表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/308

第百五話 変わり果てた剣聖

 何かを囁き、ボルトンがスッと剣聖ドルベンスから離れる。するとドルベンスはうつむいたまま、ゆらゆらと揺れ始めた。それを確認して、アイドナが衝撃的な事を告げて来る。


《ドルベンスの心拍停止、呼吸停止》


 いや…立って揺れてるぞ。


《生命活動停止》


 どう考えてもおかしかった。目の前のドルベンスが立って、ゆらりゆらりとしているからだ。


《体温上昇》


 死んだのに?


《体積増大》


 すると俺の目にも、しっかりとドルベンスの体が大きくなるのが見えた。


 だがそれを無視するように、王が歩きだした時だった。


「グガアアアアアアアア!」


 突然ドルベンスが顔を上げる。


 ボゴッ! ボゴボゴ!


 体のあちこちが盛り上がり、更に大きさを増し、目を血走らせて目の前の騎士達を睨みつけている。よだれを垂らしており、試合をしていた時のドルベンスのような冷静さがない。


 それは一瞬だった。


 ドルベンスは、その腰につけた剣を引き抜きざまに振りぬいたのだ。


 シュパン!


 一瞬の出来事に、周りの出場者達が唖然としている。


「なんだ…?」


 ズルリ…ズルリ…。ドサドサ!


 目の前の騎士二人の胴体が、斜めに切れて地面に落ちた。ぷしゃあああああ! と立っている下半身から血が吹き上げる。そしてガシャンと音をたてて、足だけになった体が倒れた。


 客席から悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああああ」


「なっ!」


 次の騎士の一瞬の躊躇が命取りだった。バッ! 一瞬でドルベンスが前に出て、騎士の脳天から剣を振り下ろした。


 ジュバッ!


 騎士が音をたてて左右に分かれて行き、脳や内臓が露わになっていく。それが倒れると同時に騎士の一人が叫んだ。


「斬れ! 斬れ!」


 ダッ! 騎士達が一気に詰め寄るが、ドルベンスが力任せに剣を振った。騎士は咄嗟に剣を構え、その剣撃を防ごうとする。


 ボキン! メキョメキョ!


 剣を折られ体をくの字に折られて飛ばされた。それが隣の騎士にぶつかった勢いで地面に転がる。


 あまりの事に王が立ち止まり、驚愕の表情でそれを見ていた。


「止めろ! 王をお守りするんだ!」


 騎士が次々に飛びかかるも、ドルベンスの剣が縦横無尽に襲い掛かった。腕を斬り落とされ、首が飛び胴を貫かれる。


「王よ! お逃げ下さい!」


 それを聞いてようやく王が走り出しだ。だがドルベンスは騎士達をすり抜けて、一気に王に詰め寄り剣を振った。


 ガシィィィ…。


 ドルベンスの剣が受け止められていた。そこにはフロストがいて、自分の剣で受け止めている。


「陛下。お逃げ下さい」


 フロストが言うと、王が頷いて走り出す。ドルベンスが真っすぐに追おうとするが、フロストがドルベンスの胴体を横なぎに斬った。


 スパン!


 剣が胴体を通り、ドルベンスの横腹から内臓が飛び出た。


「があああああああああ!」


 ドルベンスは、剣を振り回しフロストを追い払うようにした。距離をとったフロストが再び突進しようとして足を止める。


「なんだ…」


 シュゥゥゥゥウ!


 ドルベンスの腹の切口から、湯気のようなものが出て来た。チャンスと思ったのか、騎士二人が剣を突き出してドルベンスの左右から飛びかかる。それを見てフロストが叫んだ。


「止まれ!」


 ドシュッ! ジュボッ!


