第百四十五話 人外の二人の正体
目の前にしている奴らが何者で、何故こんな所にいるのかは分からないが、俺を逃さないと言う。敵は身体強化を施したと思われる二人、更に武器には何らかの機能があるようだ。
アイドナが敵のステータスを予測演算して表示する。
名前 グラド
体力 631
攻撃力 919
筋力 1206
耐久力 425
回避力 197
敏捷性 290
知力 58
技術力 699
化物だな。魔獣並みの攻撃力と筋力に剣聖並みの技術力か。
《先ほどの動きからの予測演算です。知力は高くないようですが力と防御に特化しています》
名前 ルクステリア
体力 297
攻撃力 713
筋力 381
耐久力 290
回避力 589
敏捷性 417
知力 189
技術力 732
どちらかというと、こちらの方が化物だ。攻撃力も高いが敏捷性と技術力が突き抜けている。
《魔獣並みの攻撃力に素早さが加わっています。技術力も高いようです》
いずれにせよ、どちらも厄介だ。連携を取るし武器にも攻撃力が備わっている。
ステルス機能の為に相手からは見えていないが、俺が剣を抜いた音を聞いてグラドが言う。
「ルクステリア! その草の所にいるよお!」
シュッ! ルクステリアが俺に斬り込んで来るが、その軌道は未来予測の通りだった。俺は易々とそれを避け、避けた先にグラドの大きな斧が振り落とされてくる。だがそれも既に予測されている動きで、縮地で斧が落ちる前にすり抜ける。
「へえ、避けるんだなあ」
「鎧を着ているのに速すぎるわ」
まるで見えているようだな。
二人が俺を値踏みしているようだ。だが、そこでアイドナが言う。
《ステルスはある程度有効です。それに今の動きでこちらの戦力が読み切れないようでは、あなたに勝つことは出来ません。そして敵の武器の性能が分かりました》
そこにまたルクスリアとグラドの連携攻撃が来た。しかしすでに素粒子AIの未来予測を上回る事は出来ず、俺はその攻撃も易々と潜り抜ける。ルクステリアの攻撃は地面の草を焼き、グラドの攻撃は地面を割る。
《ルクステリアの武器はレーザー系兵器、グラドの斧はジェット噴射機能が付いています》
だから焼けたり、地面が割れたりするのか。なんでそんな高機能な武器があるんだ。
《検証の為、無傷で確保したいものです》
そうか。
《攻撃優先はルクステリア、グラドはその後で問題ありません》
俺の位置を察知しているのはグラドだが?
《グラドは耐久力が高いので急所を外せば、ルクステリアの攻撃を受けます》
わかった。
《龍翔飛脚発動。瞬発龍撃発動。炎毒防壁発動》
バン!
ステルス鎧の為に、俺の身体強化は見えないだろうと思っていたがグラドが言う。
「なーんか変だなあ」
《気づいたようです》
「光学迷彩といい、重い鎧を着ての敏捷性といい、コイツはこの世界の人間なのかしら?」
「鎧を着ているからわからねえなあ。もしかしたら魔獣なのかあ?」
「人型の?」
「もしくは、エルフとか言われる奴らかあ」
「なるほど。長寿の奴らならこのぐらいの科学力があってもおかしくはないのかも」
何だか随分余裕のようだぞ?
《スペックで完全に勝っていると確信しているからです。ですが今の戦闘結果から見ても、彼らに未来予測機能はありません。仕留めてください》
ボッ!
俺はアイドナのガイドマーカーに従い、回りこむようにルクステリアの左方から迫る。
「左に行ったあ」
「ふん」
ルクステリアがレーザーソードを的確に振って来るが、俺はアイドナのマーカー通りにそこに左手剣を投げる。そして猛スピードから一瞬だけ止まり、また突進する。普通の体なら、足首と膝がねじ切れかねないが身体強化した体はびくともしない。
ジュッ! パキッ!
左手剣が先にレーザー剣で斬られ、その後ろから寸瞬遅れで俺の右手剣がルクステリアの喉元に走った。
「ゲグゥ!」
ルクステリアの首を右手剣が貫き、卒倒したように倒れる。そのままガイドマーカーに従い、前方宙返りをして高く飛ぶとグラドの斧が落ちて来た。俺はその斧の上にトンッ! と乗って、右手剣を両手で持ち替え、もう一回転前方宙返りをしつつグラドの後頭部に剣を走らせる。
スパン!
グラドの後頭部がぱっくり避けた。
《死んでません》
その音と共に俺は、ダッ! とグラドから飛び去る。グラドは地面に落ちた斧を振り上げて、俺がいた場所を切り裂いた。だが既に俺はそこにはおらず、五メートルほど先に着地していた。
「ぐぅぅ」
ぼだぼだぼだぼだ!
