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第二百九話 迫りくる脅威と対立する貴族

 四人の将軍は理解していた。オブティマスだけは表情が変わらないのでよくわからないが、緊急性の高い状況だという事は分かっているらしい。俺が説明するまでも無く、四大将軍の意見は一致していて、国家を挙げて防衛体制をとる事を推奨している。


 王都が壊滅寸前に追い込まれた事で、騎士団の構成と鍛え方もだいぶ変わったらしい。


 トレランがオーバースに言う。


「オーバースが北でコハクを見つけてくれた事は、僥倖と言わざるを得ない。そのおかげで我が国は、崩壊せずにいられるのだからな」


 だがオーバースは首を振る。


「私ではありません。これはパルダーシュの大賢者のおかげ。そしてコハクを見つけてくれた、パルダーシュのヴェルティカ嬢の功績が大きい。それでもまだ危機は去っていないですがね」


 それにクルエルが言う。


「そのコハクの伴侶として、添い遂げる事を決意しているからな。ヴェルティカ嬢の懐の大きさに、私も尊敬の念を感じている」


 そこで、ようやく黙っていたオブティマスが口を開いた。


「我は、魔導鎧には否定的な立場であった。だが、あれはまさしく神器」


 それを聞いてトレランが話を戻す。


「まだ数量が足りず、我々将軍と隊長格のみが支給されている。あれの製造はどうなっておるのか?」


 《普通に説明してください》


 俺が答えた。


「あとは鉄の供給量の問題です。ドワーフの製造能力は、人のそれとは全く違うのです。鉄さえあれば、各地の領兵にも少しずつではありますが行き渡る事でしょう。しかしながら、恐らく未知の敵はそれを待ってはくれません。想定では数ヵ月以内にも侵攻があると考えます」


 王が渋い顔で言う。


「数ヵ月か……」


「はい。正直申し上げますと、本日のうちに全貴族に納得してもらわねばならないほどに」


 王だけではなく、プルシオス王子も将軍達も黙ってしまった。深刻な顔をして腕組みをする。


 そしてトレランが言う。


「おまえの言う通りなのだろう。だが、政治とはそれほど簡単ではないのだ。陛下は直ぐにでも納得させたいと思っているのだがな、この国の貴族は複雑なのだ」


《しかしそれは待てないと》


「待ってはいられないと思います」


 そこで王が言う。


「どう考える?」


《トークスクリプトを展開します》


「直ちに防衛の為に、国内の民を大移動させる必要があるかと思います。我がリンセコート領と、パルダーシュ領、そして王都を結んだ三角形の中に全ての民を移動させる。そして来る日に向けての防衛体制を整え、戦力が分散しないようにするべきかと思われます」


 俺の言葉に誰もが黙る。しばらく沈黙が続いた後で、プルシオス王子が口を開いた。


「コハク卿。言いたい事は良く分かる、それが最善策なのかもしれない。だけどそれでは、かなりの貴族が領地を捨てねばならなくなる。それは現実的ではなく、下手をすれば反乱が起きかねない」


「反乱などしている間に、滅びてしまう」


「だけどさ。絶対に未知の軍勢が攻めて来るという証拠がないんじゃあ、貴族達に納得させることは出来ないんだ」


《強い口調で言いましょう》


「フォマルハウト領のヌベの村消滅、パルダーシュ辺境領の壊滅、王都の魔獣襲撃。そして自分がリバンレイで見た物凄い戦闘力を持った二人。王覧武闘会での、剣聖ドルベンスの異形への変身。ゴルドス国のおかしな侵攻。これらが数ヵ月の間に起きている。ここから先、何も起きないと考える方が無理がある。確率として間違いなく、次の厄災は近々起きるはずだ」


 ドン! とテーブルを叩く。もちろんアイドナの演出である。


 するとトレランが諫めた。


「不敬であるぞ。コハク」


「申し訳ありません」


 それを見ていたオーバースが言う。


「トレラン様。私は、コハクの言う事はもっともであると思いますがね」


「わかっておる。それは四人も一致しているではないか」


 オーバースは王に言った。


「陛下。私も不敬を承知の上で物を言います。国民の多くを生かすならば、コハクの言った事を実践するしかありません。ですが、もし貴族を説得できないとおっしゃるのであれば…」


