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第百五十四話 秘密の研究と究極の選択

 台所の下は石造りの物置で木の棚が並んでおり、よくわからない物がいくつも置いてある。


「壷があるはずじゃが」


「壷?」


 俺とメルナが、埃を払いながらあちこちを探す。


「あった!」


 メルナが言う。


「どんなのだい?」


「まって」


 フーッと埃を吹いたメルナが、更に手でパンパンと払って言った。


「土で作った壷みたい」


「それじゃないねえ。色は青で紋章が刻まれたものだよ。蛇の装飾が施されてるよ」


「わかった」


《エックス線で確認》


 すると詰み上がった荷物の陰に、それらしいものを見つけた。俺は荷物を壊さないように隙間に足を入れつつ持ち上げると、かなり重くて五十キロぐらいはありそうだ。足を戻しつつ、広い場所に持ってくる。


「ふー」


 息を吹きかけて、手で埃を払いのけた。


「あったぞ。取っ手らしきものが全て蛇になってる」


「それだよ。後は金剛棒と香炉だよ」


「金剛とは」


「金で出来た入り組んだ形の棒さ。香炉も同じように金で出来ている」


 メルナが今度は私がと言わんばかりに必死に探した。


「あった! 香炉!」


「どんなのだい?」


「ふーっ! 金色でカエルの飾りがついてる!」


「それだねえ。あとは金剛棒だねぇ」


 俺がまたエックス線で確認すると、肩掛け鞄の中にそれらしきものがある。


「先と後ろが対称になってる、鉤爪のようになっている奴か?」


「それだ! よーし、そろった」


「わかった」

「うん」


 俺達が、その道具を持って甲虫の殻がある部屋に行く。


 そしてマージが言う。


「まずは壷をおいておくれ。そして金剛棒の爪を、壷の蓋に入れるところがあるはずさね」


 メルナが金剛と蓋を見比べて、蓋に開いている穴にかぎ爪を刺しこんだ。


「右回りに回しておくれ」

 

 メルナが回すと、カンッ! と音がする。


「蓋が開けられるだろ?」


「開いた!」


「よーし! それじゃあ壷の横に、その蓋が付いた金剛の反対側を嵌めるところがある」


 メルナが注意深く壷を見ると、三つのかぎ爪用の穴が見つかる。そこに反対側をはめ込んだ。


「その蓋を掴んで、今度は左回りに回しておくれ」


クルッ! ガゴン! コンコンコンコンコン!


 メルナが喜んでいる。


「凄い、蛇が動いて来た」


「カラクリさね」


 蛇の頭が下に下に伸びて行き、蛇の口から棒のようなものが出て来て壷に足が生えた。


「もう回らない」


「よし。そうしたらさっきの香炉を、壷の下に置いておくれ」


 香炉を下に置く。


「置いた」


「そしたら蓋を右に回しておくれ。壷の下がハマるはずだよ」


 メルナが反対に回して行くと、壷が下がりカチリと香炉に壷の下がはめ込まれた。


「全部がカラクリになっているからね。どれか一つ欠けても使い物にならないんだ」


「これはなんだ?」


「誰が作ったかは知らないんだけどね。本来は龍のウロコなんかを加工するものなんだよ」


「なるほど」


「じゃあ、甲虫の殻を壷に放り込んでおくれ。入り口までいっぱいいっぱいにだよ」


 俺とメルナで甲虫の殻を壷に入れた。


「一杯になったよ!」


「よし。それじゃあメルナや。壷に手を当てて魔力をそそぎな」


「うん」


 メルナが壷に魔力を注ぐと、蛇のカラクリが光り始め、蓋と金剛棒が回り始めた。すると壷の入り口から見えていた甲殻がみるみる沈んでいく。


《なるほど。魔導で動くミキサーのようですね》


 どういう原理だ?


《エックス線で確認しても、主要部分が魔力で発動しているのではっきりわかりません》


 だが甲殻を加工する事が出来てるんだな?


