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第百三十一話 これからについての話

 オーバースとの話し合いが終わり、とりあえずはガラバダの檻の中に適当な食い物を入れて目覚めさせる。だがガラバダはそれらには口をつけず、オーバースに向かって言い放った。


「こんなものが食えるか」


「お前がそれを食おうが食うまいが、俺達には関係ない」


「くそ! ここから出せ!」


「お前はもう出られない。情報を話すまではずっとこのままだ。お前の希望も聞かん」


「ちきしょう! あの忌々しい賢者め…」


「賢者がどうした?」


「アイツさえ情報を読み取らなければ、全てが思うままに進むはずだった」


「情報を読み取るだと?」


「馬鹿な人間には読み取れない情報だよ。バーカ」


「だが賢者に読み取られて、お前達は後手後手にまわっていると? どちらが馬鹿なんだ?」


「ムギギギギギ!」


「とにかく何も話さないというのだな?」


「知るか!」


 するとオーバースがメルナに目配せをする。


「お、おい! やめろ! やめさせろ!」


「常闇よ、その懐に包みこめ」


 ゴトン!


 またガラバダが倒れてしまう。


《あの闇魔法ですが、シャットダウンに似ています》


 たしかにな。電源が切られたようになる。


《古代遺跡にしても、魔法にしても前世には無いものでしたが、恐らく原理原則的なもので共通している部分がありそうです》


 すると結界の外から声がかかる。


「王城から使者がきました。陛下が戻られ会議に参加するようにと、パルダーシュの者も連れてくるように通達です」


「わかった。直ぐにいく」


 そしてオーバースは一人の魔導士に、結界維持と出入りを制限するように伝えた。地下警護に騎士を二名残して一階に行く。騎士八名と魔導士三名を、一階に置き警戒を怠らぬようにと命令した。


 そしてマージが俺にこっそり言う。


「あの結界は最新の物だからねえ。鍵の詠唱を知っている者とはいえ全てを解除できない。万が一、敵の間者が来ても破る事はできないんだよ。それだけ未知の技術をコハクが使えるという事なんだがね。もしかすると王城に行ったら、その辺りを聞かれるかもしれないよ」


「話してもいい事だけを言うさ」


「うむ。あとはオーバースにも考えがあるようだ。必要最低限にしておくことさね」


「わかった」


 そして俺達は外に出る。路地には人っ子一人居なかった。


「人がいない」


 俺がポツリというと、オーバースが答える。


「あんなことがあった後に、こんな物騒な裏通りに来る奴なんかいねえさ」


「なるほど」


《ガラバダを隠し置くには、この場所は最適です。本来なら牢獄に閉じ込めるところですが、まさか奴隷商にその身を拘束されているとは誰も予測できません》


 ヴェルティカの好判断だったということか。


《流石は辺境伯令嬢と言ったところでしょう》


 そして俺達パルダーシュの面々は、オーバースについて王城に向かう。来るときは呆然と人が立ち尽くしていたが、どうやら王都の外に逃げた人達も戻りつつあり、助け合いながら立て直しを始めていた。オーバースを見かける騎士が、ざっと姿勢を正すがオーバースは手を挙げるだけでさっさと歩いて行く。今は挨拶などより、市民の救助を優先させろという意味なのだろう。


