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第百十四話 王都を出た後に

 王から正式な辺境伯継承の命を受けて、パルダーシュの面々は胸をなでおろしていた。ガシャガシャと鎧の音をさせながら、褒賞をもらい受けに向かう途中でヴェルティカが言う。


「お兄様。全員で鎧を着ている事が、恥ずかしくなってまいりました。騎士やメイド達が特に私を見ているようです。着てなくても、結果は決まっていたのではないでしょうか?」


「女が着ていたとておかしくはない、堂々としていろヴェル。それに、この鎧を着て行ったからこその結果だ」


「確かに陛下は、このいでたちを気に入っているとおっしゃってました」


「そういうことだ」


 アイドナ。フィリウスの言う通り、鎧は着てて良かったんだな?


《どれ一つ欠けても、あの結果にはなりません》


 全ての策が嚙み合っての結果か。


《行動と結果の因果律。どれかを無くせば結果が変わり、何かを足しても結果が変わります。過去と現在と未来においての少しの行動や出来事でも、結果が百八十度変わります》


 するとメルナの鎧に組み込まれたマージが言う。


「ヴェルや、何かをすれば世界は変わる。何もしなければ世界は変わらない。無策だった場合はこんな事にはならないのさ。コハクや皆が準備をした事や、オーバースへの話がけを行った事でオーバースが動いた。オーバースは王の信に厚い男だからねえ、クルエル以外の将軍は一気にパルダーシュに傾倒した。王もオーバースに言われて真剣に考えただろうね。ってことは、フィリウスはオーバースに足を向けて寝れないねえ。」


「もちろん、オーバース様からの恩義には報いるつもりでいるよ」


 アイドナと賢者が似たような事を言うので、俺は少し驚いている。素粒子AIという機械であっても、この世界の叡智を知る人間であっても、基本とする部分は同じなのかもしれない。


 城外の指定された広場に行くと、三人の文官と六名の騎士が俺達を待ち構えていた。


「お待ちしておりました! 辺境伯様!」


 来た時と全く対応が違う。文官と騎士達とがフィリウスにかしずいている。


「皆様。ご準備ありがとうございます!」


 そこには軍馬五頭と騎馬戦車一両、そして鎧や種もみを詰んだ荷馬車が置かれている。近場の貴族ならば後日の受け渡しになるようだが、北の端にあるパルダーシュ辺境伯領の為に早速準備してくれたらしい。


 ご丁寧な事に、俺達がパルダーシュから乗って来た馬や、荷馬車も持ってきてくれていた。


「こちらお確かめください!」


 文官が言って、金の入ったアタッシュケースのような物を出した。ヴェルティカが金を数え、アランが馬車の中に乗っている物資を確認した。そしてフィリウスが馬を撫でながら言う。


「いい馬だ。若く艶が良い」


「最高の馬を用意して御座います」


「本当に感謝しかない」


「あれだけの、ご活躍をされれば当然ではないでしょうか!」


「そう言っていただけるとうれしいです。それではいただいてまいります」


「それではこちらにご署名を」


 そう言って文官が書面を出してくる。その場でフィリウスがサインをし受け取りを完了した。


 そしてそこにいた騎士達が声を高くして言う。


「此度の、王覧武闘会は非常に感銘を受けました!」

「奴隷からナイトに昇り詰める事があるのだという事を、村に帰った時に語り聞かせたいと思います」

「庶民の出である騎士達の励みにもなりましょう!」

「コハクさんの剣技には、学ぶべきところがたくさんございました!」


 するとヴェルティカが一番うれしそうな顔で言う。


「コハク! あなたの剣技を褒めてくださっているわ。頑張って鍛えた甲斐があるわね」


「はい。お嬢様」


 すると騎士達が言う。


「握手をおねがいしたい!」


 俺がヴェルティカを見る。


「いいんじゃない?」


 俺は六人の騎士と握手を交わした。皆の眼差しが奴隷としての俺に向けた物とは違っている。


《人心掌握シミュレーションは高い確率で浸透してます》


 そのようだ。


 そしてフィリウスが言う。


「いろいろとお世話になりました。それでは我々はこれにて領地に戻ると致します」


「王都は見物されて行かないのですか?」


「当家の領地で市民が復興に向けて頑張っているのに、我々がそのような事をしている訳にはいかないのですよ」


「失礼いたしました!」


「いや。お気遣いありがとう、では我々はこれで」


「「「「「「は!」」」」」」


「あと、御者の皆さん。馬は自分達で持って行きますから、ここまでで構いませんよ」


「しかし! 王より命を受けております!」


「私に固く断られたと言っておいてください」


「かしこまりました!」


《フィリウスの人間性も一役買っているようです。この真面目な青年は、オーバース将軍からの信頼も厚く良い結果を生んでいる》


 ノントリートメントは、どこでそう言うものを見分ける?


《日頃の行動や言動。そして周りの人に対する立ち振る舞いです》


 結果だけを示せばいい、というものではないのか?


