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第百九十五話 オリハルコンの山は宝山だった

 何もなかったこの領に、連日のように人が来るようになる。噂を聞きつけた商人が買い付けに来るようになり、リンセコート領の品物が高値で取引されるようになってるらしい。


 しかし、その事で素材回収が追い付かなくなってしまう。そこでアーンと相談をし、ドワーフと素材回収に関する契約をした。素材の出所を漏洩しない事と、採りすぎて枯渇してしまうのを防止する為。回収隊の隊長はアーンの父と母で、間違いなく信用できると言う。彼らは天工鍛冶師アーンのサポートをやってきたので、管理に関しては凄くシビアな目を持っているらしい。


「お師匠様!」


 山で軽石を採集している時に、アーンの父親が言う。


「なんだ?」


「この山は、不思議だっぺ」


「どういうところだ?」


「軽石以外にも、鉱石があるような気がするっぺ」


「そうなのか?」


「普通の人が見れば、ただの山だけんど、わしらが見れば、なにかあるのが分かるでよお」


《やはりドワーフは、ある能力が長けているようです。オリハルコンなどの鉱石がある山ですから、特殊な雰囲気を感じ取っているのでしょう》


 どうするか。探らせるか?


《いずれにせよ水深三百メートルは潜れませんので、オリハルコンにはたどり着かないです。自由にさせて問題ないとは思いますが、新開発については、ドワーフの能力を知りたいので目視で確認をしてください。素材に関して、この世界ではドワーフがエキスパートです》


 わかった。


 そこで俺はアーンの父親に言う。


「どうすればいい?」


「掘って見ねえと分からねえけんど、この山は不思議な匂いがするっぺ」


 すると、メルナが俺の裾を引っ張って連れていく。


「ちょっといい? コハク」


 ドワーフ達と離れた所に行くと、マージが言う。


「ドワーフの鼻は特別製なんだよ。オリハルコンが採れる場所に、珍しい鉱石が見つかる事はよくある事さね。鉱山については、あたしなんかよりドワーフの方がはるかに詳しいんだ。掘らせてみてもいいんじゃないだろうかね」


「わかった」


 俺はドワーフの所に戻って言う。


「何かが見つかっても、この山の所有権は俺のだが、それでもいいのか?」


「当たり前だっぺよ! お師匠様の物を勝手に何かすることは無いっぺ! だけんど……」


「だけど?」


「もし何か掘り当てたら、あの酒をもっといっぱい欲しいっぺ」


「酒? 酒をやったらいいのか?」


「みんな、もっともっと働くようになるっぺ」


「わかった。約束しよう」


「やったっぺ! それじゃあ明日から、仲間達を連れて山堀していいっぺか」


「頼む」


 今日はいつもの五倍の軽石を採掘し、ドワーフ達とそりを使って運搬した。途中の森で、マギアの根を採取している女のドワーフ達がソリに採集物を乗せる。


「あんた! 随分と採れたっぺな」


「そっちも採りすぎて無いっぺか」


「地面を区切ってやっているっぺ。それに多分この調子だと、この山に限らずこの山系にあるっぺよ」


「おおそうか。今日は軽石を取りに行ってみたんだけんど、この先の山にゃあきっと何かある。お師匠様に言って、明日から鉱脈を探してみる事になったっぺ」


「鉱脈探しだっぺか。んじゃあ、鼻が利く女の出番だっぺ」


「よろしく頼むっぺ」


 なるほど分担があるらしい。


《そのようです》


 マギアの根は屋敷に降ろし、俺達は軽石を運んでそのままドワーフの里までいく。


 ヴェルティカが言う。


「いつもよりかなり量が多いわね」


「ああ。やはりドワーフは効率が良いようだ」


「これなら相当量の石鹸が作れるわね! あと、コハクにちょっと来てほしいの」


「ん?」


 俺が工場に入っていくと、アーンが待っていた。


「どうした?」


「奥様に言われて作った新商品だっぺ!」


 その台の上には、鍋や包丁が置いてあった。


「台所用品か?」


 ヴェルティカが言う。


「鉄の余りで作ってって言ったら、アーンが作ってくれたの。ちょっと見てて」


 羊皮紙をポイっと投げて、それに包丁をするっと滑らせる。すると空中で羊皮紙が斬れ、そのまま床に落ちた。


「ほう」


「武具を見てたら、きっと台所用品も作れると思ってたのよね。でもアーンが作った台所用品はどれもが素晴らしくて、これも土地の名産になるんじゃないかと思ったの」


《充分特産になり得るでしょう。もちろん高額にはなりますが、必要な人間はいます》


 まあ鎧がメインだけどな。


《その分、王宮から鉄をもらえばいいのです》


 管理されていないだろうか?


