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第百六十九話 売り込みと身内の情報共有

 俺達がリンデンブルグの王子ウィルリッヒに話した内容は、俺達が持っている情報のほんの触りの部分しかないはずだった。だがウィルリッヒは恐らく、俺達がまだ何かを隠し持っていると睨んでいる。


 そしてアイドナが言った。


《ウィルリッヒのステータスです》


名前  ウィルリッヒ

体力  83

攻撃力 71

筋力  85

耐久力 68

回避力 43

敏捷性 39

知力  375

技術力 61


 知力が異常に高いな。


《はい。他のステータスは冒険者に、プラスアルファ程度のようです》


 守りは全て、剣聖フロストに任せているという訳だ。


《知力はあのルクスリアの倍です》


 そんなに賢い行動をしているようには見えないが。


《いえ。全て分かっていての行動のようです。相当の思考力だと思ってください》


 賢くないふりをしているという事か?


《そのようです》


 ウィルリッヒはいろんな意味で、今まで出会ったどの騎士よりも弱い。だが間違いなく、トップクラスで注意しなければならない人物のようだ。


 そしてヴェルティカが言う。


「殿下。本日はこちらにお泊りになりますか?」


「新婚さんの家に泊まるほど無粋ではないよ」


「ですが、この男爵領には宿泊施設などはありません」


「良いんだ。今日はいい話がいっぱい聞けて良かったよ。これからいろいろとよろしく」


 ウィルリッヒが手を出したので、俺がその手を握って返す。


「よろしく頼む。貴国にも利益が出るようにこちらでも考えておく」


 するとその時だった。コンコン! とドアがノックされる。


「はい」


 入ってきたのはメルナだ。俺に向かっておいでおいでしている。


「ちょっと失礼する」


 そして俺はメルナと一緒に出た。廊下の端の方に行って、俺にメルナが小箱を渡す。


「マージが、これももたせてみてって」


「これは?」


 するとバッグの中のマージが言う。


「軽石粉と薬草をオリハルコン湖の水で練ったものに、花びらとハーブで香りと色を付けたのさね。それを乾燥させて固めた石鹸だよ」


「試験はしたのか?」


 するとメルナがバッグからむき出しの石鹸を取り出す。そしてマージが言う。


「昔ながらの製法だから問題はないさね。ちょいと違うのは、あたしが調合した良い薬草とオリハルコン湖の水を使ったってところかねぇ。だからヴェルに、二人の前で実演させてみな」


「ヴェルティカに?」


「あんたは……、ヴェルティカの変化に気が付いてないのかい? 全くそう言うところは疎いんだねえ……。ヴェルはとっくの前から使ってるよ。肌の色つやを気が付かないのかね?」


「えっ」


《確認しておりました。ヴェルティカもメルナもフィラミウスも、皮脂の状態が良くなっています》


 なんでそれを俺に言わない。


《生存の為に必要な情報ではありませんでした》


 そうか…そうだな。


 そして俺はその石鹸を持って部屋に戻った。流石は辺境伯の娘だけあって、王族相手にしても話を途切れさせてはいない。ずっと談笑をしていてくれたようだ。


「お待たせした」


 ヴェルティカが俺に聞く。


「どうしたの?」


「これも、もたせようと思ってな」


 それを見てヴェルティカがハッとした顔をする。


「えっ……これを」


 するとアイドナが言う。


《表情から推定するに、これは出したくなかったと思っているようです》


 なんでだ?


《わかりません》


 だがウィルリッヒは目を光らせた。


「これはなんです!」


 そこで俺はヴェルティカに言う。


「ヴェルティカ。実演してみてくれ」


「わかったわ」

 

