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第百四十二話 出現する凶悪魔獣

  おかしな気配を警戒しつつ、俺はその方角を探っている。皆は寝息を立てているが、マージは寝る事は無いので、俺はマージに向かって静かに話をする。


「マージ」


「どうかしたかい?」


「おかしな音がする」


 アイドナの聴覚強化で俺の耳に細かい雑音が入るのだ。


「どんな音だい」


「カラカラのようなプチプチのような、そんな音だ」


 するとマージが声を潜めて言う。


「なら、ここにじっとしている事だねえ」


「動くなという事か」


「そうさね。恐らくは甲殻虫系の魔獣が出た」


「大丈夫なのか?」


「あんたが、グリフォンを崖の上に持って行ってくれたろ?」


「ああ。それはマージが情報をくれていたからだ」


「うむ。甲殻虫はそれに誘われたのさね。グリフォンを置いていなければ、こっちに向かっていたかもしれないよ。殲滅魔法が使える者を連れてこないといけないねえ。もしくはメルナに覚えさせるか」


 このパーティーは大規模殲滅魔法が使えないので、やり過ごす事が一番と言われていた。


 しかし脳内のアイドナは違う事を言う。


《座標を記録すれば問題ありません》


 大規模魔法が使えないんだぞ。


《問題ありません》


 まあいい。とにかく今はやり過ごすだけだ。


《はい》


 その音はずっと続いていたが、次第に薄れ、二時間もすると静かになった。


「音がしなくなった」


「だからといって動かない方が良い。とにかく夜が明けるのを待つのさ」


「夜明けを待つ?」


「夜行性だからねえ。昼間になれば太陽の光を裂けて、岩の下や洞窟に潜るのさ」


「なるほど」


 それから少しして俺はボルトを目覚めさせた。そのまま継続して見張ってもいいが、念のため俺も深眠の休息をとるつもりだ。


「ボルト。交代だ」


「あ、ああ」


「虫が出たかもしれん。充分注意してくれ」


「了解だ」


 そして見張りを交代し、アイドナは俺をシャットダウンでもさせるかのように急速に眠らせた。そして二時間もするとスッと目が覚める。極端に深い眠りについたため、脳がすっかり活性化している。


 するとボルトが、目覚めた俺に気が付いた。


「もう起きたのか?」


「睡眠は十分だ。交代の時間だろう?」


「ああ次はガロロだ」


 そしてガロロを起こし、ボルトが眠りについた。俺はガロロに言う。


「さっき甲殻虫類の魔獣の気配がした。マージの言う通りここから動くな」


「わかったのじゃ」


 それから二時間後、ベントゥラに交代し薄明るくなってきた空を見る。


「みろよコハク。めちゃくちゃ綺麗だぞ」


 紫とピンクと橙色がグラデーションになっており、雲が淡くピンク色に色づいている。すそ野に広がる森が見え、その先にはカロスの町が見えた。そのずっと先にポツリポツリと村があり、平野が見渡せるようになってくる。


