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第二百七話 領地の急速発展と懸念材料

 新機能を取り付けたオリハルコン鎧を、騎士と見習いに配り、俺がデモンストレーションを行った。それを見た全員が一番驚いたのは、飛び道具だった。


 まずは風来燕のボルトが言う。


「クナイも飛ばせるし、その筒はいったいなんだ?」


「もちろん、主装備は剣になるだろうが、戦端を切り開いたり、いざという時にこれを使って突破できるはずだ」


「めちゃくちゃ、おっかねえ武器だな」


「敵が持っていた斧や剣と比べれば、まだまだ性能は低い」


「これは、いろいろな使い道があるだろ」


「流石は冒険者だな。使い道が分かるか」


「もちろんだ」


 青い鎧を着た見習い騎士達も、物珍しそうに見ていた。そして騎士団長のレイがいう。


「なるほどです。これらも使いこなせと言う事ですな?」


「この前与えた、高周波ソードや爆裂斧と同じで、戦闘で使えるようにしてほしい」


「善処いたします」


 全員分の高周波ソードと爆裂斧、杭を撃ちだす単筒、クナイを飛ばす鎧を配り終える。


《装備としてはまだまだですが、集団であれば正体不明のあの敵に対応出来ます》


 使いこなせるか否かがカギだな。


《そうなります。とにかく強化鎧の動きに慣れ、武器を使いこなせるようにさせてください》


 それを踏まえての訓練だな。


《そうなります》


「あとはよろしく頼む」


「は!」


 俺とメルナは訓練場を後にして、ドワーフの里に向かった。この新しいギミックや武器を、アーンに見てもらい改良を頼むためだ。


 青い鎧を着てアーンの所に行くと、アーンが大急ぎで飛び出してくる。


「師匠! なんだっぺ!」


「見て欲しいものがある」


「わかったっぺ!」


「実は兵団に新しい武器や装備を配ったんだが、装備を更に改良できないか頼みたい」


「おお! そうだっぺか! すぐにみたいっぺ!」


 そうして俺が武器や、鎧のデモンストレーションをしていると、いつの間にかドワーフたちが集まっていた。目をキラキラさせて、俺のデモンストレーションを見ている。


「「「「「「うわああああああ!」」」」」」


 ドワーフたちがめちゃくちゃ驚いている。


「すごいっぺ!」

「こんなものをよく考えたっぺ」

「あー、これはいろいろ、うずくっぺなぁ」


 俺はすぐに単筒や、予備のオリハルコンスーツをメルナの工房へと運び込む。既にドワーフたちは、あーだこーだとその機能や改良について話をしている。


「じゃあ、アーン。よろしく頼む」


「分かったっぺ!」


 その足で最後に、ヴェルティカの元へ行く。


「あら。旦那様。お披露目は終わったの?」


「終わった。後は皆に任せてやってもらうしかない」


「そうなのね! じゃあ丁度良かったわ! 新しい住人が来たのでこれから向かうところよ」


「わかった。一緒に行こう」


 ヴェルティカと共にドワーフの里を出て第一工場地帯を抜け、奥の住民が住む場所まで来た。するとボロボロの服を着た人達が、先住民が作ったご飯を食べているところだった。


 難民は俺達が来たところで慌てて立ち上がるが、ヴェルティカがそれを制した。


「あー座ったままでいいわ。リンセコートの領主である、コハク・リンセコート男爵よ。私の旦那様」


「「「「はっ! はは!」」」」


 めちゃくちゃ畏まっている。


「男爵と、お話をするなんてないわよね。でも旦那様はそこら辺の貴族とは違うから安心して! 仕事をする人にはちゃんと賃金も払うし、住むところも提供するから」


「あ、ありがてえ」


 そしてヴェルティカが俺に目配せをする。何かを言えと言う事なのだろう。


「俺が男爵のコハク・リンセコートだ。だがそんなに畏まる事はない、俺も皆も同じ人間だ。ここでは上も下も無い、だから皆は安心して仕事をしてくれ。真面目にやっていれば、仕事を奪われる事も無いし、不当に何かを徴収する事も無い。これからよろしく頼む」


「「「「へい!」」」」


 今までの住人と同じで、とにかく仕事と住むところを求めて来たらしい。ここではただ住居や食事を提供するだけではなく、少なからず賃金も支払う場所だ。恐らくは今までの環境とは全く違うだろう。


