第百四十九話 ワームホール起動装置
起道装置をはめ込んだことで、この施設の動力源が動き出したらしい。皆が休んでいる間に、この周辺を探ってみたが他に部屋は無いようだ。この大型の機器以外は、めぼしいものは特になかった。
《この施設には他に何も無いようです。これは純粋に何かを起動させるための物です》
アイドナが施設のメインパネルを操作する為、俺を部屋の中央に移動させた。そこにはかなり大きなパネルがあり、それに手を置くとアイドナが高速操作を始める。
その間は俺もすることが無く、ただ目の前に映る画面を見つめるだけ。しばらくしてアイドナがその解析結果を俺に伝えて来る。
《これは前世にも無い技術です》
なんなんだ?
《この施設は、擬似的にワームホールを作り出す機器のようです》
ワームホール?
《はい。この世界の空間と、どこかの空間を繋げる技術のようです》
そんな物が……?
《はい。この施設は世界の七カ所に点在しているようですが、座標がはっきりしません》
なんだと?
《確実に分かっている事は、これは違う場所とつなぐ空間エレベーターです》
仲間を呼ぶというのは?
《恐らくワームホールを使って、この世界に呼んだ魔獣の事を言っているのでしょう。それでパルダーシュや王都を襲わせたという事です》
他に何か機能はあるのか?
《ないようです。そして、特殊魔獣が地上で活動するのは、ワームホールが繋がっている時間だけ。ワームホールが閉じれば、魔獣は戻されてしまうようです》
襲撃した魔獣が消えた原因はそれだったか。
《はい。空間を繋げるエネルギーは長い時間をかけて蓄積する為に、フルの状態では最大三回の連結しかできません》
という事は…、ヌベの村、パルダーシュ領、王都の三カ所は他でやったのか?
《どこかほかのワームホール機関でやったのでしょう》
三回でエネルギー切れ……か。
《その可能性が高いです》
それで、殺した奴らが新たなワームホールを探しに来たと?
《その通りです》
なら、あの二人にここを突き止められて居たら、また同じような被害が出たという事だな。
《はい。そしてもう一つ分かった事があります》
なんだ?
《座標を指定してワームホールを出現させられるようです》
座標を設定か。
俺の指先がパネルを高速で弾くと、座標が表示されていく。
《現在、壊滅したヌベの村は見れますが、パルダーシュ領と王都が見つかりません》
結界石があるところだな?
《結界石にはジャミング効果があるようです》
そういうことか。
これまでに起きた、不可解な現象に関しての情報が解明されていく。
ワームホールの先はどこだ?
アイドナが静かになって、更に俺の指が高速で動き出す。すると目の前の画面の上に、文字が浮かび上がって来た。
エリア1 エリア2 エリア3 エリア4 エリア5 エリア6 エリア7
すると大型のパネルに大きな球体が映り、その周辺に何かがゆっくり動いている。
《球体はこの惑星です》
この周りを動いているのは?
《コロニー群です》
これが…コロニーか。
《はい》
魔獣は宇宙のコロニーから来たという事か?
《はい》
訳が分からなかった。王都を襲った魔獣は宇宙のコロニーから来たらしい。俺の想像では他の世界から来ていると考えていたが、同じ世界の宇宙からやってきているのだ。
するとそこに風来燕達とメルナが来た。
「コハク! こりゃなんだ?」
何と説明したらいい?
《トークスクリプトを展開します》
「これは、この世界を取り巻く世界だ。丸がこの世界、そしてその周りに浮かんでいるのが別の場所だ。パルダーシュや王都を襲った魔獣は、この周りに浮かんでいる場所から来たらしい。この施設は、その場所とこの世界を繋ぐための物だ」
「なんだって?」
「そんなところがあるの?」
「初めて聞いたのじゃ」
「だな、聞いたことねえ」
風来燕達が面食らった顔をしている。
無理もない。宇宙という概念も知らないし、星が丸いという事すら信じられないだろう。彼らにそれを理解しろと言っても、不可能な事だと思う。だが説明の内容自体は理解したようで、朧気に理解したようだ。
そこで違う反応だったのはメルナが持つマージ。
「ふむ。外の世界か、そう言う考え方は昔からあるのさね」
「そうなんですかい?」
「古代文献に標されている事が多いのさ」
「どんな話です?」
「いろいろだけどねえ。この世界の守護者がいるとか、はたまた世界を監視する者がいるとか。そう言うのは、御伽噺にも概念として含まれていたりするものさね」
「そうなんすね」
「だからこれは、信じられないほどの大発見。あたしも世界の学者も追い求めた答えの一つが、ここにあるという事なのさ。あたしの体があるうちに見つけたかったねえ」
「ダマの実を取りには来てたんですよね?」
「とはいえ、あたしらにゃ、ここは絶対に見つけられなかったさ。あの謎の敵や、コハクの存在が無ければ無理だろうねえ」
「なるほど」
そして皆がこちらを見る。フィラミウスが誰ともなく尋ねて来る。
「コハクは……あの敵と同じところからきたのかしら?」
だがメルナが大きな声で言う。
「ちがうよ! コハクは私のお兄ちゃんだもん! コハクは私と一緒に居たんだもん!」
「そ、そうよね。ごめんなさい、コハクがアイツらと同じわけはないわ」
「そうだよ!」
本当に違うのだが、皆に説明する術が無い。そこで俺が会話を遮って言う。
「いずれにせよ。この施設は危険だ。誰かが使えば、またどこかの都市が魔獣に襲撃されるだろう」
「確かにそうだぜ!」
《本当によろしいのですか? ここからコロニーに行けるかもしれないのですが》
必要はない。俺はこの人らを守る。
《わかりました》
壊す方法は?
《暴走させることが出来ますが、早急にこの場所を離れねばならないようです》
わかった。
「この施設を破壊する事が出来る。だが起動したら早急に逃げる必要がありそうだ」
「逃げる?」
「ああ。かなりの距離をな」
「分かった」
「全員の魔石を交換して全力で脱出する」
皆が頷き、俺はさっき交換したばかりの魔石を取り出して、満タンの魔石を補充した。
「皆は先に出て行ってくれ。ここで入り口を開放できるようだ」
「コハクは?」
「この施設を破壊する為にやる事がある」
するとマージが名残惜しそうに言う。
「破壊するのはもったいないがねえ。まだ調べればいろいろと分かる気がするよ」
だが俺が首を振った。
「皆を危険に晒す。それだけは出来ない」
「本当にいいのかい?」
《本当にいいのですか?》
マージとアイドナが揃って言う。
「俺はヴェルティカを守る騎士だ。こんな物は不要だ」
「そうかい」
《わかりました》
「じゃあ! 行け!」
「わかった! みんな行くぞ!」
「「「おう!」」」
「メルナも行け!」
「わ、分かった!」
皆が出て行った。俺の指先は高速でパネルを打っていく。
《第四プロテクト解除》
ピピピピピピピ!
《第三プロテクト解除》
ピピピピピピピ!
《第二プロテクト解除》
ピピピピピピピ!
《第一プロテクト解除》
キュイキュイキュイキュイキュイ!
警報音が鳴りだし、俺の視界にはイエスかノーが表示されている。
イエスだ。
《暴走が始まりました。崩壊まで五分》
俺はジェット斧を拾い上げ、脱兎のごとくその場所を飛び出して行く。入り口付近に来た時にアイドナが言った。
《入り口の破壊を推奨します》
俺はジェット斧を構え、思いっきり入り口の周りを崩壊させていく。入り口が崩れたのを確認し、俺は早急に滝を飛び出して皆を追いかけて行くのだった。