第百七十八話 ダンジョンの正体
地下二十層の鉄製のドアのそばにはパネルのようなものがあり、それを見てアイドナが言う。
《動力を感知。この施設は稼働しています》
開けられるか?
《パネルに触れてください》
俺が籠手を外し、パネルに指を触れるとアイドナが勝手に手を動かした。
《開きます》
鉄の扉が自動で左右に開いて行く。それを見てボルトが言った。
「なんだ? 魔法か?」
もちろん風来燕達は自動ドアというものを知らないので、魔法に感じるのだろう。俺達が中に入ると、自動ドアは勝手に閉まった。
「こりゃあ…」
そこは、王都の地下やリバンレイにあった古代遺跡のような場所だった。
「古代遺跡だ」
俺が言うとマージが反応する。
「なんだって? こんな所にもあったのかい!」
「だが今まで見たのとは少し違う」
そこには重機のようなものが置いてあり、動力が通っているようだ。だが動く気配はなく、ただそこに無造作に置いてあるような感じだった。そして機械の奥に、また操作パネルのようなものが見える。
「調べてみるか」
俺がもう片方の籠手を外し、両手を大きなパネルにつけると、アイドナが勝手に操作を始めた。しばらく解析をしてからアイドナが言う。
《これは、避難用シェルターを作るためのものです》
シェルターを作る?
《この世界のノントリートメントは、こういった階層洞窟をダンジョンと言っていますが、本来は避難用シェルターとして作られた物のようです。この部屋に置いてあるのは、削岩機や穴を掘るための重機。洞窟のようにむき出しなのは、まだ製造途中で放棄されたからです》
シェルターという事は、人がこれを作ろうとしたという事か?
《滅びた文明があるのでしょう。身を守るために作ったシェルターです》
その文明に残された施設という訳か。
《はい。その跡地に、魔獣が住み着いた物がダンジョンと呼ばれていると思われます》
魔獣は何処から来たんだ?
《不明です》
そこで俺はマージに聞いてみる。
「マージ。魔獣っていったいなんだ?」
「なんだ知らなかったのかい? 風来燕は知っているだろう?」
「魔獣は、ダンジョンが生むとしか知りませんぜ」
「うーん、まあそうだね。龍や魔獣ってのは、元は普通の動物だったりするもんさ。生まれた時に地中深くに出ると、その魔力が体に蓄積して魔石が出来てしまう。魔石が出来た魔獣から生まれた子供は、生まれながらにして魔獣になって、魔力を吸い込み始めるんだ。それが何十年、何百年と経過して強い個体になったりするのさ。だから地中深くや山の噴火口の近くになんかは、地龍や龍が発生するんだよ。次第に魔獣の数が増えて、それが外に出始めると、森にも魔獣が増えて来るって寸法さね」
風来燕も興味津々に聞いていた。そしてボルトが言う。
「えっと…って事は、龍はもとは蜥蜴? 何世代にもわたって龍になって、それが何百年も経ってあのデカい龍になるって事ですかね?」
「おっ。珍しく物分かりが良いねえ」
そこでアイドナが答えを導きだした。
《地殻の下のマグマに、魔力が含まれていると想定されます。地中深くや火口のそばでは、その魔力に近いために強い個体が発生してしまう。長い間に魔力が蓄積され、その力が強くなるというのは理にかなっています》
そして俺はもう一度マージに聞く。
「龍などが長生きなのは魔石のためか?」
「そのとおりさね。ちなみに言うと、魔法使いも比較的普通の人間より長生きなのさ」
「なるほどな」
そして俺は再びアイドナに聞いた。
この施設は他に用途があるのか?
《データをすべて読みこみましたが、他に用途は無いようです》
なんでシェルターを作った?
《回収したデータでは、深くまで掘る必要のある災害が起きたもよう》
古代の文明人は、何かの災害から逃れるために、このシェルターを作った。それで間違いなさそうではある。
《地下にシェルターを掘り進めば進むほどに、強い魔獣が発生してしまった。それが古代人を絶滅させた理由ではないかと推察します》
魔獣で住めなくなったという事か。
《宇宙に生活空間を求めた。コロニーが浮かんでいるのはその為かと》
確かか?
《これまでの古代遺跡から収集したデータからも、その可能性が一番高いようです》
もっと正確なデータが取れないか。
《コロニーに行くか、世界のどこかにコロニーの中継基地がある可能性があります。そこならば正確なデータが回収できるかもしれません》
そこに行けば真実がわかる?
《確実でしょう》
まず、ここはどうするかだな?
《主は殺してしまいましたが、普通の冒険者には討伐不可能な魔獣が居る階層がありました。全てを殺傷しているわけでは無いので、それらにこの施設を守り続けさせれば良いのです》
ほっとくという事か?
《必要な魔石は回収できています。ここの重機は使えますが、冒険者達に見られるのは避けたいです。現存する主級の魔獣が居れば、冒険者が古代遺跡に到達する事はありません》
走って無駄を省いたのが功を奏した訳か。もしかしたらそれも想定済みか?
《未来演算により推測はしておりました。一階一階をきっちり潰す必要はありません》
わかった。
そして俺がボルトに言う。
「んじゃ、帰るか? 冒険者達が心配している」
「なんて報告するんだ?」
「十階層以下には強い個体がごろごろしていて、そいつらを全て壊滅させるのは難しいと」
「まあその通りだけどな」
「俺達が必要な魔石は集まったから、これ以上このダンジョンをどうこうする必要はない。だがいつかここにある機械を回収したい。これらはかなり使えるものだ」
「そうか。それのほうが骨が折れるな」
「俺達が多少間引きしたから、スタンピードの可能性は低いとでも言っておこう」
「了解だ」
そして俺達はその施設を出た。自動ドアは閉まり、それを見たボルトが言う。
「つーか、この扉を開ける事もできないだろうな」
「そうだ。これは特殊な物だからな」
「んじゃコハクよ! 魔石と高そうな素材を回収して出るか! 持てる数が限られるがな」
「それにも考えがある。まずは地龍の所に行こう」
「わかった!」
「わかったわ」
「こんな物騒な所、早く出ようぜ!」
そして俺達は地龍の死骸の所に行く。俺はレーザー剣を取り出した。
「コイツの骨とウロコを使って、そりを作る。それに素材を乗せて帰る事にしよう」
「地龍でか?」
「この剣ならば、硬いウロコが簡単に切れるからな」
「マジで、その魔剣は使えるよな」
「ああ。これのおかげで、かなり効率が上がる」
シュパシュパとレーザー剣で地龍を斬って、骨を編めて縄で束ね、岩のような甲殻でそりを作っていった。鋭い牙がいい具合に足となり、俺達はそのそりに縄を括り付ける。
「良し! 素材と魔石を積んでいくぞ!」
「「「おう!」」」
それから俺達はゆっくりと、そりを引っ張りながら上階へと向かっていく。
だが上階に行って、一つの変化を感じ取っていた。それについてベントゥラが言う。
「なんか魔獣に一切会わねえんだが」
それにマージが答えた。
「当然さね。地龍の骨と肉と皮で作ったそりを引いてるんだからねえ。地龍匂いを嗅いで、魔獣なんか近づいて来るもんかい」
「そう言う事ですか」
おかげで無駄に魔獣を殺す事も無く、俺達はスムーズに上に向かって登っていくのだった。