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第百九十話 パルダーシュ辺境伯と結託

 俺達はパルダーシュの面々と食事をしながら、これまでの経緯について話し合いをしていた。


 パルダーシュの魔獣襲撃に合わせた、ゴルドス国進軍と王都魔獣襲撃。王覧武闘会の剣聖ドルベンスの事件に関与していた、ボルトン及び火炎の男と、リバンレイ山で俺が倒した二人組。リンデンブルグの謎の都市爆発と、リバンレイ山爆発が酷似している事をあげる。


 それを聞いてフィリウスが言う。


「間違いないだろう。強い魔獣があふれ出て来た事といい、急激に異変が重なりすぎている」


「そうさね。それらのことごとくを、コハクが制圧しているだろう? どうやらリンデンブルグ帝国の密偵は、それら一連の事とコハクが関連している事を察知したのさ」


「流石は大国と言ったところだ。あの王子はよっぽど鼻が利くらしいな」


「それはリンデンブルグの賢者である、ヴァイゼル・メルカトルが糸を引いていたよ」


「メルカトル……うっすら記憶がある。幼少の頃に、パルダーシュを訪れてるよね?」


「ああ昔ね。あたしのところに来て、いろいろと知恵を盗んでいきおった」


「なるほど、合点がいったよ。ばあやがずっと大陸の破滅と救世主について調べていたけど、似たような事を賢者ヴァイゼルが調べていたんだろうね。同じ答えに行きついたか……」


「だろうねえ」


 そしてビルスタークが言った。


「確かに全ての事件が集中しすぎてて、リンデンブルグが慌てるのも無理はないでしょうね。周辺国家を巻き込んだ条約の締結などやっていたら、数年はかかるでしょうし。単刀直入に、直接コハクに申し入れをして来たと言うのも、おかしくは無い話です」


「そこでだよ。フィリウス、この話は動きの鈍い政府の耳に入れるべきではないと思うのさね。もし耳に入れば、王家や貴族が、絶対にこのリンセコート領とリンデンブルグの間に横やりを入れて来る。そうすれば、来たるその時の為の備えが進まなくなっちまうのさ」


 だがフィリウスは深刻な顔をする。


「だが、それを知っててリンデンブルグと密通しているのが知れたら、反逆罪や同盟国との条約違反にもなりかねんな」


「そこなんだよ…だから、お前を呼んだのさ」


「ふうっ。ばあや、私はヴェルが幸せにしているかどうかを見に来ただけなんだけどね」


「おや? もし大変な事になったら、お前の可愛い妹は吊るし首だよ?」


「分かっているからこそだよ。しかも知らず知らずのうちに、田舎伯爵のロパロ・シュトローマンまで巻き込んじゃってるし、策を巡らせるのはいいが、彼も可哀想な男だ」


「管理責任を取らせるために、こちらに引き込むつもりさね」


「彼は、知らないうちに片棒を担がされているってわけだ」


「あとロパロは、パルダーシュ辺境伯にご執心のようだからねぇ。ちょいと顔出しをして、ヴェルの為に動くように伝えてっておくれよ」


「分かってるさ。その辺りは上手くやるつもりだ。とにかく万が一があるから、王家に対して何らかの画策をしておいた方が良い」


「そしたら、鴨がネギ背負ってやってきたんだよ!」


「天工鍛冶師か?」


「そうさね。あれは王家御用達で来ているからね、強化鎧を収める事で王家にとりいるつもりさ」


「随分うまく行ってるが、これらの事は、ばあやが糸を引いたのかい?」


「馬鹿言っちゃいけないよ。こんなに綺麗に誘導なんかできるもんかね、あたしにゃ体もないんだ」


「だよねえ」


 目の前で議論が交わされているが、俺の内部でアイドナが話しかけて来ていた。


《一連の流れが、未来予測演算の管理範疇だとはバレていないようです》


 そりゃそうだ。大賢者とはいえノントリートメントなんだから。


《いずれにせよ、国家の作りもおおよそ把握出来ました》


 どうする? 反逆罪とかになったら死ぬぞ?


《それも凌駕する力を保有すればいいのです。前世の大昔に、対話能力の低い国が大量破壊兵器を手にして、対話の舞台に立った例はいくらでもあります》


 大量破壊兵器?


《例えば、王都の魔獣事件に使った古代遺跡のレーザー砲は、衛星軌道上からのものでした。あの時は魔獣に座標を合わせましたが、ノントリートメントや住居に照準を合わせる事も可能でした》


 いざとなったら、あれで王都を焼くという事か?


《少なくとも、人質には出来ます》


 なるほどな。


 そしてフィリウスが俺に声をかけて来た。


「難しい顔をしているが、コハクは領主としての指針はあるのか?」


《ここだけの話と釘を刺してください》


「ここだけの話だがいいか?」


「かまわないよ」


「俺が、国家を恐れる事の無い状況にするとすればどうだ」


「国家を恐れない状況?」


「純粋な武力だ。金の駆け引きや対話によるものではない、純粋な武力による威圧。それで黙らせる事が出来るとすれば、国家に対して忖度せずに未知の敵に立ち向かえるのではないか?」


 皆がこちらを向く。


「おまえ……」


 流石にアランが口を開いた。


「不敬すぎるだろ。誰に対して弓を引くっていうんだ?」


「政府だ」


 そしてフィリウスが声を低くして言う。


「コハク。それは絶対に他では言うな。そして俺達も聞かなかった事にする。コハクが言った事は王家だけではなく、リンデンブルグ帝国ですら脅威を抱くぞ。俺達は分かっているが、お前はそれを成し得る可能性を秘めている」