 ドルベンスの剣が一人の騎士の胸を貫いている。そしてもう一つの腕は、事もあろうに騎士の口に深々と刺さっていたのだった。フロストが声高らかに叫んだ。


「アンデッドだ! そいつはもうドルベンスじゃない!」


 騎士に囲まれつつも、ドルベンスだったものは剣を振るい続けた。皆が距離を置いて、近寄らずに剣の攻撃範囲の先に留まる。いつしか他の五人の出場者達も剣を握っており、ドルベンスを囲んでいた。


「コハク!」


 そこに、ビルスタークとアランとメルナ、風来燕の四人が歩み寄って来た。


 会場の市民達もどよめいている。


「ばけものだああああ!」

「王様が狙われてるぞ!」

「ドルベンスが怪物になった!」


 なぜ王が狙われるんだ?


《恐らくボルトンの目的は王の褒賞。それが邪魔されて妨害しているものと推測します》


ドルベンスの状態はどうなっている?


《不明です。ですが体組織が大幅に違う物質に変化しました》


名前  ドルベンス・バーリクード(アンデッド)

体力  不明

攻撃力 526

筋力  817

耐久力 953

回避力 226

敏捷性 241

知力  不明

技術力 311


 異常値だ…。


《攻撃力、筋力、耐久力が人間のそれではありません。かつ回避力、敏捷性、技術力は正常時より低下しているものの、ビルスターク並みの能力を有しています》


 バケモノの力に、ビルスタークの技術力か…。


「王を逃がせ!」


 フロストが命じて、残った騎士達が王の周りを囲んで連れて行った。


 そして俺も言う。


「ビルスターク、アラン! ヴェルティカを頼む」


「わかった」


 目の前ではドルベンスだった物が、出場者を相手に圧倒していた。出場者達は死にはしなかったものの、腕を折られた者もいるようだ。どうにかフロストが邪魔をして、足をとどめてはいるようだが不死身の体になすすべがない。


《ボルトンが動きました》


 今度は王が逃げようとしている入り口に、突如ボルトンが立ちはだかって言う。


「逃げてもらっちゃ困るねえ。報酬が貰えないなら用はない」


「き、貴様は何者だ! 隣国からの刺客か!」


「さあてね。どうせ死ぬんだから教えても仕方ない」


 ボルトンは騎士を相手にしても余裕を見せていた。騎士達もその不気味さに動けないようだった。


 フロストが大きな声で言う。


「こちらもそろそろ、もたないぞ!」


 ドルベンスの強烈な剣を受け流しながら、騎士達に促していた。


 そしてアイドナが警告を鳴らす。


《両手剣を構えてください。緊急につき、身体強化を最大限にします》


 グググッ! と俺の筋肉が盛り上がって来る。魔獣の魔力はほとんど使っていなかったので、有り余るほど保有していた。体中にびりびり来るほど魔力が漲ってくるのが分かる。


《魔力最大効率化。身体浸透率九十…九十五…百》


 俺は腰を落とす。それを見ていた風来燕のボルトが大きな声で叫んだ。


「全員! 避けろ!」


 流石は決勝出場者達、その声で全員が脇に飛びのいた。すると正面真っすぐに、バケモノに変わったドルベンスが見える。俺は体の前に二本の剣をクロスした。


《解放》


 ドン!


 次の瞬間、俺の目前には闘技場の壁が迫っていた。目の前でクロスしていた剣は、体の両脇に広げており、体制を立て直して後ろを振り向く。


 べりり! ドチャドチャ!


 ドルベンスだったものが四つに斬れて地面に落ちた。


 それを見ていたボルトンがあっけに取られて言う。


「な、なんだああああ! なんだそれはあああ!」


 俺はそのままの流れで、一気にボルトンに詰め寄る。だが俺が到達する前に、ボルトンが高く舞い上がり闘技場の壁に飛び乗った。やはり老人の出来る動きでは無かった。


《身体強化を使いました》


 追うか?


《隙を見せれば、王がやられます》


 すると塀の上にしゃがみ込んだボルトンが言う。


「やっぱりお前はおかしいと思ったんだ」


 皆がボルトンを見上げる。既にフロストや出場者が王の周りを囲っており、風来燕たちも側まで来ていた。そこでお互い鋭い視線を交わし睨みあうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