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第十六話 騎士の稽古に参加してみる

 朝になり俺は日の出とともに目覚める。すると既にマージは起きているようで、台所からコトコトと音がした。料理を作っているのか良い匂いが漂って来る。俺の隣りのベッドに寝ていたはずのメルナもどこかに行ったらしく、既に部屋にはいなかった。


 なぜ起こさなかった?


《あなたの体力の回復が最優先でした。心身ともに疲労しており、周囲に危険性も無かったためそのまま眠ってもらいました》


 勝手に決めるな。


《次は起きたい時間を教えておいてください》


 いずれにせよ、メルナが俺から離れるとは驚きだ。昨日までは俺にべったりくっついていたが、夜から少し雰囲気が変わっていた。服を着た俺が台所に行くと、料理を作るマージをメルナが手伝っている。


「あ。コハク」


「おはようメルナ」


「おはよ」


「おや、コハク。眠れたかい?」


「ああ。ぐっすりとな」


「よかった。朝ごはんにするよ」


 そしてメルナがマージを手伝い、食卓に料理を並べ始める。何かの加工された肉と卵、そしてパンが並べられ、野菜が浮かんだスープが置かれた。


「食べな」


 俺とメルナが朝食を食べ始めると、マージが俺に言う。


「何かしたいことはあるかい?」


 したい事? 今は生存の為に食う事だが。


《身体の強化をおすすめします》


「そうだな。体を鍛えたい」


「そうかい。それじゃあ、ビルに訪ねると良いね。マージから行けと言われたって言えば、良くしてくれると思うさね」


「ビル?」


「ビルスターク。騎士長がいただろう?」


「ああ、ビルスタークか。じゃあ訪ねてみる」


 俺とメルナが朝食を食べて片付けが終わると、マージが屋敷の離れにある兵舎へ行くように言う。言われたとおりに俺が行こうとすると、メルナも一緒について来た。


「マージの所にいていいんだぞ」


「行く」


 メルナはマージに気を許しているようだが、それでも俺から離れるのは嫌らしい。とりあえず俺はメルナを連れて敷地内を歩いて行く。言われたとおりに敷地内を行くと、庭師やメイドが働き始めていた。そいつらは、突然現れた俺を見て不審な顔をするが、特に何もしては来なかった。


 ノントリートメントなのに平和なものだ。


《人はもともと攻撃的な生物ではありません》


 だがヒューマンじゃないと殺し合いをするだろう?


《恐らくこの世界でその概念は通用しないかと》


 なるほどね。

 

 屋敷の前を過ぎるのにも、そこそこ時間がかかる。それだけこの敷地は広いのだ。ようやくそれらしき建物が見えて来て、その前の広場では騎士達が剣を振っている。俺とメルナがそこに行くと、素振りをしている騎士達の前に立っているビルスタークが俺を見つけたらしい。


「続けろ!」


 ビルスタークはそう言って俺の所に来た。


「コハク! どうだ? 何か話はあったか?」


「それがさっぱりわからない。とりあえず主に面通ししてもらい、その後は離れのマージの所にいた」


「はっ? おいおい! 賢者様だ。賢者様と呼べ!」


「いや。本人から言われたんだ。マージで良いと」


「そうなのか?」


「そうだ」


「怖い人だろう?」


「まったく」


 よくわからん。めちゃくちゃ人の良い婆さんだった。何処にも怖い要素など無かったが、ビルスタークは何を恐れているのやら。


「まあいい。何をしに来た?」


「体を鍛えたいと言ったら、ここに行けと言われてきた」


「ふむふむ。なーるほど、そういうことね」


 どういうことだ?


《わかりません》


 素粒子ナノマシンAI増殖DNAが聞いて呆れる。


《世の理から違うのです。ネットワークも無い世界では情報が足りません。ですが出来る事もあります》


 出来る事?


《未来予測と瞬間演算は有効的に利用できるかと》

 

 ほう。


 すると目の前のビルスタークが言った。


「よくわからんが、一緒に剣でも振ってみるか?」


「そうしてみる」


「おい! 剣を用意してやれ!」


 すると素振りしていた騎士が、俺の為に剣を持って来てくれた。


「俺は剣を初めて握る」


「そうか。なら基本からだな」


《王都からここまでの旅路と、先ほどの素振りで型はマスターしました》

 

 そうなの?


《はい》


 そしてビルスタークが剣を構えた。どうやら真似ろと言っているらしい。


「まずはこんな感じだ。やって見ろ」


「ああ」


《完全コピーいたします》


 俺が剣を構えると、ビルスタークが言う。


「ほう」


 騎士達も何やら騒めいている。


「こんな感じか?」


「コハク、嘘ついただろう? 絶対に素人じゃない」


「そんな事はない。今初めて握った」


「なら、振れるか?」


「こうか?」


 ビュン! と剣を振り、元の位置へと戻る。


「なに…?」


「どうかしたか?」


 するとビルスタークが剣を構えて言う。


「俺を斬ってみろ」


「は?」


「やって見ろ」


「どうなっても知らんぞ」


「素人なのだろう?」


「わかった。メルナ、下がっていてくれ」


「うん」


 メルナは恐怖を感じているのか、強張った表情できょろきょろ見ている。とりあえず俺はビルスタークと向かい合い、騎士達が周りを囲むようにして息を飲んだ。


《先ほどの素振りの要領です》


 ビュン! するとビルスタークはギリギリで俺の剣を避けた。


「いい感じだ」


「そうか?」


「木剣を持ってこい!」


「は!」


 騎士が木で出来た剣を持ってくる。するとビルスタークが言った。


「うちの騎士と、仕合してみろ」


「仕合?」


「模擬戦だよ」


「やったことがない」


「まあ、怪我はさせないさ。多少打撲が残るかもしれんがな」


「わかった」


 そして俺の前には一人の騎士が立つ。俺はそれに向かって木の剣をかまえるのだった。

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