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第二百十六話 帝国への遠征

 話し合いの中でヴァイゼルは、この大陸の地図をテーブルの上に広げた。出撃する部隊はもう決まっているが、どのルートでリンデンブルグ帝国に入国するかが話の中心になっている。


 普通のルートで部隊を率いて行けば、目立ちすぎて敵に感づかれるだろうと言う事だ。一人二人で行動するならばいざ知らず、中隊規模の部隊で動けば流石にバレるという訳だ。


 ヴァイゼルが難しい顔で言う。


「どうしたものかのう? 商人に化けるにしても限度があるのう」


 レイも腕組みをしている。


「難しいでしょうね」


 だが、アイドナが俺に言った。


《簡単です。山脈を超えればいいのです》


 そうだな。


 そして俺が皆に言う。


「東の山脈地帯を越えて行けばいい。そうすればリンデンブルグとの国境沿いに出るだろう」


 だがヴァイゼルが言う。


「危険な魔獣が居る山脈を? リンデンブルグに到着する前に消耗してしまうのじゃ」


 風来燕のボルトが俺に聞いて来た。


「確かに東山のまた奥へは行った事がないしな。魔石も補給したいんだろう? あと鎧の試験……か」


「そう言う事だ」


 そこでレイたち騎士が俺に聞いて来る。


「本当に山脈を行くのですか?」


「ああ。リバンレイよりは低い山々なのだろう?」


「ですが、広いので数日はかかりますよ」


「恐らくそれほどかからんし問題はない。それに、考えがあるから大丈夫だ」


「考え?」


「そうだ。ボルトが言ったように、山脈越えでやりたいことがある」


 俺は、オリハルコン鎧の追加装備に、魔力吸収のアタッチメントを追加したのだ。ブラッディガイアウッドの性質を組み込み、魔獣の魔石を壊せば携帯した魔石に補充される仕組みになっている。それらが正常に稼働するならば、部隊は魔獣と戦って動いた方が効率よく進めるという事になる。 


「わしも行くのじゃがのう……」


 するとマージが言う。


「ヴァイゼルの出番など無いわ。あんたは、皆に守られながら進みゃあいいだけじゃ」


「なんと! わしゃ何もせんでええと?」


「せいぜい、休む時の飯炊きだろうよ」


「こ、これでもわし、帝国の王宮魔導士なんですじゃ! 飯炊きとはもったいない使い方ですぞ!」


「まあ、そう言うなヴァイゼルよ。あたしだって一緒にやりたいんだが体が無いのじゃ。あたしの話し相手が、おらなんだら困るであろう?」


「ああ……そうでした。わしはプレディア様から魔法を教わるんじゃった」


「メルナと一緒に教えてやるさね」


「それは楽しみですじゃ!」


 それから山越えのルートを算出し、アイドナが最短ルートを表示した。俺はそれを地図上に示し、皆がそれを見て納得している。


「じゃあ行く人間だが、次の通りだ」


 コハク

 メルナ(マージ)

 ボルト

 フィラミウス

 ベントゥラ

 ガロロ

 レイ

 ビスト


 するとレイとビストが聞いて来る。


「本当に我々も行って大丈夫なのでしょうか?」


 そこでボルトが言う。


「騎士の旦那方は、その青い鎧の本当の性能を知らないんでさあ。行けば分かりますでしょう」


「わかった」


 そして俺が一言いう。


「俺達の戦い方を実戦で見て欲しいんだ。それを騎士団の戦い方に組み込んで欲しいと思っている。それには実際に戦う所を見てもらった方が早い。


「「は!」」


「旦那方も、きっとあまり出る幕は無いかと、ほとんどお館様がやってしまうでしょうから」


「それは……分かっている。強さは知っているつもりだ」


 そして俺は、残るヴェルティカや騎士のサムスとジロンに言う。


「留守は頼む。騎士団を預けるから、何かあったら鎧を着て戦え」


「は! 無事の帰還を祈ります!」

「都市の防衛はお任せください!」


 そうして話が終わると、突然アーンが手を上げる。


「あ、あの! 師匠!」


「なんだ?」


「ウチも連れて行って欲しいっぺ!」


「なんでだ?」


「リンデンブルグの神殿ダンジョンに行くのならば、ウチも見てみたいんだっぺ! おねがいだっぺ! しかも深層に行くんだっぺ? 尚の事お願いしたいっぺ!」


 必死だ。何故かその必死さに押され俺は頷く。


「いいだろう」


「やったっぺ!」


「ドワーフ兵から青い強化鎧を借りておけ。背格好の似ている奴のなら着れる。専用のを作ってやりたいが時間が足りない」


「わかったっぺ!」


 そうしてアーンも行く事になった。


 その日は皆に休養を取ってもらうようにし、美味いものをたらふく食ってもらう。そして次の日に、身支度を整えた全員が秘密研究所へと集まっていた。

 

