第百五十話 巨大爆発とリバンレイ山の下山
身体強化を施して猛スピードで渓谷を駆け下りていくと、風来燕達が走っているのが見えた。俺はジェット斧を担いだ逆の手でメルナを担ぎ上げ、皆を追い越して走りつづける。皆も必死にそれについて来て、俺は皆に大声で言う。
「急げ!」
「「「「おう!」」」」
すると後方から爆音が響き地面が揺れ始めた。俺達が足を止め後ろを振り向くと、山の上の方で大きな爆発が起きているのが見える。
「大変だわ…」
《渓谷を登ってください》
「皆、崖を登れ!」
「「「「おう!」」」」
「メルナは俺におぶされ」
「うん!」
俺達が強化鎧の力をふんだんに使い、崖を登り始めると地響きが更に大きくなる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
川上を見れば、渓谷を伝って大量の土砂が押し寄せて来た。
「早く!」
俺達が昇る崖下を土砂が流れて行く。俺達はただ落ちないように必死に崖にしがみつき、しばらくしてようやく土砂が収まって来た。
「登ろう」
渓谷を登り切って上を見れば、黙々と黒いキノコ雲が立ち上っている。
「皆無事か?」
「どうにかな」
「そうか」
「それよりも魔石が切れた。最大稼働したからな」
「石を変える。これが最後の替えだから、ひとまず魔力の補充をする必要があるな。一旦小屋に戻って休むことにしよう」
皆が頷き、魔力を消化しないように小屋に歩いて行く。するとポツリポツリと雨が降り出す。
「なんだ? 雨が黒いな」
「あの煙のせいだ」
皆が見上げると、黒いキノコ雲が山を覆ってきたようだった。俺達は屋根に穴の開いた小屋に入り、とりあえず腰を下ろして一息つく。
「やばかったな」
ボルトが言うと皆が頷いた。正直俺もあれほどの爆発が起きるとは思わず、ギリギリで回避できたことにホッと胸をなでおろす。
「とにかく皆無事でよかった。あれほどの爆発になるとは思わなかった」
「ありゃいったいなんだ? 噴火って訳でもあるまい」
「わからんが。物凄いものだ」
するとアイドナが言う。
《小型核程度の爆発が地中で起きたようです》
凄いものだな。
《雨に放射線が含まれていません。核爆発とは違うもののようです》
それであれだけの破壊力か。
《あの生体動力がかなり危険なものであることが分かります。王都地中にあった物は、ここの物よりも大きかったので爆発すれば王都は消滅します》
厄介なものだ。
そしてマージが言う。
「とにかくこれで下山する事ができるよ」
「荷物を分担して行こう。メルナは俺が背負って行くから、魔石に魔力を注入してくれ」
「うん」
するとマージが言った。
「小屋を壊して、ソリが作れればいいんだがねえ」
「ソリか」
それを聞いてアイドナが言った。
《この床ですが、一枚になっているようですので、加工すればソリになります》
どうやって加工する?
《レーザー剣で切り出して穴をあけ、縄を通せば簡易ソリになります。設計図を投影》
ガイドマーカーが床を照らす。
了解だ。
「とにかくしばらくは、ここでこの雨をやり過ごそう」
メルナが魔石に魔力を注いだので、俺はメルナを抱き寄せて膝の上で眠らせた。
マージがポツリという。
「出来れば、あの施設は確保したかったけどねえ」
「もっと仲間がいる可能性がある。山を下りている間に使われたら、また何処かで大きな被害が出る」
「そのとおりさね。だが正体不明の敵に関する情報が、取れたかもしれないかと思ってね」
「それは無かった。しかし世界には似た施設があるらしい。それを見つけて処理しないと、また惨劇が起きる可能性はある」
「そうだねえ…」
ベントゥラがマージに聞いた。
「強い魔獣が山を下りて来たのは、あの二人のせいとみて間違いないだろうか?」
「だろうね。きっとあれらがこの周辺の魔獣を狩ったんだね。リバンレイ山だというのに静かすぎるだろう? まあこちらにしてみりゃ、逆に助かったけどね」
「確かに」
「このあたりの魔獣を討伐しておかねえとと思ってたけど、その手間は省けたってわけだ」
ボルト達の言うとおりだろう。とにかく俺達のやる事の一つを、あの二体はやってくれた事になる。しばらく小屋に潜んでいるうちに、雨がやみはじめ青い空が見え始める。山の風が反対側に黒雲を追いやってくれたようだ。
「よし。この小屋を俺が加工する」
「了解だ」
皆が外に出たので、俺はジェット斧を使い小屋の上側を全て壊した。瓦礫を全て周りに散らし、床が見えて来たのでレーザー剣を取り出す。
シュウゥゥゥゥゥ!
