第二百二話 やって来た四人の騎士
パルダーシュから来た騎士は昔から居る四人で、パルダーシュ魔獣襲撃事件を運よく逃れた者達だ。俺を買った王都の帰りにトロールに遭遇し、怪我をしたためにあの惨劇に巻き込まれずに済んだのだ。
「お嬢様!」
「みんな! 久しぶりね!」
「お元気にしておられましたか!」
「元気よ」
「お館様より、相当、繁盛なさっていると聞きましたよ」
「そうなの。いろいろあってね、だから騎士団を作って警護してほしいのよ」
「申し使っております」
そして元は奴隷だった俺に、きちんとした挨拶をしてくれた。
そこで俺はいう。
「親しくしてくれていい」
「そう言う訳には参りません。お嬢様の旦那様でございますから」
ヴェルティカも賛同する。
「そうよ。私の旦那様なんだから、そこはきちんとしましょう」
「まあ、わかった」
俺達は騎士を連れて、ドワーフの里に行く事にする。まずは騎士団設立の事を、ドワーフや人間の騎士団候補に説明する必要があった。俺達が行くと、既にアーンが候補者を集めてくれていて、適当にその辺りに集まっている。
ヴェルティカが言う。
「アーン。ありがとうね」
「これくらいやるのは当然だっぺ!」
俺が騎士達に説明する。
「見ての通り、騎士団や兵隊の経験のない人達だ。今はシュトローマン伯爵領のギルドに頼んで、領内の警護を任せているが、自分達の住むところは自分達で守るようにしたいんだ。そこで彼らを騎士として動けるようにしてもらいたい」
「わかりました」
そして俺は、ドワーフや貧民街から来た男らにも言う。
「みんな聞いてくれ。これから自分達の住む場所は自分達で守らねばならない。その為に、騎士団を設立して、自警していくことになる」
「わかったべ!」
「はい」
「四人の名は、レイ、ビスト、サムス、ジロンという。彼らは昨日までパルダーシュ騎士団の隊長をしていたが、ここでも隊長してもらう事になる」
「んだか!」
「はい」
そして俺は四人に聞く。
「で、団長は誰が?」
するとビストとサムスとジロンがレイを指さす。レイは三人を見ながら言った。
「俺でいいのか?」
「実力の一番高い者がするべきだ」
「ではお館様、私が騎士団長になります」
「頼む。俺も良く分かっていないから、全権を任せたいと思っている」
「わかりました」
レイが団長になった。そしてレイが言う。
「では、皆の実力が見たいです。よろしいですか?」
「自由にしてくれ」
「はい」
レイは前に出てドワーフと男達に言う。
「剣や槍を振った事のある者は?」
するとドワーフの何人かが手を挙げた。
「魔獣を退治するのに、槍を使うべ!」
「んだんだ」
「よーし。いい感じだ」
そして俺にレイが聞いて来る。
「訓練に木剣や木の棒がいりますね」
俺はそれをアーンに言う。
「訓練用の木剣と木の槍を作ってくれ」
「直ぐに用意できるっぺ!」
そう言って数人の女のドワーフが動いた。
次にレイが鉄工所の前に並んでいる、作ったばかりの武器を見て言う。
「まずはあれで私が相手をしよう」
そこで俺が言う。
「ドワーフは力が強いが、大丈夫か?」
「ふふ。伊達に鬼のビルスタークから鍛えられてはいませんよ」
「鬼? あんなに優しい男がか?」
「お館様は最初から強いから分からないかもしれませんが、私達は彼に鍛えられてきたのです。特にあの王都の帰りにトロールごときに後れを取ったという事で、合流した後の修業は凄かったです」
「なるほど。わかった」
そしてアーンが鉄工所の前から剣を持ってくる。
「どうぞだっぺ」
「ありがとうございます」
そして例が集まった人らに聞いた。
「最初は誰がやる?」
皆が後ろにひっこむ。
「大丈夫。怪我をさせたりはしないよ。じゃあ、そこのドワーフのあなた。やってみましょう」
ドワーフが渋々剣を持った。そしてアーンが言う。
「頑張るっぺ!」
ドワーフの男は、とりあえず不安そうに頷く。
「じゃあ構えてみて」
レイに言われドワーフが剣を構えた。
《隙だらけです》
しかたがない。
「打ち込んできて」
ドワーフが打ち込むも、剣は空を斬って地面を叩く。
ガキン!
