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第百四十話 魔獣グリフォンを仕留める

 改良した強化鎧には魔石が四つ入っており、極端に動かなければ稼働時間は四倍となる。戦闘となるとニ十分程度しか持たないが、その前に俺が撃破すればいいだろう。


「ボルト。魔石は四つ仕込んであるが、逆に補充にも時間がかかる」


「わかった」


「だから出来るだけ魔獣は俺がやる」


 俺の言葉に風来燕がうんうんと頷いていた。


 そしてマージも言う。


「甲殻虫系の魔獣が来たら、戦わずにみんなで固まった方が良いだろうねえ」


「わかった」

「うん」


 それから俺とマージも強化鎧を装着した。しばらく崖を登って後ろを見る。


「森が広がってる」


 俺が言うと皆が後ろを振り向いた。


「ひゅうー。結構登って来たな」

「本当ね。でも凄くいい景色ね」

「このようなところまで単独パーティーで登って来るとはの」

「そうだな。流石に俺も斥候で奥に行くのは怖いぜ」


「ベントゥラ、ここから斥候は必要ない。強い魔獣が出て来る可能性がある」


「おう」


 そんな時だった。


「ぎゃあぁぁぁん!」


 何かの叫び声が聞こえた。それを聞いたマージが言う。


「断末魔のようだったねえ」


「こんなところでか。まあ碌なもんじゃねえのは確かだ」


 そこで俺が言う。


「みんなは十メートル後ろをついてこい。単独撃破を試みる」


 皆が頷く。


 谷になっているところを通り抜け先を見ると、バカでかい馬のようなのが何かをくわえていた。俺が手招きでベントゥラを呼ぶ。


「あれはなんだ」


「グリフォン…マジか。こんなところに居んのかよ」


「なんだ? 珍しいのか?」


「珍しいなんてもんじゃねえ。伝説級の魔獣だよ」


「トロルを食ってるようだな」


「グリフォンって事は一匹じゃねえぞ」


「どういう事だ?」


「番か子供がいる」


「そうなのか?」


 するとマージが俺に教えてくれる。


「こんなところで餌をとっているとすれば、オスのグリフォンさね。間違いなくどこかに巣があってメスがいる。ベントゥラの言うとおり、こんな場所にいる魔獣じゃないねえ。テリトリーを犯せば攻撃して来るし、巣から遠ざかれば攻撃はない」


「撃破すればいい」


「あれは飛ぶんだよ。羽があるだろう?」


「なるほど」


「高度を取られれば、冒険者は手も足も出ないのさ」


「だが、グリフォンの攻撃も届かないんだろう?」


「急降下してクチバシや爪で攻撃してくる、厄介な魔獣だよ」


「降りて攻撃を仕掛けて来たところを仕留めればいいだけだ」


 皆が沈黙した。


「あんたは簡単に言うけどねえ。結構な速さで飛ぶんだよ」


「なら、なおの事いい。相手の力を利用する事が出来る」


「呆れたよ。まあ…コハクが言うのならできるんだろうねえ。みんなはどうする?」


「強化鎧を着ているから一撃で死ぬ事はねえだろ。コハクが出来るつーんなら出来る」


「だそうだよ」


「行こう」


 俺がそのまま無造作に岩を飛び越えて前に進む。


《まだ気づかれてません》


 俺が何も無いように進んで行くと、トロルを食い終わったグリフォンがこちらをむいた。


《認識されたようです》


 俺は皆に言う。


「伏せろ」


 みんなは俺の言うとおり地べたにふせた。


 さて。


 俺を認識したグリフォンは、大きな翼を羽ばたかせて空中に浮かぶ。


「見つかったぞ!」


 ボルトが叫ぶが、もちろん見つかるように歩いているので当然。


「キィィイッィィィィイ!」


「くるぞ!」


 マージが叫んだ。


「メルナの蛇電撃を使うかい!?」


「いらん。魔力は温存してくれ」


《羽と体の形状から推測して、攻撃は落下してのクチバシ、もしくは爪による攻撃》


 マージが言う通りという訳だな。


《エックス線の透視で、体組織の位置情報を確認。クチバシなら脳、爪なら心臓を突いてください》


 俺の視界にはグリフォンの脳と、鼓動する心臓が映し出されている。


 心臓は一つか。


《そのようです。猪突飛脚を龍翔飛脚へレベルアップ。瞬発剛力を瞬発龍撃へレベルアップ》


 バン! と鎧の中の体がデカくなり、筋肉量と魔力量が格段に上がる。


《攻撃予測完了。ガイドマーカー展開》


 太陽を背に舞い上がったグリフォンが、一気に俺に向かって急降下して来た。確かに物凄いスピードだが、俺はアイドナのガイドマーカーに沿って剣を突きだすだけだった。


 ズドッ!


