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第百五十一話 神殺しのボルト

 甲虫は、単体では何の脅威にもならない。恐ろしいのは、弱っている大型の生物や動きの遅い生物に大群で飛びかかり、振り払う間もなくその肉を喰らい尽くすという習性だ。


 更にその体が厄介で、硬度がある上に表面が滑る。通常剣であれば表面が滑り、斬る事が困難だったろうと想像される。だがレーザー剣のおかげで、甲虫は面白いように蒸発していった。


 ジュッ! ジュッ! と音がするたびに、虫が破壊されて行く。そのたびに魔力が備蓄されていくのだが、その数えきれない数のおかげで、恐ろしいほどの魔力が蓄積されて行ってるのだ。


 既に筋トレの時と同じように、アイドナがオートで全てをこなしている。


《魔力量が拡大しています》


 そうか。


 かれこれ数時間は、自動で甲虫を斬り続けている。残骸がパラパラと飛び散って、辺には飛び散った甲虫の殻で埋め尽くされていた。それでも俺は止まらずに、レーザー剣で斬り続けた。


《甲虫の魔力を集積、討伐速度を向上、超速モードに入ります。朝になれば逃げてしまうので、極力それまでに全てを壊滅させることを推奨します》


 生態系が壊れないだろうか?


《この世界の人類に被害が及ぶような破壊はありません。それに巣は一つとは限りません》


 なるほど。


 重量のある兵器ではこの動きは無理だった。全く重量の無い光剣だからこその動き。アイドナは戦闘中も効率を追求し、戦闘シミュレーションを何万通りも試しているようだ。


 それから一時間、次第に甲虫が少なくなってきた。


《非常に効率の良い魔力回収でした》


 そうか。


《光に寄る虫の習性。向こうから勝手に光剣に飛び込んでくるのです》


 知能が無いからこそか。


《それでも学習はしていたようです》


 アイドナがそれを上回った…か。


《はい》


 そして、とうとう動く甲虫はいなくなってしまった。ジャリジャリと音をたてて、俺は皆が寝ている光のベールの所に行く。するとアイドナが俺に言う。


《脅威は去りました。緊急時は起こしますので、深眠に入ってください》


 俺は胡坐をかいて目をつぶる。アイドナがシャットダウンするように俺を、深く深く眠らせて充分な睡眠をとった事を確認すると目覚めさせた。


 薄っすらと空が紫色になってきているようだった。暗闇から青い空間へと変わり、木々や岩肌などが普通に視界に捉えられるようになる。


《皆も充分休息を取ったと思います。起こしましょう》


 俺は窪みの前のステルス管を引っこ抜いた。


 ブンッ…と光の壁が消えると、メルナ以外はもう目を覚ましていた。外の光景を見たみんながあっけに取られている。


「これは……」


「甲虫の残骸だ」


「山積みじゃないか」


「邪魔なので、寄せたら集まった」


 それを聞いてマージが言う。


「なんだって? 甲虫の殻がそんなにあるのかい?」


「ある」


「あんなに硬い虫を、そんな大量にやったっていうのかい?」


「そうだ。巣に帰る前に全滅させた」


 するとマージが面白そうに言った。


「龍のウロコくらいの硬さがあるんだよ」


「そうなのか?」


「いいかいみんな。良く聞きな。何かを捨てても全てを持って行くんだ。これで鎧の重さを解消できるからね」


「「「「おう!」」」」


 町で買えるようなものはここで下ろし、山のような甲虫の殻を背負子に入れ、ソリにも積み上げていく。その上にソーラーパネルを置いて鉄の動力箱を置いた。俺が前を引っ張り、ガロロとボルトが後ろに周る。ベントゥラにジェット斧を担いでもらい、皆が徒歩で歩き始めた。