《はい》


「全部なくなったら止めておくれ」


 しばらく見ていると、壷の中の殻が無くなった。


「よーし! 魔力を注ぐのをやめて、蓋を左に回しておくれ」


 クルクルと回すと、香炉が外れ中に満杯の粉が入っていた。


「粉になった」


「成功だねえ。これで加工しやすくなる」


「素材になったって事か?」


「そう言う事さね。さてまずは甲殻を全部粉にするよ」


「ああ」

「うん!」


 袋に入っていた甲殻を全部粉にするのに、三時間程度の時間を要した。そしてメルナがフラフラして来たので、マージがメルナをベッドに寝せるように言った。


「いずれにせよ魔力が必要なのか……」


「そうだねえ。この世界の物は魔力で動かす物が多いからねえ」


「で、どうする?」


「一晩寝かせて明日またやるさね」


「おいおい。今日はヴェルティカがご馳走を作ってくれると言ってたんだぞ。メルナが食いっぱぐれるだろう」


「あ。その時は起こして良いよ。また寝かせりゃいいさ、食って寝れば更に魔力が増える。それにこの子の魔力だまりは、魔力切れを起こすほどに大きくなる。だから数時間寝ただけでの、通常の魔法使い程度には魔力が溜まるんだよ」


「なるほど」


「コハクは、これから作る鎧の造形を、部分ごとに紙に描いておくれ」


「わかった」


 俺はマージに言われるままに、これから作ろうと思っている鎧の籠手や胸当てを、アイドナが示すデザインのままに書き記して行く。兜、籠手、胴体、足、と各箇所の部品を書いて行った。全て書きあがった時には、外が暗くなり始めていた。


