表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

185/307

第百八十四話 オリハルコンの武具

 オリハルコンのカルデラ湖に潜り、水深三百メートル付近の海底に到着した。直ぐにジェット斧を背中から外し、加速させて海底に振り下ろす。一撃で真っ青な地表が現れ、あたりが青く輝いた。それを確認して、一帯を耕すように掘り起こしていく。


 よし。


《湖底全体が同一の素材のようです》


 オリハルコンが掘り起こされ、海底が真っ青になったので、持って来た包みを解き魔石を包んだスクロールをぶちまける。それらが海底に落ちた途端、次々に製図通りの造形に変わった。


《想定通り》


 不思議なものだ。


《前世ではありえない現象です。魔法陣とは物質が持つ固有の振動数と電磁場を複雑に融合、自然界の法則を巧みに利用し、魔力というエネルギーを使った高度な変換技術です》


 素粒子AIでそれらが解析出来て良かったよ。


《ですが、どうしても放出の原理が解析できていません》


 それが使えれば、戦闘の幅も広がるんだがな。


《放出系と内燃系で魔力の質が違う可能性があります》


 魔力の質の違いか…あり得るな。


 すると視界に映る魔石が燃え尽きた。


《成功です》


 見ればあたりには、青い金属で出来た防具や武器が出来上がっていた。細かな部品も転がっており、俺はそれを片っ端から集めていく。


 あがるか。


《では例のスクロールを》


 俺は革袋を取り出し、オリハルコンの部品を包んだものにつなげる。そして皮袋にスクロールを入れて発動させた。


 バシュッ!


 皮袋がみるみる大きく膨らんで、オリハルコンの部品を包んだ袋と一緒に浮かび上がっていく。


《こちらも酸素がきれます》


 ボシュ。


 強化鎧内の酸素スクロールが発動し、一気に酸素で満たされる。浮力が得られ、俺は一気に身体強化で水上に泳いで行った。体が気圧で壊れないようにアイドナが調整をし、一気に水上に出てさっき浮かばせた袋を持って岸に泳ぐ。ずるずると引きずってそりの所まで行くと、避難所からメルナが走って出て来た。


「コハク!」


「魔獣は来なかったか?」


「来なかったよ」


 そしてマージが聞いて来る。


「どうだったね?」


「袋を開けてみるか?」


 ソリに乗せた包みを解くと、そこには青い金属で出来た防具や武器が乗っていた。


「成功だな」


「そりゃ凄いねえ。装備しても良し、売っても良し、物凄く貴重なものが出来上がったよ」


「そうか。なら次は軽石を取りに行くぞ」


「うん」


 メルナをオリハルコンの武具を乗せたソリに乗せ、軽石が大量に落ちているところに来る。


 そこでマージが言った。


「それじゃあメルナの番だねぇ」


「わかった!」


 メルナが魔法の杖を構えて言う。


「大地よ! 一つとなり、岩となれ!」


 すると散らばっている軽石が、一気に混ざり合って一個の巨大な岩になった。


「よし! メルナ! 次だ!」


「うん」


 そして三つの大きな軽石の岩が出来上がる。それらを縄に括り付けて、そりの後ろにつなげていった。俺が先頭に行き、それらを引きずり始める。


「メルナ、滑り止めは頼むぞ」


「うん!」


 急斜面になれば後ろから岩が転がって来るので、抵抗をかけ滑りを悪くする魔法をかけてもらう。その事で、俺とメルナだけの人員構成でも、斜面の物資を運ぶ事が出来るのだ。


 リンセの森に差し掛かると、マージが俺に言う。


「名付けてくれた森だ。ここは大切にしなくちゃねえ」


「大切にか…」


「そうさね。ここを守る事でエーテル・ドラコニアの加護が生まれる。それは、いつしかコハクを守ってくれるだろうさ」


 どういう事だ?


《前世で考えるなら迷信の類ですが、この世界には魔法や精霊がいます。何らかの恩恵があると思ってもいいのでしょう》


 なるほど。


 そして俺達は秘密研究所に戻って来た。作った防具や武器、部品を並べて乾かしていく。すっかり乾くと輝きもおさまって、独特な色合いの青い金属と変わる。


「コハクや! 片手剣でオリハルコンの武具を思い切り叩いてごらん」


「よし」


 武具の一つを置いて、片手剣で思いっきり叩く。


 ギィン! 


「剣が欠けた」


「武具に傷はついたかい?」


「付いてない」


「やはりオリハルコンで間違いないさね。強化鎧と組み合わせる事で、防御力は数十倍になるだろう」


「加工を始めるか」


「そうしよう」


 それから俺達は数日研究所に籠り、オリハルコンを組み込んだ強化鎧を作っていった。俺とメルナ、ヴェルティカ、風来燕の鎧を組み上げて並べてみる。


 メルナが言った。


「青いね! 綺麗!」


「確かに特徴的だ」


 そしてマージが言う。


「コハクや、鉱脈はどのくらいありそうだった?」


「湖底全体がオリハルコンだ」


「あり得ない事だよ。それが手つかずであるなんて、やはりコハクは予言通りの人間なのかもねえ」


「偶然だと思うが」


「いいや。必然さ」


 良く分からないが、必然なのか?


《因果律というものでしょう》


 ようやく俺達が屋敷に入ると、ヴェルティカが出て来て言う。


「やっと帰って来た!」


 何か嬉しそうだ。


「どうした?」


「ギルドから支払の物資が届いたわ! 屋敷には入りきらないから、工場へと運び込んでもらったの」


「来たかい! 早速、明日見に行かないとねえ」


「凄い量で驚くと思うわ」


 そうして俺達は久しぶりに屋敷で夜食を取る。並んだ食事は今までとは違い豪華になっていた。


 ヴェルティカが言う。


「やっと旦那様が帰って来たのだから、糸目をつけずに作ったのよ!」


「凄いな」


 胃袋に入ったら何でも一緒だがな。


《必要な栄養素が接種できれば、どのような形でも良いです》


 テーブルに座り、並んだ料理を食べ始める。確かに今までとは違い、とても味わい深いものとなっていた。そしてメルナが言う。


「おーいしー!」


 するとヴェルティカが言った。


「ギルドからの支払に、香辛料が沢山あったのよ! 薬に使われる前に、ちょっともらっちゃったわ」


 なぜかキラキラした目で、ヴェルティカが俺を見ている。


 なんだ?


《推測するに褒めてもらいたいのかと》


「美味いな。俺の帰りに用意してくれるなんて、嬉しいぞ」


 ヴェルティカの表情が明るくなる。


「そう? 良かった! もっと食べて!」


 ここに来たばかりの頃のヴェルティカの表情とは全く違う、不安のない笑顔だった。なぜか俺はその表情を見て心拍数が上がり、気分が高揚して来る。


《分泌物を制御します》


 俺の感情がまた冷静なものになる。


 分泌物の調整は必要なのか?


《正常な判断ができなくなる可能性があります》


 そうか…。


 これだけは何故か釈然としなかった。感情のコントロールという意味では問題ないのだが、素粒子AIと関係のないところで、俺の心は満たされない感じがするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