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第百九十九話 半永久機関の重機

 まずは秘密研究所を拡大する為に、重機ロボットを使ってみる事にする。メルナの魔力を魔導士専用のオリハルコン鎧で増幅し、ドワーフの鉄工所よりも大きな岩山を作った。フィリウス達も、製造工程を見たいと言うので見学させている。


「メルナの魔法がこれほどになったのか?」


 フィリウスが唖然としているが、これは巨大魔石の魔力供給によるものが大きかった。


「この子の器は、経験を積むほど大きくなっているのさ」


「そうか。ばあや、コハクとメルナが一緒に居たのは偶然じゃないって事だね」


「そういう事さね」


 これはマージがずっと言っている事だ。あの奴隷商で、メルナが俺のところに来たのは必然らしい。俺には良く分からなかったが、アイドナも因果律だと言った。


 そしてアイドナは重機ロボットに対し、建造物の建築プログラムを指示する。ダンジョン最下層での鉄の扉や、施設の状況を見ても、高度な建設技術があるのは間違いないというのだ。


 ゴウンゴウンと音を立てて、重機ロボットたちが動き出した。


「なんだ?」


 フィリウスとアランと風来燕達が、重機ロボットたちを見て目を見開く。


「形が変わってきたぞ」


 重機ロボットは多脚タイプの蟹のような形から、足を延ばしたり手を伸ばしたりしている。


 どういうことだ?


《それぞれの作業に即した形状へと変形するようです》


 明らかにこの世界には無い技術だな。


《前世でも、数千年前に存在していた、AI搭載タイプの産業ロボットに似ています》

 

 データにあるのか?


《はい》


 俺が居た世界には無かったみたいだが。


《素粒子技術が発達していましたので、このようなタイプのマシンはありませんでした》


 そうか。


 重機ロボットたちは、巨大な岩山を囲んで突然プレスし始める。


 なんだ?


《強度を増すための工程です。超微振動で構造を変化させているようです》


 強化か。


《はい》


 次々に山を削り穴をあけ、住宅の構造へと変化させていく。時間をかけてやっているが、皆は飽きずにそれらを見ていた。


「こんなのは見たことがないわ」


 見えないマージが聞く。


「どんな様子だい? ヴェル」


「ドワーフよりも速い構築方法みたい。五台それぞれが全く違う動きをしているんだけど、全て計算されたように組み上げられてるわ」


「見たかったねえ」


 するとビルスタークも言う。


「賢者様。我も見れません」


「残念だこと」


 こんなに完璧に動くものなのか?


《再プログラムを施して、バージョンを数世代ほど進めた状態にしました》


 バージョンアップか。


 一日も経たずに、新しい建物が秘密研究所の隣りに建設された。その建物は重機ロボットたちの格納庫としても使われる事になる。その屋根の上には、二十枚のソーラーパネルが展開されており、持って来た五本の動力核のうち、一本が入った箱に繋がれている。


 アイドナはエックス線の視界で、その生体動力が動き出すのを見せてくる。


 心臓のようだ。


《あれが次第に成長します》


 それが重機ロボットたちの動力になるんだな。


《はい。生体動力は破壊されない限り、永久機関に近い動きをするようです》


 分かっている。破壊すればリバンレイ山のように、大爆発するんだろう?


《その通りです》


 このままだと危なくないか?


《だからこの重機ロボットがいるのです。危険度に合わせて自動で地下に掘り進み、勝手に生体動力を安全圏へと下ろして行くようです。今、破壊しても大した爆発はしないでしょう》


 その指示をしているという事か?


《元からのプログラムによるものです》


 なるほど。


《それゆえに魔獣が居る洞窟でも、掘り進めて行けるのです》


 その結果、魔獣がそれらの動力を守るという事か?


