第百七十五話 ダンジョン攻略開始
久しぶりに冒険者ギルドで、ギルドマスターと会う。ギルドマスターは期待するようなまなざしで見つめ、詳細を告げ始めるのだった。
「前回は、まだ依頼するに至ってなかったが、調査が終わりいよいよ依頼できる状態になった!」
「解決できない依頼があると言っていたのは、ダンジョンだったんだな」
ボルトも興味深々の顔をしている。俺は良く分からないので、横で腕組みをしながら二人の話を聞いているところだ。フィラミウスもベントゥラも、こういう事はボルトに任せ静かに話を聞いている。
「そうだ。あんたらが来る一ヵ月前くらいに見つかったダンジョンなんだが、南に行く峠から逸れた谷底で発見されたんだ。その影響もあり、峠には普通でない魔獣も出現するようになってな、ギルドとしては仕事があるからいいが、流石にダンジョンを野放しにできない」
「攻略しようとはしなかったのかい?」
「したが、そのダンジョンは地下に広がっていて、奥に行くほど強い魔獣が居るんだ。うちのギルドに登録している冒険者だけでは、せいぜい地下三階層が限界なんだよ。何階層まであるか調べようと、斥候を送ってみたが、五階が限界ですぐに戻って来たってわけだ」
「なるほど。それで俺達って訳か」
「そうだ」
「依頼の達成条件は、依頼書通りか?」
「そうだ。まずは地下四階層と五階層にどんな魔獣が居るのかを調べる。あとは地下五階層以下にも、更に階層があるのかを調査してほしい。スタンピードの兆候なんかが見つかったら、流石に周辺のギルドに通達して応援を要請せねばならん。危険な魔獣が居ればなおの事だ」
「わかった。依頼書通りだな、ならちょっくら行って来る」
「うちの最高位のBランクパーティーを二パーティーと、Cランクパーティーを三パーティー同行させる。三階層迄の露払いは任せてもらいたい」
「なるほど。それだけ危険視してるって訳か」
「そうだ」
そこでボルトが俺に言った。
「と言う事でさあ。お館様、いいですね?」
「依頼条件は必ず達成してやる。それ以上の仕事をした時はどうなる?」
「もちろん、それに準じた報酬をお支払いします」
「契約は?」
「こちらです」
そう言ってギルドマスターが書類を出して来たので、俺はそれを懐にしまった。
「契約成立だ。こちらの冒険者を守っている余裕はないかもしれんから、三階層以下には潜らせるな」
「わかりました」
そして話し合いが終わった俺達が、エントランスに降りていくと、今回同伴する冒険者達が待っていた。既に神殺しと王覧試合優勝の情報が回っているのか、緊張しながら俺達を遠巻きに見ている。
そこでボルトが言った。
「さて、風来燕のボルトだ。今回一緒にダンジョンに潜らせてもらう。みな怪我のないように、無理をせず頑張ろう! 気軽に話しかけてくれ!」
「「「「「おう」」」」」
ボルトに声をかけられて、皆が緊張気味に答えた。
俺達は行列を作り、都市を抜けて南の街道へと出る。全員が馬車を持っているわけでは無く、便乗して乗り込んでもらう事にする。俺達の大きな二頭立ての荷馬車は辺境伯の物なので、そこそこの人数が乗る事が出来た。
するとCランクパーティーのリーダーが聞いて来た。
「王覧武道会で、剣聖二人を下したというのは本当なのか?」
「本当だ」
「凄い!」
すると他の冒険者がボルトに聞く。
「リバンレイ山では何があったんです?」
ボルトが俺をチラリと見る。
「話してやれ」
「あー、古代遺跡を見つけたんだが、そこが大爆発を起こして山の形が一部変わっちまった。まるで神の怒りに触れたような爆発だったから、神殺しって二つ名をつけられたんだ。本当に神殺しをしたわけじゃないぜ」
「でも、そんな爆発から生きて戻ってきたんだな」
「まあ、そうだな。死ぬほど走ったぜ」
「凄い」
ボルトが真実を語ったが、それでも尊敬のまなざしで見られているようだ。
「聞いて見りゃ、大したことねえだろ?」
