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第二百一話 勝手に急速発展する俺の領地

 重機ロボットを投入して数日、ドワーフ達は既に順応していた。重機ロボットの作業効率と動きを見極め、それに合わせて自分達が動いた方が、生産能力が向上すると気づいたらしい。


 リンセコート男爵領では素材も資金も潤沢過ぎるほどに回り始め、シュトローマン伯爵領の税収の数倍もあるだろうとヴェルティカが言う。貴重な特産物の影響もあるが、パルダーシュ辺境伯が動いたのが大きかった。ほとんど資源や魔石での支払になっている為、金額的には目だたない。


 すると俺にマージが言った。


「そろそろ、目立ってきたねえ」


「まずいのか?」


「上級貴族の耳に入る頃だ、じきに横やりを入れてくるかもしれないねえ」


「そんなのに構っている暇はないのだがな」


「それが、貴族社会の厄介な事さね」


 俺とメルナは秘密研究所に籠り、兵器開発に勤しんでいた。だがマージは領主がずっとひっこんでいるのは、そろそろマズいと言い出したのである。


「謎の敵の兵器を参考にして、魔力で動く兵器を開発できたんだがな。それらの試作品に改良を加えたいし、外を出回っている暇などない」


「まあ、わかるけどねえ」


 俺達はジェット斧とレーザー剣を参考に、魔力で動く似たような性能の武器を作ったのである。オリハルコンとミスリルは魔力と非常に相性が良く、増幅させる力があるので実現したのだ。


 魔道具のジェット斧を振ると、後部から爆裂魔法の一種が発動して加速する。そのおかげで非力でも斧を振り回す事が出来、オリハルコン性なので刃こぼれする事がない。ただし、レーザー剣は同じような効果は出せなかった。代替えとして作る事が出来たのは、オリハルコンの鋭い剣に、風魔法の応用で作った高周波振動装置を取り付けた高周波ソードである。


 今すぐに俺と風来燕で実用試験をしたいところだが、マージが懸念を告げて来たのだ。


《マージの言う事も一理あるでしょう。研究を阻害されてしまう可能性があります》


 なるほど。


「どうすればいいだろう?」


「いち早く、王宮に強化鎧を納める事だろうね」


「なるほど、ならそろそろドワーフの里に行って見るか」


「それがいいさね」


 俺達が外に出ると、風来燕達が鍛錬を行っていた。この研究所の護衛を任せているので、彼らは分担して見張りをしている。今日はボルトとベントゥラが当番のようだ。


「お、久しぶりに出て来たな」


「ドワーフの里に行って来る」


「そうかい」


「新しい武器もめどがついた。一緒に試験がしたい」


「そうか。ならそん時、声かけてくれや」


「よろしく頼む」


 そうして俺達は森を出て、屋敷の前を通り三十分ほどかけてドワーフの里にやって来る。久しぶりに、ドワーフの里に来た俺とメルナは目を見開いた。


「なんだ?」


 メルナも面白そうに言う。


「すっごく大きくなってない? まるでお城だよ!」


 まず一つに、敷地が広大になっていた。いつの間にやら一つの町が出来ており、そこに巨大な建物が建っている。俺が入り口に行くと、直ぐにアーンが飛んでやって来た。


「お師匠様! 出来たっぺ!」


「魔法陣か?」


「そうだっぺ!」


「その前に、あの巨大な建物はなんだ?」


「分別倉庫だっぺ。様々な物資が運び込まれるんで、それらをきちんと分類して保管したっぺよ。倉庫番が居て、欲しいものを言えば、すぐに引き出してくるようになってるっぺ」


「おお! そうか」


「そんな事より、早く来てほしいっぺよ!」


 俺は鉄工所のそばにある、アーンの工房へと連れていかれた。そこにはばらされた鎧が置いてあり、全てに魔法陣が記されていた。


「みてほしいっぺ!」


 アイドナがチェックをするが、全てのカ所が青くなっている。


《オールクリア》


「良くできたな!」


「むしろ工具の方に問題があったんだっぺな! 奥様が台所用品を作らせるようになったっぺ? それで、ふと思いついて工具も作り直す事に専念したんだっぺ。そうしたら細かい所まで手が入るようになったっぺ」


「問題はそっちだったか」


「普通の鑿で彫れるのはお師匠様だけだったっぺ。うちがやるには専用工具が必要だったんだと気づいたっぺ」


「そういうことか。ならば、メルナ。この鎧に魔力を流し込んでくれ」


「うん」


 そして魔法陣に魔力を流し込むと、滞りなく流れて機能を発揮するようだった。


「出来てる」


「やったっぺ! 後は水魔法で覆いながら鉄を上掛けしたいっぺよ!」


「それは手伝おう」


 それらの鎧を、鉄工所に持って行き魔法陣に氷魔法で覆いをかぶせて鉄を上塗りする。すると問題なく魔法陣は隠れて、機能もそのまま発揮するようだった。


「完成だ」


「やったっぺ!」


「なら水魔法で上掛けの時に凍らせるスクロールと、魔石を大量に用意する。それで量産化してくれ」


「わかったっぺ!」


 とうとう、天工鍛冶師のアーンは強化魔法陣を習得した。そこで俺とメルナは、アーンを引き連れてヴェルティカの元へと行く。


「あら、コハクとメルナは山ごもりから解放?」


「様子を見に来た。マージが上級貴族の事を心配している」


「そうなのよね。私もそろそろ不安に思っていたわ」


「だがその打開策が出来た」


「そうなの?」


「アーンが強化鎧を作れるようになった。直ぐに王宮に書簡を送ろう」


「そう! すぐにとりかかるわ!」


 ヴェルティカは早速事務室に行って、王宮への文をしたため始めた。その後、俺とメルナは、アーンに連れられたこのあたり一帯の敷地を案内される。既に第二エリアと第三エリアも完成していて、その先には広い居住地があった。


