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第百二十八話 事情聴取と不審者の処遇

 ヴェルティカに連れられて広間に行くと、転がされたガラバダを囲んだ将軍達が話をしていた。フィリウスから事情を聴いて、王が墓地に逃げて存命だった事を知り、その前にガラバダをどうするかを話し合っているのだ。


 そして俺とヴェルティカが一緒に奥に入ると、将軍達が一斉にこちらを見た。とりあえず俺は黙って一礼をし、将軍達の下へとやって来る。


「コハク! 状況は聞いた。よくぞ陛下を助けてくれた」


 オーバースが言うが、俺は王を助けに行ったわけでは無く、たまたま墓に王様がいただけだ。


「いや。王様を助けたのは、フィリウスとビルスタークだ。俺は後から行ったに過ぎない」


「そうか」


 そして白髪老齢のトレラン将軍が俺に聞いて来る。


「コハクよ。実はな、クルエルをここから離したのは意味がある。クルエルの証言が本当かどうかを、お主に聞きたい。地下牢でこの者とクルエルは何を話ておった?」


 どうしてそんな事をするんだ?


《クルエルの供述の裏付けを取ろうとしているのです》


 何故そんな面倒な事を?


《クルエルが虚偽の発言をしているかもしれないからです。ノントリートメントは共有がかかりませんから、その真偽を知るためには第三者の証言が必要なのです》


 そうか…なら真実を言おう。


「こいつが、クルエルをそそのかそうとしていた。恐らくは化物になったドルベンスのように、自分の味方につけようとしていたのだろう」


「そしてクルエルはなんと?」


「自分の剣は王に捧げたもので、王に尽くすと言っていた。絶対に裏切る事は無く、コイツに向かって殺意すら抱いていた」


「そして?」


「代わりに俺が殺そうと思ったら、クルエルがコイツを殺すのを止めた」


「なぜだ?」


「この騒ぎを起こした事を知っている、唯一の証人だから殺すなと言っていた。そして牢屋から出してくれと、騎士団を率いて市民を守らねばならないとも言っていた」


 将軍達は顔を合わせた。


「証言通りか。クルエルはシロだったという訳じゃな」


 オーバースが腕組をしながら言う。


「腐ってはいないという事だろうな。してコハクよ、お前が話した感じはどうだった?」


《クルエルは真実を言っていました》


「嘘ではないと思った」


「そうか」


 そしてオーバースがしゃがみ込んでガラバダを見る。


「コイツの姿形も変わったと言っていたが?」


「その通りだ。パルダーシュの執事の姿になった。だがまたこの姿に戻ったんだ」


「今は気を失っているから、これが本当の姿になるという事か…」


「そうだ」


 するとオーバースは、ヴェルティカを見て言う。


「本物の執事でしたか?」


「本物でした。むしろ姿を変えてパルダーシュに潜伏していたようです」


《姿を変えられるという事は、どこかで本物のボルトンと入れ替わった可能性があります》


 そこで俺が言う。


「どこかのタイミングで、ガラバダは本物のボルトンを始末し入れ替わったとも考えられる」


「その線もあるだろうな」


 それに対してトレランが言う。


「変身とはの…。それも一瞬にして変わったと言うではないか。どうやってそんな事ができたのじゃろう?」


 それには誰も答えられなかった。


 だがアイドナが言う。


《この者の体組織を取り入れれば解析は可能ですが》


 これをかじるのか?


《はい》


 正直な気持ちを言うと嫌だな。


《変身の技術が分かると思いますが?》


 その前に将軍達の判断もある。


 オーバースが言う。


「いずれにせよ。闇魔法を解かんといかん。メルナの魔力はどうだ?」


「いける」


 そしてオーバースは、他の二人の将軍を見た。


「どうだろう? 陛下の前にこれを出したくないが、普通に裁かねばならんのも事実」


 トレランが頷いた。


「そうじゃな。何をしでかすか分からん奴を、陛下の前に晒すわけにはいかん」


 オブティスマがボソリと言う。


「幽閉をするのならば、一般の地下牢はダメだ」


 なるほど。コイツはこんな声をしていたんだな。


《何度か言葉は発してましたが、あまり話す事は無いようです》


 なるほど。


《そしてオブティスマの言う通り、ガラバダを普通の牢屋に入れるのは得策ではありません》


 どうしてだ?


《人と接すれば、それを籠絡して使う事が出来る能力があるようです。それでもクルエルが跳ねのけられたのは、それなりに鍛錬されているからでしょう》


 なんでクルエルが狙われた?


《四将軍の中では一番、落としやすいと値踏みされたのです》


 だがダメだったという訳か?


《あなたが行くのが遅れたら、あるいは落ちていたかもしれません》


 この組織の弱点を見抜いて、つけこもうとしていた訳か。


《そのようです》


 するとメルナが話し出す。


「えぇっと! この人は野放しにしないようにした方が良いです! 言葉を発する事が出来ない鎧に身を包み、結界を張った石づくりの独房を用意したらいいんだと思います!」


 なるほど…マージが言わせているようだ。


 将軍達が一斉にメルナを見て、トレランが頷いた。


「素晴らしい案であるな。すぐに用意しよう。おい!」


 直ぐに二人の騎士がやって来た。


「建築士と魔導士を数名集めておけ。直ぐに特別牢獄の建築に取り掛からせる」


「「は!」」


 そこに騎士が入ってきて言う。


「まもなく陛下が戻られます!」


 オーバースが言う。


「そうか。ならばいったんコイツの身柄を移そう。だが…何処が良いか?」


 するとヴェルティカが言う。


「よろしいでしょうか?」


「なんですかな?」


「奴隷商を借りきる事は出来ますでしょうか? 奴隷商人にいくらか金を掴ませて、奴隷を捉えておく地下牢に、ガラバダを閉じ込めておくのがよろしいかと」


 見め麗しい辺境伯令嬢が言う言葉に、将軍達は目を丸くする。だがヴェルティカは俺やメルナを奴隷商から買い取った経験がある。そして俺達もその詳細をヴェルティカに話しているから、奴隷商の内情を知っているのだ。


 トレランが頷いた。


「確かにのう。このような魔獣襲撃の後に、奴隷を買おうなんて物好きはおるまい。それよりも自分らの暮らしを、いち早く戻したいと思うであろうからな」


「はい」


 将軍達の意見も一致したようだ。そこでオーバースが言う。


「ならばうちの騎士団が護送しよう」


「うむ。頼んだオーバース」


 するとオーバースは俺達を見て言った。


「お嬢様、メルナとコハクをお借りしても?」


「もちろん私も行きます。そしてうちの騎士も連れてまいりましょう」


「そうしてくれるとありがたい」


「はい」


 そうして王が来る前に、オーバースと共にガラバダを奴隷商人の建屋へと運び込むことになった。オーバースはすぐに騎士に言って、文官と金を用意するように指示を出している。


「文官と金が揃ったらすぐに奴隷商によこせ」


「「は!」」


 俺達はすぐにオーバースの騎士団と一緒に、ガラバダを運び出し王城を後にするのだった。

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