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第百二十三話 屋敷の不可思議な死体

目の前に現れた巨大な牛男は、血に染まった斧を右手に持ち俺達を睥睨していた。明らかに、人間がかぶり物をしている訳では無いようで、その牛の顔には表情があり涎まで垂らしている。


名前  牛頭(仮)

体力  872

攻撃力 989

筋力  1628

耐久力 978

回避力 145

敏捷性 91

知力 不明

技術力 不明


 俺がアイドナの表示したステータスを確認していると、風来燕のボルトが叫んだ。


「ミノタウロスだ! こんなところで!」


 だが、そこでアランが落ち着き払って言う。


「三つ首の敵を倒した俺達ならやれる」


《忠告。彼らの魔石エネルギーを消耗させないでください》


 わかった。


「まて。お前達の強化鎧の魔石を使うな。コイツは俺が一人でやる」


「ミノタウロスだぞ!」


「さっきの龍よりましだ」


 というか、俺の体には膨大な魔獣の魔力が渦巻いており、枯渇する未来が全く見えない。


《エネルギー最適化、魔力循環、上半身強化、脚力強化》


 アイドナは省エネモードに切り替えて来た。自分の身体には先ほどの龍戦闘時の強化も残っているので、オーバーキルにならないように魔力の消費を極力抑えた強化に留めたようだ。


《ガイドマーカー展開。生体解析結果、弱点は人間同様に脳か心臓》


 ダッ! と俺がミノタウロスと呼ばれた牛頭に走る。


 ブン! とまるで軽い棒切れを振り回すように、巨大な斧が俺の脳天に落ちて来た。だが予測行動でそれを避け、一気に腕を駆けあがっていく。アイドナのガイドマーカーが耳を指しており、俺はそこに寸分の狂いもなく剣を突き刺す。


 するとミノタウロスの動きが止まった。ぐらりと体を揺らし倒れ込んだので、直ぐにそこから飛び去る。


 ズッズゥゥン!


「一撃かよ」


「あら? 龍やパライズバイパーに比べればそうなるんじゃない?」


 フィラミウスが言うと皆が頷いた。


「行こう」


《彼らの魔石の消耗、及び突然敵が出現する可能性を考慮し、進行速度を四十パーセントまで落としてください》


 俺がスピードを落とすと、皆も早歩き程度の歩行速度になる。


 すると…南西に進むにつれて、通路にはバラバラの死体が転がり始めた。


《斬撃による破壊です》


 さっきの奴か。


《切り口と破壊力から想定するとその通りです》


 アランがボルトに聞く。


「これはミノタウロスの手口だろうか?」


「ベントゥラ!」


 ボルトに言われベントゥラが転がっている死体を確認する。


「間違いねえな。ミノタウロスの斬撃だ。建物から出たところをやられたんだろう」


 するとアランが周辺を見渡す。


「この地域一帯は建物の破壊が無いな。魔獣の襲撃はミノタウロス一匹か? どういうことだ?」


「城の塔の上から見ても、南西には戦った形跡は見られなかったですよね?」


「そのようだが…」

 

 するとベントゥラが言う。


「それに不用心に玄関が開いてるぜ。慌てて逃げたんだろうか?」


「かもしれないな…」


「ちょいと探って来る」


 ベントゥラは風のように走り建物の中に消えて行った。俺達が待っていると、玄関から顔をのぞかせてベントゥラが言う。


「大変な事になってるぜ」


「なんだ?」


 俺達が建物の中に入ると、そこには無残に切り刻まれた家族の死体が転がっていた。


《切り口がまだ新しいです。ミノタウロスがこの屋敷に入るには入り口を破壊する必要がありますが、破壊された形跡が見当たりません》


 じゃあ…他の奴か?


《その可能性はありますが…》


 ベントゥラが辺りを探り、俺達に言った。


「争ったり逃げ回った形跡がねえ…」


《ベントゥラの言う通り、抵抗したりした形跡がありません。建物が壊れてない事から、違う敵の仕業である確率が百パーセント》


 普通は逃げ惑うだろう?


《入り口や通路にも遺体があるはずですが、この部屋に集中している》


 確認する必要があるな。


「他の建物も確認しよう」


「「「「おう」」」」


 一帯はまるでゴーストタウンのようになっており、人っ子一人確認できない。俺達はまた、開いている玄関を潜り中を覗く。するとベントゥラが言った。


「ここも同じだ! みんな死んでる!」


《一度外に出てください》


 俺は皆を置いて通路に出た。すると皆が後からついて来る。


《エックス線、及びサーモグラフィ展開、構造解析による3D透視映像》


 俺の視界では街中が、立体の光の線のように映った。ある一角が黄色と赤で輝いている。


 あの動いているのはなんだ?


