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第二百十五話 未知の敵の関与が確定

 腕の無い間者の死体を、ドワーフの里や屋敷に持って行くわけにいかず、兵団がいる屯所へと運んだ。レイたちがやってきて、俺達と死体を囲んで話をしている。


「やはり間者に見張られていたわけですか?」


「そうだ。それでコイツが、何処の誰かを調べたいと思っているところだ」


 俺が言うと、一緒に来たヴァイゼルが答えた。


「まあ、隠密が証拠などを残す事は無いでしょうがな」


 だがマージが言う。


「体に何か痕跡があるやもしれないさね」


「と、いいますと?」


「毒だよ。何の毒を飲んだのか、血を見たらわかる。あいにくあたしにゃ見えないけどね」


「毒ですか?」


「コハクが言うように、一瞬で死ぬ毒なんて珍しいだろう?」


「確かに」


「それを調べてみようじゃないかい」


「プレディア様。私は毒には詳しくありません。詳しい人間がいるのですか?」


「見れるだろ? コハク」


《あなたが毒の分析が出来る事が分かっているようです》

 

 なるほど。


 そして俺が短剣を出しサクリとそいつの首に刺すと、ドロリとした血が流れだしてくる。


《触れてください》


 俺は素手でその血に触れた。


《解析結果、分かりやすく言えば、シアン化系の血液剤に近い成分です》


 どういうものだ?


《化学物質です。この世界文明的には無いものと推測されます》


 例のバケモノたちの文明なら?


《充分、生成できると推測》


 そうか……。


 俺は皆の方を振り向いて言う。


「これは未知の毒だ。高水準の技術で作られたものだ」


「やっぱりね」


 それを聞いてヴァイゼルが言う。


「今ので分かるとは。やはり、未知の敵が絡んでおりましたか」


「そのようだねえ」


「間者がそのような毒を携帯しているとなれば、持たせた者はやはり敵対勢力という事になりますなあ。これで、普通の相手ではない事が分かった訳ですのう」


 更にレイたちが、そいつを裸にして服や装備を確認していく。


「ですが、携帯している物は、普通の間者が使っているような装備ですね。流石にこれでは分からない」


「なるほどですじゃ」


 ということは、自害する時の毒だけ提供したという事だ。


《敵は、上層部に溶け込んでいるのです》


「既に国家内に、入り込んでいると見て間違いない」


 するとレイたちがざわついた。


「もしかすると……ボルトンのような……」


「そういうことさね」


「なんと……」


 ようやく事の重大さに気が付いたらしい。そしてマージが言う。


「いいかい? とにかくここだけの話だ」


「「「「は!」」」」


「この町にも、どんどん新しい民が入り込んできているからね。充分注意しないといけない」


 皆が難しい顔をしている。それもそのはず、もしそういう者が入ってきたら見極める術が無いからだ。


「深刻ですね」


 レイの言葉にマージが返した。


「まあね。だが、このリンセコート領に関して言えば、それほど深刻にはならんのさね」


「なぜです?」


「そうだろう? コハク」


「ああ」


 マージの言うとおりだった。既にアイドナは、火の男、ガラバダ、グラド、ルクステリアと接触している。よって誤差ゼロパーセント、百パーセントの確率で見分ける事が出来るのだ。


 心拍数、呼吸、体温、発汗、脳波などの生体データや、特定のバイオマーカーを検出し、それが通常の人間には存在しない事が分かっている。筋肉の動きや神経活動によって発生する生体電気信号を詳細に解析、皮膚の質感、瞳孔の動き、声の微細な特徴など、物理的な特徴を詳細に分析し、通常の人間とは異なるパターンを検出しているのだ。それらを元にして、ステータスという分かりやすい数値で伝えて来る。


「コハクが見極められるらしいのさね」


 それにはヴァイゼルが喰いついて来た。


「どうやって見極めるのかのう?」


「普通の人間とは違うからだ」


「ははは。意味が分からん。でも執事のボルトンは見抜けなかったと?」


「獣人などがいるように、そう言う人種もいるのだと解釈していただけだ」


「ふむ。なんとも奇妙なものじゃ」


 そしてレイが話を戻した。


「ならば、流入してくる民は、必ず領主様にお目通り願った方が良いという事になりますね」


「そう言う事さね」


 それ以上の事を調べようがなくなった死体は、穴を掘って放り込みメルナが火をつけた。骨になったところで土をかぶせて、完全に痕跡を消してしまう。


 皆で屯所に入り、今度はリンデンブルグのダンジョン攻略についての話を進める事にした。


「では次のお題だ。この度はこうして、リンデンブルグの王宮魔導士に来てもらったわけだが、理由がある。これまで我が領の支援をしてくれていた、リンデンブルグ帝国を助けるためだ」


「「「「は!」」」」


「リンデンブルグでは既に、パルダーシュの二の舞になった都市がある。それも消滅という形でだ。そしてそれはリンデンブルグにある、ダンジョン都市が引き起こしている可能性が高い」


 皆が頷いている。ヴァイゼルが皆の前に、例の地図を広げてくれた。


「そこで我々は敵に動きを悟られぬように、ここに出向きダンジョンを攻略する事になる」


 皆が地図を睨んでいた。


「隣国へ出向くわけですか」


「そうだ。防衛部隊を残し、遠征する部隊を組む必要がある」


「わかりました」


 そうして俺達は、状況を鑑みての遠征部隊を組む事になる。


「まずは、風来燕も集めよう。ヴェルティカとも話をしたい、皆でドワーフの里に行こう」


「「「「は!」」」」


 そうして俺達と騎士は、ドワーフの里に向かった。そしてビストが風来燕を呼びに言ってくれる。ドワーフの里に俺達が入っていくと、ヴェルティカが急いで出て来てくれた。後ろからアーンもついて来る。


「やっぱり帰っていらっしゃったんですね」

「おつかれさまだっぺ!」


「先に兵舎に寄ってきた」


「いいのです。そのような必要があったのでしょうから」


「ちょっと秘密の話をしたい」


「では!」


 そうしてヴェルティカは俺の手を引き、工場の会議室へと入って行った。するとそこには、前とは違い人間達がウロウロしていた。俺がヴェルティカに聞く。


「この人達は?」


「字を書く事が出来るようになった事務官よ」


「事務官?」


「もう私一人じゃ無理だから」


「なるほど」


 そして人のいない部屋に入り、ドアを閉めた。


「人払いを」


 するとアーンが言う。


「師匠! この部屋は完全に遮音なってるっぺ! そうやって作ったっぺ!」


「凄いな……」


 するとドアがノックされて、事務官が顔を出す。


「風来燕の皆様がいらっしゃいました」


「通して」


 俺はヴェルティカに言う。


「あれも、元難民なのか?」


「教育したのよ」


《やはりヴェルティカは能力が高いようです。伴侶に選んで間違いありませんでした》


 なるほど。


 そしてボルト達がひょっこりと顔を出した。


「おっ! 帰ったか!」


「ああ。早速で悪いが、話し合いだ」


「よっしゃ」


 これで俺の領の主要人物が集まった。ヴァイゼルも加え、ダンジョン都市の攻略について話し始めるのだった。

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