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第百六十三話 伴侶へのプレゼント

 採取して来た物資を手に取りながら、ヴェルティカが大喜びしている。お金を払わなくても手に入れられる事に驚き、パルダーシュとはまた違う利点があると騒いでいた。


「これはいいわね!」


 わいわい言いながら、ヴェルティカは大きな軽石をメイドに持って行ってしまった。


「よかったなコハク! ヴェルティカお嬢様がめっちゃ喜んでたぞ!」


「そうか。そうだな」


 そしてマージが言う。


「また喜ばせる準備をしているからねえ。それはまた今度さね」


 俺達は選別した木の実や薬草、高山植物などを取り分けて干したものを眺めている。どうやらこの中には珍しいものがあり、次はそれが自生していた場所に行って、周りの土を掘り起こそうという事になった。それはある植物の近くに生えている、価値のある植物らしい。


 風来燕達はこの調査で、大山猫のリンセを自分らだけでも狩れる事が分かったようだ。マージが教えたやり方で網を持って行けば、もっと効率よく取れるだろうと言っていた。


「さてコハクや、山にいい場所はあったかね?」


「あった。水源も確保できるし、周辺にはリンセしか居ない場所だ。ここからそれほど遠くも無く、目立たない場所にある」


「よーし、風来燕もよろしく頼むさね」


「わかってます」


 俺達がやろうとしているのは、森の中に秘密の研究所を作る作業だ。それも既に構想が出来ていて、俺は羊皮紙に何枚も魔法陣を書き記しスクロールを作っていた。それを大量に背負子に詰め込み、きっちりと眠ったメルナとフィラミウスを連れて建設予定地に行くつもりだ。


 俺達はヴェルティカにしばらく戻らない事を告げ、再び山中の森に入っていく。既に危険な魔獣が居ない事の確認はしているので、今日は強化鎧を来ていない。その分魔力や体力を温存して、秘密の研究所を作る事に専念してもらう。他の風来燕達が、板や釘や金槌をソリに乗せて引いていた。


 俺達が見つけた場所は、森と森の境に出来た平地で山の上の方に小川が流れている。


「さて、コハクや。土魔法のスクロールを出しておくれ」


「わかった」


「フィラミウスも教えた通りに魔力を流せばいいのさ。メルナと同じようにね」


「やってみますわ」


 俺の視界はガイドマーカーが光っており、木の枝を使って地面に土魔法スクロールを置く位置を丁寧に書き記していく。


「よし! スクロールの角を合わせて置いて行ってくれ!」


「あいよ!」


 そこに皆がスクロールを置いて行き、メルナとフィラミウスは終わるのを体を休めて待つ。


「コハク! 全部置いたぞ!」


「メルナ、フィラミウス! 来てくれ!」


 二人が魔法の杖を持ってやってくる。そしてマージが言った。


「よーし。角から順番に魔力を流していくよ。パルダーシュの屋敷の穴を塞いだ要領だよ」


「うん」

「はい」

 

 まずは角のスクロールにメルナが魔力を流すと、ズッ…ズズズズズ! 岩が盛り上がって行く。


 ボルトが喜んでいる。


「お、おお! 凄い! あっという間に岩山が出来た!」


「そうさね。さあ、次行くよ」


「では次は私がやりますわ。スクロールはあまり使った事が無いので、失敗しませんように」


「スクロールの予備はあるさね」


 フィラミウスが杖を置き、魔力を注ぎ始めた。


 ズズズ…!


 地面が盛り上がっていき、あっという間に大きな岩場が出来上がった。


「で、出来ましたわ」


 メルナも嬉しそうに言う。


「上手! フィラミウス!」


「ありがと」


「いいねえ。全部終わったら魔力が枯渇してしまうだろうから、失敗はしない方が良いと思っていたけど、上手く言ったようだねえ」


「忘れないうちに、私が続けてやるわ」


「うん」


 それからフィラミウスが次々に岩を盛り上げていく。半分くらい作った時に、魔力切れをしてきたようでメルナにバトンタッチした。


「もう限界だわ」


「まかせて!」


 そしてメルナが次々に魔力を注いでいく。どんどん岩を作って行き、最後の岩まで終わったところで、もう少し余力があるようだった。それを見てフィラミウスが言う。


「メルナはやっぱり魔力が増えたわね」


「そう?」


 するとマージも言った。


「メルナは魔力切れを起こすと、魔力だまりが大きくなるみたいなのさ」


「そうなのね」


「あたしが思うに、同じ奴隷商にコハクとメルナがいたのは偶然じゃないと思うね」


「決まっていた事なのですか?」


「そう思うんだよねえ。もしくはメルナのところにコハクが現れたか」


「いや。奴隷商に居たのは俺が先だ」


「メルナが奴隷になるのはあらかじめ決まっていた事で、コハクが後から導かれたのかもしれないよ」


 するとメルナが嬉しそうに言う


「コハクはわたしと、くっつくのが決まっていたの! きっとそう!」


 何故かその言葉に、俺の何かが暖かくなるのを感じた。俺はメルナの頭に手を乗せる。


「そうだな。メルナ、きっと決まっていたんだ」


「うん!」


《マージがいっているのは因果律です》


 因果律?


《原因と結果には一定の関係があります。種をまけば花が咲く、リンゴが落ちれば地面に落ちる、コハクが落ちて来たところにメルナがいた。そこに因果関係があると考えたのでしょう》


 実際にあるのか?