《犬…いえ、人間のようです…温度感知》


 俺はそのまま、その建物に入り込み言う。


「ここにも死体があるな」


「似たような状況だな。だがミノタウロスの仕業じゃねえぞ」


「ひとまず皆はここで待て」


「どうするんだ?」


「確かめたい事がある」


「わかった」


 俺が通路を進みゆっくり階段を上ると、赤と黄色の塊がもぞもぞと動き始める。動いた先の部屋の入り口を開いて奥に進み、壁の扉を開くとそこはクローゼットだった。その足元に大きな箱があり、それが赤と黄色の光を放っている。


 スッ! と手を降ろして、その箱の蓋を取る。


「きゃぁぁぁぁ!」


 中には小さな女の子が震えていた。


「隠れていたのか?」


「あっ! ああ…あ…」


 どうすればいい?


《落ち着かせるためのトークスプリプトを展開します》


「大丈夫だよ。俺は助けに来た騎士さんだ。良くここに隠れていたね。もう大丈夫だよ」


 女の子の目からぽろぽろと涙が落ちて来た。俺がグッと手を入れて、女の子の両脇を持って抱える。ずっと泣きじゃくっていて、何も話そうとする気配はない。 


「行こう」


《彼女に目を閉じるように言ってください》


「俺が良いって言うまで目を閉じてるんだ」


 コクリと頷く。


 下に降りていくと、皆が驚いたような顔でこちらを見た。フィラミウスが言う。


「その子は?」


「隠れていた」


 するとボルトが言う。


「ってことは…。この人らは…」


「とにかく外に出よう」


 家から外に出て、皆でしゃがみ込み女の子に聞いた。


「もう目を開けていいよ」


 女の子がスッと目を開けて鎧の俺達を見ると、恐怖の眼差しを向けて来る。フィラミウスが言う。


「コハク。私の兜を外して」


「わかった」


 フィラミウスの首辺りにあるレバーを引くと、兜の留め金が外れた。そしてフィラミウスが自分で兜を脱ぐ。


「これでも怖い?」


 すると子供はフルフルと首を振る。


「お姉ちゃんたちね。助けに来たの、でも何があったか分からないの」


 その子供はプルプルと震えながらも言う。


「急に死んじゃった…」


「もしかして…」


 フィラミウスが躊躇うように言う。


「…お父さんとお母さん?」


 コクリと頷いた。


「あそこに居たの?」


「いたずらしてかくれんぼしてたの。そして覗いたら、パパとママが突然血を…」


「それで逃げたのね?」


「そう…」


「怖かったね。もう大丈夫だからね」


「うっ、うわああああああん!」


 大きな声を上げて泣き始めた。フィラミウスが兜をかぶり直す。


「どう思う?」


「いきなり血を出して…死んだ?」


 皆が首をかしげている。ここにマージを連れてきていない事が悔やまれるが、アイドナが推測を提示して来た。


《魔法による攻撃。自然災害的な力を用いた攻撃。近づいての斬撃。いずれにせよ不可視の攻撃と推測》


 確率は?


《住居が一切壊れていません。近づいての斬撃の確率が九十五パーセント》


 どうやった…。


《分かりません》


 どうする?


《エックス線、サーモグラフィ展開、構造解析による3D透視映像を維持。不意の敵の攻撃に備える為、シルバーウルフの魔力で聴力強化》


 キィィィィ…。


 ザワザワ。ヒュゥー。カサカサ。


 いろんな音が耳に入って来る。するとアイドナがある音を収音し始め、他の雑音を消し去った。何やら、ガサゴソとおかしな物音をたてている者がいる。


「おかしな気配がする」


 するとベントゥラが聞いて来た。


「コハクは気配感知が使えるのか?」


「いや。聞こえるだけだ」


「何も聞こえねえぜ」


 だがガロロがそれに答えた。


「森でもコハクは同じような事をやっていたじゃろ。その時と同じことをしとるんじゃな?」


「そうだ」


 ガリ。ガガガ。ガザザッ。


「行こう…」


「この子は?」


「連れて行く。フィラミウスが守ってくれ」


「わかったわ」


 そして俺は聴力を頼りに、音のする方へと向かって歩きだすのだった。

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