 そこでオーバースもさすがに口をつぐむ。


 王がオーバースに尋ねた。


「よい。言うてみよ」


「残念ながら、理解の無い領地を斬り捨てるほか手段は無いかと。むしろ自然とそうなってしまうと想定されます」


 他の三人の将軍も異論は無いようだった。誰も何も言わない。


「そうか……そうであろうな。それでも、出来るだけ民を救う方法は無いか?」


 そして俺が言う。


「隣国との話し合いはどうでしょうか?」


「このような事を信じる国があるだろうか」


「あると思います」


「何か心当たりがあるのか?」


《ぼかして言うようにします》


「王覧武闘会のおり噂を聞きました。この国で起きたような事が、起きている国があるとかないとか」


「本当か!?」


「出場者の与太話ですが」


「誰が言っていたか分かるか?」


「残念ながら、沢山出場者がいましたので覚えていません」


「そうじゃな。そうであろうな」


 そうして話が途切れる。


 そこでトレランが言った。


「いずれにせよ、説明をしてみるほかありますまい。コハクの言ったような事が実現できなくとも、各領地での軍備の増強に対して、支援を行うなどの策があります」


 だがプルシオスが言う。


「それも、きちんと軍備増強に金を使ってくれると良いんですけどね」


「ですが……もはや信じるしか」


 それからも話し合いは難航し、答えの出ぬままに時間が過ぎる。最後に俺が言った。


「念のため申しておきますが、その日は明日かもしれぬという事を、心に留め置いてください」


「うむ」


 話し合いが終わり、結論の出ぬままに王は貴族達に何かを話すようだった。前段階の会議は終わり、俺達は部屋を出て貴族達が待つ部屋に行く。


 俺が遅れて謁見の間に行くと、フィリウスが隣の席をとっていてくれた。俺はフィリウスとシュトローマンの間に座る。


「何があった?」


「ここでは話せない」


「わかった」


 四大将軍も壇上近くに立ち、王と王子が入って来たので貴族達は一斉に立ち上がった。


 王が言う。


「此度は良く集まってくれた! 全招集など、隣国との戦争以来かもしれぬ。その時はまだ、爵位を継いでおらず知らぬ者もいるだろう。だが全招集というものは、一大事なのだと知ってほしい」


 シン……。静まり返った。


 そして王は続ける。


「国中の全ての者が力を合わせねば、解決できぬほどの未曽有の事態が起きるかもしれん。軍備を強化し、来るべきその日に備えねばならないのだ。今回の事は痛みを伴うかもしれん! そこで冷静になって聞いて欲しい」


 だがそこで、西の辺境伯であるラングバイが挙手をして遮った。


「待ってください陛下! いったい我々はどこの国と戦争をすると言うのですか!?」


 そうだそうだと、他の貴族達もざわつき始める。


 俺の隣りでは、シュトローマンが俺に耳打ちする。


「どういうことですか?」


「聞いていればいいかと」


「そ、そうですね」


 カンカン! 


「静粛に!」


 トレランが大声で言う。それで一旦騒ぎは収まった。


 王が続けた。


「敵は! 正体不明の国家である。既にヌベの村、パルダーシュ、そして王都までがその攻撃にさらされたのである。ヌベの村やパルダーシュに至っては、消滅または壊滅寸前まで追い込まれたのだ。この王都までの侵攻を易々としてくる、恐ろしい敵なのである!」


「しょ、正体不明の敵に備えるのですか?」


 ラングバイが言うと、それこそ謁見の間が雑然とし始めた。貴族達も納得がいかないのか、その証明をしてくれだとかなんとか言っている。


 だが王は曲げなかった。


「実のところ、軍備の増強が間に合わない可能性も出ておる。現在はドワーフたちの献身により、新しい鎧の供給が始まったところであるが、全土に行き渡るには数年の期間が必要となるであろう。その前に、未知の敵が襲来して来る可能性が高いのである!」


 今度は別の貴族が言った。偉そうな髭を生やした奴だった。


「王よ。いったいどうされたのです? あの時の魔獣襲撃は収まったではありませぬか。あのような事が、そうそう起こるわけがありますまい? 考え過ぎなのですよ」


 王は苦い顔で言う。


「ハイデン公爵……」


 公爵の言葉に、そうだそうだと賛同する者が増えて来た。フィリウスが俺に言う。


「王位継承の可能性のある、王族の次に偉い貴族だよ。公爵派の貴族も多いんだ」


「そいつは厄介だ」


「ああ」


 それから一気に、場は混沌としていくのだった。

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