「まずは死んだ人らの埋葬に明け暮れるだろうな」


 フィリウスが答えた。


「速やかに進めませんと、日が経てば腐れてきます。放置すれば疫病も広がりますからね」


「だな。後はギルドが魔獣の素材を急いで拾ってくれるといいんだがな」


「冒険者にも被害は出たのでしょうか?」


「だろうな。流石に、あんなバカでかい魔獣の群れに対応できる冒険者は少ない」


「そうですね…」


 そしてフィリウスはボルトたち風来燕を見る。今は鎧を脱いでいるが、鎧を着ている彼らはその魔獣達を屠っていた。


 するとフィリウスが俺に言う。


「コハク。恐らく陛下は強化鎧の事を聞いて来るだろう。ここまで来て隠し立ては出来まい、恐らくは国家騎士の為の量産の話をされると思う。そうなった場合どう説明する?」


「…これは本当の話なんだが、あの魔法陣は今のところ俺にしか彫れないんだ」


「そうだよな。どうすれば出来るようになる?」


「マージに聞いてみないと分からない」


 俺とフィリウスとメルナが、団体から離れて歩く。そしてフィリウスが、メルナの鞄に話しかける。


「聞いての通りだ。どうすればいい? ばあや」


「そうさねえ。御触れを出して、ドワーフの天工鍛冶師を集めるしかないだろうねえ。ドワーフの里にも足を運ばねばなるまいて」


「そうか…難しい事だ…」


「難しいのか?」


「ドワーフの天工鍛冶師など、世界に十名も居ないだろう。それを集めるとなると、国家間の問題にも発展しかねない。むしろ天工鍛冶師を説得できるだけの材料があるかという話だ」


 だがマージは笑う。


「あるさね」


「そうなのか? ばあや」


「フィリウスや。ここに天工鍛冶師の更に上を行く、神鍛冶師がいるんだ。その技巧を魅せられて、心揺るがない天工鍛冶師などいる訳がないじゃろうて」


「神鍛冶師?」


「コハクじゃよ。正直なところ天工鍛冶師など、コハクの魔法陣の彫金の精密さからすれば児戯に等しいのさ。フィリウスは目をつぶって下書きも無く、精巧な油絵を仕上げろと言われて描けるかい?」


「それは…無理だ。元より絵も得意ではないが…」


「もしそれが出来たとしてもじゃ、コハクの魔法陣彫金の技術の足元にも及ばんと言う事さ」


「なるほど分かりやすい。コハクはそれほどの事をやってのけているのか」


「そういうことじゃ」


 話をしているうちに、王城に辿り着いた。俺達は真っすぐに謁見の間に通されて、オーバースの後ろをついて中まで進んで行く。すると他の将軍三人が、物珍しそうに俺を見ている。


 なんだ?


《恐らくは王より話を聞いたのでしょう。ここからは、かなり慎重に運ばねばなりません》


 そして開口一番、王様が俺に声をかけて来た。


「コハクや! こちらに来るが良い!」


 俺がきょろきょろとオーバースやヴェルティカを見るが、二人とも王の前ではどうする事も出来ないらしく、ただ黙ってうんと頷くだけだった。


 俺は将軍達の間を通って、王の前に行って跪いた。


「お呼びでしょうか?」


「よいよい。顔を上げよ!」


「はい」


「此度の事件を解決した最大の功労者である。コハクに騎士爵では足りなかったのう。まあそれは大臣や貴族達の了承も得ねばならん。おいおい考えていくとしようかのう」


「もったいないお言葉」


「うむ。それよりもじゃ! 既に将軍達には伝えたのであるが、古代遺跡の件なのじゃ」


「はい」


「あの後、どうやら遺跡に結界がもたらされてのう、入れんようになってしまったのじゃ。お主なら何か分かるかと思うてのう」


 アイドナがセキュリティをかけたんだよな?


《はい。あれは大変危険で、この世界の者が触って暴走などさせれば王都は消し飛びます》


 なるほど。


「恐れ入ります陛下!」


「うむ」


「推測なのでございますが、よろしいですか!」


「言ってみよ」


「あれは厄災を退ける代わりに、眠りについたのかと思われます」


「なんと! 眠りについたと?」


「はい。厄災など、王都でそう何度も起こるとは思えませんので、次の時までに眠って力をつけておるのでしょう!」


「なるほどのう。そう言われれば頷けるのう」


「私とて、たまたま文献を見て操作しただけですので、それを調べるにもまた情報を集めねばなりません!」


「よいよい! それでもあの恐ろしい魔獣達を一掃してくれたのじゃ。お主はこの国を救ったも同然なのだからな」


「もったいないお言葉」


「それともう一つ。この機会に我が国の軍隊を強くせねばなるまいと、深く思うたのじゃ。そこでお前の作りたもうた魔導鎧なのじゃが、あれを急速に量産する事は出来まいか?」


