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第百二十四話 不可視の敵が潜むその先に

 ガリガリとした耳障りな音を辿り進んで行くと、なぜか街路に騎士の遺体が散乱し始める。先に行くほどその数が増えてきて、それを見たアランが言う。


「こちらにも騎士は来ていたのか…」


 するとベントゥラが答えた。


「騎士の遺体損壊具合からみて、大型の魔獣の仕業ではない」


 俺の視界には住宅の透過映像の中に、恐らくは隠れている子供の様子が映し出されていた。それを確認しつつ俺がアイドナに言う。


 建物の中に、ぽつりぽつりと人がいるが、助けた方が良いのだろうか?


《恐らくは、先ほどの女の子と同じで隠れているのでしょう。ですが今は一人一人救出する事は得策ではありません。救ってしまえば、その人間を連れて移動せねばならなくなります。先に、騎士を殺した犯人を見つける必要があります》


 先に進むほど静まり返っているが、ガリガリとした異音だけが大きくなってくる。更にゆっくりと進んで行くと、ボルトが俺に尋ねてきた。


「コハク! こっちに何かいるのか?」


 そう声を発した時だった。ガリガリとした雑音が止まった。


《反応しました。こちらを認識したようですが、皆に音をたてないように伝えてください》


 俺は人差し指を、顔の前に立て静かにするように言う。手のひらを静かに下ろして、派手な動きを取らないようにジェスチャーした。だが動き出すと、仲間達のカシャカシャという鎧の音が鳴る。


 カサカサカサカサ! 音の質が変わる。


《音が近づいてきました》


 止まるように指示を出し、皆があたりを見渡す。


《探知しました。右前方十五度》


 そっちを見ると、建物の中や屋根から何かが近づいて来る。サーモグラフィとエックス線透視で見る限りは人間ではない。


《蜘蛛のような形をしています。大きさは一メートルから一メートル五十センチ》


 だが俺達が音をたてるのをやめたからか、そこで止まり周囲を警戒するように一カ所でクルクルと回り始めた。しかし俺が説明をせず留まっているのに、業を煮やしたボルトが言う。


「コハク。どうしたってんだ? 何が聞こえてるんだよ?」


 すると蜘蛛のような魔獣が、またかさかさと動き出した。


《仕方ありません。口頭で説明を》


「音につられて魔獣が近づいてきている。だから声をたてるな」


「な、なんだって?」


 共有がかからないのは不便だな。アイドナを搭載していれば、お互いしゃべらずとも情報の共有が出来たというのに。


 だが今更音をたてるのをやめたところで、敵は既に俺達を目視したようだ。魔獣は一気にこちらに詰めて来る。そいつらは建物の上からと街路を走り、真っすぐにこちらに向かって来た。既に俺達からも視認出来る所まで来ている。


 しかし仲間達は剣を構えようとしない。


「敵だ! 剣を構えろ!」


 シュッ! とアランは剣を抜いたが、ボルトはそうせずに俺に聞いて来た。


「な、どっからだ?」


「もうすぐ接触する!」


 ようやくボルトとガロロも剣を抜いた。


「フィラミウスは女の子を連れて下がれ!」


名前  蜘蛛

体力  169

攻撃力 211

筋力  135

耐久力 83

回避力 226

敏捷性 318

知力  不明

技術力 不明


 大したことは無い。


《撃破してください》


 あと三メートルというところで、蜘蛛が飛び上がりアランに飛びかかった。だがアランはまだ動いていない。俺は身体強化でそこに現れ、シュパン! とその蜘蛛を斬った。それがドサリと地面に落ちて死ぬ。それを見てアランが言う。


「なっ! いつの間に?」


 次の一体が屋根の上から降ってきて、ボルトに落ちて来ていた。距離があるので、俺は左手の剣をその蜘蛛に向かって投げ飛ばす。


 ザシュッ! ボト!


「おわ! なんだ突然!」


 どういうことだ? なぜ皆が動かない?


《ステルス機能です。周りの景色と同化し、どうやら彼らでは視認できないようです》


 見えてないのか…。


《騎士達が無抵抗で死んでいるのはそのためです。恐らくは住宅の中に居た家族たちも、見えない蜘蛛に殺されたのです》


 そう言う事か。


 俺は彼らに説明する。


「見えない蜘蛛だ。殺せば見えるらしいが、周りの景色に同化して身を隠している」


 ベントゥラが魔獣の死体を確認していった。


「鋭い刃のような手を持ってるぞ。こんな魔獣は見た事が無い」


 それを見てようやくアランが思いついたようだ。


「この一帯で戦闘が行われていないように見えているのは、そのバケモノのせいだ。だから屋敷の中の人間は争う事も逃げる事も無く死んだんだ」


「なんだって…そんなバケモンが…」

 

 だが俺の耳にはまだ、ガリガリという耳障りな音が聞こえて来た。そいつらはこちらに向かって来ていない。


《敵の感知範囲に限界があると推測。こちらの聴力の能力が高いため先に感知できています》


 シルバーウルフが勝っているという事か?


《いえ。こちらは魔力を合成しています。シルバーウルフの百倍の感度です》


 そういうことか。


「恐らく敵は音を頼りに感知している。そして生きている間は体を隠す事が出来るようだ」


「厄介だな…」


「そしてまだ音はしている。敵はまだいるぞ」


「仕留めよう」


「いずれにせよ歩けば音には気づくようだ。恐らく騎士達は鎧の音で気づかれ、市民達は話し声で気づかれて殺されている。固まって歩いていく事にしよう」


 皆が俺を中心に固まり、ボルトは俺が投げた剣を拾ってきてくれる。またゆっくりと歩きだし、異音がする方向に向かっていく。


 カリカリカリカリ。


 なにかをひっかいているのか?


