第二百話 加速していく生産能力
ドワーフがいるミスリル坑道に、五台の重機ロボットを連れていく。重機ロボットは、森の中も崖も形状を変えながらしっかりとついてくる。途中からメルナとフィラミウスを乗せてみたが、絶妙にバランスを取って、乗っている者を落とす事は無いようだ。
ボルトが言う。
「崖をまるで平地みたいに歩いて行くぜ」
それを見てベントゥラが言う。
「こりゃ戦闘でも充分使えるぜ」
ガロロも頷いた。
「魔獣狩りでこれがついてきたら、いくらでも物資を運び放題じゃな」
そして俺が、メルナとフィラミウスに聞く。
「乗り心地はどうだ?」
するとフィラミウスが言う。
「凄く安定してるわ。馬のように上下に揺れないし」
メルナも答える。
「楽だよ!」
「確かに使えるな」
強化鎧を着た俺達にも、易々とついてくるようだった。あっという間にいくつかの谷を越えて、ドワーフたちがいる場所へ到着する。
坑道の入り口に二人のドワーフが立っていて、重機ロボットを見て腰を抜かした。
「こりゃ、アーンのお師匠様! そ、そのバケモノはなんだっぺ!」
「俺が使役している、アイアンゴーレムだ。坑道の発掘に向いている」
「凄いっぺ! 使役してるっぺか!」
「そうだ」
「流石お師匠様だっぺ!」
そして重機ロボットはメルナとフィラミウスを降ろし、最小の多脚の蟹形状へと変わる。
「形が変わったっぺ!」
「穴に入るためだ」
ドワーフたちは目をキラキラさせて、重機ロボットを見つめている。やはりドワーフは、機械が好きなようだ。
「入るぞ」
「わかったっぺ!」
入り口では縄を引っ張っているドワーフたちがおり、ここで何かの作業をしているようだ。俺達が重機ロボットを連れて、奥へと進むと滑車がぶら下がっているのが見える。カラカラとそれが動いて、縄に取りつけた桶みたいなものに土が乗っけられて外に出て行く。
その縄を伝うようにして奥へ進むと、最奥につるはしを持ったドワーフたちが大勢いた。
「だいぶ広くなったな」
「こりゃ、師匠様! な、なんだっぺ! その怪物は!」
「手伝いに来たアイアンゴーレムだ。俺が使役している」
「流石はお師匠様だっぺ!」
「ちょっとコイツの試験をしたいのだが、潜っているドワーフたちを出してくれ」
「わかったっぺ!」
アーンの父親は、岩壁にある縄を掴んで引っ張る。
ガランガラン!
ベルが鳴り響いてしばらくすると、真っ黒になったドワーフたちが次々に這い出て来た。
「これで全部だっぺ!」
「よし」
そしてアイドナが重機ロボットに指示を出すと、一斉に動き出して壁際に散って行った。何をするのかを見ていると、岩の向こう側を探っているようだ。
ピッピッピッピ!
一機が音を鳴らすと、ぞろぞろと寄って来て突然削岩を始めた。
「なんだっぺ? なんでそこだっぺ?」
アーンの父親にも分からないらしい。だが少し経つとその理由が直ぐにわかる。
「なるほど! そこの岩場が柔らかいんだっぺ! そこから掘って固めてるんだっぺな!」
確かに削岩の速度が速い。それに周辺の岩盤が崩れてこないのは、何らかの計算に基づいての事のように見える。あっという間に壁に入って行き、そこから運搬の機械と掘る機械で分担された。次々と掻き出されてくる土を、重機ロボットがドワーフの桶に入れ出す。
アーンの父親が言う。
「よーし! 皆で運び出すっぺ!」
ドワーフが運搬用の滑車を回し始め、次々に外へ岩や泥が運び出されて行った。
「物凄く速いっぺ!」
ドワーフたちが滅茶苦茶驚いている。
ゴウンゴウンとなっていた重機ロボットたちの音も、次第に奥へと進んで行った。
俺はアーンの父親に言った。
「掘るのは、あれらに任せていい。ミスリルの素材も覚えさせてあるから、じきにミスリルを運び出してくるはずだ」
「勝手にそうなるんだっぺか?」
「そうだ」
そしてあっという間に、紫がかった銀色の鉱石が運び出されてきた。
「一度にこんなにたくさんのミスリルを!」
「どうしてだ?」
