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第百二十二話 龍の最後の状況

 アランと風来燕は、どうやらオーバースと合流していたようだ。周りにいる騎士達が俺を見て、口々に騒いでいる。


「主喰らいがもう一人いるぞ…」


 俺の鎧とボルトの鎧は、瓜二つの漆黒の鎧なので見分けがつかない。騎士達が動揺している。


 するとボルトが俺に声をかける。


「こ、コハク…お前…何処から出て来たんだ」


 俺は塔を指さして言う。


「あそこにへばりついていた龍を落とそうとして、攻撃を仕掛けたらこうなった」


「こうなった…て」


「実際にどんな風になってたかは分からん」


「えっと、じゃあ説明するけどよ…」


 ボルトが説明したのは次の通りだった。


「まずは三つ首の獅子からだ」


 するとフィラミウスが言う。


「えっそこから?」


「いいだろ!」


「ま、まあいいけど」


「アランの旦那が言ったんだ。もう少しだ! 獅子の首は一つ斬った! あと二つ! ガロロが止めたらフィラミウスとベントゥラでけん制! 俺とボルトで仕留める!ってな。首を一つ斬られた事で、三つ首の獅子は怒り狂って完全に我を忘れていてな、アランの旦那の言うとおりに、ここが勝機だろうと思ったのさ」


 があああああああ!


「ガロロが強化鎧の力を使い、盾を前に置いて三つ首の獅子を止める。ベントゥラが頭に矢を放ったと同時に、フィラミウスが足元に氷魔法をかけた。そんでガロロが咄嗟にその場所を離れ、俺とアランの旦那が残った首めがけて走ったね。まあ見事に残りの二つの首が落ちて、胴体が倒れ込んだんだ」


 このまま話を聞いていていいのか?


《これもデータです。相槌を打って引き出してください》


「なるほど、それで?」


「ああ。コハク、マジで強化鎧様様だったぜ。あんな上位の魔獣を狩れるなんてな、実力で言ったら俺達AAランク並になってるんじゃないか? って思ったさ」


 するとフィラミウスが笑って言う。


「アランさんがいらっしゃるからじゃない?」


「まあ…それが大きいか。そんでベントゥラが獅子の死体を確認して、完全に死んでるって言ったんだ」


「それで?」


「かなり手間取ったから、とにかく俺達も王城に行くって事になった。あの塔の龍が動き出したら、また都市に大きな被害が出ると思ったんだな」


「ふむ」


「そん時、ドドッォン! と突然龍が塔から落ちて来たんだよ。いきなりその龍が動き出してよ、おりゃアランの旦那に聞いたんだ。ど、どうしやす? あんなデカい龍戦った事ねえっすよ?ってな」


 ガアアアアアアアアアア!


「めっちゃくちゃ、おっかねえ声で叫びやがった。次の瞬間バウンドでもするかのように、王城から飛び出て来て、物凄い地響きをさせて走って来るじゃねえか」


「そいつは俺が攻撃したからだ」


「そうかいそうかい。そこでアランの旦那が言った。あんなものが都市で暴れたらひとたまりもない! 止めるぞ! ってな。止めるって言っても…。あんなデカい龍見た事もねえしな。だけどアランの旦那はこうもいったんだ」


「コハクの鎧を信じろ!」


「ってな」


《強化鎧はそこまで万能じゃありません》


 だよな。


「まあ、鎧も万能じゃないがな」


「は、はは…そうか…。で!だ。俺達は龍の進路を確認し、そちらに向かって全速力で走った。すると通りの向こう側から、オーバースの旦那が騎士を連れて走って来たんだ」


「そこで合流したんだな?」


「そうだ。オーバース様は言ったね、アラン! あれを止めねば大勢の市民が死ぬ!ってな」


「それでここに来たのか?」


「そうだよ。俺達とオーバース様の騎士団が、通りに出て龍が突進してくるのを確認したんだ。真っすぐにこっちに走って来るが、なんか気が狂ったように暴れ回っているのが分かったね。こりゃヤベエって思ったんだ」


「止めようとしたんだな?」


「そうだ。オーバース様が、なんとしても止めねば! 皆の命を俺に預けてくれ!って言うもんだからな。俺達は歯を食いしばったさ」


 そこでボルトは一息つく。


「だけどよう…近づくにつれて思ったね。三十メートルはある。あれは恐らく伝説級の龍だ。あ、あんなもん…エンシャント級だぜ…てな。俺たちゃ全員死ぬって思ったぜ…」


「よくやろうと思ったな?」


「だって、オーバース様が言うんだぜ? 死んでも足の一本ぐらいは取るんだ! そうすれば暴走は止まる!ってよ。ここはやらなきゃならねえとしか考えられなかった」


「それでどうなった?」


「とにかく俺達は立ち止まって、龍が突進してくるのを待った。だが俺達を確認した龍が、突如こちらに向かって大口を開いたんだよ。喉の奥が光っていて、こりゃ火炎が来るって思ったね。正直…終わったって思った」


 ボルトは腕を組みながら、その情景を思い出したのかブルッと震えた。


「良く逃げなかった」


「退避! って、オーバース様が言うけど、そんなもん、もう間に合うはずがないだろ? 俺達は身構え、龍の火炎の直撃に備えるしかなかったんだ。だけどな…」


 プーーーーーーーーーー! バン! バシュゥゥ! ビチャビチャビチャ!


