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第百十六話 王都炎上

 王都から次々と飛び出して来る大群衆に、俺達は足止めされつつあった。馬を勢いよく走らせれば、市民達にぶつかって怪我をさせてしまう。市壁のすぐ向こう側では、人々の絶叫が聞こえ建物が破壊される音が鳴り響いているというのに身動きがとれない。しかも先行していたフィリウスやビルスターク、風来燕たちともはぐれてしまう。


 俺が騎馬戦車をひいているアランに言った。


「フィリウスに伝えたい。ここで魔石を交換したいと」


「フィリウス様と団長は先行して行かれてしまった。このまま騎馬戦車に乗っていては追いつけない。俺が先に行って二人に伝えよう」


「いや…ならば、この三人だけでも先に交換する」


「遅れを取ってしまうぞ!」


 それを聞いたマージが言う。


「アランや。急がば回れさね、コハクの言う事を聞いておくれ」


「…わかりました賢者様」


 ヴェルティカとメルナとアランの鎧の一部を開けて、消耗した魔石を取り換え始める。


 その作業をしている時、アランがヴェルティカに言った。


「お嬢様。この騎馬戦車を放棄してもよろしいでしょうか?」


「致し方ないわ。このままでは進むこともままならないもの」


「申し訳ありません。せっかくの褒美だというのに」


「いえ。一刻を争うのだから仕方ないわ」


 そして俺達は騎馬戦車と軍馬を捨て、市民をかき分けて進んで行く。すると王都正門の手前で、馬に乗っている風来燕たちが足止めをくらっていた。


 アランが叫ぶ。


「ボルト!」


「アランの旦那! 群衆の数が凄すぎて進めませんぜ!」


「馬は捨てて良い!」


「いいので?」


「一刻を争うんだ! 責任は俺がとる!」


「わかりやした! みんな! 馬を捨てろ」


 風来燕が馬を下りると、馬は群衆に流されるかのように逆方向へと過ぎ去っていった。


《馬を放棄したのは良い判断です。王都内に入れば怪物の恐怖で馬は足を止めます》


 馬を捨てたところで、この群衆をかき分けていくのは困難だ。


《生活時間帯で逃げ出す余裕があったのです。その為、これほど密集してしまったようです》


 パルダーシュが襲われた時は深夜だったからな…。


《とにかく魔石の入れ替えを》


 俺はボルトに言った。


「ボルト! 強化鎧の魔石を入れ替える! 壁際に集まってくれ!」


 市壁の脇に集まった風来燕の鎧を開け、新しい魔石を交換し始める。やり方はメルナも覚えているので、二人で四人の魔石を詰め替えた。それが終わるのを見てアランが言う。


「行くぞ!」


 皆がアランに続いて門の方へ移動しようとした時、アイドナが警告を鳴らした。


《警告。止めてください》


「止まれぇ!」


 俺が叫び、走りかけた皆が振り返った瞬間だった。


 ドウゥッッ! ゴオオオオオオ!


 白色に近い炎が、大きな王都の正門いっぱいに広がってバーナーのごとく飛び出して来た。逃げ出していた大群衆が、その炎に押されるように地面に倒れ伏して行く。炎が過ぎ去った後には、真っ黒になった消し炭の焼死体が大量に残された。


 あまりの出来事に、俺達は呆然とその光景を見ていた。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 ヴェルティカがその光景を見て絶叫し始める。


「落ち着けヴェルティカ!」 


「人達が! 王都の人達がぁ!」


 すぐにフィラミウスが魔法の杖をかざして唱える。


「心の闇を払い心を照らしなさい」


 パアッ! とヴェルティカが光に包まれ、パニックが収まったようだった。


 アランがヴェルティカに言う。


「お嬢様。これは我々のパルダーシュでも起きた事です。お嬢様たちは賢者様に飛ばされましたが、あの後はこの蹂躙が行われたのです」


「ごめんなさい…私…」


 だがそれに俺は冷静に言った。


「切り替えろ。群衆の流れが途絶えた。王都内に侵入する」


「分かったわ」


 俺達は焼け焦げた遺体を乗り越えて、警戒しながら王都内に侵入した。王都内ではあちこちで火の手が上がっており、退路を火炎で塞がれた市民達がパニックを起こして逃げ惑っている。


 そしてボルトが目の前を睨んで言う。


「なんだありゃあ…」


 そこには岩で出来たようなデカい蜥蜴のバケモノが居た。口の周りに煤がこびりついており、コイツが今の火炎を吐いた張本人らしい。その周辺には辛うじて生き延びた、王都の騎士達が槍を持って突いている。