《あるでしょう。そもそもが違う世界に来ているのです》


 なるほどね。


 そしてボルトが聞いて来る。


「で、どうすんだよコハク。これ、岩の山が均等に並んでいるだけだろ」


「ああ。これだ」


 俺はジェット斧とレーザー剣を出して見せる。


「そいつで削んのか!」


「そう言う事だ。しばらくは休んでいてくれ。フィラミウスとメルナが横になっている間、みんなで守っていてくれるとありがたい」


「そうすっか。メルナ! フィラミウス! 天幕の布を敷いてやるから寝てくれ! 俺達が見張る」


「私が眠っている間にいたずらしないでよ。魔力切れはぐっすり眠っちゃうんだから」


「し、しねえって! あほか!」


「冗談よ。寝るわ」


 フィラミウスとメルナが並んで横になる。ボルトとガロロがそこに並び、ベントゥラが周囲のリンセが来ないように見張る。


「最初はうるさくて眠れんかもしれん」


 俺はジェット斧を担いで、アイドナが示すガイドマーカーに沿って振り下ろす。


 ガゴン!


 真っすぐ切れた。


「よし」

 

 ガン! ガゴン! ガギン!


 俺はジェット斧を使って、岩をガッツリと削っていく。しばらくやっていると、だんだんと家っぽい外観が出来て来た。ジェット斧で大まかな削りを終えたところで、レーザー剣を使って整形していく。アイドナの設計通りに進めていくと、外壁と部屋の壁、窓の穴や玄関の隙間も出来て来た。柱も残して屋根を乗せる土台も出来上がる。高さをそろえて少し斜めにし雨が流れるようにしていく。


 出来た。


《後は板を加工してつけていく必要があります》


 俺はメルナ達が休んでいるところに行って告げる。


「終わった。後は屋根とドアと雨戸をつけていく」


「よし」


「メルナ。フィラミウス起きてくれ」


 薄っすらと目を開けて言う。


「ふう。少しは寝れたみたいだわ」


「わたしも!」


「屋根とかを取り付けるから、とりあえず起きていてくれ。座ってていい」


「私も手伝うわ」

「私も手伝う!」


「まあ無理しないでな」


 それからは組み立てた木のドアや、木の雨戸を取り付けて行き、屋根には二重に板をひいて雨が入ってこないように、天幕に使う皮をその上に敷いて縛っていく。


 マージが言った。


「そのうちに屋根も全部作り直すからね。当面はこれでいいさね」


 当日では完成せずに、数日かけて作り上げていった。何度も足しげく通い、魔法で屋根の材料も作り上げて敷いた。窓はそのうち伯爵領から仕入れる事にし、秘密研究所の肝になる最後の仕上げをする。


 シュブゥゥ!


 地面にレーザー剣で穴を空けて、建物の前面にステルス管で幕を作ったのだ。下から見ればここに建物があるようには見えず、横や後ろから見て岩の建物らしきものがあると初めて分かる。母屋の脇にある小さな小屋の上に、ソーラーパネルが置いてあり動力を中に収納した。


「その小屋の裏側が武器庫になるんだ」


「考えられてるんだな」


 皆は完成した秘密の隠れ家を見て、満足そうな顔をしている。


「とりあえずこれは仮屋だ。ここから改良を加えていくんだ。皆の手助けは今日まで、後は俺とメルナで改装を続けていくつもりだ」


「んじゃ明日から、俺達は大山猫リンセを狩りに行くとすっか。この領の資金源になるんだろ?」


「そうだ。まずはあれの加工をしてみよう」


「わかった」


 俺達は秘密の隠れ家に入り、剥ぎ取ったリンセの毛皮を加工する事にする。なんとガロロが皮の加工ができるという事で、俺達はガロロに教わりながら毛皮を加工していった。同じ幅と同じ長さに切っていき、毛皮が両面に来るようにぬいつけていく。


「出来たのじゃ」


 それをガロロがメルナの首に巻いてやる。


「温かい!」


 俺達はリンセの毛皮でマフラーを作った。そしてフィラミウスの分も作る。


「着け心地がいいわ。温かいし…手触りが良い」


 マージが言う。


「そうじゃろ? 高級な毛皮じゃからのう」


 三匹のリンセを使って、なんとマフラー三本しかできない。


 そしてボルトが俺に言う。


「んじゃ、コハク。大切な嫁さんにプレゼントだな」


「プレゼント?」


「そうだよ。今までプレゼントなんてしたか?」


「してない」


「ならしてやれよ」


 そして俺達は秘密の隠れ家の戸締りをし、夕方に本邸へと戻った。既に夜ご飯が作られているようで、とてもいい香りがする。


「お帰りなさい!」

 

 ヴェルティカが俺達を迎えてくれた。そこで俺はヴェルティカに言う。


「これ。プレゼントだ」


「えっ!」


 するとボルトが横から言う。


「コハクが巻いてやれよ」


 俺がヴェルティカの首に、リンセのマフラーを巻いてやった。するとびっくりしたようなヴェルティカが、真っ赤になって言う。


「あ、ありがとう。温かい、凄くふかふかね」


「寒い時につけるんだ」


「うん」


 皆がほほえましくその光景を見ていた。


 なんだこの感情は?


《ノントリートメントの感情です。感情エミュレート機能でも似たような事は表現できます》


 いや。自然と出て来る感じなんだ。


《それは恐らく、ヴェルティカに対して特別な好意を持っているのかもしれません》


 特別な好意?


《それはノントリートメントの種族保存に根差したものかと》


 種族保存か。意味があるのか?


《この世界で力を得るには、必要とする場面もあるのかもしれません》


 そうか。


 俺がプレゼントをした結果、ヴェルティカは嬉しそうだし、周りの連中も笑っているので悪いことではないと思う。俺が完全な自由を手に入れるための、第一歩なのかもしれない。


 朧気にそんな事を思うのだった。

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