《強化鎧さえできれば、王宮は文句を言いません》

 

 わかった。


「よし。これも商人に見せてみよう。値付けはどうする?」


「市場の五倍でも安いと思うわ」


「ならば、十倍で出して見よう」


「わかったわ」


「だがヴェルティカ。実は明日から、ドワーフ達をちょっと借りる事になる」


「なにかしたの?」


 俺はアーンの父親を呼ぶ。


「説明してくれ」


「わかったっぺ! アーン! 今日お師匠様と山に登ったっぺ。このあたりの山は何か匂うっぺよ! だから明日から、鉱脈を探しに行くことになったっぺ」


「んじゃあ。父ちゃんと母ちゃんが、割り振りしてくれるといいっぺ。うちはここで、物づくりをしてるから問題ないっぺ」


「わかったっぺ!」


 その日からドワーフたちは、更に忙しく動き回るようになった。連日、商人や貴族の使者が訪れ、働きたいという人間もぞくぞくやってくるようになる。そして数日後、ドワーフ達は山で新たな鉱脈を見つけてしまう。それを聞いたアーンが確認の為に一緒に山に登る事になり、俺と風来燕が装備を固めてついて行く。


「アーンや。ここだっぺ!」


 アーンは父親に言われて、スンスンと鼻を鳴らしてあたりを嗅ぎまわっている。しばらくウロウロしていたが、突然ピンと来たようだった。


「ここ! 掘ってみるっぺ!」


 そこで俺が言う。


「なら俺と風来燕が掘ろう」


「師匠自らだっぺか!」


「その方が早い」


「なら、これを使ってほしいっぺ!」


 そう言ってアーンが、人数分のツルハシを渡して来た。それを持ってボルトが言う。


「よっしゃ。強化鎧の力の見せ所だぜガロロ」


「わかっちょる!」


《身体強化を施します》


 俺達はがつがつと山肌を掘り進み、その後ろではドワーフたちが、穴に枠組みを作っていく。


《ドワーフは、アナが崩れないようにしているのです》


 なるほど。


「凄いっぺ」


 父親が感心している。


「これが師匠だっぺよ!」


 そして俺は、それから五十メートルほど掘り進む。するとアーンが俺に言う。


「ここから斜め下に掘って行って欲しいっぺ!」


「わかった」


 がつがつと掘りすすみ、ベルトコンベアーのようにドワーフ達が土を運び出し枠組みを作っていく。するとアーンの父親が言う。


「こんなに掘るのは一ヵ月はかかるっぺ。物凄いっぺ」


 アーンも言う。


「メルナさんの土魔法も凄いっぺ」


 人が通れるだけの穴を掘っているだけなので、すれ違うのも窮屈だった。それでもドワーフたちは器用に土を運びだしている。だが、ある程度の所に来て俺のツルハシが壊れた。


 ガキン!


「鉄の先が曲がった」


 するとアーンが言う。


「ここからは、師匠の武器でやってもらいたいっぺ」


 俺はレーザー剣を取り出し、岩壁に突き刺すと溶岩のように溶けだす。するとその奥に、キラキラとしたものが見えた。


「師匠。それだっぺ!」


 俺が穴を広げていくと、更に光るものが見えて来た。そこに手を伸ばしてかけらを取り、アーンに渡した。


「これだな」


「師匠! あたりだっぺ!」


「あたり?」


「これはミスリル鉱だっぺ!」


「なんだそれは?」


「とっても貴重な鉱石だっぺ! これは凄い事だっぺ!」


 ドワーフたちも色めき立っている。すると風来燕のボルトが言う。


「ミスリルっつったら、王宮の宝になるような武器がそれにあたるぜ。しかもミスリルの鉱脈をみつけるなんざ、何年も何年もかけてまぐれで見つかるようなもんだ。流石は天工鍛冶師と言ったところだ」


「ほう……」


《それほどの物ならば、緘口令を布いてください》


 わかった。


「みんな! ここにミスリル鉱が出た事は他言無用だ! これは領主の俺との契約だ!」


「「「「はい」」」」


 そして俺達は、いったん外に出る。離れたところでマージが俺に言った。


「やっぱり。オリハルコンの山に他の鉱石が無い訳がない。ドワーフを山に登らせて正解だったねえ」


「しかし。なぜ、これほどまでに物資が豊富な物なのか」


「預言の書の通りだよ。エーテル・ドラコニアがいる山だ。むしろこれは当然の成り行きさ」


「そうなのか」


「ドワーフを引き寄せたのが勝因の全てさね。全てはコハクが引き寄せているんだ」


「ドワーフたちが、勝手に来たんだがな」


「運命なんだよ」


《不思議な因果律です》


 そんな事があるんだな。


 俺達は新しい資源を見つけ、次の計画を立て始めるのだった。

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