 そこで俺は聞いた。


「それで、どうしてここに来た?」


「噂でさぁ。噂を聞きつけて、ここなら人として扱ってくれると聞いたもんで」


「もちろんだ。同じ人間同士よろしく頼む」


 すると難民の女が言う。


「ほ、ほんとうけ? いきなり売り飛ばされたりしないのけ?」


「売ったりなどしない。そもそも、君らは俺の所有物ではない」


「領主様のところの住民なのにか?」


「ここでは、その対価に仕事をしてもらう事になっている。もちろん賃金も支払う」


 やはり難民たちは、これまで普通の市民として扱われていなかったようだ。


「じゃあ、旦那様。行きましょうか」


「みんな、よろしく頼むぞ」


「「「「へい!」」」」


 そして俺はその場所を後にする。そしてヴェルティカが言う。


「コハク。凄く面白いところがあるのよ」


「なんだ?」


「こっちこっち」


 そうして俺は、新たに出来た都市の一角に連れていかれる。するとそこには、大層立派な二階建ての建物が出来上がっていた。リンセコート家の迎賓館よりも大きく見えるし、普通の住宅と違って立派な装飾がなされていた。しかもその隣と隣りに、作りかけの似たような建物が建設中だった。ドワーフと人間達が、せっせと動き回っている。


「これはいったい?」


「入って」


 俺が中に入ると、そこには食堂があった。そして俺がヴェルティカに聞く。


「食堂?」


「この建物はホテルなのよ。商人や近隣貴族が泊まったりできるの」


 奥に連れていかれると、ホテルのカウンターが用意されていた。


「お、奥様!」


「ああ。いいのよ! 旦那様と見に来ただけ」


「へ、へい!」


 難民がカウンターを任されているらしい。


「彼女は文字の読み書きができるのか?」


「ううん。だけどお金の数えが出来るの」


「おお。そういう者もいるのか?」


「凄いでしょ?」


「そうだな。その金はどうするんだ?」


「難民たちの暮らしに賄われる事になっているわ。もちろんホテルの維持や料理にも使われるわ」


「凄いな……こんなに発展していたなんて」


「アーンに頼んで作ってもらったのよ」


 流石は辺境伯の娘といったところだろう。ここも知らないうちに、かなり発展しているようだった。


 ヴェルティカが続けて言う。


「この近隣に店を出したいという人もいるけど、今のところは全て断ってるの。でもね勝手に集まって来ちゃってるのよ」


 ホテルを出て難民の住む街を出ると、門の外側に小屋と屋台が一体になったようなのがいっぱい建っていた。


「なんだ?」


「ここに来る貴族や近隣領地の市民、商人を相手にした、物売りが住み着いちゃったの」


「勝手にか」


「うん」


 どうしたものか?


《こちらに責任はないものの、勝手にやってもらう分には問題ないです》


「まあ勝手にやってもらおう」


「ふふふ。そうね、なんか毎日少しずつ増えてるのよ。うちで働いている人たちも、安いからという理由で利用している人もいるみたい」


「利用してやればいい。こちらとしても助かる」


「そうよね」


《どうやら街が勝手に増殖し始めたようです。さらに発展する事でしょう》


 そうか。


《治安の為に騎士に巡回をさせてください》


 わかった。


 そうして俺はヴェルティカと工場に戻り、直ぐに騎士団に警護をするように言いに行く。レイが快く承認し、今日から各隊長の誰かと一緒に鎧を着て巡回するそうだ。


 研究所に向かい歩いていると、マージが俺に言う。


「随分発展してきちまったようだね」


「勝手に成長しているらしい」


「街は生き物だからねえ。後は放っておいても大きくなっていくさね」


「そういうものか」


「そうだよ。ただ国内の貴族には面白くないと思う者もいるだろうねえ。それとぶつかった時にどうするかは考えておいた方がいいさね」


「わかった」


《ではシミュレーションをしておきましょう》


 いつ来るか分からない未知の敵の対応の為に、俺は国内の無知な貴族を退けなければならないようだ。今のところは何処からも横やりは入れていないが、王子にはいろいろと話したためにいずれは話が聞こえていくだろう。そしてそれは、思いの外早い段階でやって来るのだった。

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