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第二百六話 オリハルコン装備のバージョンアップ

 貴族同士の取引で、素材での支払方法を加えたのは正解だった。貴族は自分の資産をなるべく切り崩したくないようで、物資で支払う事を好んだからだ。本来の取引では金貨や銀貨での支払が好まれるが、俺のリンセコート領では素材支払の方がありがたい。


 何故ならば貨幣は、リンデンブルグ帝国から潤沢に入って来るからである。賃金などの運転資金は、それだけで十分に賄えているのだ。素材を買い集める手間が省けるだけでなく、流通経路を経て買うよりも安く手に入れる事が出来る。


 マージが笑う。


「コハクが領主様ってのは、とても都合がいいさね」


「どうしてだ?」


「パルダーシュの元の領主、ヴェルティカの父親は頭が堅い昔気質の貴族でねえ、こんなことは到底許されなかっただろうさ」


「物資での取引の方が効率がいいのにか?」


「いや。まあ、辺境拍みたいな大きな貴族は統治に金がかかるんだよ。賃金も高いし、物価も高い。だから素材での支払なんてやっていたら、統治できなくなっちまうんだ。だけど、ここはなーんもない土地だろう? おまけにドワーフときたら、賃金よりも酒と物づくりの環境を優先させる。だから金もかからないし、難民だって安い賃金でも全く文句を言わないさね」


「非常にいい環境が整ったという訳だな」


「他の貴族とは目的が違うからねえ。未知の敵を迎え撃つための準備に明け暮れるなんて、普通の貴族はしないさ。ある程度は私腹を肥やすために、右往左往するもんだ。パルダーシュと関係のあるリンセコートに群がる貴族は、どちらかというと自分達の贅沢の為だよ」


「無意味なものに対して動くんだな?」


「そう言う事さね」


「贅沢をしてどうする?」


「コハクにゃあ分らないだろうねえ…」


「物資でもらうのが非常に効率がいい。だからそうしているだけだ」


「そうだね各地方の物資が集まった事によって、いろんな珍しいものが集まって来たし」


 今も研究所のテーブルに物資が並んでいる。硝石と硫黄や木炭、油や可燃物になりそうなものを集めていた。メルナも楽しみだと言わんばかりに、俺の後ろをついて回った。


「で、コハクや、これで何を作るんだい?」


「火薬だ」


「火薬?」


「そうだ。非常に面白い使い方が出来る」


「どんなだね?」


「まずはやってみる」


 アイドナ。火薬を調合してみてくれ。


《はい》


 そうしてアイドナは最初に魔法陣を羊皮紙に書いて、次に素材をその上に集め始めた。


「メルナ魔力を注いで」


「うん」


 メルナの魔力で魔法陣が光り輝き、スクロールが消えるとテーブルの上に黒い粉が残る。


《完成です》


「できた」


 見えないマージが聞いて来る。


「どんなものだい?」


 メルナが答えた。


「黒い粉? 土?」


「ほうほう」


 そして俺はそれを少し取り分け、床に置いてあった金たらいに入れた。


「そして、この火打石だ」


 メルナが興味津々に見ている。


 カッカッ!


 俺が火打石をこすると、火薬に引火して火をあげた。


 シュバ!


「わあ!」


「どうしたんだい?」


「火打石で火をつけただけで、凄く大きな火が出たよ」


「なんだって……コハクは、そんな凄いものを作っちまったのかい?」


《マージには、これがどういう効果をもたらすか理解できているようです》


 流石は大賢者か。


《はい。この世界のノントリートメントでは最高峰の頭脳なのでしょう》


 だな。


「これを使えるようにしていく」


「物資の支払いにして本当に良かったねえ」


《想定済みです》


 そうか。


 そうして俺達は火薬を手に入れた。しばらくは、素材全部をすべて火薬に変換していく。


「で、具体的にはどうするんだい?」


「装備と武器を強化してくのに使う。もっと使える用途はあるが、現段階の素材だとそれが有効的だ」


「わかったさね」


 俺達は秘密研究所に籠り、鎧と武器に対しての改良を施して行く。何度も試行錯誤を繰り返して、俺のオリハルコン鎧とオリハルコン武器に新しい機能が組み込まれていく。


 ようやく、試作段階の装備が出来たのは一日後だった。これもアイドナが言うには、魔法陣のおかげであり、普通の工業製品なら数ヵ月はあたりまえにかかるそうだ。


「できた」


「そうかね。なら試運転してみるとしようじゃないか」


 俺は火薬を使って改良されたオリハルコンの装備を付け、森林地帯へと向かう。安全の為メルナもオリハルコン鎧をつけており、俺達は岩場まで登って来た。


「メルナは。離れていろ」


「うん」


 俺はまず、装備をかまえない状態で立つ。


 全く魔力を放出しない状態で、腕を真っすぐに伸ばし数メートル前方の岩に狙いを定めた。


 カシッ!


 腕の下にあるレバーを引く。


 バシュバシュバシュ!


 腕の先から、細かいクナイが飛び岩に食い込んだ。


「よし」


 メルナもびっくりしている。


「マージ! クナイが飛び出して岩に食い込んだよ!」


「おおなるほど! 次を見せておくれ」


「ああ」


 俺が岩に近づいて、ギリギリのところで構えてパンチをした。


 バン!


 パンチがヒットした瞬間に、火薬が破裂し腕の先が少し飛び出る。それで岩が砕け、腕は反動で元に戻った。


「できた」


「魔力を使ってないんだよね?」


「もちろん使ってない。そうでなければうちの騎士団では使えない」


「凄ーい」


「だが、次に試す最後の仕掛けが問題だ」


「うん」


 俺はまた真っすぐに構え、横っ腹の魔石が入ってる逆側の腰のレバーを引く。


 ドン!


 鎧の背中の真ん中あたりから火を吐いて、鎧ごと体が三メートルほど浮かび上がった。そのまま少し離れた所に着地する。


 メルナが言った。


「煙出てる」


「火薬量が多いからな」


「だけど飛んだね?」


「緊急脱出用に作ったが、飛ぶ方向を考えないとイカンな。真上に飛べば元に戻る」


「確かにそうだね」


 そこでマージが言う。


「鎧の破損は?」


 俺がアイドナに聞く。


 鎧は壊れてないか?


《破損も摩耗もありません。オリハルコンという素材はかなり優秀です》


「壊れてない」


「凄いじゃないかい!」


 そして俺は新しく作った武器をかまえる。高周波ソードや爆裂斧とは違う、第三の武器である。それは単筒の形をしていて、一カ所に二つのボタンをつけている。そのうちの一つをずらしこみ、俺はその単筒を岩に向かって構える。


 カチッ! ボシュッ!


 単筒から尖ったミスリルの棒が飛び出し、岩に深々と突き刺さる。


「有効だ」


「鉄の棒が岩に刺さったよ!」


「凄いさね! まあ、うちの騎士団が使いこなせるかどうかだねえ」


「パルダーシュから来た騎士も、初めて見るものだからな」


「彼らの驚きっぷりが楽しみだねえ」


 そして俺達は、更なるオリハルコン装備の試験を終えた。これからもっとテコ入れして行けるだろうが、あまり複雑にしても騎士達が使いこなせないのでは意味がない。


「では、騎士団のところに行って、順次、鎧を受け取って改修作業をして行こう。その前にこの装備を彼らに見せておく必要がある」


「では行こうかね」


 俺達は試験を終えて、山を下りていくのだった。

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