「さてと、メルナを起こして馳走を食べにいくかね」


「わかった」


 俺はメルナのベッドに行く。


「メルナ……メルナ」


「うん……」


「飯だ」


「あ。うん」


 まだよろついているので、俺はメルナを背中に背負い辺境伯城へと向かう。城に入った途端に美味そうな匂いがして来て、メルナも鼻をクンクンとさせていた。


 そこにアランがいた。


「コハク。そろそろ晩餐の時間だとヴェルティカお嬢様から言われて、呼びに行くところだったんだ」


「わかった」


 そして俺達が食堂に行くと、フィリウスや風来燕、ビルスタークが待っていた。


 フィリウスがメルナを見て言う。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


「いや。魔力を使ったんだ。ちょっと食べて眠れば良くなる」


「そうか。まあ小さな娘に、あまり無理をさせるのではないぞ」


「わかった」


 フィリウスは俺以外には優しい。俺がヴェルティカをもらうと言ってから態度が変わった。


《ノントリートメントとはそういうもののようです》


 よくわからんな。


「皆さんお揃いね!」


 そこにヴェルティカが入ってきて、メイド達が次々に料理を運んで来た。


「今日は私も料理を手伝ったのよ」


 それを聞いてフィラミウスが言う。


「あら。花嫁修業を、お始めになったのでございますか?」


「そのとおり! コハクに食べさせなきゃならないでしょ」


 するとフィリウスがいう。


「いやいや。そんなものは使用人にやらせればよいのだ」


 だがそれにはマージが言う。


「フィリウスや。それは上級貴族の考え方だねえ。男爵家は、妻が料理を作るのは当たり前の事さ」


「そうなのか?」


「そうさせたくないなら。お手伝いを雇う援助をしてやるしかないねえ」


「してやる! ヴェルが苦労するなどあり得ん」


 それを聞いてヴェルティカが言う。


「あら。私が苦労だって言ったかしら?」


「した事の無い事をするのだぞ?」


「いいえ。ばあやと一緒にしょっちゅう料理は作ってました。お兄様はそれを知らないだけ」


「そうなのか? ばあや」


「離れでいつも作っていたよ。もう子供じゃないんんだ。ヴェルも出来るさ」


「だが。お手伝いを雇うくらいの仕送りはしてやる!」


「まったく…お兄様ったら」


「親馬鹿ならぬ兄馬鹿だねえ」


 それを聞いて、ビルスタークとアランが声を出さずに肩を震わせている。風来燕達ですら、今にも笑いそうな複雑な表情をしていた。


「な、私は親代わりだ。それは当たり前の事だろう」


「まあ。そうさね。辺境伯から嫁いだ娘が苦労するなど、フィリウスの面子にも関わるからねえ。そこは良くやっておやり。そしてヴェルもその行為を無下にしては行けないよ」


「わかりました」

「はい」


 運ばれてくる料理に舌鼓を打っている時に、フィリウスがヴェルティカに告げた。


「あー、ちょっといいか」


「はい」


「男爵家と言っても、コハクは王からの寵愛を受けている。そして恐らくは、王家はコハクに騎士を派遣して来るだろう。もちろん男爵家の騎士団としての体裁もあるが、恐らくはコハクを監視する意味がある。それはコハクもヴェルにも望まぬ事だだろう? だから、何らかの対策を講じる必要がある」


 ヴェルティカが言う。


「そうですわね。間違いなくそうなるでしょう」


 するとアイドナとマージの声が俺の耳でそろった。


《独自の研究を阻害される可能性がありますね》

「ふむ。自由に研究が出来なくなるねえ……」


 確かにその通りだ。今、マージの隠れ家でやっているような事が、大っぴらに出来なくなるだろう。


 フィリウスが続けて言う。


「既に王家でも、おいそれと手を付けられんほどの力を持つコハクだからな。それ以上財力や軍事力で、力をつけてもらっては困ると考えるだろう。だから冗談を抜きにしても、我が領からの支援は必要になるはずだ。その対策だけは今のうちに考えておいた方が良い。何もできないが、兄からの忠告だ」


「いいえお兄様。とてもありがたいご忠告でございます。貴族としての王宮との関係性や、貴族とのつながりについてはお兄様にご教授いただくしかありません」


 だがフィリウスが言う。


「私は身寄りのないコハクとメルナとて、家族だと思っているんだ。だから、お前達の未来の為に何とかしてやりたいと思っているよ」


「フィリウスは本当に、辺境伯になったんだねえ。その度量は辺境伯に必要なものだよ」


「もちろん兄として、ヴェルティカにしてあげたいという気持ちが大きいけどね」


 そこで俺が言った。


「王宮や貴族に、意見をされないようになるにはどうしたらいい?」


 すると皆があっけに取られて俺を見る。


「それは……そんな事は、貴族として考えてはならんことであるが……」


 フィリウスが言葉を選んでいる。だがマージがあけすけに言った。


「覇王になれば誰も手は出せないさね。王をも凌駕する力を持てば、あんたに意見する者はいなくなる」


 フィリウスがマージを戒めるようにいう。


「ばあや。いささか不敬ではないだろうか?」


「なあに、あたしゃもう体の無い物体。今更、誰に気を使う事があるもんかい」


 言うとおりだ。体も無い地位もあるわけじゃない、誰にも知られていないのだ。不敬などというのは、人として生きている者に当てはまる事で、物であるマージには関係のない事だ。


「まあ、あまりコハクを焚きつけないでくれよ」


「わかっているさね」


 そうして俺達は晩餐を終え、皆が自分の部屋に戻っていく。俺とメルナが自分の部屋に戻るとマージが俺に言った。


「コハクや。あれは冗談ではない。あんたはその器がある。力を求めるのは間違いじゃないよ」


《その通りです。あなたにはその力がある》


 何故か、アイドナの意見とマージの意見がいつも一致している。


 だがどうすればいいんだ?


《覇王へのルートを選びますか? YES・NO》


 アイドナは何故かおかしな質問をしてくる。そして俺はその一つを選ぶのだった。

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