「昼間とは違う景色だな」


「ああ。役得だぜ。こんな絶景はそうそう拝めねえ」


 そして日が高く昇ってきて、俺とベントゥラが皆を起こした。


「メルナ、フィラミウス。体調はどうだ」


「スッキリだよ」

「充分休ませてもらったわ。鎧が暖かいから目が覚める事も無かった」


「よし」


 メルナが休めれば強化鎧は動かせる。このパーティーはメルナの魔力が生命線なのである。


《グリフォンを確認して来てください》


 ああ。


「ちょっとグリフォンを見て来る」


「気を付けるんだよ」


 俺はすぐに崖を登り、グリフォンのあったところに行って見た。


 骨が残っている。


《皮や肉も脳もゼロ。毛の一本も無いようです》


 骨は食わんのかな。


《硬いのでしょう》


 俺はそのまま皆の元へ下りて言う。


「二体のグリフォンは骨しか残っていなかった」


 それを聞いてマージが言う。


「間違いないねえ。甲殻虫系の魔獣の群れが出たんだ」


 そこでベントゥラがマージに聞いた。


「ここを登るなら、夜になる前に餌になる魔獣をつかまえとかねえと、まずいって事っすかね?」


「そうだねえ。ただ何処にでもいるって訳じゃない。今はこのあたりの洞窟か何かにいるんだろう」


 なるほどな。だからマージは、浅い窪みを探せと言ったんだ。洞窟の入り口なんかに行ったら、甲殻虫の群れに襲われかねないからな。


《昔の冒険者の知恵なのでしょう。登った事があるからこその情報です》


 なるほどな。そして俺は皆に声をかける。


「行くぞ」


「「「「おう」」」」


 俺達は再び山道を登り始めた。夜寝ている時に鎧の魔力は一切消費しないので、まだしばらくは動くだろう。そのまま登っていくと、小さな洞窟の入り口を発見する。


「穴だ」


「恐らくは巣穴の出口の一つさね」


「今、虫の魔獣をどうにか出来ないのか?」


「ここで火を焚いたところで、どこかの穴から逃げちまうよ。夜に出て来たところを、一気に焼き払うのが一番良いのさ」


「なるほど」


 更に俺達が昇っていくと、雑木林が見えて来る。するとマージが言う。


「迂回しようかね」


「まっすぐ進まねえんですかい?」


「うーん。厄介な魔獣に会わないとは言い切れないからねえ」


 そこで俺が聞く


「厄介なのとは?」


「毒を発する魔獣や、精神干渉系の魔獣がいるかもしれんのさ」


「そんなのがいるのか?」


「攻撃範囲はすこぶる狭いがね。真下を通ったり、五メートル四方に近づかなければいいんだがね」


 だが迂回すれば時間がかかるな…。


「いや。まっすぐ進もう」


「うーん。万が一、引っかかると、それこそ仲間同士で殺し合いを始めかねない」


「先に見つければいい」


「木に擬態しているから、見つけるのは容易じゃないのさ」


「そいつに心臓や脳はあるのか?」


「あるよ」


「ならまっすぐ進もう。俺が必ず先に見つける」


「大丈夫かい?」


「問題ない」


《サーモグラフィー及びエックス線透過、異彩感知を発動》


 そして俺達は雑木林に足を踏み入れた。俺が先に歩き周囲を警戒する。しばらく進むと俺の視界に、赤くドクドクと動く赤い物体が目に入る。流石はマージと言ったところだ。こんなのがいるのを先に予見するなんて、賢者でなければ出来ないだろう。

 

「止まれ」


「なんだ?」


 俺は視線の先の雑木林の上の方に指をさし、ベントゥラに言う。


「あの枝は植物じゃない」


「ど、どれだい? 全く分からない」


《ノントリートメントにはサーモグラフ機能やエックス線透過は出来ません》


 どうやって分からせるか。


《あなたが石を投げて知らせればいい》


 俺がベントゥラに言う。


「俺が石を投げる。そうすれば反応するだろうから、弓で射貫け」


「わかった」


 ベントゥラが弓と弓矢を取り出して、俺が指さす方向に構える。


「いくぞ」


「おう」


《瞬発剛力発動》


 上半身の筋肉が盛り上がる。ガイドマーカーが引かれたとおりに、俺が石を投擲すると目的の枝の付け根にぶつかった。バチン! と音がして、その枝が驚いたように木から飛ぶ。


 シュン! 