 それから半日をかけて俺達は森の端までやって来た。このあたりまで冒険者が出てきており、俺達を見て驚いている。


「下りて来た!」

「主喰らいが帰ってきたぞおおお」

「良く生きていたな!」


 そこでボルトが冒険者に聞く。


「そりゃ生きてるさ。なんで死んでると思ったんだよ?」


「あの恐ろしい爆発を見なかったのか? ありゃ神の雷じゃねえかという事になってな、風来燕がリバンレイの神様の逆鱗に触れたんじゃねえかって事になってだな…」


「あー、確かに逆鱗に触れたつったらそうか。ぶっ壊してめっちゃ爆発しやがったからな。危なく死にかけた」


「「「おおお!」」」


 冒険者達が滅茶苦茶騒いでいる。


「だがな…おい…聞いてるのか。この、コハクが! おい! 聞けって!」


 だがもう誰もボルトの話を聞いていない。


 すると冒険者達が騒ぎ出す。


「主喰らいが神殺しをした!」


「「「「おおおおおおお!」」」」


「おい! ちょっとまてって!」


「ギルドに報告だ! 神をも恐れぬ勇者が帰って来たってな!」


「「「「「おう!」」」」」


 そうして冒険者達は俺達の元を去ってしまった。


「なんだあいつら。良く話を聞きもしねえで」


「まあいいじゃない。いつもの事なんだから」


「なんで俺の話を誰も聞かねえんだ…ったく!」


「「あははははは」」


「笑い事じゃねえつうの!」


 そうして俺達はカロス市の商人の元へと帰って来る。


「帰ったぜ」


「おお、良く無事で!」


「死にそうだったがなんとかな」


「随分と珍しい戦利品をもってるようですな」


「ああ、すべて男爵様の物だよ。とりあえずこれらを運んで来るのに、日用品を捨てて来た」


「それは難儀ですな」


「そこで一個買い取ってもらいたいものがある」


「なんです?」


「これだよ」


「おおおおおおお!」


「どうだい? グリフォンの魔石だぜ」


「それは凄い!」


「いくらで買い取ってくれる?」


「五百…いやこれなら金貨八百でどうだろう?」


「いいぜ」


「なんと! 分かった! それじゃあ今日の夜食はうちで豪勢にやろうじゃないか!」


 そして商人が屋敷に戻り、木箱を抱えて持って来た。


「八百ある! 数えておくれ」


「いいよ、信用商売なんだろ」


「わかった。それじゃあ頂くよ!」


「ああ」


 そうして商人は大きなグリフォンの魔石を持って行った。ボルトがマージに聞く。


「これでよかったんですかい? もっと高く売れると思いましたけどね」


「いいのさね。これでここに滞在する間は優遇されるじゃろ、それに帰りの馬車も用立ててもらわにゃならん。仕事を徹底してやってもらうなら、美味しい思いもさせないとねえ」


「なるほどね」


「それよりも、この甲虫の穀の方が何倍も価値がある。誰も知らんと思うがね」


「ごもっとも」


 そうして俺達は自分達の部屋に物資を運び込み、俺とマージとベントゥラでダマの花がある場所までのマッピングを仕上げていく。何処で何をすべきかも全て記し、誰が昇っても無事に上り下りできるようにルートを決めて行った。


「これでいい。今回はそれ以上の大きな戦利品を回収したからな」


「じゃあ、ギルドに行くとすっか」


「だな」


 そして俺達はマップの写しを持って、部屋に鍵をかけギルドに向かう。街中は相変わらずにぎわっているようだが、なにか騒ぎにもなっているようだった。


「なんか変だな」


「店の人にちょっと聞いてみましょうよ」


「おう」


 そして道端の店でボルトが話を聞いた。


「なんか町が騒がしいようだがどうしたんだい?」


「あんたら知らないのかい? リバンレイ山が怒ったんだよ! 一昨日に恐ろしい地鳴りと共に、大きな火柱が昇ったんだ。大勢が黒い雲が上がるのを見たって言うじゃないか。天変地異が始まるんじゃないかってもっぱらの噂だよ」


「あ、ああ…それか。大丈夫だよ。もう天変地異はおこらねえと思う」


「なんでわかるんだい。そんな事は神のみぞ知るだよ?」


「そうか…そうだな」


 そしてボルトはバツが悪そうな顔で戻って来た。


「なんかおかしなことになってた」


 そこでガロロが言う。


「なんとなく、大急ぎでギルドに行った方がいいじゃろ! そんな気がするのじゃ」


 そして俺達は急ぎギルドに行く。冒険者ギルドの入り口をボルトが潜った時だった。


 ドワアアアアアアアアア! と馬鹿みたいにデカい歓声が上がった。


「神殺しが帰って来たぞぉぉぉぉ!」


「はっ? いや、俺は違うぞ!」


「皆! 神殺しを通してやれ!」


 仕方ないのでボルトは受付まで行く。


「あー、どうも。ギルマスいる」


「すぐに上がってください!」


 ギルド嬢までが興奮気味だ。


「何だよ……」


 俺達はギルドマスターの部屋に通されて、ギルマスが飛び出て来てボルトに握手をした。


「やあ! ボルト君! お帰り!」


「あ、ああ。どうも」


「凄い事をしてくれたね」


「えっと、どうかな? したっけかな?」


「まあ座り給え!」


 どうやらあの大爆発の件は、ボルトの神殺しとして広まっているらしい。そのおかげで、ボルトの二つ名が主喰らいから神殺しにレベルアップしてしまった。それから俺達は、ダマの花が咲いている場所までのマップをギルドに渡し、攻略方法を伝えた。


 するとギルドマスターが言う。


「流石だ。数日でそれらを全てやり終えてくるとは! 流石は神殺し」


「や、やめてくれ。そりゃコハクが……」


「いやあ。君のような冒険者がいる事はギルドの誇りだよ」


「は、はあ」


 そうして、ダマの実を回収するミッションは終わった。これからは冒険者達が安全にリバンレイに登って、パルダーシュの為にダマの実を取って来てくれるだろう。


 ボルトは不本意らしいが、俺達は確かな成果を確信し、商人の屋敷へと戻るのだった。

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