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第百六十一話 男爵の森における新型鎧試験

 俺と風来燕とメルナは新型強化鎧を装備し、領内にある東の山に出発した。ボルトとガロロとベントゥラの鎧には、実装試験の為に追加装備が装着されている。それは大きな魔石を入れておくためのバックパックで、旧式の強化鎧との差異を検証する予定である。


 それぞれグリフォンの魔石とロックサラマンダーの魔石、そして小さな魔石を大量に詰め込んでおり、稼働時間測定と魔力消費効率化のためのデータ収集を行うのである。


 森の前に集まっている時に、ボルトがはしゃいで言う。


「軽いぞ! 普通のフルプレートメイルの半分くらいしかないんじゃないか?」


 それに俺が答えた。


「その状態で魔力は供給はされていないんだ、腰の部分にあるレバーを引くとバックパックから魔力が供給される。常に魔力の消費をしないような構造にしてあるから、厳しい地形や戦闘時以外は魔力供給をカットしておいてくれ」

 

「皮の鎧より少し重いくらいだからな、これなら俺とガロロとベントゥラならどうにかなる」


「メルナとフィラミウスの鎧は構造上、魔力の切断機能はない。だが軽い上に新しく効率化した魔法陣により、格段に魔力の消費量は少なくなっているはずだ。バックパックは重量がかさむから、従来通り小型の魔石を組み込むようにしてある」


 フィラミウスが答えた。


「ふかふかで着心地が良いわ。これなら長時間の装着でも大丈夫そう」


 メルナも言う。


「温かいしね」


 そこで俺が言う。


「今は季節的に少し寒い季節だからいいが、初夏の頃までには新しい素材を開発する予定だ」


「至れりつくせりじゃのう!」


「まだまだ機能が足りないがな」


「そうなんじゃな? これでもだいぶ快適な鎧じゃがのう」


 彼らにとってみれば信じられない性能の鎧なのだろうが、リバンレイ山で遭遇した二人を敵と想定した場合、この強化鎧ではどうにもならない。如何に素粒子AIが優れてるとはいえ、工業技術が追い付いていないためこれ以上のものが作れないのだ。


《とにかくデータを取る事です。僅かなデータでも良いので、稼働試験を繰り返します》


 わかっている。だが工業技術の向上も必須だ。


《既にこの世界に存在する物資でも工場を構築する事は可能ですが、資源と資金力の確保が必須です》


 使える鉱物があると良いんだがな。


《未開の山ですので、可能性はゼロではありません》


 わかっている。


 そしてメルナの鎧にしまっているマージが言う。


「いずれにせよ資金だよ。パルダーシュからの仕送りでは、やれることに限りがあるしねえ。あの無能そうな伯爵の下では、満足に稼ぐ事は出来なそうだ。金になりそうな物を片っ端から探し回るさね」


「「「「はい」」」」


 そして俺が言った。


「では強化鎧稼働試験に入る。森に進むぞ」


「「「「おう!」」」」


 もちろんここは異世界。大山猫がいるという事は、奥に行けば更に強い魔獣が居るのも想定された。


 俺は両方の腰に片手剣が一本ずつの二本、背中にジェット斧を背負い、腕の隠しケースからレーザー剣が取り出せるようになっている。ソーラパネルでしっかりとエネルギーを充填して来たが、エネルギー切れを想定していざという時しか使わない。


 ボルトはロングソードを背にして腰にナイフ、ガロロは大斧と盾を背中に背負い、ベントゥラが背中に鉄弓と弓矢を背負って腰にナイフを刺している。フィラミウスは大きめ魔法の杖を持ち、メルナが指揮棒のような小さな魔法の杖を持っている。


 そして俺が、ロープに繋がったそりに荷物を載せて引いていた。


 森に入れば、鳥の声が聞こえるものの魔獣の気配はなかった。村に近い場所には危険な動物はいなそうだが、念のため警戒しながら進む。


 するとベントゥラが言った。


「お! キノコが生えてるぜ。こりゃ食える奴だ」


 マージが答えた。


「回収しておくれ。食える食えない別にして、薬剤の素材になる事もある。ベントゥラが見極められるだけでも、皆に指示してくれるといいさね」


「わかった」


 それから山を登りつつ、キノコや木の実や薬草などを取った。


 それを見てボルトが言う。


「ギルドも無い田舎だから、冒険者も遠征に来ねえのかもな。本当に手付かずじゃねえか」


 それにフィラミウスが答える。


「このくらいの素材を取りに、こんな遠くへは来ないわ」


 それを聞いてマージが喜ぶ。


「田舎である事がこんなに嬉しいとはねえ」


「まったくですわ」


 そして次々に素材を取り、キノコが入った袋と薬草と木の実が入った袋がいっぱいになって来た。だいぶ奥に進んできた時、アイドナが通知する。


《生物発見》


「しっ! 生き物がいる」


 皆が静かにした。俺はベントゥラに教える為、木と木の間にいる生き物を指さした。ベントゥラが腰のレバーを引き鎧に魔力を供給する。そして兜の前面のマスクを下ろし俺に親指を上げた。


 これが新型強化鎧に付加した機能、視覚聴覚強化である。兜の前面のマスクに魔法陣が刻まれており、千里眼の効果をもたらすとマージが言っていた。


 ベントゥラが弓矢をとって引く。弓矢も身体強化によって壊れないように、鉄製の弓を開発している。身体強化無しでは引く事も出来ないが、新型鎧のおかげで易々と引いた。


 シュッ! 


