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第十二話 更なる旅の為に

 峠を降りた麓の宿場町で怪我人を休ませつつ、ボルトンが怪我人の為に薬を買い付けて来るという。峠の麓と言う事もあり、旅人が怪我をした時に備えて薬関係などは充実しているのだそうだ。俺とメルナは、馬車のそばにある柵に腰かけてあたりを眺めていた。


《この村里の佇まいを見ても、かなり文明のレベルが低い事が分かります》


 そのようだ。電気はおろか車両も走っておらず、原始的な暮らしをしている。


《ここで逃げるのは得策ではありません。この世界での生存方法を身に着けておりません》


 確かに。どうにかなるレベルじゃないと分かって来た。あんな恐ろしい化物まで居る世界で、右も左もわからない状態のまま生き延びる事は出来ない。


《ヴェルティカはこちらに危害を加える意思はないようです。それどころか、確実にこちらを守ろうとしております。騎士がトロールを押さえている間に、一緒に逃げるように言いました》


 当面は、この人らと一緒に動くのが得策と言う事か。


《むしろ身体に不安がない以上は、一緒にいてください》


 わかった。


「メルナ。このままこの人らと行くが、いいか?」


「うん」


 メルナは柵の上に腰を掛けて足をぶらぶらさせている。するとそこに、騎士達と話をしていたヴェルティカがやってきた。


「怖い思いをさせたわねメルナ」


 ヴェルティカが声をかけると、メルナが俺に寄り添ってきた。


「メルナ。大丈夫だ」


「うん」


 俺が声をかけるも、メルナは柵を降りて俺達から少し離れる。


「貴族なんて得体がしれないわよね」


 そう言ってヴェルティカがメルナに微笑むが、むしろ素性がはっきりしていないのはこちらの方だ。


「騎士達はどうなる?」


「歩けない怪我人はここに置いて行くしかないですね。この辺境の村では、程度の悪いポーションしか手に入らないようですから、早急に怪我を治す事は出来ないそうです。金銭を預けて一時的に村で面倒を見てもらいながら、他の都市から治癒する者を呼ぶ事になりそうです」


「そうか」


 するとヴェルティカが俺の手を取って目を見て言う。


「ありがとう。コハクのおかげで一人も死者を出さずに済みました」


「場所が良かった。あそこでなければ、あの対処は出来なかった」


「冷静な状況判断でした」


「それは恐らく兵士たちの訓練の賜物だろう。彼らはあの状況で、ああすることが一番だと判断した」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 お礼を言われる筋合いはない。俺はあの状況を利用して、一番生存率の高いものを選んだに過ぎない。


「お礼を言われるほどでもない」


「ふふっ。なんか不思議な人ですね」


 俺に言わせてみれば、あんたらの方が千倍不思議だ。お互いの気持ちも情報も共有出来ていないと言うのに、お互いを信じあって行動している。相手の事が分からないのに、完全に自分の命を預ける行為は理解不能だ。


《恐らくは、この世界の人間の生存本能なのかもしれません》


 生存本能? それはなんだ?


《生き物が身に着けている、先天的に持つ生きる為の衝動の事です》


 よくわからないが、ヴェルティカには一つ忠告をしておいた方が良い気がする。


「あのような化物が居るのならば、もっと兵隊を連れているべきだ。命がいくらあっても足りない」


「結果からすればそうですね。だけど本来、こんな人里近くにトロールなんて出ないのです。だけどあれは現れた。由々しき事態であると言えますね」


「本来はいないと?」


「ええ。トロールなどは森林地帯の奥深くやダンジョンにしかいないのです。人里に出て来てしまえば、人間達に討伐されるのがオチですから」


 俺達が話をしていると、ボルトンがやってきて告げる。


「村長に話はつけました。金貨を見て喜んでおりましたな」


「まずは良かったわ。で、どうするか」


「流石に今日はここに逗留するしかございません。足りない馬の調達もせねばなりませんし、我が領であれば冒険者を徴用する事も出来ましょうが、ここはまだ王派の貴族領であります」


「流石にお忍びで来て、陛下に迷惑をかけるわけにもいきませんね。トロールの件は?」


「この村のギルド支部に報告をいれたところ、トロールの事を近隣の都市に知らせる為に馬を走らせるそうです」


「まずはそれで一段落かしらね」


「はい」


 そしてヴェルティカが俺達に向き直って言った。


「今日はここに逗留します。食事や寝床はきちんと確保しますから安心してください」


《お世話になっている礼を言った方が良いでしょう。それで立場が悪くなることはありません》


「助かる。俺達は厄介者だと言うのに、面倒をかけて申し訳ない」


「いえいえ。私が強制的に連れて来たのですから、そんな気遣いは不要ですよ」


 横のボルトンは不服そうだが、俺がヴェルティカに頭を下げるとメルナも倣って下げた。


《手伝いを申し出ましょう》


 ここは完全にアイドナのナビに従うしかなかった。この状況は未知数すぎてなすすべがない。


「出来る事があれば何か手伝おう」


「本来は何もしなくても良いと言うところでしたが、騎士達が被害にあってしまいましたから、人手が欲しい時はお願いします」


「ああ」


 そしてその日も、麓の宿場町に宿泊した。


 前世では怪我などをする人はおらず、もし万が一なにかで怪我をしたとしても、体内の素粒子ナノマシンAI増殖DNAが傷を修復する。即死や大幅な身体の欠損がなければ大抵は治る。


 まてよ…。


 ちょっと思い出したのだが、俺の殺処分の時に殺人ナノマシンが注入されたはず。それは一体どうなったんだ?


《……》


 答えろ。


《……》


 どうしたアイドナ? 機能停止したか?


《稼働しております》


 さっきの質問だが、殺人ナノマシンはどうなった?


《……》


 答えろ。


《……》


 殺人ナノマシンについて尋ねると何故か黙るアイドナに、俺は一晩中問答を繰り返すのだった。

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