レーザー剣で床を丸く切り抜いた。それを引き出して四カ所に穴を空けた。
「よし! 穴に縄を通してくれ!」
「あいよ!」
皆で縄を通し簡易のそりを作った。
「荷物を乗っけろ」
皆の荷物やジェット斧、そしてソーラーパネルをそりの上に乗せる。俺とガロロが後ろの綱を持ち、前をボルトとベントゥラが引っ張る。フィラミウスの背にメルナがおぶさり、俺達はリバンレイ山を下り始めた。
「あたりが真っ黒だな」
そこで俺は気になった事をマージに聞く。
「マージ。空から降った泥で真っ黒になった。ダマの花は咲くのだろうか?」
「しばらくは無理だろうねえ。でも山の生命力はそんなもんじゃないよ、いずれ何処からともなく種が飛んでまた咲き始めるさ」
「ダマの花は、下では育たないのか?」
「あたしもやって見たんだけどねえ。無理なんだよ」
「そうか」
しばらく下っている時に、大型の鳥の魔獣が俺達めがけて飛びかかって来た。
「俺が仕留める」
俺はジェット斧を取り出して、そいつの頭めがけて振り下ろす。鳥は即死しガロロが鳥の首を処理して、ジェット斧に逆さまにぶら下げた。そして俺が言う。
「これを甲虫にくれてやるのはもったいないな」
「だけど、餌が無いと夜があぶねえぜ」
「ちょっと俺に考えがある」
「そうなのか?」
「ああ」
そして登ってきた時に休んだ窪みを見つけた。日も落ちて来たので、皆にそこで休むように言う。
「本当に餌を置いてこなくていいのか?」
「ああ。その前に食ってしまおう」
俺達は途中で採った、鳥の魔獣を食った。
「食ったら用を足しておけ。朝までは出れんかもしれん」
「わかった」
皆が鎧を脱いで用を足す。そして窪みに戻って来たので、俺が皆に言った。
「また、あの光の壁を作る」
「わかったぜ」
俺はレーザー剣を取り出し、窪みの両側にステルス管の穴を空ける。
「コハクは入らねえのか?」
「入らん。このベールを通る事は出来ん。皆は服を脱いでも良いぞ」
「マジかよ」
「ああ」
そして俺がステルス管を刺しこむと光のカーテンが生まれた。荷物と味方がカーテンの向こうに消え、俺はレーザー剣を持ってその前に座り込む。
「本当に大丈夫? コハク?」
「ああメルナ。心配するな」
するとマージも言う。
「本当に大丈夫かい? 数十万もの虫が襲って来るよ」
「問題ない。明日に備えて皆は寝るんだ」
「わかったよ…」
そしてさらに夜が更けた。だが皆は心配なのかまだ起きている。
「フィラミウスとメルナはとにかく寝てくれ。魔法使いはいざという時に居ないと困る」
「うん」
「本当に大丈夫なのかしら?」
「問題ない」
それからまたしばらくすると、ようやく皆が眠りに落ちたようだ。空は曇っているようで辺りは真っ暗、普通なら視界はゼロだろう。
《暗視モード。サーモグラフィー展開。五十メートルの範囲で戦いましょう》
了解。
すると俺の強化した聴覚に、ガザガサという音がし始めた。どうやら虫魔獣が這い出て来たらしい。
シュウゥゥゥゥゥ! とレーザー剣の光を灯すと、音の方からこちらに近づいて来た。俺がそちらに目を向けると、地面を埋め尽くす光の群れが押し寄せてきている。
「さて。どんなもんか」
《レーザー剣の耐久実用試験を開始します》
俺の手前まで来た虫の魔獣は、一斉にジャンプして津波のように俺に飛びかかって来る。アイドナが示すガイドマーカーの通りにレーザー剣を振るった。
パシッ! パシッ! パシッ! パシッ!
虫の大きさはだいたい十センチから十五センチ、だがレーザーの一振りですぐに蒸発する。
《虫の魔獣でも魔力を吸収できるようです》
予測通りか?
《はい。ここで出来る限り魔力を吸収しましょう》
そして俺はいつ終わるとも分からない、虫の魔獣退治を始めるのだった。