 ベントゥラがマスクを上げて、腰のレバーを引き魔力をカットする。


「仕留めた」


「よし」


 俺達がその場所に行くと、鋭い爪のウサギが倒れていた。ベントゥラが弓矢を抜いて、耳を掴んで持ち上げる。


「シルバークローラビットだ」


「それは食えるのか?」


「食える食える! 美味いぞ」


 するとマージが言った。


「シルバークローラビットがいるって事は、それ以上の肉食獣もいるさね」


「リンセ……大山猫がいるかな」


「いるといいけどね」


「よし。みんなここで待て」


 俺は大木によじ登り、上の枝に上がった。アイドナが望遠で周辺を確認する。


《いました。五百メートル先》


 スルスルと木を下りて小さい声で言う。


「右手の方角に大きめの動物がいる」


「よし、行って見るか」


 そこでマージが言った。


「リンセはとにかく足が速い。皆の鎧に魔力を供給しておこうかね」


 皆が頷いてレバーを引く。ゆっくりゆっくりと近づいて行くと、その動物は数匹いるようだ。俺はその事をジェスチャーで皆に教え、それぞれが両側に散開して行った。


《全員が周囲を包囲しました》


 俺の隣りにいるメルナがするりと魔法の杖を構えた。仲間達もじっと身を潜めて動かない。


「メルナ。おやり」


 メルナの杖から、するりと光る玉がでた。それがスルスルと木を避けるように森の奥へと進んで行き、動物たちの頭上あたりに届いた。


 パァン! それが思いっきり大きな音をたてて破裂する。それに驚いた動物達が四方に走り出した。アイドナがそいつの行く方向を示し、俺がそちらに走り出すと正面に出てくる。その動物は一メートル五十センチぐらいの猫だった。俺を避けようとジャンプするが、同時にジャンプして捕獲する。


 ゴキ! 首を折ると静かになった。


 俺はそいつをそこに置いて、周りをみるが既に何匹は逃げたようだ。だがボルトとベントゥラも捕まえたようで、合計三匹の収穫となる。


 一か所に集め俺がマージに言う。


「マージ。ふさふさの茶色の山猫だ。まだらの黒の斑点がある」


「リンセだねえ。しかも三匹も捕まえたのかい?」


「作戦が成功したようだ」


「強化鎧様々だよ、普通じゃ罠でも仕掛けない限り獲れない。まずは袋に詰めてそりに乗せな」


 皆でリンセを袋に詰めてそりに乗せる。それから俺達は、また森を奥へと向かって進んで行く。


「リンセが、こんな浅いところにいるなんてねえ」


「本当はいないのか?」


「こんなに簡単に取れるものじゃないさね。ここは本当の本当に良い場所なのかもしれない、もしかしたら廃領になる前の男爵は、相当の間抜けで節穴だったんだろうよ」


 ボルトが答える。


「取り潰しになるべくして、取り潰しになったってやつですかね」


「だろうねえ」


「よし。なら他にも探してみよう」


 俺達が山を登っていくと、更に多くのリンセの気配がした。既にアイドナが記憶しているので、リンセの形をインプットしている。


「またリンセだ」


「今日はあとやめておこうかね。それよりも他の素材が無いかを探すことを優先しておくれ」


「わかった」


 するとボルトが言う。


「冒険者の血が騒いできやがった」


 フィラミウスが答える。


「本当にそうだわ。未開の地の冒険が出来るなんて楽しすぎるわ」


「ほんにその通りじゃて! 手つかずの山に先に入れるなんて言うのは、冒険者冥利に尽きるわい」


「だなあ…ボルトが、コハクについて行くって言った時はどうなるかと思ったが、俺達が役に立つ未来が見えて来た」


 それを聞いてマージが言う。


「あんたらを頼りにしてるよ。あたしだって、若い頃の冒険を思い出してるよ!」


「賢者様の知恵があれば鬼に金棒でさあ!」


「「「あははははは」」」


 どうやら皆が楽しんでいるようだ。するとアイドナが言う。


《自分の力が役立つというのは、ノントリートメントにとっては嬉しい事なのでしょう》


 なるほど。


《彼らがあなたに付いてきたくなるように仕向けた、マインドコントロールは正解でした》


 ……アイドナがこれを想定していたのか?


《はい》


 それを聞き目の前ではしゃいでいる風来燕を見ていると、何故か俺は複雑な気持ちになるのだった。

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