第二百五話 青の騎士団
リンセコート騎士団。彼らと共に戦闘訓練をしつつ、俺は彼らの休んでいる間に、オリハルコンの強化鎧を完成させる。
そして人数分のオリハルコン鎧を、数台の荷馬車に積み込み、兵舎までやって来た。
「レイ。専用鎧を持って来た」
「専用鎧でございますか?」
荷馬車の幌を取り去り、積んである鎧を見せると感嘆の声が上がる。
「これは……すばらしい」
「見たことがありません」
「美しい青ですね」
「これを人数分?」
隊長の四人、レイ、ビスト、サムス、ジロンが驚いている。
「みんな! 鎧の着方を教えるから、荷馬車から鎧を持って行ってくれ」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
荷馬車には風来燕が居て、一人一人に専用の鎧を渡して行く。
「この鎧は、その人の寸法に合わせている。かなり体に密着するから、他の人の物は着れないと思ってくれていい」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
そして風来燕の連中が皆の方に行き、着る手伝いをした。俺が前に立って、自分の鎧を持ち皆に手本を見せる。
「まずは胴体を取り付ける!」
そうして俺が取り付けると、皆が見よう見まねで装備を付けていった。分からない所は風来燕に手伝ってもらいながら、それぞれが鎧を身に着ける。胴体、足、腕、兜をかぶり締めた。
俺が皆に聞いた。
「どうだ?」
するとレイが答える。
「これは非常に軽い! これで防御力はあるのですか?」
俺はビストに向かって言った。
「ビスト! 真剣でレイを斬れ!」
「し、しかし」
「いい! 思いっきりやれ!」
そしてビストが鉄の剣を持ち、思い切りレイに剣を叩きつける。
ガギン!
「グッ!」
剣を落としたのはビストだった。
「どうだ?」
レイが答える。
「打撃の振動もあまりなく、全くの無事です」
「ビスト。剣を見てくれ」
「欠けてます」
「凄い……」
そして俺は次に、騎士達の腹の横についているレバーを引くように言う。
ガゴン! ガゴン! ガゴン!
皆がレバーを入れる。そしてまたレイが言う。
「重さが……無くなった?」
そして俺が剣を持ち、レイに言う。
「俺に斬りかかってこい」
「わかりました」
お互い見合った次の瞬間、レイがその場から俺の目の前に現れる。既に予測演算していたので問題は無いが、普通の人間ならば斬られていただろう。
「縮地?」
「お前達が着ていた旧式の強化鎧は、自らの魔力を使うが、これは魔石が動力源となっている。素材の影響で、かなり増幅されるので、自分の力が数倍になると思ってくれていい」
「す……凄い」
「なので、見習い騎士達は、通常の人間の騎士よりもはるかに強くなる計算だ」
「なるほど」
「訓練は常にこれを着て慣れて欲しいと思っている。代えの魔石は荷馬車に詰みこんである」
「慣れですか?」
「その速度と力に慣れて欲しいんだ。おそらく、いきなりだと振り回される事になる」
「わかりました!」
そして俺は一本の魔導斧と、四本の高周波ソードを取り出した。
「そしてこれはまだ見習い達には渡せないが、レイ、ビスト来てくれ」
二人に高周波ソードを渡す。
「これは鉄でも龍の鱗でもバターのように斬れる。誤って、味方や自分を斬ってしまうかもしれん。だから、これに慣れるような戦闘訓練をしてほしい」
「バターのように?」
そして俺は、鉄の鎧を案山子にしたものを置いた。
「手元のレバーをずらして、これを斬れ」
「は!」
レイが高周波ソードを構え、手元を見てレバーをスライドさせる。
「やれ」
シュパン! 鉄の鎧はほとんど音をたてずに、真っ二つに切り裂かれた。
「はっ?」
「どうだ?」
「斬った感覚がない……」
「非常に危険な武器だ。これを素人に振らせるわけにはいかない」
「確かに」
「そしてこれだ」
俺が魔導斧を持ち上げる。
それを軽く前に振って、地面に落としてみる。
バグン!
「うお!」
地面が割れて大きくえぐれる。
「こう言う武器だ。振った方向に合わせて、爆裂魔法が発動し勢いがつく」
「もっと危険ですね」
「そうだ。一度振れば修正が効かない。だから力のあるドワーフに持ってもらう」
「わかりました」
そして俺がボルトに言う。
「見習い、全員の魔石のレバーを引くようにしてくれ」
皆がレバーを引く。
「な、なんだっぺ! 物凄く軽くなったっぺ!」
「本当だ。鎧など初めて着たが、これは着てないようなものだ」
「その状態で鉄の剣や斧を持ってみろ!」
皆が持つ。
「軽い!」
「なんだこりゃ!」
驚いていた。だがこれに慣れてもらわなければならない。
《これを着た訓練に、早急に切り替えてもらいましょう》
「今日から、これを着続ける訓練を行う!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
並ぶ青い鎧を着た騎士団を見て、レイが感想を述べた。
「青ぞろえの騎士団。青の騎士団といったところですな」
「なるほど」
そしてレイが叫ぶ。
「整列!」
ビシッと整列した。
「凄いな」
「訓練でここまできました」
そしてレイが見習い騎士達に言う。
「お前達は非常に恵まれている! このような神器を下賜される事になるとはな! だからお館様に、お前達の鍛えた姿を見せる!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
「鶴翼の陣!」
すると一気に騎士達が広がる。
「魚鱗の陣!」
中央に集まって来る。
「方円の陣!」
円形に隊列を組む。
「鉾矢の陣!」
先頭を尖らせたように陣形を組んだ。
これまでこの陣形の訓練をして来たが、その動きはかなり見違えた。
レイが言う。
「素晴らしい。鎧の力もあり、陣形の変化が早い」
「純粋な身体能力が十倍にもなっているんだ。動きはかなり早い」
それから、オリハルコン鎧を着て訓練を続けてもらう。
《稼働時間を計測します》
よし。
軍隊が使った場合の、鎧の稼働限界の試験を始めた。陣形、行進、組手、素振りなどをくりかえして、三時間ほどたったころ、少しずつ動きが悪くなるやつが出て来た。
「やめ!」
俺が止めると一気に整列する。
「約三時間だ。まだ無駄な動きが多いから仕方ないが、三時間で魔石を交換する必要があるようだ」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
「集まれ!」
そうして、荷馬車に乗っている魔石を全員に配る。
「横腹の部分が開く。このレバーを引け!」
ガゴン!
皆がレバーを引くと、空になった魔石が出て来た。
「それを新しい魔石と交換して、レバーを締めろ!」
ガゴン!
すると騎士達が言う。
「おお! 力が戻ったっぺ!」
「本当だ! 戻った」
そこで俺達が経験した、鎧を着続けた副作用を告げる。
「ただし! 強化鎧をつけ続けると、脱いだ時にかなりだるくなってしまう。補助の力が強いので、戦闘訓練の時だけ着るように。基礎体力作りの時は、魔力の供給を切ってやるんだ!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
注意事項を告げた俺は、そこを皆に任せる事にした。
「メルナ。行こう」
「うん」
俺とメルナが馬車に乗りこみ、秘密研究所へと向かう。そこでは新たな研究が始まっており、俺とメルナとマージはずっとそれに集中していたのだ。
メルナが持っているマージが言う。
「さてと、これからやる事が、戦局を決める事になるだろうさね」
「そうだな」
俺達が貨幣の代わりに支払ってもらっている素材に、硝石と硫黄が混ざっていたのである。それを見たアイドナが、あるものが作れると言って、俺達はそれを活用する方法を模索していたのであった。