「奥様が、どんどん新しい入居者を受け入れてるっぺ」


「そんなに仕事があるのか?」


「追いつかないっぺ」


「そんなにか……」


 そして数時間かけ敷地を一周し、元のドワーフの里に戻って来る。


《まるで工業都市です》


 荒れ地だったのにな。


《ドワーフの驚異的な製造能力のおかげでしょう》


 そして俺はアーンに聞く。


「それで、製造者たちの階級分けはどうなってる?」


「それももちろん出来てるっぺ。直ぐに号令をかけるっぺ」


「仕事中だが」


「奥様に許可をもらうっぺ」


 俺達は再びヴェルティカのところに戻り、アーンが聞いた。


「奥様。お師匠が、例の階級分けで人を集めてくれって言ってるっぺ」


「あら。じゃあ声がけしましょう」


「おねがいするっぺ」


 俺とメルナが部屋の外に出ようとすると、ヴェルティカが言う。


「ああ。行かなくていいのよ」


「どういうことだ?」


 ヴェルティカは壁際に行き、壁を通るパイプのような先端の蓋を開けて言う。


「昨日、声がけした人は、私の部屋まで来て頂戴」


 ぱたんと閉じる。


「まっててね」


「それはなんだ?」


するとアーンが答えた。


「館内放送の管だっぺ。今ので敷地全体に伝わったっぺ」


「なんだと」


 どうやら放送器のようなものを作ったらしい。しばらくすると、数名のドワーフと人間がやって来た。廊下に集まっていて、俺がドアを開くと三十人ぐらいがいる。


「じゃあ、会議室に行きましょう」


「会議室?」


「そうよ。お仕事の話をするときに集まる、広い部屋を作ってもらったの」


「そうか」


 そうして広い部屋に集まり、アーンがみんなに言った。


「お師匠様からの任命があったっぺ! 屋敷そばの醸造所に行く人前へ」


 ドワーフの女達が出て来る。


「お師匠様! 彼女らが醸造所の人間だっぺ」


「「「「「よろしくお願いします!」」」」」


「よろしく頼む」


 そしてアーンが続けて言う。


「ドワーフの里に入る人間前へ」


「「「「「はい!」」」」」


 これまた女だけが集まって来る。


「女だけだな」


「繊細だっぺ。手作業が主なので、器用な彼女らを選んだっぺ」


「わかった。よろしく頼む」


「「「「「はい!」」」」」


 そうして次々に、技術力のある者が鉄工所や加工場へと振り分けられて行く。


 すると最後にヴェルティカが言う。


「ここに来てもらった人達は、旦那様の許可を得て今日から給金が上がるわ」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


《既にかなり組織化が進んでいるようです》


 凄いな。


《ヴェルティカの才によるものです》


 なるほど。


 そしてヴェルティカがもう一度、皆に号令をかけた。


「丁度良いわ! みんな集まって。販売する食べ物の試作品が出来たの」


 そこで俺が聞いた。


「食べ物? どういうことだ?」


「あれ。アーンに聞いてないかしら?」


「まだ、言ってねえっぺ!」


「そうなのね」


 何事か分からずに、次の言葉を待つ。


「実はね。食品工場も作ったのよ。この領地の特産品である、芋と麦を使ってパンと焼き菓子を作っているわ」


 いつのまに。


《急激に進化しているようです》


「そうだったんだな」


「まだ大量に作れないから、今は教育しているところなの」


「なるほど」


 そうしてパンや菓子が広げられて、そこで試食会が始まった。俺達も参加して食べる。


「美味いな」


「そう! よかった」


 皆の評価も軒並み良好だった。


「これをどうするんだ?」


「毎日、シュトローマン伯爵領に運ぶ事になっているわ。だけど運搬能力に限りがあるので、出来れば馬を買いたいと思っているの。今は全て商人に任せているけど、それだと手間賃が取られちゃうのよ。人もいっぱいいるし、自前で商会を作って運ぶ事にしたのよ」


「自前で商会を……」


《人が足りてないのは、急速な事業拡大の為です》


 これはかなり目立ってしまうだろう。


《丁度よい時期に、強化鎧を習得してくれたようです》


 そしてアーンが言う。


「あとは、言われていたドワーフの男連中から選んだ戦人いくさにんだっぺ」


「まもなくここに騎士がやって来る、彼らに組織づくりをしてもらい、ドワーフの男に部隊を作ってもらうんだ」


「既に鎧用の採寸をしてるっぺ! お師匠様が、彼らの鎧を仕立てるんだっぺ?」


「そうだ。人間より小さいからな、寸法を合わせないといけない」


 アーンが羊皮紙を渡してくる。


「これに寸法が記してあるっぺ」


「わかった」


 既に俺が研究所に籠っている間に、この二人はどんどん話を進めてくれていたようだ。


「後は人間の中で腕っぷしの強いのを探さなきゃな」


 するとアーンが先回りするように言う。


「だと思ったっぺ。なので、作業にはむかないけど、力仕事が出来る男連中を選んでたっぺ」


「そこまでしてくれてたのか?」


「むしろ、作業はてんでダメな人らがいるっぺよ。力仕事が出来るけんど、細かいのはダメなのが」


「じきの騎士候補だ。会わせてくれ」


「分かったっぺ!」


「コハク。私も一度会っているから、同席するわ」


 俺がずっと引きこもっている間に、リンセコート領の組織化は着々と進んでいた。準備の進むこの地に、パルダーシュから騎士が来たのはその三日後だった。

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