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第十話 意思の疎通とは?

 恐らくは違う世界から来た俺だけが、魔獣の存在を知らない。メルナはその話を聞いて明らかに、恐怖を感じて俺にしがみついて来た。


《もっと情報を》


 アイドナが俺に指示をする。


「魔獣と言うのはどこにでもいるのか?」


「えっ?」


 俺の問いに対して、執事のボルトンが意外な表情を浮かべるが、ヴェルティカは表情を変えなかった。そしてヴェルティカは当然のような顔をして話を始める。


「そうね。本来であれば未開の森の奥や、ダンジョンなんかに多く現れるわね」


「なぜ、さっきは騎士が居るから安全だと言った?」


 するとヴェルティカが笑顔を崩さずに言う。


「弱い魔物が森からあぶれ、時おり人の領域に出て人を襲う時があるわ。だから商人は冒険者を護衛につけるし、私達のような立場の人間は騎士を護衛に置く」


「なるほど」


「人通りの多い街道沿いには、ほとんど魔獣は出る事がない。せいぜい気を付けなければならないのは、山岳地帯や峠道かしら」


《危険と言う事は、猛獣のような物の可能性があります》


 そいつは危険だ。前の世界にそんなものはいなかった。


《ですが、それがこの世界の日常のようです》


 らしいな。


《ヴェルティカの話には含みがありそうです。全てを話しているという感じではないのでしょう》


 そうなのか? わかった。


 それから小隊は一日中草原を走り続け、峠の麓にある宿場町に着いたのは夕刻だった。


「本日はこの宿場町に腰を落ち着けます」


 ボルトンが言い、俺達もそれに従う。


「お嬢様。お食事はいかがなさいましょう?」


「みんな一緒でかまわないわ」


「はい」


 宿場町の宿は昨日泊ったホテルとは違い、食事処は小奇麗とはいえず、給仕の人間もガチャガチャと音をたてて料理を運んできた。腕っぷし太めの女が、ビールのような飲み物を乱暴に騎士達の机に置く。後は肉料理とパンがならべられ、男達が豪快に食事をし始めた。俺は目の前に置かれた酒が入った盃を取り、臭いを嗅いで成分を確認してみる。


《アルコールです。恐らくは醸造酒の一種かと思われますが、飲めば判断力と身体能力が低下する可能性があります。生存確率が二十パーセント低下するでしょう》


 じゃあやめとくか。


 俺は酒を飲むのを避け、肉とパンを口に放り込み咀嚼する。俺が食べるとメルナも真似して同じように食べた。すると、そこにビルスタークが近づいてきた。


「コハクは酒は飲まんのか?」


「飲まない。いざという時動けなくなりそうだ」


「ははは。滅多な事じゃ魔獣は街には入ってこないぞ」


「どうしてだ?」


「街の東西南北に、魔除けの石碑が立てられているからな。そうそう近寄ってくるもんでもない」


 新たな情報だった。魔除けと言う物が存在しており、それが魔獣を近づけないらしい。


「ならその魔除けを、世界中のあちこちに置いておけば魔獣は現れないんじゃないのか?」


 俺がそう言うと、一瞬、騎士達がシーンと静まり返る。その後で割れんばかりの笑いが起きた。


「「「「「わーっははははははは!」」」」


 なんだ? おかしな事を言ったか?


「違いない! だけど魔除けの石碑はそうそう簡単に作れるものじゃないからな。まあコハクは知らんかったか?」


「ああ」


「不思議な奴だな」


 そこにヴェルティカが来て言う。


「ビルスターク。コハクは仕方がないのです」


「んー、お嬢様がそう言うならそうでしょう。でも安心して酒くらい飲んだっていいのでは?」


 ヴェルティカが俺に向かって言った。


「お酒はあまり好きではない?」


 確かに前世では酒など飲まない。素粒子ナノマシンAI増殖DNAが誤作動を起こすかもしれないし、そもそもアルコールは体温を調節するくらいにしか必要ないものだ。


「飲まないんだ」


「それは良かった。私もお酒は得意ではありません」


 そしてヴェルティカがメルナに視線を落とす。


「メルナもかな?」


「……」


 彼女は多分俺が飲まないから飲まないだけだ。俺が飲めば飲むかもしれない。


「まあ旅路の途中ですし、皆もほどほどになさい」


「分かっております!」


《どうやら信頼関係が強いようです。地位も気にせず話し合える間柄なのでしょう》


 なぜだ? 彼らはノントリートメント同士なのだろう? お互いの意識や考えを共有しているわけでもないのに、相手が怖いと思わないのか?


《思わないのでしょう》


 不思議だ。バグだった俺は、ヒューマンもノントリートメントも怖くて仕方がなかった。なるべくひっそりと生きたつもりが、結局発覚して殺処分された。彼らは自分が、突然攻撃対象に代わるかもしれないとは思わないのだろうか?


《理解不能です》


 肝心な事は答えないのか? 


 本当に理解できないのか分からないが、アイドナは答えなかった。その後も、彼らノントリートメントと話をしてみたが、いろいろと理解できない事がある。意識が共有されていないのに、お互いが分かり合えている部分が多くありそうなのだ。


 その後就寝となり、日の出とともに皆が起き始めて再び出発する。宿場町の出口を出てビルスタークが騎士達に号令をかけた。昨日飲んでいた時とは別人のように、鬼気迫る表情を浮かべている。


「峠を通過する! 近頃は魔獣の出没も増えていると聞く! 総員気を引き締めて当たるように! 斥候は先に進め!」


「「は!」」


 二頭の馬に乗った騎士が先を行き、騎士団と俺達の馬車は峠をゆっくりと登っていくのだった。

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