《攻撃が効いていません》


 岩のような甲羅で防いでるな。


《サーチ》


名前  岩蜥蜴

体力  2600

攻撃力 1923

筋力  1429

耐久力 3921

回避力 82

敏捷性 71

知力  不明

技術力 38


 基礎の数値が高い。しかも俺の視界に映る巨大岩蜥蜴は、体のあちこちで色が違う事が分かった。喉の下あたりのサーモグラフが赤くなっており、岩に包まれた部分は黄色から緑色に見える。


《喉元が火炎だまりを担っていると推測。あれが武器でもありますが、弱点でもあるようです》


 俺は皆に言う。


「喉だ! 喉の下あたりがアイツの弱点だ!」


 それを聞いたベントゥラが背中から弓矢を取り出し、狙いを定めて喉元めがけて撃つ。だがそれを察知したのか、巨大岩蜥蜴は片方の腕で喉を庇った。


 ガキン!


「くそ! 防がれる!」


「メルナや、いったいどうなっておる?」


「岩の蜥蜴が喉を守ってるの」


「ふむ。それじゃあコハクや、メルナが引き付けるから狙えるかの?」


「やってみよう」


 だが次の瞬間、巨大岩蜥蜴の喉元が膨れ上がって来た。


「マージ。喉膨れてるよ!」


《退避してください》


「全員! 退避だ!」


 俺が叫ぶと、皆が左右に飛び去った。強化鎧を着ているので、その動きは俊敏で可動範囲も大きい。


 バッ!


 ドウゥッッ! ゴオオオオオオ!


 王都の騎士達が白い火炎に巻き込まれ、逃げた俺達の間を炎が通り抜けた。


《蜥蜴の喉下の温度が下降》


 撃った後は冷えるのか?


《そのようです。あれを攪乱してください》


「ベントゥラ! フィラミウス! 喉は狙わなくていい! 分散して攻撃を!」


「了解」

「分かったわ」


 二人が攻撃を繰り出すが、岩のうろこにはダメージは入らない。すると、うるさい俺達に向かって巨大岩蜥蜴が突進して来た。


「きたよ!」


「メルナ! 詠唱の五番!」 

 

「聖なる球体よ輝きをもたらせ!」


 するとメルナの杖から、勢いよく球体が打ち出され岩蜥蜴の頭上に留まった。その事で岩蜥蜴が上を向き、あまりの明るさに目を閉じる。


《ジャングルリーパーとオーガコマンド融合。ガイドマーカー展開》


 よし!


 ボッ! ズボォ!


 次の瞬間、俺はジャンプして岩蜥蜴の喉を貫いていた。そのまま融合魔力の身体強化を用いて、喉から腹に向けて剣を振りぬく。


 バシュッ!


 ダッとその場から離れると、油のようなものと共に臓物をぶちまけて、岩蜥蜴が切られた場所を押さえている。


 ズッズゥゥゥウン! と倒れたところで、俺は十メートルほど垂直にジャンプし脳天めがけて剣を構えて落ちた。


《ウロコの隙間に寸分なく下ろしてください》


 言われたとおりに、あるか無いかの脳天のウロコの線に剣を突き刺した。


 ズド! 


 脳天を貫かれ、デカい岩蜥蜴が絶命する。その瞬間、今まで吸収した魔力とはけた違いの魔力が俺の体に流れ込んだ。


《どうやらかなりの力の持ち主でした。魔力量が桁違いです》


 救われた騎士達が、俺達の元へとやって来た。


「主喰らい殿! 来てくださったのですか!」


 ボルトに話しかけている。


「どうなってやがる?」


「王都内に多数の怪物が突然出現しました!」


 俺達が顔を見合わせアランが言った。


「間違いない。あの時と同じだ…」


 そして俺が聞いた。


「化物の数は?」


「わかりません。騎士も分散し、各騎士団が懸命に防戦しています。ですがかなりの市民が犠牲となりました!」


 そこでヴェルティカが言った。


「オーバース様はどちらに!」


「混乱していてわかりかねます! 王宮か市民を誘導しているか…」


「わかりました! あなた方は市民の避難に全力を!」


「「「「はい!」」」」


 そうして騎士達は正門の方に走り抜けていった。あちこちで化物の叫び声や、市民達の逃げ惑う声が飛び交っており、被害は広がる一方のようだった。


「きっとお兄様は、王宮に向かったと思うわ」


 それにアランも頷いた。


「パルダーシュでも最終の狙いは辺境伯様であった。恐らく王の命を狙って来るはずだ」


《可能性は高いでしょう》


「あたしもそう思うねえ」


 アイドナと賢者が一致した。ならば向かう先は王宮。


「ならば王宮に向かおう」


 俺の言葉に皆が頷いて、燃え盛る王都の町を王宮に向けてひた走るのだった。

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