《そう計算されているようです》


 アイドナとの話で分かったのは、ダンジョンや古代遺跡は計算されて作られているという事だ。それらは、AI搭載の重機が自動で作ったものであることを知る。


 フィリウスが言う。


「うちにも欲しい」


 そこで俺が答える。


「残念ながら、動力から離してずっとは動き続けられないんだ」


「そういうものなのか」


「魔力で動くなら、持ち運びも出来ただろうが、これの動力は魔力ではない」


「そうか」


 そしてアイドナが、一台の重機ロボットのパネルを操作する。


《エネルギー残量が六十パーセントです。ダンジョンからここまで運び、その上にこの施設を作ってもまだ半分以上の動力が残るようです》


 ドワーフの鉱山をやるなら、毎日往復させた方が良いか。


《ついでに、ミスリル鋼と呼ばれた鉱石を運ばせると良いでしょう》


 なるほどな。


 するとフィリウスが聞いて来た。


「これをリンデンブルグ帝国の王子は知っているのか?」


「教えてはいない。ここにいる人間だけの機密だ」


 フィリウスは皆に向かって言う。


「これがバレれば、王宮も他国も黙ってないぞ! くれぐれも俺達だけの秘密にするんだ。私もみすみす妹を危険にさらしたくはないのでな!」


「「「「「はい!」」」」」


「物言わぬ兵士。これらを壊されぬようにするための兵士を作る事も考えた方が良いぞ、コハク」


「騎士団か」


「そうだ。男爵であるから、騎士団の創設は不可欠だ。そろそろ、組織の構築を考えた方が良い」


 するとヴェルティカが言う。


「もちろん、お兄様が御指南くださるのよね?」


「分かっている。そのつもりで話をしている」


「なら、お兄様のところで生き残った、前の騎士団員四人をください」


「な。我が領も素人同然の兵しか、おらぬのだがな」


「ビルとアランがいるじゃない。当家には騎士団出身者がいないのよ」


 フィリウスは少し考えて答える。


「分かった。あの四人をお前の元へ遣わせよう」


「ありがとう! お兄様! やっぱりお兄様は素晴らしいわ」


 するとメルナの鎧に仕込まれたマージが言う。


「相変わらず妹に甘いねえ。フィリウスがヴェルのおねだりを断ったのを見た事が無いよ」


 しかしフィリウスが言った。


「国の一大事かもしれぬのだ。妹は関係ないよ、ばあや。それにヴェルティカが言うように、騎士団経験者がいないというのは問題だ。あいにく生き残った四人のうちの一人は、小隊長クラスであるからな。騎士団の創立という事であれば適任だよ」


「まあ、その通りさね」


 そこでガロロも言う。


「あとはドワーフにも声がけすると良いのじゃ。あ奴らは腕っぷしに自身のあるやつらであるから、強化鎧を着せれば一騎当千の力をふるうじゃろ」


 確かに一人で大木一本を運ぶ奴らだから、彼らに強化鎧を着せればもっと能力を発揮するだろう


 そこで俺はヴェルティカに言う。


「アーンに言って、ドワーフでも戦士になりうる奴を選出させてほしい。そいつらの採寸をして、新たな鎧を作る事にしよう」


「わかったわ。アーンに言ってみる」


「俺からの命令だと言ってくれ」


「はい」


 そしてフィリウスが言う。


「これだけの規模の施設を作ったのだから、今日から護衛がいるぞ」


 俺はボルトに言う。


「ボルト。当面は風来燕に、この施設の護衛を任せられるか?」


「お館様の命であれば」


「頼む」


「ああ」


 ヴェルティカが言う。


「お兄様に見てもらって良かったわ。私達では行政にも不備がありそうだし、出来ればもう数日滞在して指摘してほしいどころだけど」


「居てやりたいのはやまやまだがな、パルダーシュとてずっと空けたままではおれんのだ。それに私が戻らねば、こちらの領に対しての恩恵も薄れてしまう。当家では当家のやれることをやらねばならん」


 マージも言う。


「その通りさねヴェル。あいにくリンセコート領からシュトローマン伯爵領、そこからパルダーシュ辺境伯領までの間に領地を持つ男爵たちが、こちらになびきつつあるんだ。彼らを取りこぼさないように、フィリウスから目を光らせてもらわにゃならんのさね」


「わかったわ。それは私達には出来ない仕事だものね」


「そう言う事さ」


 そうして重機ロボットたちの有用性を確認したフィリウス達は、領地に帰る事になる。


 フィリウスが言った。


「騎士四人を送る。四人ともヴェルとは親しいはずだ。出稼ぎのようになるが、面倒を見てくれ」


「それはこちらのセリフです。ありがとうございました」


「では。ビルスターク、アラン! 領に戻るぞ」


「「は!」」


 またフィリウス達に手土産を持たせ、俺達は彼らを領地の境まで見送る事にする。途中でドワーフの里に立ち寄り、アーンに言ってドワーフ製の台所用品を土産に持たせた。


 そうしてパルダーシュ一行を送り、俺達は屋敷へと戻って来た。


「俺は明日の日が昇る前に、動力を充填したアイアンゴーレムを連れてドワーフ鉱山に行く」


「わかったわ。みんな、それぞれの分担を精一杯こなしましょう!」


「「「「は!」」」」


「じゃあヴェルティカ。俺と風来燕とメルナは、上の研究所に寝泊まりする」


「はい。ひとまず腹ごしらえしていって」


「わかった」


 俺達は屋敷で食事をとり、後はヴェルティカに任せて研究所へ行く。研究所では重機ロボたちがまだ勝手に動いていて、朝見た時よりも研究施設の完成度が上がっていた。


 それを見てベントゥラが言う。


「休まずにやってたんだな」


「動力源を作ったからな。この周りなら永久に動くはずだ」


「うへえ…そりゃすげえや」


 そしてアイドナが言う。


《前に作った研究所よりも近代的です》

 

 なら中に入るように指示しよう。


《はい》


 一台に触ってパネルを叩くと、五台全部が多脚の蟹のような形に戻った。それらは勝手に施設に入って行き、光っていた体の各所の光が消えて静まるのだった。

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