「おー、いてて」
「凄い力だ。だけど、当たらなくては意味がない」
「わかったべ!」
ブンブンと振り回し始めるが、レイは避け、全く打撃を受ける事が無かった。
「はあはあ」
「力み過ぎだね。じゃあ、次は人間の君やってみようか」
「は、はい」
貧民の男はドワーフよりも酷かった。ひょろひょろで直ぐに息切れをしてしまう。その男が座り込んで、がっくりと項垂れる。レイが男に声をかけた。
「落ち込むことは無い。鍛えれば必ず強くなる。努力は裏切らない」
「努力ですか」
「積み重ねだ。いきなり強くなることは無いが、少しずつ力をつけていくんだ」
「わかったべ!」
「わかりました」
女のドワーフが戻ってきて、何本かの木剣をレイに見せる。
「これだっぺ」
「なんとも美しい木剣だ。流石はドワーフの作はすばらしい」
「よかったっぺ」
そのうち一本の中ぐらいの長さの剣を選び言う。
「ならこれを、人間用の剣として作ってほしい」
「直ぐにとりかかるっぺ」
そして長い方の剣を持ってもう一度言った。
「ドワーフは力があるのでこれでもいけるだろうが、背丈からすれば斧の方が振り回しやすいかもしれん。ドワーフ用の斧を作ってもらえまいか」
「わかったっぺ」
そして練習用の器具は大体決まる。そしてレイはヴェルティカに言う。
「お嬢様。彼らの訓練は、練習用の武器が出来次第始めます。その前に、彼らにはもっと食事をとらせてはいただけまいか。体づくりをするための、肉を食わせねばなりません」
「わかりました。それでは兵舎を作って、そこで面倒を見るようにいたしましょう。アーン、兵舎を作ってほしいのだけど」
「直ぐに取り掛からせるっぺ」
騎士団の準備についての指示が次々になされた。
そしてレイが俺に言う。
「あとはお館様。副団長にお伺いしたのですが、あの風来燕という冒険者にご指導なさっているとか」
「そうだ。効率の良い動きを教え込んでいる」
「随分強くなったと聞きました」
「そうだな」
「出来ましたら。私達、四人にも手ほどきをお願いいたしたい!」
「わかった。ならば日にちを決めて、風来燕と一緒に訓練をするとしよう」
すると四人の騎士が顔を合わせて言う。
「よし! 王覧武闘会の優勝者から指南が受けられる! みんな! 気合い入れるぞ」
「「「おう!」」」
なるほど、彼らはもっと上を目指そうとしているらしい。
《まだまだ効率の良い体の使い方ができるでしょう。先ほどの動きを見ても、これから充分に身体能力の向上は図れます》
アイドナの見立てでは、既に彼らの特訓策が見えているようだった。
あとは何かあるか?
《隊を四つにしましょう》
隊を四つに?
《丁度騎士は四人います。彼ら一人一人に部隊を作らせた方が効率がいい》
そこで俺が言った。
「レイ、ビスト、サムズ、ジロンの四人が隊長となって、それぞれに小隊を組んでほしい、レイが騎士団長で……副団長は誰になる?」
「力で言えばビストでしょう」
「ならそのような組織づくりをお願いしたい」
「「「「は!」」」」
「また、兵団の兵器は俺が用意する予定だ。四人の採寸を行うので一緒に来てくれ」
「「「「は!」」」」
「では騎士団候補の皆は、いったん解散でまた集まるように」
「「「「はい!」」」」
俺達は騎士の四人を連れて、工場へと入っていくのだった。