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第百八話 惨劇の後

 正体不明の敵がまき散らした火炎に巻き込まれ、市民に多数の被害が出てしまった。それを救助する為に闘技場の係員が大勢飛び出して来て、火傷をおった人や焼死体を屋内に運び込んでいる。数が多すぎた為フィラミウスは魔力欠乏症で座り込んでおり、治癒薬頼みの延命措置が取られていた。仲間達も薬を運んだり水を運んだりと右往左往していて、今は王宮魔導士とやらの到着を待っている状況だ。


 そして俺は、メルナが持っているバッグと話をしていた。もちろん中のマージとである。


「魔獣じゃなかったのかい?」


「最初の見た目は人間で知能もあったが、攻撃したら龍のウロコみたいな物で防いだ。パルダーシュで見た、竜のような表面だったと思う。あとから尻尾と羽も生えて来て、下半身を切断したが死なずに逃げて行った」


 アイドナは未確認らしいが、マージは知ってるだろうか? 


「なんだって? そんな重傷で死ななかった? その切断した体は!?」


「闘技場の係員が持って行った」


「…急いで見に行った方がいいだろうねぇ」


 するとようやく、オーバース将軍が王宮魔導士と王宮騎士を引き連れてやってきた。この惨状を確認したオーバースは、すぐさま大きな声で全員に指示を飛ばす。


「すぐに市民の治療にあたれ! 命の見込みがあるものを優先するんだ!」


「「「「はい」」」」


 王宮魔導士や騎士達が治療の為に散らばっていく。そしてオーバースと共にヴェルティカの兄フィリウスがやって来た。


「なんと言う事だ…。このような晴れ舞台にこのような事が」


 そこにヴェルティカが来る。


「お兄様!」


「ヴェル! 無事か!」


「はい」


「命を狙われたと聞いた!」


「ドルベンスの後見人に狙われたようですが、コハクと仲間達に助けられました!」


「決勝の相手だと? 妨害工作か?」


 するとビルスタークがフィリウスに声をかける。


「お館様。その事で、ちょっとよろしいでしょうか?」


「わかった!」


 ビルスタークはヴェルティカに聞かせないように、フィリウスを連れて行った。ヴェルティカがそれについて行こうとしたが、俺が呼び止める。


「ヴェルティカ」


「なに?」


「俺が討伐し損ねた敵の体の一部を、闘技場の人らが持って行ってしまったんだ。マージと話したんだが、どうしてもそれを確認したい。どうしたらいいだろう?」


「分かったわ。じゃあ一緒に係の人に聞いてみましょう」


 そしてヴェルティカがオーバースに話をした。


「オーバース将軍。お忙しいところすみません。襲った者の正体を見極めたく思います。残骸を確認しに行ってもよろしいでしょうか?」


「ああ。ここは任せろ! 王宮騎士団が責任をもって対処する」


「ありがとうございます」


 そして俺とヴェルティカが受付に向かい、後ろからマージを鞄に入れたメルナもついてくる。他の連中は怪我人の治療に追われており、俺達が行くのをただ見送った。俺達が受付につくと、最初に受付をしてくれた女がいた。先に受付の女の方から話しかけて来る。


「お嬢様。あちらはどうなっておりますか?」


「まるで戦場のようよ」


「魔獣でも現れたような話ですが?」


「その事を確認しに来ました。切り離した残骸を回収したと聞きましたが、どちらに?」


「安置所に運ばれたと思います」


「安置所?」


「大会で死者などが出た場合に一時収容するところです。今日死んだ騎士や参加者であるドルベンスの遺体が収容されており、外で死亡した市民の一部も運ばれているはずです」


「案内してくださいますか?」


「こちらです」


 受付の女に案内され俺達は通路を進んで行く。闘技場関係者が行き来しており、それらとすれ違いながら先を急いだ。

 

「あの部屋です」


 受付が指さした先に、ガラスがはめ込まれている戸が見える。


 だが…それは突然起きた。


 ガッシャアアアアアン!


「えっ?」


 受け付けの女が足を止める。目の前の安置所のガラスを破って、何かが飛び出て来たからだ。よく見ればそれは人間で、どうやら闘技場の係の者らしい。


 マージが言った。


「何事だい?」


「安置所からガラスを破って人が飛び出て来た」


「コハク! 剣を抜きな!」


 俺は腰から剣を抜いて走る。


 ザッ! と壊れた扉の前に行って中を見ると、バタバタと蛇のようなものが暴れていた。


《残骸の一部です》


 なに? 