《そのようです》


 俺達が進んで行くと、その物音はだんだんと大きくなってくる。そしてある場所が目に入って来た。


 あれはなんだ?


《墓地です》


 あそこから聞こえる。


《そのようです。ですが警戒してください、多数の音が重なっています。引き付けるために石を反対側に投げてください》


 わかった。


 俺はその辺りの石を拾い上げ、身体強化した体でビュッ! と石を墓地の向こう側へと投げた。


 ガン!


 音が聞こえると、蜘蛛たちは一斉にそちらの方に走って行った。


 俺が走りだし皆が俺の後をついて来る。墓地に入り少しして俺達は足を止めた。何もない事を確認した蜘蛛が、またぞろぞろとこちらに戻ってきたからだ。俺は皆にしゃがむようにジェスチャーをする。


 墓石の後ろに隠れ、俺達は息を潜めた。


《集まって、あの建物の入り口を削っているようです》


 サーモグラフィで映し出された蜘蛛たちは、分厚い石で作られた小屋のような建物に群がっている。


《エックス線透過》


 いっぱい居る。


 石づくりの建物から、地下にかけて中に人がいっぱいいるようだ。どうやらあそこに隠れた人らを狙って、蜘蛛たちはカリカリと削っているらしい。


《彼らをここに足止めしていきましょう》


 わかった。


「皆はここに居てくれ。俺が行く!」


「あれがいるのか?」


「そうだ」


 俺達が話をした事によって、蜘蛛が一斉に建物を離れた。かさかさと音をたて向かって来る。


《ガイドマーカー展開。蜘蛛の胴体に剣を振り下ろして下さい》


 俺は真っすぐに蜘蛛の群れに飛び込んでいく。最初にかかって来た二体を瞬時に斬り捨ててジャンプした。すると俺めがけて何匹も飛び跳ねて来る。


 スパ! スパ! スパ! スパ!


 蜘蛛は空中で紙切れのように裂ける。耐久力が低いので、現状の身体強化でも充分対応できるようだ。地面に着地すると、残りが一斉に俺めがけて飛びかかって来た。


《予測演算。ナンバー表示》


 すると空に浮かんだ蜘蛛に、ナンバーがふられている。俺はその順番に剣を振って全てを斬り捨てた。蜘蛛から魔力が入って来るが、今までの魔獣と比べて量が少ない。


 だがアイドナが言う。


《利用価値が高い魔力のようです。解析の後に利用できるようにします》


 わかった。他に蜘蛛は居るか?


《周囲には存在してません》


 俺は皆に手招きをする。皆が蜘蛛の残骸を見て言う。


「こんなにいたのか!」


「そのようだ。あの建物の中に、たくさんの人間が逃げ込んでいるからだ」


「それで集まっていたのか…」


 建物は石づくりで、入り込めるところは入り口だけのようだった。入り口の石が傷だらけになっていてるが、蜘蛛はここを削って入り込もうとしていたらしい。


 そしてアランが大きな声で建物の中に言う。


「魔獣は倒した! もう出て来ても大丈夫だ!」


 すると中からビルスタークの声が聞こえて来た。


「あ、アランか!」


「団長?」


 中から鍵が開く音が聞こえ、石の扉が押し出されて隙間から鎧のビルスタークが覗いて来た。


「アラン。他には?」


「コハクも風来燕の連中もいます」


「そ、そうか…。助かった…」


 そして、ビルスタークの後ろから声が聞こえる。


「コハク! コハクが来ているのか!」


 奥から出て来たのはフィリウスだった。どうやら二人はここに逃げ込んでいたらしかった。


「ああ。二人が王城に居ると思って追いかけたんだが、こんなところに居たのか?」


「ここに生存者がいるんだ! 外は安全なのか?」


「いや。安全とは言えない、まだあの魔獣がいるかもしれん」


 するとビルスタークが言った。


「皆には見えていないようだが、俺は気配と耳で感じ取る事が出来たんだ」


「あれは周りの風景と同化して姿を隠す魔獣だ。敵にはならんが、見えないというのが厄介だ」


「お前は見えているのか?」


《感じると言ってください》


「感じている。ビルスタークと同じだ」


「そうか」


 そしてアランがビルスタークに聞いた。


「で、お館様と団長は、なぜこのような所に?」


「それは…」


 するとさらに人が出て来る。


「フィリウスや。誰か来たのか?」


「は! 陛下! 我が騎士達が助けに来たようです」


「な、なんと! 助かったのか!」


「は!」


 フィリウスとビルスタークがガシャと膝をつくと、なぜか奥から王が出て来た。


「お前達は! 主喰らいとその仲間達では無いか! そうかそうか! よくぞここまでたどり着いたのじゃ!」


 アランも跪いて言う。


「こちらの護衛が手薄になっていると思ったものですから、馳せ参じた次第です」


「うむ。助かったのじゃ!」


《王様用のトークスクリプトを展開します》


 俺が王に言う。


「陛下。恐れ入りますが、まだ都市内には魔獣共が跋扈しており危険です。とにかく安全な場所へとお移りになられた方が良いかと」


 すると王が言った。


「まずは中に入れ。いきなり首を斬られてもかなわん」


「はい」


 そうして俺達は、その石づくりの建物へと入り込むのだった。

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