「量産となるとかなり厳しいかと。騎士達全てにいきわたらせるには、数百年を要すると思います」


「なんと。そのような大変なものであったか」


「はい。ですが、天工鍛冶師であればあれを作る事は出来ます」


「ふむ…天工鍛冶師か。それはいささか難しい話であるな」


 だがそこでフィリウスが手を挙げる。


「恐れ入ります陛下!」


「うむ。フィリウスもこちらへ」


「は!」


 そしてフィリウスが跪いて言う。


「ドワーフの天工鍛冶師というものは、その気位が高いと言われております。しかしながら、自分よりも技術のある者には最大の敬意を表すると言われております。ならばこのコハクの技を見せ、王の元へ呼び寄せる事が可能にございまする!」


「ほう…」


 王の目の色が変わった。


 更にフィリウスが続ける。


「この王都エクバーリのみならずエクバドル王国全域の、精鋭騎士にだけでも魔導鎧がいきわたれば、王国の力はおのずと強くなると思われます! 今は天工鍛冶師を呼び寄せ、魔導鎧の量産を計る事が優先かと思われます!」


 それを聞いた王が、将軍達に尋ねる。


「どう思う?」


 すると一番年長のトレラン将軍が言った。


「その力を目の前で見ておりますからな。そしてそれを間近で見聞きしたオーバースが、良く分かっているかと存じます」


「うむ。オーバースよ! どう思う?」


「フィリウス辺境伯様のおっしゃるとおりであると。ですが…いささか難しい事であるな、と言う実感でございます」


 そして王はクルエルに聞いた。


「将軍クルエルよ。お主はどう思う?」


「お、王よ…まだ私を将軍と呼んでくださるのですか?」


「何を言うておる。わしはお主を解任などしておらぬぞ」


「あ、ありがたき! その御心の広さに感謝を!」


「して、どう思う?」


「はい。私は、コハクが単騎で巨大な龍を討ち取るのを見ました。あのような事が、普通の人間に出来るとは思えません。それを可能せしめるあの魔導鎧は、我が国を更に強くするであろうと思います」


「うむ。オブティスマはどう思う?」


「…我は、鎧の力を借りるのはあまり好ましいと思っておりません。強さは鍛錬でのみ身につく事であります。その鎧を着る事で、鍛錬がおろそかになるのではと危惧しております」


 それを聞いて、王が俺に聞いて来る。


「その件はどうじゃ?」


「オブティスマ様の御懸念もわかります。ですが、この鎧は鍛錬をした者間でなければ、長時間着続けるのが難しいという難点があります。それが如実に表れたのは、我が領のビルスタークとアランにございます。彼らはその鎧を着続けても問題は無かった。しかしお館様やヴェルティカ様、風来燕の面々は魔石の補助が無ければ稼働時間が極端に短いのでございます」


「だそうだがオブティスマはどう思う」


「なるほど、勘違いをしておりました。それを着れば誰でも、戦い続けられるのかと思っておりましたので」


「うむ。という事は、精鋭に向けての魔導鎧を量産するという事でどうじゃろう?」


「「「「御意」」」」


 量産で決まったらしい。だが問題はそこからだろう。王都を救った代償として、俺は魔導鎧を作る事が出来る天工鍛冶師を連れて来なきゃいけなくなりそうだ。


《致し方ない事かと。そうでなければ勝手に古代遺跡を使って、使えなくしたという罪を着せられるかもしれません》


 ノントリートメントは本当に面倒だな。


 その後も細かい話は続いたが、将軍達がいち早く市民を救出せねばという言葉に、王が納得して会議が終わった。俺達も市民救出の手伝いとして借り出されるのだった。

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