 よく見れば、俺が斬り落とした下半身の尻尾だった。そいつが闘技場の係員を吹き飛ばしたらしく、中でも数人の係員が倒れていた。


《本体より魔力量は少量です。解析及び演算処理を開始》


 バタバタと暴れている尻尾を見ながら、俺はヴェルティカやメルナに叫ぶ。


「来るな! バケモノが暴れている!」


《演算終了。どうやら一度切り離した尻尾が融合しているようです。顎のある部分に思考する機能があります》


 俺が足を掴まれた顎のある尻尾の先だ。それが下半身にくっついて動いているのだという。


 どうする?


《頭を破壊してください。ガイドマーカーを展開》


 俺の視線の先にいくつものガイドが示された。俺はすぐに部屋に飛び込み、その下半身に斬りかかる。


 ガキィ!


 ウロコ?


《同じ機能を有しているようです。ですがどうやら知能は無い、本能的に攻撃しています。身体強化を発動します》

 

 そして俺は、鞭のように唸るその尻尾にもう一度剣を振るった。


 ビュン! スパン!


 再びその尻尾を斬り落とすと、落ちた先が床でバタバタとしている。ガイドマーカーに従ってそれを突き刺そうとしたら、シュルシュルと床を這いまわって扉の外に逃げようとした。


「万物を凍りつかせ、氷の牢獄を築け!」


 廊下の外でメルナが詠唱をしていた。


 ピシィ…! とその尻尾が凍り付く。すぐに俺がその尻尾に辿り着き、剣を振り下ろした。


 パーン!


 尻尾が粉々になって飛び散った。


《完全機能停止》


 そうか…。


「コハク!」


「ヴェルティカ、どうやら魔物の残骸が暴れていたらしい」


 すると無事だった係員が、青い顔をして中から出て来る。


「きゅ、急に暴れ出したんだ。尻尾と下半身を近づけたら繋がって、周りの死体の血を吸い始めて動き出した…」


 ヴェルティカが一緒に来た係の女に言う。


「治療薬を!」


「はい!」


 俺達が安置所に中に入ると、全ての死体が干からびている。四散したドルベンスの残骸もからからになっていた。


「ヴェルや。説明をしておくれ」


「はい、ばあや。死体がからからに干からびています。バケモノはかなりの力があったようで、係の人達が怪我をしています」


「なるほどねえ」


 まるで老婆のような声がするが、係員達はメルナが話していると勘違いしているようだった。メルナはただ黙って立っているだけで、ヴェルティカとマージが話をしている。


「斬っても死ななかったと聞いたから、もしやと思ったがキメラ系の魔獣の能力がありそうだねえ」


「キメラ?」


「何体も混ざったような魔獣さね。だけどねえ…人間のような容姿をしたキメラなど知らないねえ…」


 そして治癒薬を持って来た係員が、倒れている人達を治療し始めた。


 マージが答えを知らないとなると、ここで答えが出る事は無いだろう。そして俺達は切り離した下半身を見る。


「コハクが説明をしてくれるかい?」


「わかった。まず形は人間の下半身に近い。だが尻尾の付け根はウロコが生えていて頑丈だ。足の先が人間のそれとは違う形状をしている。鳥のような形状をしていて爪が鋭い。脛から下にも若干のウロコがある」


「そんなものは見たことがないねえ…。もっと調べる必要があるようだねぇ」


 それを聞いたヴェルティカが係員に言う。


「すみませんが、これは魔獣のようです。討伐したコハクに権利があると思いますが、パルダーシュにその権利を譲っていただく事は出来ますか?」


「も、もちろんです。こんなバケモノをここに置いておきたくはありません」


「では。これを入れる袋を頂けますか?」


「ただいま!」


 係員が持って来た麻袋に、残骸を詰め込んでそこから運び出す。そして俺達が怪我人達を治療している場所に戻ると、あらかた処置は済んでいたようだった。


 オーバースが声をかけて来る。


「コハク!」


「はい」


「詰め所で事情を聞かせてもらえるか? 一緒にいた剣聖フロストにも来てもらう事になっている」


「分かった」


「私もよろしいですか?」


「もちろんだ、お嬢ちゃん。関係者は全員だからな」


「わかりました」


 俺達はオーバースに連れられて闘技場を出る。まだまだ騒ぎは収まっておらず、周りには野次馬がいっぱいいた。


 オーバースが大声で言う。


「終わりだ! 終わりだ! 大会も終わった! おって王宮から達しがあると思う! 市民は速やかにこの場を立ち去れ!」


 そう言われて、バラバラと野次馬たちが散って行った。


「では行こうか」


 行くのは俺達だけじゃなく、フロストや後継人のウイルリッヒもらしい。俺達の仲間も合流して、雑然とした王都を歩いて行くのだった。

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