「いや…驚いたぜ。いきなり龍が風船のように膨れて破裂してしちまったんだ。周辺の家屋をなぎ倒し、辺りには龍の血やら肉やらが降り注いで来たんだよ」


「なるほど」


「俺たちゃ全員唖然としてた」


 皆もうんうんと頷いている。


「は、破裂したぞ…ってオーバース様が言ったんだよ。そしたら大爆発した龍の炎から、突然中から何かが飛び出して来たんだ」


「そんな事になっていたのか」


「ああ。そんでびっくり、そこには俺と同じ鎧が立っていたんだからな」


「「「「「「「「コハクゥゥゥゥゥゥゥ!」」」」」」」」


「って、なった訳だ」 


 ボルトが説明してくれたので、かなり詳細まで状況を把握する事が出来た。


《状況の確認が出来ました。凄い記憶力と演説能力です》


 …なるほど。


 ボルトが興奮気味に説明してくれた事で、この状況はだいたい分かった。


 話が終わったところでアランが言って来る。


「その話はもう十分だ! それよりコハク! 鎧の魔石がそろそろ底を尽きる!」


「わかった!」


 と俺が腰に手を伸ばすと…腰巾着が燃えてなくなっていた。


「袋が焼けて魔石が散らばってしまった」


「なに?」


 するとベントゥラが言う。


「ボルトとガロロはそろそろヤバイ。魔石がねえとただ重いだけの鎧だ」


 そしてアランが聞いて来る。


「メルナは?」


「あそこだ」


 俺が塔を指さすと、ヴェルティカとクルエルと共にメルナもこちらを覗いていた。そこでオーバースが言う。


「現場を立て直さねばならん! 塔に戻って都市内の確認をする!」


 それに俺が言う。


「クルエルも同じことを言っていた。牢屋から出してあそこにいる」


「だ、誰の指示だ?」


「アイツが市民を救いたいと言うから、俺が出した」


「そうか…」


「それに、王を襲った曲者も捕らえた。あそこにいる」


「なに! 直ぐに向かうぞ!」


「わかった」


 龍が飛び出て来た場所の城壁が破壊され、そこから入れるようだ。俺達はその破壊された城壁を超え城に侵入していく。塔の側に入り口がありオーバースが開けて、俺達と騎士団が城に入った。


 オーバースが聞いて来る。


「城内が騒がしいが、人がいるのか?」


「あんたの部下が、市民を避難させて入れた」


「そういうことか。アイツらなら大丈夫だ。ならば、すぐ塔に向かおう」


 全員が螺旋階段を上り塔の屋上についた時、クルエルが縁に立って都市の状況を確認しているところだった。ガラバダがそこに転がされており、メルナが魔法の杖を額に突き付けていた。


「コハク!」


 ヴェルティカが走り寄って来る。


「無事か?」


「それはこっちのセリフよ!」


「俺は問題ない」


 そしてオーバースがクルエルのそばに歩み寄った。何かが起きるのではと、そこに居た一同がその場面をみて息を呑む。そこでクルエルが振り返りオーバースに言う。


「今は不問にしてくれ。罰は後で受ける」


「今は頼もしい限りだ。して、都市はどうなっている?」


《どうやら、どちらも冷静に判断出来ているようです》


 ノントリートメントでも、冷静な状況判断ができるんだな。


《過去の関係性かと》


 なるほどな。


 するとクルエルが指をさした。


「南東と北西、都市の真逆に位置するところで、戦闘が行われているようだ。お前はどこから来た? オーバース」


「北東と正門周辺だ。市民はあらかた外に出した」


「さすがだな。だと、南西付近に逃げ遅れた市民がいる可能性があるな」


「そこは貴様の割り当てであるからな」


「すまん。ならば俺の騎士を集めてすぐに、南西に向かわねばならん」


「まて。落ち着け」


「どういうことだ?」


 するとその時オーバースが俺を見る。


「コハクを使う」


 クルエルも俺に向き直って言った。


「…この優勝者をか?」


「こいつは単騎でエンシャント級の龍をやりやがった。コハク、都市の魔獣を狩ってくれまいか?」


 そこで俺はアイドナに気になった事を聞いた。


 ガラバダは逃げないだろうか?


《ガラバダが逃げる手段は龍でした。あれを討伐したので、目覚めても逃げる手段がありません。またマージがかけた闇魔法ですが、恐らくは麻酔よりも強力なものです》


 現状ガラバダが唯一の情報源だから、逃げられるわけにはイカン。


《今は騎士団に任せましょう。オーバースが居れば大丈夫》


 それを聞いて俺がオーバースに答える。


「討伐可能だ」


 そこでオーバースがアランを見て言う。


「問題は、アランと風来燕の強化鎧の魔石がもうすぐ尽きるという事だ」


《メルナの稼働は出来なくなりますが、魔力の残量を使って補充する事が可能》


 それに俺が答えた。


「メルナが魔石を補充する。メルナは魔力切れを起こすから、城に残れ」


「私もコハクと行く…」


「魔力が限られている。メルナ、我慢してくれ」


「…うん」


 アラン、ボルト、ガロロ、ベントゥラの魔石を補充すると、やはりメルナがフラフラしている。それを見て俺が言う。


「魔力を消費するから、メルナは鎧を脱いだ方が良い。ヴェルティカ、メルナを頼む」


「分かったわ」


 そして俺がオーバースに言った。


「その曲者を預けるから、絶対に逃がすな。あとヴェルティカとメルナをお願いしたい」


「ふふっ。言うようになったな! コハク。承知した。俺達は平行して騎士団の立て直しを計る」

 

「分かった」


 するとクルエルが俺に向かい、真剣な表情で言った。


「コハク」


「なんだ」


「私を信じてくれてありがとう。そして市民を頼む。一人でも多くを救ってほしい」


「もちろんそのつもりだ」


 そしてアランが言う。


「話は決まった! 行くぞ!」


 そして俺達はクルエル将軍の騎士団の代わりに、南西の市民を救う為に王城を後にする。城を抜けて南西に向かって走っていると、突如、目の前に牛の頭をした大男が飛び出してくるのだった。

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