「じゃあヴェルティカ。行って来る」


「お気をつけて」


「ああ。重機ゴーレムも自動操縦になっている。勝手に動くから問題ない」


「わかったわ。じゃあこれ、今日の分のお弁当」


「すまない」


 するとマージがヴェルティカに言う。


「英雄に嫁いじまったからねえ。しばらくは辛抱だよヴェル」


「わかっている、ばあや。私もパルダーシュの娘よ」


「良く言った! なら行って来るよ」


「はい」


 そうして俺達は、リンセコート領の山を登り始めるのだった。少し登っていると、ヴァイゼルが直ぐにヒーヒー言って来たので、俺がヴァイゼルを背負う事にする。


「すまんのじゃ」


「いや。こちらが決めた事につき合わせているのだから問題ない」


「本当に山をいく事になるとはのう。無茶ではないのだろうか?」


 ヴァイゼルの言葉にマージが言う。


「速いならこっち。それだけさね。それに敵に動きを悟られたくはないだろう?」


「まあ……そうですな」


「なら大人しくしてな」


「いろいろと驚かされますがな。正直なところ、あのような未知の敵が居なければ、本当の脅威はコハク卿という事になります。一夜にして攻め入られ、王の首すらもとってしまうじゃろうて」


 それを聞いて俺が言う。


「王の首になど興味は無い。俺は平和に暮らしたいだけだ」


「ふぉっふぉっふぉっ! つくづく面白い御方じゃ」


 リンセの山には全く危険はなく、時おりリンセの気配がするのみだった。俺達が更に登っていくと、久しぶりに珍しいものを見る。


 ヴァイゼルが喜んでいる。


「おお! エーテル・ドラコニアじゃ!」


「登ってよかったじゃろ?」


「は、はい! なんと眼福じゃろうて」


「うむうむ」


 二人の賢者の話を聞きながら、俺達もエーテル・ドラコニアを見ている。すると俺達の意識が届いたのか、エーテル・ドラコニアはどことなく飛び去って行ってしまった。


 それから半日ほどして、ドワーフのミスリル鉱山に到着する。ドワーフが俺達を出迎える。


「おお! お師匠様! アーン!」


「父ちゃん!」


「どうしたっぺ?」


「山越えするんだっぺ!」


「えっ! この山脈を越えて行くっぺか!」


「そうだっぺ!」


 ドワーフ達は目を丸くしている。そしてアーンの父親が言った。


「あの! ならば! 最近この奥で、でっかい魔獣を見た者がいるらしいのでな、気を付けて下され」


「なら、危険を排除する為にも行かなきゃな」


「ありがたいっぺ!」


 そして俺達はドワーフの里をすぎ、谷を下りまた山を登り始める。ヴァイゼルが感心したように言う。


「まるで……走るように上り下りしておるが、疲れが無いのじゃろうか?」


 そしてレイがそれに答える。


「異国の賢者様。私達もこのような事は初めてでございますが、驚くほど疲れを知りません。風来燕のボルトが言っていたことが、今ようやくわかってまいりました」


「凄い物じゃのう。それもコハク卿が作ったとか」


「そうだ」


「天地がひっくり返りそうじゃ」


「そうでもないよ」


《この世界の賢者にも理解は不可能のようです。マージはやはり別格なのでしょう》


 なるほどね。


 山道は険しいが、皆は苦にすることもなくスルスルと登った。岩場も何も気にする事無く進んでいると、先行して歩いているベントゥラが、こちらを振り向いて言う。


「コハク。どうやら、デカいけもの道がある。やっぱりデカいのがいるなあ」


「探してくれ」


「あいよ」


 そう言ってベントゥラが先行して行った。既にベントゥラもオリハルコン鎧の使い方を心得ていて、魔獣の気配を追うにもその力を行使している。そこで俺はアーンに尋ねた。


「アーンは鎧での行軍は初めてだが、どうだ? 無理なら言えよ」


「凄いっぺ! 本当に疲れないっぺ!」


 そしてアイドナが言う。


《一番心配いりません。より効率よく使っているのがアーンです》


 そうなのか?


《仕組みの理解が早く深い。流石は天工鍛冶師という職業でしょう》


 そうなんだな。


 しばらく歩いていると、ベントゥラからの合図がやって来た。


「見つけたらしい! 皆行くぞ! ヴァイゼルを守れ」


「「「おう!」」」

「「は!」」

「わかったっぺ!」


「すまんのう……」


「あんたは、切り札のメルナといりゃあいい」


「わかったですじゃ!」


 そして俺達は、ベントゥラの合図があった山岳地帯へと急行するのだった。

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