表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/308

第百八十二話 情報のすり合わせ

 突然のマージの登場に、ウィルリッヒとフロストとヴァイゼルが畏まっている。目の前にいるのはメルナだが、話しているのはマージ本人。メルナがフルの鎧を着ているのと、小さな背格好でマージが生きていると勘違いしているのだ。


「もう目も見えてないんだよ。声を聞く限りじゃあ、随分と歳をとったんじゃないかいヴァイゼル」


「そうですなあ。もうだいぶ、耄碌しておりますがな」


「わざわざ、隣国まで来るって事は、さっきの話は本当なんだろうねえ?」


「聞こえておりましたかの?」


「あたしの耳をすり抜ける事は出来ないさね」


「は、はは!」


「ヴェルや。話が話だし、人払いをしないとねえ」


 そこでヴェルティカが言う。


「分かったわ。ばあや」


 ウィルリッヒが答える。


「わかりました。ではおっしゃる通りにいたしましょう」


 そしてヴェルティカが。部屋を出て工場の人達に言う。


「みんな! ごめんね! 今日の仕事はここまで! また明日お願いします!」


「「「「「はい」」」」」


 ウィルリッヒも従者達に言う。


「皆! 外で待っておれ!」


「「「「「は!」」」」」


 そして従業員とリンデンブルグの従者達が、ぞろぞろと工場を出て行った。静かになった工場内に俺達だけが残り、さっきの話の続きをする。


「では話の続きをしようじゃないかねえ」


「よろしくお願いします」


 ウィルリッヒ深々と頭を下げた。そしてマージが言う。


「ヴァイゼルや。うちは本当に、その話を信頼しても良いんだね?」


「嘘偽りなどございません。それに、マジョルナ様も視たのではございませぬか? だからこそこのコハク卿をお見つけになった、違いますかな?」


「そこまで、はっきりした事ではないねえ」


「どういう事でございますかな?」


「厄災を退ける者が現れると思うて、ヴェルティカを王都にやって、連れて来たのがコハクさね。それからの活躍ぶりを見るに、それが真実であるだろうと思っとる」


「そうだったのですね」


「そしてそこに、リンデンブルグの王族のお出ましとあっては、いよいよ真実味が帯びて来たと言ったところかねえ」


 ヴァイゼルが深く頷きながらもマージに聞いて来る。


「わしらが来たのは必然じゃと、そう言う事ですかな?」


「そうじゃ」


 すると、ヴァイゼルがウィルリッヒに言う。


「では、こちらも全ての真実を話す事に致しましょう。殿下」


「わかった。では調査結果の全てをお伝えしましょう。我々がそれを察知したのは、およそ二年前です。ゴルドスおよび、近隣諸国に入っている密偵がおかしな動きを捉えました」


「おかしな動きとは?」


「ゴルドス国が、近隣の大国に対して宣戦布告をする予定がありそうだと」


「なるほどねえ。それを二年前に掴んでいたのかい」


「ええ。だが蓋を開けてみれば、我が国ではありませんでした。なんと奇襲攻撃をかけられたのは、そちらのエクバドル王国。隣国の争いに、我々リンデンブルグが介入する事は出来ませんし、もちろんするつもりもございませんでした」


「そりゃそうだ。隣国同士の喧嘩に首を突っ込むのは、同盟国くらいのものだからねえ」


「そうです。しかも謎の魔獣の襲来で壊滅した都市であれば、容易く侵攻を許し領土を取られるものだと思っておりました。しかしながら、なんとそのゴルドスを追い払ったではありませんか」


「随分、人の国の事情に詳しいんだねえ」


 すると、ウィルリッヒとフロストもバツが悪そうな顔をする。


 だがマージが付け加えて言った。


「まあ、お互い様という所だろうねえ。お互い密偵は入れているのだろうから」


 ヴァイゼルが笑ながら言う。


「マジョルナ様。あまり苛めんでください」


「すまないねえ。性分のようでね、だけどこうやって王族と剣聖、賢者までが来ているんだ。本気も本気だと言うのは、こちらも百も承知。なぜコハクに直接、言いに来たのか当ててやろうかい?」


「そ、それは」


「切羽詰まってるんだよねえ? その兆候があんたらの国でも現れ始めている。だから国同士の話し合いなどしていたら間に合わない。幸いにもコハクは素性が分からないし、出来る事ならコハクをリンデンブルグに吸収したかったんだろう? だが既にヴェルティカと一緒にいる事を選んだ。なら取るべき道は、直接取引をして既成事実を作り近づいたところで話をする。裏取引みたいにしているのは、国家同士のやりとりをしたくないからだ。そうだろう?」