「いや。だってリバンレイ山の山頂付近まで登れる人がいるなんて、そんなこと誰も信じてなかったから。行ったとしたら大部隊を引き連れて行ったんだろうって、皆が言ってる」
「そりゃ間違いだな。登ったのは六人。風来燕とこのお館様と、あとお館様の妹さんだ」
「六人! 六人でリバンレイに登ったんだ!」
「まあ…そうだな」
「今回のダンジョンも期待できますね!」
「あんま期待しねえでくれ。ダンジョン潜るのも久しぶりなんだ」
「露払いは任せてください!」
「おう」
そうして俺達の一行は、ほぼ半日かけて峠の宿場町へと到着した。男爵領を出発して丸二日が経っており、町に到着したころにはあたりが暗くなっていた。
「今日はここで一泊だ! 明日の夜明け前にここを出発する! 皆はそれぞれの場所で休んでくれ! このあたりなら野宿も大丈夫だろう」
ボルトがそう言って、冒険者達が解散した。俺達も、そのままこの馬車で雑魚寝する事になる。辺境伯の大きな馬車は、人が四人寝ころんでも余裕があった。
「大部隊だからな。酒を飲んだりするやつもいるだろう」
「俺達はどうする?」
「寝るよ」
「寝るわ」
「寝るぜ」
三人の意見は一致した。それだけダンジョンに潜るのが楽しみらしい。
周りに人が居なくなったので、マージが言う。
「ボルト達も、ずいぶん楽しみなようだねえ」
「そりゃ賢者様。ダンジョンと言えば、心躍りますぜ」
「冒険者だもんねえ。あたしも楽しみだよ」
「賢者様とコハクがいて下されば鬼に金棒ですぜ」
「まあ無理はするんじゃないよ」
「「「はい」」」
風来燕が横になったので、俺もごろりと寝転がる。
《睡眠のコントロールをします》
ああ。
アイドナは俺を深眠させ、二時間程で目覚めさせた。それからしばらくはそのまま、そこで待ってる事にする。風来燕はまだ寝ているようなので、起こさないようにじっとしていた。
《情報によれば深層に行くほどに、強い魔獣が居るようです》
そのようだ。大きな魔石が取れると良いんだがな。
《万が一取れなくても、帰りにギルドで買いとれるだけ買いとりましょう。それだけの資金は渡されています》
そうだな。それに依頼達成すれば、金ではなく魔石で払ってもらってもいい。
《そのとおりです》
それから数時間で、空が薄っすらと色づいて来た。
「ボルト、フィラミウス、ベントゥラ。起きろ」
「おっ! 時間か」
「ああ」
「楽しみだわ」
するとベントゥラが言った。
「他の冒険者を見て来る」
「頼む」
そうして冒険者一行は、峠に向かって登り始めるのだった。それから半日が過ぎて、Bクラスの冒険者が俺達に言った。
「もう少し先に、馬車の待機所が作られています。そこに馬車を置いて、谷を下ります」
「了解だ」
馬車の待機所には小さな小屋もあり、連れて来たC級冒険者の一パーティーが、馬車を見張る事になっている。
「装備をしろ」
「「「おう」」」
全てを装着したところで、俺がフィラミウスに言う。
「マージの収納がある。そこにマージを入れろ」
「わかったわ」
そしてマージをフィラミウスの鎧に組み込んだ。
全員がフル装備の新型強化鎧を取り付け、大きな魔石が入っているバックパックを背負い、俺はジェット斧を背負い腕の仕込みにレーザー剣をしまう。腰には二本の片手剣を差しこんだ。
フル装備の俺達が馬車から降りると、冒険者達が感嘆の声や感想を漏らした。
「やはり、ただもんじゃねえ雰囲気が出てる」
「見た事の無い鎧だけど、思ったよりシュッとしてて装甲が薄そうだが……」
「それで魔獣の攻撃は防げるのかい?」
「随分と重そうな武器だが、それで戦えるのか?」
俺のジェット斧や、ボルトの大剣を見て言っている。もちろん強化鎧を着ているし、武器にも魔力が込められているので重さなどあまり感じない。
「問題ない。行くぞ!」
「「「「「「「「おう!!!!」」」」」」」」
俺達は急な崖を下りていくのだった。