 ベントゥラの放った弓矢が、落ちた木の枝を射抜いた。


「ぎょぉぉぉえええ!」


 木の枝がバタバタとしており、俺が一目散に走り寄って斬った。それは、動きを止めて静かになる。木の枝に見えたそれには内臓があり、血がどくどくと吹きだしてくる。


「殺した」


 皆がやってきてそれを見る。


「こんな魔獣は、見た事ねえぞ」


 するとマージが言う。


「どんなのだい?」


「枝だけど、殺したら紫色になった」


蔓縛かずらばくだねえ。もし下を通ったら、身動きが取れなくなっていただろうねえ」


「厄介なやつだ」


「それにしてもコハクは良く見抜いたね」


「他とは違った」


「「「「……」」」」


「ま、まあコハクが言うならそうなんだろ」


 そしてマージが言う。


「何かの能力だろうけどねえ。それならリバンレイの森も怖くない」


「大丈夫だと言ったろう?」


 皆が頷き。周りの樹木を見渡した。


「私達なら絶対餌食になってた」


「ちげえねえ。コイツは、敵を動かなくしてどうするんでさあ?」


「体液を吸うのさ」


「うへぇ」


「まあ、鎧があるからいきなりは無いけど、隙間から侵入して来るだろうからね。オークやオーガなんかとは全く違う性質の魔獣さね」


 ベントゥラが聞く。


「もしかしたらリバンレイには、こんなのがうようよ?」


「そう言う事さね」


 皆が唖然とする。そこで俺がみんなに行った。


「先に気が付けば大丈夫な奴は先に気が付けばいい。餌で回避できる奴がいるなら、餌でやり過ごせばいい。そしてそれらが難しいなら、全て迂回して動けばいい」


「あははは。それが出来ないから厄介なんじゃないか! コハクは面白い事いうねえ」


 そこでボルトが言う。


「俺達だってBランク、ベントゥラだってそこそこ力のある斥候なんだぜ。おまえは簡単に言うけど、間違いなくAランク相当のパーティーが何組も居ないとどうにもならねえ」


「ランクなど関係ない。効率よく処理していけば、正面からぶつかる事は無い。マージは賢者なんだ。その知恵を借りれば、回避の方法はいくらでもあるはずだ」


 マージが言った。


「それを理解して、具体的に行動できる奴なんざそうそういないんだよ。コハクは、自分が特殊だという事を分かった方がいいだろうねえ。まあ分かったうえで、いろいろやっているんだろうけど」


「俺を全て活用して行けばいいだけの話。現状を記録して、対処方法を考えるんだ」


「ま、その通りだけどね。いずれにせよここまでこんなに早く登って来れたのは、コハクがいたからだ。普通の冒険者にはそれほど簡単じゃないんだよ」


「わかった」


《情報は全てインプットしています。この森の座標も確認、マッピングは順調です》


 わかった。とにかく真っすぐに行けばいいんだな?


《最短距離を記憶してください》


 了解だ。


「行くぞ」


 そして俺達は再び進み始める。すると森の出口が見え始め、そこを抜けると岩肌の坂が見えて来た。俺達はそのまま、坂を昇っていく。だがすぐに何かの動く音が聞こえて来た。


「音がするな」


 先の大岩の向こうに、何かいるのが伝わって来る。


「聞こえねえぞ」


「かなりデカい」


「マジか」


 俺達が岩まで登り、先を見るとバカでかい蜥蜴がいた。恐らくは八メートルぐらいある奴で、表面がボコボコと岩のようになっている。それをそのままマージに告げると、次のように言った。


「ロックサラマンダーだろうねえ…」


「あれはどんな魔獣だ?」


「甲殻が硬くて、厄介なのは火を吐く事だ。恐らくは仲間を呼ぶよ」


 だが俺が言う。


「なるほど。ならここで強化鎧の試験をしようか。防火機能を調べるにはちょうどいい」


「焼けねえんだよな?」


「大丈夫だ。その前に冷却しておこう。フィラミウス頼めるか」


「わかったわ」


 フィラミウスが氷魔法を唱え、強化鎧の表面温度を急激に下げる。


《魔力循環良好》


 よし。


「みんな! 行くぞ!」


「「「おう!」」」


 俺とボルトとガロロとベントゥラが、一気にロックサラマンダーに向かっていく。


「ぎゃっ! ぎゃっ! ぎゃっ!」


 ロックサラマンダーが俺達の接近に気づいて鳴くと、後二匹が岩の陰から出て来た。六メートルと四メートルぐらいの奴で、そいつらが俺達を睨みつけている。


「八メートル級は俺がやる。六メートルをボルト! 四メートル級をガロロとベントゥラでやれ! 強化鎧フル稼働だ!」


「「「おう!」」」


 俺達は真っすぐに、ロックサラマンダーに突進していくのだった。

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