《血液が緑色です》
喉を刺したルクステリアが、這いずるように動きだす。頭を割ったはずのグラドが、フラフラしながらも斧を杖にして立っていた。
《人間なら死んでいます。魔獣の類かもしれません》
トドメを刺すか。
俺が近づいた時、ルクステリアが叫ぶ。
「ぶじゅ、までぐ、まで! す、ずじゅ 姿を、みぜろ」
聞き取りづらいな。
《姿を見せろと》
今度はグラドが言った。
「ぢくじょお。死ぬう死ぬうあ」
《情報を取りましょう》
アイドナは鎧のステルス効果を解除した。
「で、でだぁなあが! ぶじゅっ、お前は、何だぁ……」
「俺は、男爵だ」
グラドが言う。
「ぞの、づよさは、いったいなんなんだあ」
「それは俺が聞きたい。お前達は一体なんだ。なんでこんなところにいる?」
「「……」」
《答えないようです。処理しますか?》
アイドナの指示を無視して、もう一度聞く。
「答えないなら殺す」
「まっ、までっ ぶしゅっl わあがったあ」
「なんだ?」
「あるもの、さがじでる」
「何を探している」
「……」
「答える気が無いのなら…」
すると今度はグラドが言った。
「ルクステリアは、助けてぐれあ」
「では、何を探していた?」
「起動装置」
「起動装置?」
「そうだ」
「何の起動装置だ?」
「な、仲間を呼ぶのだあ」
「仲間とは?」
「あだし、だぢのながまよ」
喉をやったためにルクステリアの声が聞き取りづらい。
《仲間とは、龍やステルスの蜘蛛かと聞いてください》
「お前達の仲間は、龍やステルスの蜘蛛か?」
「な、なんで、それをを?」
《炎の剣を操る王都の怪物と同類かと》
「お前達が王都をやったのか?」
「おまえは、なんだぁ ふしゅー」
「俺は王都にいたんだ」
するとグラドが慌てだす。
「こ、こいづだあ。アヴァリをやった奴だあ」
「うぞっ! ぶしゅ! なんでごんなどごに?」
「お前らは何のために、人間の世界を襲っている?」
「くぞお! こいつがあ」
「なんでえ? ごんなやづがいるのだ?」
《あえての時間稼ぎですね。何かを狙っています》
そのとき、しゅるしゅると、二人の尻あたりから尻尾が生えて俺に襲い掛かって来た。あの王都の霊安室で遭遇した、尻尾と同じ動きをしている。
スパン! スパン!
その二体の尻尾を斬り落とす。
「にげ、にげろ。ルクステリアあ」
「無理! むり! うごげねい」
《これ以上は無意味です。とどめを刺しましょう》
俺はルクステリアの所に行って脳天に剣を降ろす。
ズド!
ビグン! と痙攣し動きを止めた。
《生体活動停止》
「ま、までえ! おれはあ!」
ズド!
割れた頭に剣を突き刺す。
ガグン!
《生体活動停止》
周囲に生体反応も無くなったので、俺は皆がいる方向に向かって手を振った。するとひょこっと頭を出して、こちらの方に走って来る。ボルトが慌てて声をかけて来た。
「ど、どうなった?」
「殺されそうになったので殺した」
「こいつら凄い動きをしてた。コハクはまた消えたのか?」
「消えたが、音に反応されて的確に反撃して来た」
「おそろしいな」
「そしてこいつらは、王都を魔獣で襲った奴らの仲間らしい」
「なんだって?」
「こいつらも尻尾を持っていた」
するとマージが言う。
「一体なんだろうねえ?」
「分からん。それよりもこいつらの武器は使えるかもしれん」
落ちている筒と、巨大な斧を指さす。俺が筒を持ち上げると、アイドナがそれを感知して言う。
《これは恐らくルクステリアの専用兵器です。生体反応で稼働するようになっています》
俺は使えないのか?
《解析してみなければ分かりません》
するとベントゥラが言う。
「見ろよ。死体がもう干からびてきてる」
「本当だ…」
「きっとこいつらがいたおかげで、魔獣が下に逃げたんだねえ。こんな奴らがいたんじゃ、普通の人間ならすぐに死んでただろうさね。風来燕も命拾いしたねえ」
「元より、俺達だけなら登って来てねえっす」
「ちがいない》
そして俺はこいつらがいた小屋に向かう。小屋の中を見ると近代的なテーブルや椅子があり、そのテーブルの上にアタッシュケースのようなものが置いてある。
なんだ?
《他にも何があるかを確認しましょう》
そして俺はその小屋を物色し始めるのだった。