表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/307

第二百十四話 帰り道に死体を拾う

 リンデンブルグ、ウィルリッヒ王子からの忠告により、俺達は既に戦争に突入している事が分かった。こちらが先制して準備を進めているのではなく、既に敵側はこちらのあちこちに侵入しているというのである。


 もちろんアイドナの予測演算では、その確率が九十九パーセントと出ていたし、俺もボルトンの一件がパルダーシュだけの訳はないと思っていた。ようするに我々は後手にまわっている状態で、いつその引き金を引くかは、相手の手にゆだねられているという状態だ。


 シュトローマン領を抜けて、リンセコート領に入った時にマージが言う。


「敵に見張られているようじゃ、こちらの対応はだいぶ遅いさね」


 念のため、人質として一緒について来たヴァイゼルが頷いた。


「まさか、我々もそのような状態だとは気づかなかったのですじゃ」


 出て行った時は一頭だった馬が二頭になり、俺とメルナはあえて鎧の面を下ろしている。

馬上で話をしている時、ヴァイゼルがピクリとした。


「またれよ」


 俺達は馬を停めた。するとヴァイゼルが杖を掲げて何かを唱える。


「噂をすればなんとやら。ひいふうみい。北の森に三人ほどおりますなあ」


「感知魔法かい。相変わらずそう言うのは得意なんだねえ」


「王宮魔術師ですからな。軍事的な能力を求められますわい」


「して、見張りはどんな状態かね?」


「木こりや猟師の類では無いですなあ。あと、冒険者ならば三人で木の上に登ったりはしますまい?」


「なるほどねえ。領地の境ごとに見張りを置いてるわけだね」


「そうなのです。国境にもおりました」


「王子は大丈夫かい?」


「フロストが付いております」


「まあ、そうだね」


 そしてアイドナが俺に通知して来た。


《見張りがいるのなら、この二頭の馬に意識を引きつけさせましょう。二人を殺害、一人を生け捕りにする事が最善です》


 そして俺が、ヴァイゼルに聞く。


「敵に気づかれているのか?」


「ふぉっふぉっ。わしの気配感知は優秀でなあ、敵はこちらには気づいておらん」


「二頭の馬で見張りを引き付けてもらいたい」


 ヴァイゼルが目を丸くして言う。


「森で一人戦うのかね? 恐らく敵は隠密。隠形に長けた者じゃぞ?」


「問題ない。意識をひきつけさせてくれるだけでいい」


 するとマージがヴァイゼルに言う。


「任せていいさね。コハクなら大丈夫」


「わかりもした」


 そして俺は直ぐに馬を降り、二頭の馬は街道を進んで行った。


《森に潜伏します》


 どうする?


《気配、体温、心拍をオリハルコン強化鎧で遮断し、遮音ステルスモードにします》


 よし。


 アイドナに魔力コントロールを任せ、ヴァイゼルが言っていた方向へと進んで行く。


《三体の人間を確認。サーモグラフィ表示に切り替えます》


 赤と黄色の表示で、三体の人間が木の上に浮かび上がる。


《演算処理で破壊優先を決定。ガイドマーカーを表示、身体強化モードに入ります》


 バンと体の中で筋肉が膨れ、更にオリハルコン鎧の重さを全く感じなくなった。


《敵より認識不可能な侵入経路を表示》


 その時、サーモグラフィで映っている三人の人間が、木の上を東に向かって移動し始めた。


《マージ達を見つけたようです》


 引き付けてくれているようだな。


《行動開始》


 アイドナが示すラインに沿って、高速で移動し、最後尾にいる人間の数メートル後ろを走る。


《レーザー剣を》


 腕のケースからレーザー剣が出て来て、俺はそれを握りしめた。


《跳躍》


 ボッ! 一気に最後尾の奴の後ろに現れて、瞬時にレーザー剣を出して首を斬り落とす。全く手ごたえも無く首と胴体が離れ、そのまま俺はその木を蹴って、前方の木に飛び移った奴のそばに出た。ヴァイゼルの言うように、手練れらしいが俺の方が一歩早い。


 シュン。

 

 そいつの体は、真ん中で半分になって落ちていく。最前列を走っている奴が、ようやく異変に気が付いて追うのをやめ横に逸れた。だが俺は腕を前に差し出して、ギミックのクナイを打ち込んだ。


 バシュン!


 そいつは避ける事も出来ずに、クナイを胴体に食らって落ちていった。そのままその脇に飛び降りて、レーザー剣を喉元に突き付ける。そいつが反撃しようと、懐に腕を突っ込んだので腕を斬り落とした。


「ぐう」


「観念しろ。もう仲間二人は死んだ」


「くっ!」


《服毒しました》


 なに?


 そいつは一瞬の後に、絶命してしまった。


 毒か。


《そのような任務なのでしょう》


 どうするか?


《この死体を持って行きましょう。後の二人は埋めてください》


 わかった。


 俺はジェット斧を取り出して穴を掘り、そこにバラバラ死体を全部放り込んで埋めた。お面を外して、口笛を吹く。


 ピィ!


「さて」


 死体を引きづって森を出ると、マージ達が近寄って来た。ヴァイゼルが驚愕の表情で言う。


「三人いたと思うたが、もう仕留めたのですかな?」


「残念ながら生け捕りには出来なかった。腕を斬り落とした、一体の死体を持って来た」


「ははは、剣聖フロストの言う意味が、今日初めて分かりましたわい」


 マージが言う。


「どうだい? 驚いただろう? これが救世主の力さね」


「御見それしました。コハク殿が本気なら、たしかに我々は皆殺しになるのでしょうなあ」


 そこで俺は言う。


「むやみに殺す事は無い」


「肝に銘じますのじゃ」


 そうして俺は、メルナに言う。


「ヴァイゼルの馬に乗れ。俺が死体を乗せて運ぶ」


「うん」


「さあ。お嬢ちゃんこっちへ」


 そう言ってメルナがヴァイゼルの前に座り、俺達は死体を持って自分達の領地に戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