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第百八十三話 未知の敵に備える同盟

 アーンは、見た目が少女だが中身は四十八歳で、人間でいうところの初老ぐらいだ。その為か俺達の話を聞いて、直ぐに理解をし判断をした。


「里のドワーフ達は納得をするのか?」


「うちの言う事は聞くべ。うちは星に導かれてここに来たっぺよ。そこでこの話を聞いてしまったのだから、それは運命というものだっぺ。直ぐに動いた方がいいっぺよ」


 何かを信じての行動らしい。


《種族的な物かと》


 なるほどな。


 鎧姿のメルナの、マージが言う。


「流石は天工鍛冶師、飲み込みと判断が早いようだ。コハクはこの提案を飲んだ方が良いねえ」


 そうなのか?


《エクバドル国、リンデンブルグ帝国で起きた事件からの予測演算の結果。あの炎の男アヴァリや、ルクステリアやグラドは先兵の確率が高いです。狙いは各地の古代遺跡であることは確定です。状況を踏まえても、マイナスにはなりません》


「わかった。ドワーフを受け入れる」


「わかったっぺ! じゃあ直ぐに里に行って来るっぺ!」


 それを聞いていたヴァイゼルが唸る。


「コハク卿も判断が早いようじゃな」


 アイドナが予測演算をした結果だ。判断にコンマ何秒もかからない。


 それから俺達とリンデンブルグ三名とアーンが話し合いをした結果、少しの時間も無駄に出来ないという事になった。リンデンブルグでは、石鹸やリンセコートや魔法薬の取引をすることで、資金援助を続けていくという事で決まる。アーンは急いでドワーフの里に戻り、仲間に説明をして民族移動して来ることが決まった。


 そこでウィルリッヒが言う。


「コハク卿、恐れながらよろしいですか?」


「ああ」


「誠に勝手ながら申し上げます。国に説明をするのに、男爵の姓名がないといささか説明がしずらいのです」


 するとアーンも言う。


「ドワーフの里に説明するにも、何男爵様と言ったらいいっぺか?」


 なるほど名前がいるのか。


《不必要ではありますが、ノントリートメントの社会ではそのようです》


 皆が俺を見て、ヴェルティカが俺に耳打ちをする。


「コハク。特産や地名などが苗字になったりするわ」


「なるほど」


 名はそれほど重要じゃないが…。


《簡単なものでよろしいのでは?》


 そこで俺は皆に向かって言う。


「この領地の名前は、リンセコートだ。俺の名はコハク・リンセコート。そして妻の名は、ヴェルティカ・ローズ・リンセコートだ」


 すると皆が嬉しそうな顔をする。


「おお! 素晴らしき名前です!」

「良い響きなのですじゃ!」


 そしてフロストが手を差し伸べて言う。


「改めて、俺はフロスト・スラ―ベルだ。姓名は鈴にちなんでいるそうだ」


「コハク・リンセコートだ」


 俺はフロストの手を取った。すると皆がその手に手を乗せて来た。


「うちはアーンだ。姓はないっぺ」


「よろしくな。アーン」


「わかったっぺ! 師匠!」


 皆の意思が固まり、直ぐリンデンブルグ帝国の奴らは帰って行った。そしてアーンもドワーフの里に行くと言うので、俺は屋敷に戻り風来燕に護衛を依頼する。馬と馬車を貸し出して、ドワーフ達を連れて来てもらうようにお願いする。


「それじゃあボルト。アーンを頼む」


「俺達は護衛が得意なんだ。任せてくれ」


 そう言えば出会った時も護衛をしていた。


「念のため、鎧と魔石を持っていけ」


「いいのか?」


「使用方法は分かってるな? フィラミウスは、寝る前に必ず魔石をチャージするんだ」


「わかっているわ。賢者様に教えてもらったとおりに」


「工場でアーンを拾って行ってくれ。ヴェルティカと一緒に、従業員達の為に製造工程を作っている」


「わかった。んじゃ行って来る」


「ヴェルティカから金をもらって行ってくれ」


「了解だ。メルナも、コハクとヴェルティカお嬢様をよろしくな」


「うん」


「賢者様も!」


「ああ。気を付けて行って来ておくれ」


 風来燕達は馬に乗り、馬車をひいて行ってしまった。そして俺はマージに言う。


「俺達は、書き溜めたスクロールと魔石を持って、オリハルコンの湖に行く」


「いよいよだねえ」


「後は秘密研究所でやりたい事もある」


「わかった」


「メルナも大変だけどよろしくな」


「うん!」


 そして俺とメルナが、使用人達に山に登る事を告げ、ヴェルティカに伝えておくように頼む。


「よし」


 直ぐに秘密研究所に行き、俺が強化鎧を着た。備蓄している食料と大量の魔石をそりに乗せて、強化鎧を着ているメルナに言う。


「メルナもソリに乗れ。俺が引いて行くから、ゆっくり寝てても良いぞ」


「わかった!」


 そしてソリをひき、レーザー剣とジェット斧を背にする。片手剣を腰にさしナイフを腰にぶら下げて秘密研究所を出た。既に夕方に近い時間になっていたが、時間が惜しいので俺達は森を急いだ。


 マージが言う。


「先行して動いていると思ってたけど、のんびりしすぎていたのかもしれない」


「国への先兵の進入を許しているからな。突発的に出た化物だと思っていたが、まさかどこかから、様子見に来ていたとは思わなかった」


「なぜに、古代遺跡ばかり狙うのかも分からないしねえ」


「ああ。狙いは間違いなく古代遺跡ではある」


《ヴァイゼルはギアノスという国の名をあげてましたが、真の相手はそれではありません。あの武器や古代遺跡を見る限り、その文明力があれば大陸を超える事はそれほど難しくはないはず。敵は恐らくギアノスを起点にした、なにかである可能性が高い》


 ギアノスを起点にしている何か? いったいそれはなんだ?


《コロニーが関係している確率が百パーセントです》


 百パーセント?


《この地上にあの古代文明が生きているとすれば、この国の文明の状態はあり得ません。ギアノスもそれほど発達していないと推測します》


 確かにそうだ。あの機械文明ならば、大陸間の移動に航空機があってもおかしくはない。


《それが来ていないという事は、まだ船で移動するのがようやくという事です。ただしあのワームホールは別です。大量に運ぶ事は難しくても、一つの都市を魔獣だらけにすることはできる。あの強化された人間達は、コロニーに関連していると予測されます》


 俺はマージとアイドナからの情報を聞きながら、オリハルコンのカルデラ湖へと到着するのだった。単独で登頂すると、一時間もかからずに頂上に辿り着く。


「日が沈むねえ」


「関係ない。作業を始める」


 俺は、満タンの魔石を包んだスクロールの入った背負子を背負う。魔石は鎧や部品などを記した製図と一緒になっており、水中で変化するオリハルコンを加工する事が出来るはずだった。


 そしてメルナとマージに、火口の近くに作った避難所へと隠れているように言う。そこはかなり堅牢に作られていて、地下には隠れる為の鉄の地下室がある。


「気を付けるんだよ」

「コハク! 気を付けてね!」


「俺は問題ない」


 そして酸素のスクロールを鎧の中に入れ、マスクを密閉して坂道を上る。


「いくぞ」


《龍翔飛脚》


 身体強化を施し、思い切り坂道を走って湖の中央までジャンプする。


 ドボン!


 重い背負子に引っ張られて、俺は湖の底へと沈んでいくのだった。

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