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第百五十五話 強化鎧個人認証システム

 次の日の朝、魔力が回復したメルナを連れて、暗いうちから俺はマージの秘密の館に来ていた。昨日粉にした甲虫の素材を使って、強化鎧を開発する為だ。


「熱いから気を付けるんだよ」


 溶けた鉄が溜まった窯から、溶けた鉄が流れ出し土の窪みに溜まっていく。そこに甲虫の粉とブラッディガイアウッドの粉を入れ込んで、俺が描いた鎧のデザインと生成魔法陣のスクロールをかざす。


「メルナや。スクロールに魔力を」


 ボウッとスクロールが燃えて合成された鉄に落ちる。するとボワアアと、湯気が立ち込めた。


 少しずつ湯気が収まって来ると、そこに俺がデザインした胸当てが出来上がる。


「出来た」


「メルナや。水魔法だよ」


「うん」


 メルナが水魔法で出来上がった胸当てに水をかけると、しゅわああああ! とまた湯気が立った。俺が耐熱の魔獣の皮の手袋をはめて、それを持ち上げる。


「よし。魔法陣もある」


「成功したのかね?」


 マージが聞いて来る。


 俺達が何を作っているのかというと、個人を特定して認識する強化鎧だ。この胸当ては俺にしかつける事は出来ず、他の人間がつければただの強度のある鎧だ。


「実戦してみないと分からない」


 だがアイドナが太鼓判を押す。


《計算上は成功しています》


「とりあえず、全身を焼き上げていくかねえ」


「ああ」


 そう言って俺達は同じ工程を踏みながら、強化鎧の全身を作り上げた。その熱が冷めたのを確認し、俺が特性のネジを使って組み上げていく。脇を起点にして前後に開く為、開いてはめ込むだけで上半身は着る事が出来る。全ての装備を取り付けたところで、マージが俺に言う。


「用足しはどうだい?」


「股間の下だけが開くようになっているから、小便も大便もできる」


「そいつはいいね。それじゃあ一旦脱いで、なめしたランドボアの皮を貼り付けるかね」


 手間暇かけて作られていく鎧。だが通常の工程を踏んでいたら、完成までに一月はかかるだろう。マージの用意した生成魔法陣のおかげで、急ピッチで作業を進める事が出来た。


「よし、じゃあメルナ。これをちょっとかぶって見ろ」


「うん」


 メルナに鎧をかぶせて、魔力を流し込ませる。


「重いまま。反応しないみたい」


「成功だな」


 完全に個人を特定した鎧が出来上がった。しかも鉄のフルプレートメイルの四割くらいしか重量が無く、長時間着ていてもそれほど負担にはならないだろう。


 俺が着るとアイドナが言う。


《セラミックとチタンが融合したような強度です》


 マージの魔法陣のおかげだな。


《本来は龍のうろこを使用するらしいです》


 鎧を着た俺がメルナに言う。


「よーしメルナ。その槍で思いっきり突いて来い」


「うん!」


 槍を持ったメルナが、庭の端まで歩いて行き槍をかまえる。


「いくよー!」


「来い!」


 ダダダダ! と走ってきて槍を突きさしてくる。


 ガイン!


「いたた。手がしびれたよ」


「大丈夫かメルナ」


「うん!」


 そして槍がぶつかった場所を見る。


「傷がない」


「えっ! 思いっきりやったのに!」


 槍の攻撃では傷がつけられないようだった。甲虫の外殻の特性と強度があるのも確認できた。


「じゃあ、次は火を試してみるさね。メルナ火魔法をぶつけてみな」


「うん」


 ボウワアアア! メルナのファイヤーボールが俺に直撃する。だが内部では全く温度を感じる事も無く、火に対しての耐性も獲得できたようだ。


「しかし軽い。元の強化鎧は、通常のフルプレートメイルの五割増しだったが、これは通常のフルプレートメイルの四割減。前の強化鎧に比べれば、三分の一程度の重量しかない」