 ドッスゥゥゥゥウン!


 クチバシを突き刺そうとした巨大なグリフォンの目玉から後頭部にかけて、俺の剣が突き抜ける。グリフォンは俺の剣が突き刺さったまま、頭上を飛び越えて落ちた。すぐに俺がグリフォンの所に行き、目玉から剣を抜きさる。


 魔石の位置を確認してくれ。


《はい》


 アイドナが、グリフォン内部の魔石の位置を確定させる。どうやら心臓のそばにあるようだった。


「ガロロ! 解体して魔石を取ってくれ!」


「わかったのじゃ!」


 魔獣の解体はガロロが得意としていた。伏せていた風来燕達が俺の元に来ると、ガロロは大きな斧を振りかぶり魔石のすぐ脇に振り下ろした。


 ズドッ! 


 グリフォンの体が裂けて魔石が見える。ガロロが腰からナイフを抜き去り、ごりごりと魔石を外して行った。ずるりと出て来た魔石は大きく、メルナの頭くらいあるようだ。


「このままだと鎧には使えん」


「上手く砕かないと割れてしまうじゃろうな」


「まずは持って行こう」


 そうしてガロロは背負っている袋に、綺麗に血をふき取った魔石を入れた。そして一言いう。


「トロルならすぐに使えたんじゃがの」


「まて、さっきコイツがトロルを食っていた」


 アイドナがエックス線透視すると、胃袋の中に魔石が見える。


「ここにあるぞ」


「わかった!」


 ガロロが再びグリフォンの死体をほじくると、胃袋の中からトロルの魔石が出て来た。丁度良い大きさで、強化鎧に入れる事が出来そうだった。


「メルナ。魔力を注いでくれ」


「うん」


 メルナが魔力を注ぎ、魔石が輝きだす。俺はそれを腰の収納に入れた。


 そして俺達は再び進み始める。そこでマージが言う。


「さっきのはオスだったねえ。ということはメスがどこかにいる。男がエサ取りに来たという事は、巣に子供がいるかもしれないねえ」


「回収しよう」


「とにかく探そうかね」


「「「「おう」」」」


 俺達が岩場を進みあちこち探し回ると、少し山を登っていった窪みに、大型のグリフォンが眠っているようだった。


「見つけた」


「寝ているようだ」


 するとアイドナが俺に言う。


《暗蜘蛛隠を発動しますか?》


 それはなんだ?


《王都で戦ったステルス蜘蛛の魔力を合成し、鎧にそのスキルを流し込みます》


 使ってみよう。


《暗蜘蛛隠発動》


 すると風来燕たちが驚いている。


「こ、コハク?」


「ん?」


「そこにいるのか?」


「ああ。俺はどうなっている?」


「見えなくなった!」


「なるほどそう言うスキルか」


「それは、コハクの新しい鎧の機能なのか?」


「そうだ。俺があれを仕留める」


 俺は岩場を乗り越えて、音をたてないように下りていく。もう少しというところでスッとグリフォンが頭を上げた。


《恐らくは匂いで感知したようです》


 見えてはいないんだな?


《そのようです。調整し身体強化をします》


 先ほど一度グリフォンと戦っているので、アイドナは既に強化の調整が済んでいるようだ。


 グリフォンがきょろきょろしている所に、狙い定めてアイドナがタイミングを取る。


 ズドッ!


 グリフォンは何をする事もなく絶命した。


《暗蜘蛛隠解除》


 ステルス機能が解かれ俺の体が浮かび上がると、風来燕とメルナが坂道を下って来るのだった。


「やったな!」


「ああ。ガロロ! これも解体してくれ」


「わかったのじゃ!」


 風来燕達が、ずるずるとグリフォンを巣から引きずり出す。数トンはあると思うが、強化鎧のおかげで三人でも運べている。


 するとメルナが言う。


「あ! 卵!」


「本当だわ」


 グリフォンの下から大きな卵が三つ出て来た。マージが言う。


「グリフォンの卵だって? それは貴重だね。全部持って帰るよ」


「わかった」


 俺達はグリフォンの卵を背負子に入れる。グリフォンの魔石も取れたようだ。


《ここまでのマッピングは出来ました。グリフォンの死体を餌にすれば魔獣が集まるかと》


 餌か。


《先ほどのグリフォンも運んできましょう》


 よし。


「このグリフォンを目立つところに運ぶ」


「了解だ」


「先ほどのグリフォンは俺が持ってくる」


 俺がさっきのグリフォンの所に走り、足を持って引きずって来る。


「行くぞ」


 俺達は二体のグリフォンの死体を引きずって、ずるずると山を登っていくのだった。

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