 ヴェルティカが呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び、水がめとタライを持って来させた。


 ちゃぷ。


 それで手を濡らし、特性の石鹸を取って手に擦り付ける。手をこすり合わせると、あっという間に泡が膨らんで来る。


「石鹸ですか! 随分泡立ちのいい」


「はい。これも試作品として作っております」


 ヴェルティカは諦めたようだ。そしてヴェルティカはウィルリッヒに言う。


「どちらかのお手をお出しいただけますか?」


「はい」


 ウィルリッヒが右手を出すと、ヴェルティカが泡をつけて洗う。そしてパシャパシャと水をかけて言った。


「お比べください」


 ウィルリッヒが右手と左手を比べて目を丸くする。


「白い。汚れが取れている」


「美白効果がありますし、汚れが抜群に落ちるのです」


「凄い」


 そして俺が小箱を差し出した。


「これをやる」


「ありがとうございます」


 そしてヴェルティカは、さっきとは違って自信満々に言った。


「皇妃殿下にぜひ」


「わかりました。お土産までいただいてありがとうございます」


「きっと気に入っていただけると思います」


「ですね」


 そして話が終わり、ウィルリッヒとフロストは挨拶をして帰って行った。玄関を締めて、ヴェルティカがつかつかとメルナの所に行く。


「ばあや。あれ出しちゃったの?」


「いけなかったかねえ」


「まあ…いいけど。まだ使って数日だから、何かあったらどうするのよ」


「どうにもならんさね。だって今まで通りの製法に、薬草と湖の水を加えただけだからね」


「その湖がまだ不明でしょ?」


「あら? コハクは毒性がないって言ってたけどねえ」


 ヴェルティカが俺に振り向いて言う。


「本当よね?」


「問題は無かった。だが体力回復の成分は含まれている」


「それが…問題なのよね。これって皮膚も回復してるわよね」


 マージが言う。


「まあええじゃろ」


「ええじゃろって…何事もないことを祈るわ」


 なるほど、ヴェルティカ達は自分らで安全性を試験していたらしい。今のところ悪いところは無いようだが、いきなり出すとは思っていなかったのだろう。


 そしてマージが言う。


「リンセコートと薄めた魔法薬だけじゃ、高級すぎて大きく拡大出来ないんだよ。だけどあの石鹸なら元手がほとんどかからないからね、大量に売るならばあれが一番さね」


 するとアイドナが言った。


《マーケティングの基礎です。まずターゲットが明確ですし、さらに低価格な商品を購入してもらうことで、心理的なハードルを下げ、より高価な商品への抵抗感を減らすつもりでしょう》


 あの石鹸からリンセコートに繋がるのか?


《リンセコートは生活に直接の関係のない贅沢品です。リンセコートだけではリーチが悪いですが、石鹸ならば、中流以下の貴族にもいきわたるでしょう》


 そこで俺がマージに聞く。


「マージ。あの石鹸は広がりそうか?」


「ヴェルの状態からすればねえ。っていうか…あんたら夫婦だろ! それを実感するような事を何もしてないのかね!」


「な、何を怒っているんだマージ」


「なにもかにもないよ! とっくにその石鹸の効果を共有してるもんだと思ってた。まったく! ヴェルもヴェルだよ。いつまでもお子様じゃないんだよ!」


「わ、わかってるわ」


 俺がヴェルティカを見て聞いた。


「マージは何を怒っているんだ?」


 だがヴェルティカは真っ赤になって黙りこくっている。


 マージに叱られてがっかりしているようだ。


《いえ、むしろ恥ずかしいという表情と状況です》


 はずかしい? 


 俺はマージに聞いた。


「石鹸の使用感を、話し合ってなかったことがそんなに変なのか?」


「あきれた……。話し合うもんじゃないだろそんなもん。あんたら夫婦なんだから、少しはその辺り相談するとかしなさいな」


「…わかったそうする。ヴェルティカ、なんかごめんな」


「う、ううん。いいの、ばあやもばあやよ! まだ男爵になって間もないんだから、コハクだって私だって忙しいのよ。そう言うことは急かす物ではないわ!」


「ま、夫婦の事は夫婦で話しな」


 するとメルナが聞いて来た。


「なんで怒られたの?」


「良いのよメルナ。これは私とコハクの問題なんだから」


「ふーん」


 やはりノントリートメントというのは厄介だ。共有がかかっていない分、コミュニケーションを重視しろという事なのだろう。俺はまたノントリートメントの不思議な感情を知った。


 そして俺がヴェルティカに言う。


「まずは。石鹸の使用感について良く話をしよう」


「わかったわ……」


 するとマージが言う。


「なら二人きりでやりな。メルナは遠慮するんだよ」


「わかった」


 何故二人で使用感のチェックをしなければならないか分からないが、賢者が言うのであれば何らかの理由があるのだろう。俺はそう思うのだった。

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工場で子供が造られる世界出身だもんね~ 性の悦びを知ってしまったらどうなるかなデュフフ
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