 するとマージが嬉しそうに言う。


「これでこの鎧が盗まれても、誰も真似する事は出来ないよ」


「そのようだ」


「じゃあ、次はメルナの強化鎧を作るとするかねえ!」


「ああ」


 そして俺は、メルナの鎧の製造に取り掛かるのだった。


 それから数日、俺とメルナの鎧だけではなく、ヴェルティカと風来燕の合計七体の鎧が完成する。


「風来燕には男爵領に行ってから渡しな」


 もちろん信用していない訳ではないが、その性能はここでは披露する事は無いらしい。


「わかった」


 とりあえず俺とメルナはヴェルティカを呼び、俺達の考えを伝える事にする。結婚式の準備をしていたヴェルティカが屋敷から来ると、マージがヴェルティカに言った。


「ヴェルや」


「なあにばあや」


「これはコハクの男爵領の、最高機密なんだがね」


「うん」


「個人を特定して使う、軽量の強化鎧が出来上がったんだよ」


「そうなの?」


 するとマージが俺に聞いて来る。


「コハクや、なんて言うんだったか?」


「強化鎧個人認証システムだ」


「まあ…そう言うらしい。ピンと来ないよねえ? じゃあ着てごらん」


「わかったわ」


 そうしてヴェルティカが新型の鎧を着る。


「えっ! 軽い! ごつごつしてないし!」


「着やすいだろう」


「着やすいわ!」


「強度も更に上がったのさ。魔力を通してみな」


 ヴェルティカが魔力を注ぐと、メルナがロングソードを渡す。


「嘘みたい。ロングソードが軽いわ」


「それじゃあ、岩を斬ってみようかねえ」


「岩?」


「そうじゃ、庭の岩に剣を振ってみな」


 ヴェルティカが剣を構え庭の岩に剣を振るった。すると岩の途中くらいまでガン! と剣が刺さる。


「うっそ。岩が…」


「成功だね。それはヴェルしか着れない鎧だよ」


「分かったわ」


「男爵領に行く、我々しか知らないのさね」


「もちろん誰にも言わないわ。私とコハクの未来の為に」


 そして俺が言う。


「一部の機能は、従来の強化鎧にも応用して使う事になっている。それでかなり運用がしやすくなる」


「王宮も納得するかしら?」


 マージが言う。


「してもらわにゃ困る。ただでさえ究極の技が取り入れられているのだからねえ」


「そうよね」


 そして俺達は鎧を脱ぎ、隠れ家でお茶を飲むことにした。そしてマージがヴェルティカに言う。


「結婚式まであと一週間だねえ」


「ええ。町はもう準備に入っていて、お祭りムードが高まってきたわ」


「盛大に祝ってもらわないとだからねえ」


「招待したほとんどの貴族がいらっしゃるらしいわ」


「コハクのお披露目のようなもんだよ」


「コハクは、有名人になっちゃったから」


 ヴェルティカが言うので俺は聞いてみる。


「有名になるのは良い事なのか?」


 俺が聞くがヴェルティカが微笑んで言う。


「いい事よ。貴族は人脈がある人ほど力が強いから。むしろほとんどが過小評価しているでしょうから、オーバース将軍との演武でその力を見てもらいましょう」


「俺がオーバースの王覧武闘会の席を取ってしまったからな」


「不完全燃焼だったのかしらね?」


「申し訳ない事をした」


「将軍からの申し出だからいいのよ」


「なるほど」


 それから俺達はマージと共に、様々な研究をしつつ当日を待った。


 結婚式の前日になると、国中の貴族からの贈り物で辺境伯の城はかなり賑やかな状態になっていた。既に貴族達も到着して、市中の宿屋に宿泊しているらしく、三日前くらいからパルダーシュの町の人口は五倍くらいになっているそうだ。一般の見物人や商人なども入り込んでいるらしい。


 俺達を助けたカロス市の商人は特別待遇で、パルダーシュ家に直接出入りする事を許された。そのおかげで、カロスの商人からもたくさんの貢物がなされる。


 そして俺達はフィリウスから呼び出され、当日の心構えや何やらを話される。式典ですべき事は全てインプットし、準備もほぼ終わりかけているところにメイドがやって来る。


「オーバース将軍がいらっしゃいました!」


「わかった!」


 そして俺達は、あの王都事件以来、久しぶりにオーバースと面会する事になるのだった。

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