか。ウィルリッヒはそこの、王族の別荘で待っている。


 ヴァイゼルの顔を見て、門番が直ぐに中に通した。


「来たね!」


 早速ウィルリッヒが出て来る。


「お待たせしましたのじゃ!」


「そんなに待ってないよ。よく敵に見つからずに来れたね」


「山脈を越えて来たのですじゃ」


「山脈を? うそでしょ」


「本当です」


 そしてウィルリッヒの後ろから、フロストが声をかけて来る。


「見事な青備えだな。これが君らの隠し玉か」


「そうだ」


「既に只者ではないと思ってしまうが、力量はよくわからない」


《試してみていいかと》


「ならば立ち会って見ればいい」


「いまから?」


「悠長にはしてられない」


 するとフロストがにやりと笑う。


「いいでしょう。訓練場がありますから、場所を変えて手合わせ願えますかな」


「いいだろう」


 ウィルリッヒも特に反対はせずに、俺達は訓練場にやって来る。そこは広い石畳の四角形の場所で、まるで闘技場のような作りになっていた。


 フロストが言う。


「では、だれが?」


 そこで俺が言った。


「鎧を脱げば、フロストには誰も勝てない。だから鎧を着たままで良いか?」


「よろしいですよ」


 そして俺はレイを見る。


「レイ。やってみてくれ」


 するとレイは焦って答えた。


「いやいや! お館様! 相手はまがりなりにも剣聖様! 足元にも及びません」


「それは鎧を脱いだ場合の話だ」


「武器は……」


 そこで俺はフロストを見て言う。


「どうする?」


「試してみたい。コハク卿の作った武器を受けましょう」


「危険だが」


「それでなくては意味がない」


 そしてフロストは、そこに備え付けのプレートメイルを着始め、備え付けの剣を拾い上げる。


「自前の剣が壊されては合いませんからな」


「わかった」


 そしてフロストの前に、レイが立ってお互い剣を構え始める。


 フロストが言う。


「行きますよ」


「はい!」


 フロストが瞬間的に詰め、剣を鎧に振るった。


 ガギン!

 

 バッと離れて言う。


「あははは。剣が欠けた。その鎧はいったいなんです!」


 随分と楽しそうだった。コイツは戦う事が好きなんだろうか?

 

 レイはオリハルコン鎧の力を使って、一気にフロストと距離を詰める。


「はや!」


 だがフロストの方が一枚上手だった。レイの剣劇を避けて、今度は鎧の関節に向けて剣を振り下ろす。


 ガギィ!


「隙間も……ないと……」


 また剣を欠けさせてフロストが言うので、俺がそれに答えた。


「全て想定している」


「なるほどねえ」


 するとフロストは、王覧試合で見せたような独自のステップを見せ始めた。


《本気になりましたね》


 なるほど。


 ウィルリッヒもヴァイゼルも息を呑み、ビストもレイがどれほど剣聖に対応できるのかを見ていた。


 そしてヴァイゼルが言う。


「既に分かりました。装備は天下一品、ですがあのフロストに土をつけられますかな?」


「それが目的ではない」


「ふぉっふぉっ! 試験と言う訳ですな」


「そうだ」


 その後はフロストに翻弄されるかのように、一度も剣をあてる事が出来ないレイ。しばらくその状態が続いたが、レイは狙っているのだった。


 シュン!


 フロストが剣撃を放った瞬間、レイは脱出用のブーストを使った。フロストめがけて。


 ガシィィ……。


「うお! とんでもない!」


 突然爆発したパワーに、フロストが一瞬よろけた。そこに腕を差し出して、レイがギミックの魔力パンチを放出する。


 バン! ガギィィ!

 

 次の瞬間、宙を舞う剣の先が見えた。咄嗟にフロストが剣で受けたのだが、その剣にオリハルコン鎧の爆発力を増したパンチが当たったのである。それで剣が折れて、それが宙を待っているのだ。


 しかしフロストを捉えきれない。


 次の瞬間フロストは、レイから距離を置いた場所にいて、折れた剣を構えていた。


 そしてレイが俺を見て言う。


「お館様。奥の手が読まれました。もうなすすべがありません」


「フロスト。これでいいか?」


「いいもなにも、とんでもないですねえ。見てください」


 よく見ればフロストのプレートメイルは、あちこちが裂けていて、使いものにならない状態。

高周波ソードの威力は、かすめても大きな損害を与えていたのである。


「鎧をダメにしてすまない」


「まあ、安物の鎧ですからそれはいいとして、その武器はいったいなんです?」


「魔導剣だ。鉄が斬れる」


「あーはははは! バカバカしいほどに恐ろしい! 何て武器を作ったんだ!」


「嬉しそうだな」


「そりゃそうだ。未知の敵に対して、これほど心強いものがあろうか」


 一連の流れを見ていて、ウィルリッヒがぽつりと言った。


「これは、国宝などという生易しい物じゃない。全員が神器を身に着けているようなものだ」


 そこでマージが言った。


「コハク・リンセコートは、この一個師団を持っているのさね」


「ははは……一生友達で居ましょう。コハク卿」


「敵対しなければ、何もしない。友達というなら友達だ」


「よろしく頼むよ」


 俺はウィルリッヒと握手を交わし、オリハルコン鎧の披露会は終わったのだった。

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