「未知の敵に攻められてからでは遅い」


 だがフィリウスが俺に手をかざして止める。


「いいかヴェル、ビルスタークもアランもメルナも、風来燕のみんなも絶対のこれは口外するなよ。たまたまここにいるのが、使用人もいない身内だけで良かった」


 それに対してマージが言う。


「フィリウスや」


「なんだ」


「あたしは……コハクの言っている事が一理あると思っているさね」


「ばあや?」


「もちろん、今はその時ではないよ。だけどそんな保守的な事を言っていたら、この大陸は滅ぼされるかもしれないよ。あんな化物じみた人間らが、大群で攻めてきたら終わりさ」


 だがフィリウスは苦笑いをして言う。


「ばあやは勘違いしているね。僕はそれを止めろとは、一言も言っていないよ」


《一人称が僕になりました。完全な本音を言うようです》


「そうかい?」


「僕はコハクに言った。ヴェルを絶対に幸せにしろってね。だからもしそうするなら、ヴェルが泣かないように徹底的にやれって言ってるのさ。一瞬の手も抜かずに、全身全霊をかけてそうしろと言ってるんだ。だから、軽々しく口にしてはいけない。今の話は誰も聞いていない、そう言う事だ。いいね?」


 フィリウスの気迫のこもった形相に、皆が深く頷いた。そして表情が変わる。


「さあ。せっかくヴェルティカが、私達の為に美味しい料理を作ってくれたんだ。美味い酒を飲んで、ここからは楽しい話にしようじゃないか。コハク卿、これからは詳細を一切伝えずに、指示だけを出してもらえるとありがたいんだがな。酒の上での、冗談めかした夢物語を語っているんだね?」


「どういうことだ?」


 それにはボルトが答えた。


「コハクの旦那。パルダーシュ辺境伯様は、あんたの話に乗ったって言ってくださってるんだ。だがコハクが下手をうった時は、コハク一人で画策してやったという事にしてくれと言っている」


《問題ありません。政府は確実に凌駕します》


「ヴェルティカが泣く事は無い。そしてフィリウス達が痛い思いをすることも無い。俺の関係者に手を触れる事も、罰する事も出来くなる。だがこれからはその事は、俺達夫婦と賢者だけの秘密にするとしよう。だが一つだけ言える事は、それだけの力を手に入れねば、この大陸は未知の生物に支配されてしまう。ここにいる誰もが、それを心配する事は無い。皆は、今聞いた事を心にしまってくれればいい」


 そしてヴェルティカが言う。


「さあ! お隣のおばさまに、教えてもらった郷土料理を持ってくるわよ」


 ヴェルティカが部屋を出て行き戻って来る。そしてメイド達が、テーブルの上に並べたのは手ごろな小さな芋が、ゴロゴロと並んでいる皿だった。


「見た事の無い料理だね。ヴェル」


「煮っころがしって言うんですって。それが美味しいのよ!」


 皆が皿に取って食べ始める。


 するとフィリウスが言う。


「こりゃいいな。味付けがなんとも言えんうまさだ」

「本当ですなお館様」

「何個でもいけますね」


「気に入ってもらえたなら、使用人から使用人へ教えていますから、帰ってからも試して欲しいわ」


「ああ、楽しみにしておこう」


 それから何種類かの料理が運ばれ、皆の腹が満たされたところで解散となる。俺達と風来燕は、迎賓館から本館へと戻ってきた。ボルト達も、重たい話し合いで疲れたと言って、すぐに部屋に戻って行った。俺はヴェルティカとメルナと共に、自分達の寝室へと入る。


 マージが言う。


「コハクや」


「なんだ?」


「あんた、多くの人生を背負っちまったねえ」


「どういう事だ?」


「パルダーシュに、風来燕にドワーフ。少なくとも彼らはコハクに運命を託しているね」


「みんなの命は皆の物だ、それぞれの人生の為に自由であるべきだ」


「その自由な意思で、コハクに人生をかけているのさね」


「自由な意思で、俺に人生をかける?」


「さっきの食事の時は、ボルトがああ言って話をまとめたけどねえ。あれは、皆があんたに命を預けると言ったのさ。フィリウスは情報漏洩しないように、ああやって言っただけの事」


「命を懸けてもらっては困る。俺はその刃が向かないようにしたいんだからな」


「まっ。そうかい、とにかくまた急ぐ理由が出来たって事さ」


《ノントリートメントとしては、そう解釈したようです》


 この流れで俺達の施策は、未知の軍勢の襲来に対応できるのか?


《次はパルダーシュ辺境伯の力を使って、シュトローマン領の南方にあるダンジョンを封鎖し、権利をシュトローマンから買いとってもらいましょう》


 売るかな?


《あっても困るだけのダンジョン。それでパルダーシュ辺境伯との関係性が保たれるのならば、ロパロ・シュトローマンは確実に売ります》


 なら明日その話をしよう。


《そうしてください》


 またアイドナの未来予測演算での施策が生まれる。


 そしてマージが言う。


「それじゃ、メルナや。あたしらはお邪魔さね。部屋に行くとするよ」


「うん……」


「まったく、えらい旦那様をもったねえ。ヴェル」


「私が信じた人だもの。問題ないわ」


「嫁も嫁か……。それじゃあお休み」


「うん」

「ああ」


 メルナが出て行き、俺とヴェルティカは服を脱いでベッドに潜り込むのだった。

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