「硬いので、掘り出すのに時間がかかるっぺ!」
次々に出て来る薄紫の銀の金属。ドワーフたちもあっけに取られている。
そして俺が言う。
「ある程度掘ったら、一旦ミスリルの加工の方に回ってほしいんだ」
「そうするっぺ!」
流石は発掘用のロボットだけあって、あっという間にミスリルが運び出されてきた。
山積みになったミスリルを見て、アーンの父親が言う。
「こんなに…いっぱい」
「じゃあ、まずはドワーフたちで運んでもらえるか?」
「わかったっぺ!」
「俺達は他に行く」
「なるほどだっぺ!」
そして外に出て来た重機ロボットに指示を出すと、他の四体も外に出てくる。それらを連れて、ドワーフたちがいる坑道を後にした。俺達は、すぐに山頂のオリハルコンのカルデラ湖に向かう。
そしてアイドナが言った。
《数値上は間違いなく耐久力が高いです。あなたが危険を冒して潜る必要がなくなります》
そうか。
湖のそばに来てマージが言う。
「じゃあ、スクロールで包んだ魔石をゴーレムに投げてもらうかね」
「わかった」
重機ロボットたちの周りに、スクロールに包まれた魔石を置く。すると次々に掴んで飛ばした。
ばらけないか?
《計算して投げています》
なるほど。
全てのスクロールに包んだ魔石を投げこみ、アイドナが指示を出すと、五機の重機ロボットたちは水中に潜り込んでいった。
メルナが言う。
「じゃ、おべんと食べよ! ヴェルが作ってくれたんだ!」
「そうだな」
俺達はその辺りに腰をおろし、ヴェルティカが持って来てくれた弁当を食いながら、ただひたすら重機ロボットが上がって来るのを待っていた。食い終わって少しすると、湖面に反応が現れる。
ちゃぷ。
蟹が頭を出すように一機が這い出て来ると、次々に重機ロボットが湖を上がって来た。形状変化させたワイヤーロープに、幾つものオリハルコンの装備がぶら下がっている。
「マージ。どうやら成功だ」
「これは……凄い事さね」
「そうだな」
それは俺にも分かった。重機ロボットたちのおかげで、強化装備の生産量が数十倍になる。
「戻るぞ」
山を下り森に差し掛かると、マギアの根を掘るドワーフの女達と遭遇した。アーンの母親が言う。
「きゃぁぁぁぁ! 化物だっぺ!」
「違う。これは俺が使役するアイアンゴーレムだ」
「なーんだ! やっぱり師匠はすごいっぺ!」
何故かドワーフたちは、俺のやる事には速攻で納得するように出来てるらしい。
それからドワーフの女達と別れ、研究所に戻って来る。重機ロボットたちがオリハルコン装備を運び込むと、勝手に格納庫に入って動力を落として眠った。
そして俺はマージに言う。
「かなり有用だ」
「そのようだねえ。フィリウスの言うように、絶対に外には出せない情報だよ」
「わかってる」
そして俺は念のため背負っていた、ジェット斧とレーザー剣を倉庫に置きに行く。
するとアイドナが言った。
《プログラム次第で、精密機械の製造も可能です》
なに?
《数日の稼働試験で分かりました》
兵器を作る事も可能だったりするのか?
《可能性は高いです。そしてそれ以上の精密機械も》
なるほど。
《そうです。一台にミスリル鉱石が積んでありますので、それを使って製造試験を試みます》
そうか。
俺の視界にはジェット斧と、レーザー剣の詳細データが映し出されてた。一台の重機ロボットの一部を開くと、そこにオリハルコンで生成された部品と、ミスリル鉱石が積み込んであった。
もう想定していたのか?
《はい。これから重機ロボットを稼働させて試作品をつくります》
わかった。
アイドナが操作をすると、五台の重機ロボットがゴウンゴウンと動き出す。それを感じ取ってメルナとマージがやって来た。
「なにしてるの?」
「物づくりだ」
するとマージも興味津々に言う。
「ほう。ゴーレムにやらせるのかい?」
「そうだ」
俺達が見ている前で、五台の重機ロボットが溶接などを始める。火花が散り、次々に細かな小さい部品が出来て良き、それらが精巧に組み上げられて行くのだった。