 ウィルリッヒが諦めたように答える。


「さすがお察しの通りです。実は…我がリンデンブルグの辺境の都市が、一夜にして消滅してしまったのでございます」


「消滅?」


「都市のあった場所には大穴が空いており、人も建物も吹き飛んで無くなっておりました」


 アイドナが俺に言った。


《古代遺跡の暴走。あるいは自爆の可能性が高いです》


 リバンレイの山が吹き飛んだようにか…。


《そう言う事です》


「そりゃ一大事だねえ」


「それらを踏まえても、無関係だとは思えません」


「そうだねえ」


 そしてマージが俺に言った。


「リバンレイの話をしてもいいだろう」


「わかった」


 ヴァイゼルが髭を撫でつけながら聞いてくる。


「リバンレイの話とは?」


「実は、リバンレイ山に古代遺跡というものがあったんだが、そこが爆発して山の形が変わったんだ。恐らくその消えた都市は、似たような爆発にあったのだろう」


「そのような事が……」


 するとマージが言う。


「なんだい、それは知らないのかい?」


 ウィルリッヒが答えた。


「国家がらみの件ならば密偵も動きますが、個人に対しての捜査はなされません。それにリバンレイに単独で登れる密偵などおりませんよ」


 それはその通りだろう。


「そしてもう一つ、俺達は王都で会ったような、恐ろしい力を持った人間二人に会った。そいつらも、あの火炎男のように凄まじい力を持っていた」


 それにはフロストが身を乗り出してくる。


「な、なんだと? あんなものがもう二体も! 火炎の男じゃないのか?」


「違う。別の個体だ」


「それで?」


「俺が二体とも殺した」


「あんな化物を二体も相手にして、殺しただと?」


「そうだ」


「例の風来燕とか言う冒険者も一緒か?」


「いや、一緒にはいたが彼らでは危険だったので、俺が一人で始末した」


 そう言うと、ウィルリッヒとフロストとヴァイゼルが顔を見合わせて頷いた。


「やはり…尚の事、協力をお願いいたしたく思います」


 それを聞いてマージが言う。


「確かに由々しき問題だねえ。だが、万が一あのような者達が軍隊を率いてきたら、流石のコハクでも直ぐに殺されてしまうさね」


 フロストが俺を見る。俺にもどうなるか分からない。するとアイドナが俺に言った。


《マージの言う通りでしょう。あの個体が数千と攻めてきたら、どうする事も出来ません》


「賢者の言うとおりだ。あれが大群で攻めてきたりしたら、勝てるはずがない」


「そうか…コハクでも無理か」


 だがマージが代わって話す。


「悲観するものではないよ。対策をうちながら、来たるその日に向かって準備をすればいいのさ」


「準備ですか?」


「幸いにも、コハクにはその準備ができる。いずれにせよ、国の小競り合いなんかしてる暇もない。そんな事をしていたら、あっというまに蹂躙されてしまうだろうからね。正体不明の相手は、まだ本格的に攻めて来てはいないようだ。ならば来たるその日に向けて、準備をすればいいさね」


 ヴァイゼルも頷いた。


「大賢者様なら、そうおっしゃると思っておりました」


「うむ。だがねえ…」


 マージが言葉を濁すと、ウィルリッヒが感づいたようにう。


「資金繰りでございますね?」


「それと、人夫さね。とにかく圧倒的に人手が足らない。それを急遽集めなければならないねえ」


 そこに…。


 コンコン!


 ノックがされた。誰もいないと思っていたので、皆が驚いた顔をする。


「どうぞ」


 ヴェルティカが言うとアーンが入って来た。


「人払いしてみーんないなくなっちまったから、話が筒抜けだっぺ」


「あ…」


「いやいや。大変だっぺな! そうなれば、うちらの里も無くなってしまうっぺよ!」


 どうやらアーンに聞かれてしまっていたようだ。するとアーンが深くお辞儀をして言う。


「どこぞの王子よ。そうなったらドワーフの里も危ないっぺよ?」


「そうなりますね」


「なら、うちも話に混ぜてもらえねえべか?」


 突然の飛び入りに、俺達はどうするかを考える。だがマージが言う。


「あたしは、いいと思うねえ」


 ヴァイゼルも言った。


「わしも大賢者様と同意見じゃの」


 二人の賢者がそう言い、俺達に反対意見などある訳がなく、アーンも話に入る事になった。


「人夫の話だっぺ? 師匠が許してくれるなら、ドワーフの里をここに移住させたいっぺ。今の話を聞けば、師匠が厄災を退けてくれるっぺよ! ならうちは、それを助けるために来たんだと思うっぺ!」


 突然の提案に俺達は言葉を失うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