《AI判定なら結果だけでよいのですが、ノントリートメントはそうではありません》


 なるほどな。だからオーバースやヴェルティカは、俺に言葉遣いを教えてくれたのか。


《そのおかげでノントリートメント向けの、トークスクリプト及び人心掌握プログラムがレベルアップしました。今後もこれを続けていく事で、更に効率が上がるでしょう》


 そしてフィリウスがボルトに言う。


「風来燕さんに甘えるようで申し訳ないのですがね」


 するとボルトが笑って言う。


「王都にいると碌なことがない。変な女がいっぱい近づいて来るし、とっとと帰りましょう」


 それを聞いてフィラミウスが言う。


「とかなんとかいって、本当は名残惜しいんじゃないの?」


「バカ野郎。その逆だよ逆! 居づらくて仕方ねえ」


「あっそ」


 馬車や馬は、自分達で引いていく事にした。


 フィリウスとビルスタークが軍馬に乗り、パルダーシュから連れて来た馬はそれに繋いでいく事になる。もう一頭の軍馬は騎馬戦車に繋いでアランが引き、あとは報酬の荷馬車の馬を外してもらい軍馬の二頭を繋ぐ。報酬の荷馬車は、風来燕の面々が護衛兼従者として引いていく事になった。ヴェルティカがパルダーシュから乗って来た荷馬車を操り、俺とメルナがその荷馬車に座る。


 そして王城の門にはオーバースが立っていた。それを見つけてフィリウスが慌てて声をかける。


「これはオーバース様!」


「あー、いいいい! 馬を下りなくていいぞ!」


「しかし、このような高い所から!」


「いやいや。フィリウスは辺境伯なんだからよ、遜る事はない。俺はただ見送りに来ただけの、ただのおっさんだ」


「此度は本当に感謝のしようもありません。このご恩は必ずお返しします」


「バカ野郎! あ、辺境伯様には不敬だな。礼なんて要らねえよ。目や手足を失っても必死に主を支えようとする、古い友達がいたもんだからよ、そういう熱いのに弱いんだ俺は。礼ならそいつらに言ってくれ」


 するとビルスタークが言う。


「オーバース様。私はいつも救っていただいてばかり。それではオーバース様が割にあいませんよ」


「教え子が困ったら、師が助けるってのは当たり前の事だぜ。それに俺はよ! そこの小僧に興味があったからな」


 どうやら俺の事を言っているらしい。


「コハクですか?」


「不思議な奴だよ。覇気が全く無いのに鬼神のごとき強さ、正直なところ殺気の全くない無軌道な剣を受けきれる自信は俺にはねえな。剣聖フロストも度肝を抜かれていたし、俺がやっても同じ結果になっただろう」


「そうですかね?」


「だろ? ハッキリ言うけどな、剣聖や達人なんてもんじゃねえ。本当に武の神というのがいるなら、コハクのような奴の事を言うのかもしれねえぞ」


「そうですか」

  

 そしてオーバースは俺に、にんまりと笑って言う。


「コハク。お前はもっと高みを目指せ、今は分からねえかもしれねえが、お前が欲しいものが出来たら必ず手に入れる事が出来るだろうよ」


「わかった」


 オーバースの言っている意味は良く分からないが、元よりアイドナが勝手に精度を上げるだろう。


 するとビルスタークが苦笑いをして言う。


「まったく…一番熱いのは誰なんだか」


 するとオーバースが言う。


「じゃあ気を付けて帰れよ! またいつか会えるだろう」


「「「「はい!」」」」


 そうして俺達は王城の門を出た。優勝者一行が出て来た事で、沿道に人が出て声援を送って来る。


 ヴェルティカが俺に言った。


「本当に良かった…こんな事になるなんて信じられない」


「ああ」

「うん」


 そして俺達の馬車が王都の正門を抜ける時も、多くの人々が俺達の見物に出ていた。フィリウスやヴェルティカが市民達に手を振り、ボルトは相変わらず黄色い声援を受けている。王都を離れていくと少しずつ人が少なくなり、そのうち広い畑の真ん中の道に差し掛かる。


 サアー! 風が俺達のそばを通り過ぎて、向こうの畑へと吹いていった。


 フィリウスが言う。


「人も少なくなった。少し速度を上げるぞ」


 馬のスピードが上がり、風来燕と俺達の馬車のスピードもあがる。そして王都が見えなくなったところで、フィリウスがみんなに言った。


「そろそろいいだろう。どこかで鎧を脱ぐとしよう」


 それからしばらく進んだ先に、馬車が停められるような荒れ地があった。俺達の馬車がそこに入り込み、皆が馬や馬車を下りて鎧を脱ごうとした時だった。


 アイドナが唐突に警告して来る。


《警告。異常なエネルギー反応を検知》


 なに?


《王都方面》


 俺がそちらを見ると、明らかに一部だけ空がおかしな色になっている。


 皆に告げた。


「あれを見ろ」


 俺が指をさすと皆がそちらを見る。フィリウスが叫んだ。


「なっ、なんだあれは?」


 その異様な光景に俺達は呆然とするのだった。

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― 新着の感想 ―
トーナメントに参加した目的は、王様に会って魔法の鎧の威力を見せつけて売り込むことではなかったのか?
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